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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第六章 Perfect Breaker
  赤銅 対 飛鳥


今までのあらすじ

多くのサーヴァントの撃破。
それと同時に、「EARTH」の戦力も次々と脱落していく。

現在召喚されているサーヴァントは、七騎。


その内、新たに召喚された五騎。

四騎がオフィナと押し留めたショウの元へと向かい、そして残る一騎は標的をさがして歩き出す。


そのころ、「EARTH」上空にいたはずの二人は―――――



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「ぐあ・・・・」

「そこで終わりかい?否、そんなものじゃあないだろう!!!」


交差する光。
刃を構えた二人が空を駆け、すれ違いざまに攻防を展開する。

突っ込んでいく赤銅と飛鳥。

赤銅は回転して剣に重みを乗せ、飛鳥はそれに向かって一直線に剣を突き出す。
互いが示し合わせたわけでもなく、しかしお互いが相手に放った必殺の一撃は、吸い込まれるように相手の刃と激突してすれ違う。


もともとにして、飛鳥と赤銅の力は同等であった。
生まれたばかりの、最初の頃の赤銅であれば手こずろうとも飛鳥が勝っていただろう。

当然である。
破壊するだけの超兵器なら、最終的に飛鳥が負けることはない。


それが、今はない。
ぶつかり合えば、二人は互角ともいえる。

故に、この戦いはお互いが身を削り合い、そしてしかる後に両者とも倒れる。
そんな結末であったはずだ。

しかし、拮抗すると見込まれていた戦況に、わずかな綻びが生まれる。


「マスターとのつながりが切れたでござるか・・・・!!!」

「まあそうだろうね。君は令呪の束縛を脱して、敵になった。そんなサーヴァントに送る魔力はないだろう」


戦闘のさなか、赤銅は一方的に契約を切られたのだ。
それは飛鳥の言うとおり、そんなサーヴァントに意味はないからだ。

それならば、契約を切って新たな者を召喚した方がいい。


セイバーのクラスには「単独行動」スキルがない。
よって、マスターとの契約が切れれば、赤銅の翼は消えるのみ。


ただし

「君のもともとの魔力貯蔵量からして、この戦いくらいは持ちこたえるかな?」

「元より、吾に第二の生など望むべくもないでござろう。ただ今は、飛鳥を止められればそれでよいのでござる!!!」


時間がたてばたつほど、赤銅の方が不利になる。
Χブレードを手に持つ彼女は、今度は自分から飛鳥へと斬り込んでいく。



ちなみに言っておくと今、彼らがいるのは上空15キロ地点。
しかも、「EARTH」のある地点からは離れた上空だ。

ただのぶつかり合いのように見える二人の戦いだが、それは彼らの戦いの次元を知らないからである。


達人同士の戦いで、ただの睨み合いがとんでもない攻防のやり取りであったり
将棋の何気ない一手が、相手を倒す必殺の一手だったりするように

この単純のぶつかり合い一つとって、この二人の戦いの異常性がわかる。


何せここでぶつかる彼らの衝撃で、一番近くの山脈では雪崩が起きているほどなのだから。

重ねて言うが、ここは上空15キロメートル地点。
しかも加えると、“地上”15キロではなく“海上”15キロメートル。

エベレストですら10キロにも及ばないと言うのに
しかも彼等はその地上からもさらに離れていると言うのに

彼等は上空での戦いで起こる影響を、はるか遠くの地上に振りまいているのだ―――――!!!




「相も変わらず、デタラメでござるな・・・・」

「君もな。それにしてもここを戦場にしてくれて、本当に良かった」

地上で戦えば、ただでは済まない。
かつて彼が生きていたまでに破壊された世界は五つ。六つ目の世界と共に彼は死んだわけだが、その五つの内二つは二人の戦いの余波で消えてしまっているのだから―――――


