Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-
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A's~STS編
第百七話 魔導師ランクの獲得試験 前編
廃棄都