「この世界は密度が濃い。なかなか破壊されることはないだろう」

「飛鳥」

「うん、わかってるさ。いつまでもこうしているわけにはいかない。君にはこの身を倒してもらわないといけないんだから」


申し訳なさそうに、飛鳥が目を伏せる。

かつて彼女に自分のことを手に手にかけさせてしまった彼だ。
それを、仕方ないとはいえまたさせてしまうのが、彼にが申し訳なくてしょうがない。

しかも、彼女相手に手加減をすることもできない。
令呪がそれを許してくれない。


「行くでござるよ・・・・たとえこの身が、心が摩耗しようとも、吾が飛鳥のことを助け出す」

それでも
赤銅の瞳に陰りはない。

彼が召喚されたときは、悲しかった。

また戦わねばならないのかと。
自分は呪縛から解放された。令呪のことではない。自らに眠る、破壊衝動からだ。

だが、今度は彼がこの世界を破壊する一団の手駒にされている。

余りにも皮肉的で、そして残酷。




だがそれでも、赤銅の瞳からはすでに迷いは晴れている。



そう。
かつて、彼が自分の溜めに命を懸けてくれたように。今度は自分が、命を懸ける。




自分の命に価値はない。あるとして、それはきっと捨て駒のような扱いを受けてしかるべきだろう。それが、兵器として生まれ、人として生き、しかし悪夢の如く暴れまわり、そして災厄として封じられた、血と怨嗟に満ちた自分の末路であるべきだ。

その死に様は哀れであり、惨めであり、無様であるはず。
そんな彼女が、死に方を望むなんてことは許されない。


だけどそれでも、これだけは譲れなかった。そうしなければならない。命をかけねば―――今度こそ、そう言った命の使い方をしなければならない。
誰かが自分にその資格はないと罵倒しても、例え自分自身がそれを許せなくとも、彼女にはそれをしなければならない義務がある。彼にその姿を示さねばならない。たとえその対象が、彼自身であってもだ。



なぜならば―――――そうでもしなければ、彼が自分の為に命を懸け、そして散らしてしまったことが無意味になってしまうから。
自分を救おうと命を懸けてしまった彼が、彼の命が、その想いの全てが、本当に無駄になってしまう。


自分がどう無意味に生き、無価値に命を散らし、歴史にどのような言葉で記されようとも、その彼の想いだけは決して穢すことなどできない。


確かに赤銅の翼は悪魔だ、災厄だ、と指を指されて叫ばれる存在。


だがそれを、救おうとしたものがいた。命を懸けて。愛を賭して。彼女を解放し、救い出そうとした哀れな男がいた。


それは彼の人生でも、彼女の人生でも叶うことがなかった。
結局最後に彼女は兵器として暴れまわり、彼はその彼女に殺された。

最強の男は現実の前で無残に散り
最強の女は現実を奪われて果てた

彼等はその強大な力を持っていたにもかかわらず、運命の前に倒れ伏した哀れな一組。

どれだけ強大な力をもとうとも、彼等はお互いを救うことすら叶わない。
その身に宿した圧倒的な力を以ってしても、その努力がは報われることなく、悪魔の如き思想に敗れて散る。




けれど


確かに



それは彼の人生でも、彼女の人生でも叶うことがなかったけれど
決して、報われた結末などにはならなかったけれど


まだやれることがあるなら、今。



愛した彼のその命懸けを、最後の最期で無駄なんかにさせない。
破壊と破滅しかない私だけど、それでも、それでも出来ることがあるのだとしたら


「私は――――あなたを救いたい。飛鳥――――!!!」


澄みきった声。
迷い無き瞳。

その意思を表すように、真っ直ぐに激突する赤銅の翼。


彼女が、その身に秘められた様々な力を使うことはない。
飛鳥もまた、その全ての能力を発揮することはないだろう。

両者ともに最強。
二人の力は同じものではないけれど、ぶつかり合えばまさに互角。

だとすれば



残るのはただ、純粋なぶつかり合い以外にありえない。




各々二人が、自らの力を猛り走らす


観測者は自らの中に眠る終焉のそれを
翼人は自らの背より吹き出る破壊のそれを

構えるは、剣。
必殺を放つのは、いつだってこの刃だった。




飛鳥の胸から、小さな光が抽出されるように出てくる。
指先程度の大きさのそれは、しかし紅蓮の炎を超圧縮した輝き。


それを剣で斬ると、炎が一瞬にして溢れ、天を昇って一面を覆う。
浮遊する雲をも巻き込み、そして巻き込まれた雲は悉くが、蒸発する事も許されずに燃え上がる。

その炎の力は、まさしく彼が最強と呼ばれた所以。

有象無象の悉く、森羅万象一片に至るまで、この炎は逃れることを許さない。
触れれば即、其れ即ち炎上。

炎が灯るか灯らぬか
焼けるものなのかそうでないのか

そんなものは関係ない。
この炎は、世界が生まれし時に常世全域を駆け廻り、終焉の時に全天全地を覆う劫火。

何ものであろうとも、焼ける他の選択等、在りはしない。




燃え上がった雲は霧散することもできず、落下して地上を焼き払う。
落ちる雲は燃え尽きず、すでに天より降り注ぐ炎の嵐。さながらこれは、隕石群。


かつて、罪と呼ばれ滅亡した、二つの街を焼いた火の嵐。
空の色は蒼を失い、黒に染まることもなく、只々一面の炎の空。

これはその再現だ。
否。もはや再現というほどには足らず、きっとこれは、その神罰そのものなのであろう。


この下が海上でなく地上であったならば、恐らく今回の戦いで一番の被害であったはず。





彼はこれを以ってして最強とされた。
如何なる敵であろうとも地上一切を焼き払い、彼より高く飛ぶ者はいなかったのだから。

彼が本気を出せば、大気圏の外にちょっと飛び出た程度では行動を制限されることはない。
故に、最強。最も高い位置に座し、そしてそこより下にいる者をすべて焼くのだから。



だが、しかし

こんな炎の隕石群など、彼が技を放つ為の「準備」に起こる現状に過ぎない――――――



剣の切っ先に、劫火が集う。
熱は剣身を真っ赤に染め上げ、切っ先に溜められたはずの炎は溢れ出てその刃を覆う。

切っ先に圧縮しきれていない、というわけではない。
必要分の炎を圧縮すると、どうしても溢れるカス。それがこの炎だ。この雲を焼き、隕石に変貌させるのもその一片に過ぎない。

余波でこれ。
ならば、この剣での一撃は一体どれだけの――――――



「この炎は原初にして終焉。世界の始まりに炎が奔り、世界の終わりに炎が猛る」

冗談にもほどがある。
この技をかつて見たことがある赤銅だったが、これほどの威力ではなかった。そのとき彼は「デモンストレーションだよ」と言った。本気でやればそれどころではない、と。

その時は本気にしなかった彼女だが、今更になってその言葉を思い出す。


そしてそれは、本当だった。

冗談でもない、と思った矢先だが、赤銅は考え直す。
そりゃそうだ。彼は最初から冗談などいっていなかったのだから――――――



「君が回避をすれば、この世界が破壊される」

それは「世界」とはいってもあくまでも「この星」という意味での世界だ。
そう。この一撃は、物理的にそれを破壊するだけの熱量を蓄えている。


そして言う。
だから、全力でそちらも放てと。

君の力なら、この身を乗り越えてくれるはず。そう信じた彼の瞳に、だからこそ迷いはない。

そして彼女も、それに応えねばならない―――――


「・・・・一つ、飛鳥に言うてないことがござってな」

ぼそりと、小さく独り言ちる赤銅。その声は飛鳥には聞こえていない。
だが、赤銅は少し空を見上げると、俯いて自らの感情を噴き表させる。



「開翼せしは赤銅の色――――」

バンッ

帆を張るように、赤銅の翼がしなりを起こして開かれる。
コォ・・・と薄く光ると、ぼんやりと彼女の顔が照らされた。


「人の抱きし想いは無数。我らが翼はそれを紡ぐ」

天は炎に照らされているにもかかわらず、彼女の周囲はその光にされされない。

彼女を包む光は、彼女自身の放つその鈍い赤のみ。
ぼんやりとしたそれにもかかわらず、天からの灼熱の光に侵食されることはなく。


「我が翼の奉るは人の業。人世に巣食いし、七の大罪が一」

その光は弱いながらも、徐々に力を増していくようだった。

形容することも難しい。
仮に例えたとして、「太陽に潰されぬ蛍の光」など、言ったところで見ない限りわかるはずもない。


彼女に身に集まる感情。
猛る想いは、彼の剣にも負けぬもの。




そして両者の力が頂点に達した時、最初に動いたのは観測者―――――!!!


羽撃猛(はばたけ)る、始祖の炎・・・・・!!!」

力むように言葉を発し、ガッ!!と腕を伸ばして切っ先を向ける飛鳥。
その剣から腕へと炎がまとわれ、上腕部から炎の翼が開かれる。

「今此処に飛鳥の眼を以って、此の観測の末の破滅を与えん!!!」



切っ先は嘴に

腕は身体に

そこから猛る炎は翼に

そしてこの身は、終焉を告げる火の鳥に―――――



飛翔(ゴッド)・・・・・」

赤銅は動かない。
だが彼の身体は止まらない。

この名を告げれば、放たれるのは間違いなく最強の一撃。
溜めこまれた推進力は爆発し、途方もない力と共に彼女に向かって彼自身が突っ込んでいく。


だが彼女は動かない。


蓄えられたエネルギーは大きいが、それを使おうとする動作もない。
ガソリンを溜めたところで、エンジンをかけようが、アクセルを踏まねば意味がない。

だが、飛鳥はすでに止まることなく、その名を告げて爆発する。

火の鳥(バート)!!!」



放たれるのは、彼の最強の一撃。


飛翔 火の鳥(ゴッドバード)」と名付けられたその一撃は、まさしく始まりと終焉の炎。


如何に赤銅と言えども、この一撃を受ければ助からない。
その身は砕かれることも許されず、最後の細胞が焼けるまで意識は消えず、紅蓮の中で炭一片が燃え尽きるまで終わらない。

それを目の前にして、彼女は―――――――



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放たれる剣。
その剣は炎に染まり、そして自分以外の全てを染め上げる。

燃え盛る劫火は万物を焼く。

それは、標的に達するまでの大気ですらをも焼き尽くすということ。
その大気の構成に関係なく、物理法則を完全に無視して、その大気を焼き消していく。

その空間から構成する一切の物質が消え去り、それを補おうとして周囲の大気が駆けこんでいく。

渦巻く大気は風嵐。
天から降るは炎嵐。

巻き込まれるだけで、必殺。
しかし男は止まらない。なぜなら、これは攻撃ではないただの余波。

ならばそこに込める力など、構えるだけのものであり―――――ここから先が、彼にとっての「攻撃」なのである。




このままでは死ぬ。相撃ちなど望むべくもない。
そも、この空間に存在を赦されたものなど在りはしない。

この炎を以って「終われ」と言い放たれたのであれば、万物悉く焼けるが必定。
それは最強の翼人である、彼女ですら例外ではない。



防御をとれば、その炎熱で防壁が消えて彼女は死ぬ。
回避をとれば、この一撃は世界を消し炭にする。

取るべき方法など、ただ一つ。
真正面から同威力かそれ以上を以って迎撃するのみ。

だが、彼女がとった行動は



「な――――!?」

真っ赤に染まった視界。
その炎しか存在が許されないその中で、飛鳥は“別の赤”を見た。

抱きしめる様に、腕を広げた赤銅。
待ち構えて広げられていたその胸元に、破滅の炎が飛び込んでいく。


その全身は、彼女が集束したであろうエネルギーに満ち満ちていた。


「怒りの翼人・・・・そうか、この戦いに対する皆の怒りを収束したのか!!」

翼人の持つ特殊技能。
他者の持つ、自らの翼に由来する感情を収束し、純エネルギーとして変換する。

確かにそれならば、この炎の中でも活動は可能であろう。

しかし、炎に耐えられるのは数秒。
しかも炎に耐えたところで、迫りくる刃は止められず



「ンっ―――――!!」

赤銅の声が漏れる。
ズブリと、飛鳥の剣は炎と共に彼女の身体を貫いていた。

その行動に、飛鳥は驚く。
その身をもって受け止めたとして、この炎の大元は切っ先にある。剣を止めても、その小さな光が剣を離れて地上に落ちれば、この行動は全くの無意味。


だが

彼女の背から突き出た剣には、一切の炎も光も纏われてはいなかった。


「な」

「飛鳥の技、その力。全部、受け止める」


それが私のできること。

かつて、暴走するままに彼を殺してしまった。
彼は私を止めようとして、満足に戦うこともせずに斃れてしまった。

最初は彼。
ならば、今度は私だ。


しかし、そのダメージは深刻すぎる。

如何に感情を収束した翼人であっても、飛鳥のあの炎を体内に留めては、持って数秒の肉体だ。
否。そもそも、そんなことをしたところで、あの炎に抗えるのは十秒が限度。体内に押し留めては、その十秒も微塵程に削られる。


しかしそれでも、彼女はその幾秒のために持てる技能の全てを尽くした。

荒れ狂う体内の炎は、すでに彼女の下半身を焼いている。
貫かれたのは腹。そちらから炎を移したのは、彼女の持つ念動力。

その全身の力を根こそぎ動員し、剣に纏われた炎を体内にとどめる。
そして、残されたわずかな力。


あらかじめ剣に込めていたので、発動は容易い。
後は、この剣を振るうだけで終わる。


「飛鳥、避ければ世界が消えるって言ったけど」

だが、それは間違いだ。
飛鳥は知らなかった。そう、翼人には―――――


「翼人に、人質は効かないのでござる」


穏やかな表情で、そう告げる赤銅。


腹を貫かれながら、その半身を焼け失いながら、Χブレードが動き始める。
力なく握られたそれは、到達さえすれば発動する。


ゆっくりと動く剣。
ゆるゆると、震えながら、力なく迫るそれ。

だが飛鳥はそれを払うことも、跳び退いて回避することもしない。

その速度は遅いながらも、二人はほぼ密着している。
到達には一秒と掛からないはず。なのに、その緩慢な動きは実に八倍の長さを感じる。


そして


全て常世 開く鍵(Χブレード・グレート・ワン)


その開放にしては、とても小さく、覇気のない、暖かさに満ちた声でつぶやいた。

コツン、とΧブレードの刃が、飛鳥の腹に触れる。



その接点から溢れ出た物が、穏やかに力の奔流となって彼を包み、そして必然的に、密着していた彼女も巻き込んでいく。



「行こう、飛鳥。ここはもう、私たちの舞台じゃないから」

「・・・・そうだね。僕らはもう、終わってしまっていた」

「うん。だから」

「うん?」

「始めよう?まだ“これから”があるでござるよ」

「・・・・ああ。そうだね」


抱き合う二人は空に消える。

あるかどうかも分からない。否、まず無いであろうそんな妄想とも取れる希望を口にして、二人はゆっくりと、この世界から消えていく。
ただ、その前に

「受け取れ!!」

「この世界を担う、若者たちよ!!」


彼等の力の片鱗が、風に乗って飛んで行った。


風が一吹き。
それだけで、二人は跡形もなく消える。


空を覆っていた炎も、降り注いでいた隕石も、総てが夢幻と消え去った。


ここに一つの戦いが集結する。
二人はついに、共に眠る夢を果たした。







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クウガに殴られた後、綺堂唯子は立ちあがれるようになるまで時間を有した。

動けるようになったのは、翼刀がこの場を去り、ディケイドたちがクウガを何処かへと連れて行った後だ。


彼女は蒔風達をどうにかして「EARTH」(仮)へと運び、すぐに翼刀を追って飛び出していった。

とはいえ、クウガの出現場所は「EARTH」(仮)の目の前だったこともあり、そう距離はなかったので運び込むのは簡単だった。
・・・・まあ一人で運ぶ以上、下半身をズルズルと引き摺ってという形ではあるが。


翼刀が駈けて行った方向は解る。あの方向は、「EARTH」ビルへと向かう足取りだった。

何があったのかは知らないが、何か嫌な胸騒ぎがした。
助けに入らないといけない。そう思って、彼女は翼刀の後を追う。

そうして「EARTH」ビルの前へと出て、正面玄関まであと数メートルというところで、彼女の足元がゆっくりと揺れ始めた。


「な、なに!?」

動揺する彼女だが、この程度の揺れでは走るのに支障はない。
何も問題はない。翼刀が向かった先では、きっと戦闘になっている。見つけ出すのはすぐだろう。

だと言うのに――――彼女の背中を舐めるような悪寒は、収まってくれるどころかさらに大きく膨れ上がる。


ガコン――――!!

「えっ!?」


と、そこで彼女は重い音と共にその揺れがなんであったかを思い出した。

何故忘れていたのだろうか。ここは「EARTH」地下訓練場の真上。そして、その訓練場の天井は開く。ならば


「うわ!!」

左右に開いた地面は、走る唯子の足を吸い込んだ。
咄嗟にその左右どちらかを掴もうとする唯子だが、一人分開いた隙間はすぐに閉じていく。


「うそっ!!」

このままでは指が千切れる。
脇で押さえ、胴体が挟まっていたら間に合わなかったとゾッとしながら、彼女は指の力を抜いてその内部へと落ちていく。


暗闇の中でも難無く着地し、唯子は周囲を見渡した。



暗い。

だが完全な暗闇ではないらしい。
外の方が明るかったため今はまだ目が慣れていないが、次第にボンヤリと見れるようになってきた。


どこから入ってきているのは知らないが、光の強さは十分ではないにしろ自分の周囲を把握するくらいには見える。星明り程度の光だろうか。

そして、そこに一つの気配を察知する。


「・・・・・・・」

そいつはマントを羽織っていた。
というよりも、大きな布をかぶっている、と言った方がいいだろう。

フードのように頭に被さり、身体にそれを纏っている。
ローブのようなものだが、ローブだと言うにはいささか上等さに欠ける。

何せ最初に言った通り、そいつが被っているのはただのボロ布にしか見えないからだ。


そこにあったのがこれしかないからこれを羽織っている。
そんな感じの風体に、唯子は小首をかしげた。


今までの敵は、どんなものであれ身なりはきちんとしていた。
戦闘服であったり、制服であったりしたものの、みすぼらしい服装の者は一人として存在していない。

その中で、そいつだけはそんな恰好でやってきた。



ローブが揺れ、手首と足首が見えた。テーピングなのか知らないが、包帯が巻かれている。

だがそれも三か所。
残る一か所には、何もなかった。

巻かれていない、というわけではなく、単純に巻くべき腕がないと言うだけのこと。


そのサーヴァントは、現界した際にその最高の肉体コンディションで召喚されるはずのそいつは、最初から肉体を欠損した状態で召喚されたのだ。



「・・・あなた、だれ・・・?」

思わず問う。
幽霊のように佇み、しかしそこに確実に存在するそいつは、ゆっくりと言葉を漏らす。


「私は・・・――――」



to be continued
 
 

 
後書き

赤銅対飛鳥、決着。
消えてしまいましたが、これが彼等にとって一番いい終わりなんでしょう。

残された力の片鱗。
いったいだれのところにいくんだろ~


一方、唯子も新たな敵に遭遇。
最後のセリフは、予告編にもありましたね。ようやっとここまで来ましたよ。



それにしても飛鳥やべぇな。
書いててどうやって止めるんだとか思ってました。


本気で敵になったら怖すぎるぞあの観測者。
口調は穏やか何だかよくわからないけど

ちょっと荒くなった理樹、くらいな感じで書きました。

それにしても赤銅が少女過ぎてやばい。
そしてたまに出てくる「ござる」がなんだか物悲しい感じに・・・なるといいな。



赤銅さん、翼刀のこと好きなんじゃないんすか?

赤銅
「イジると楽しいでござる。唯子の反応とか、特に。確かに好きではござるものの、申し訳ないがやはり飛鳥の方が」

なるほど。




ショウ
「次回。そろそろ俺も出てくるぜ。って、こっちに来る四騎のサーヴァント・・・おまえらは!!」

ではまた次回
 
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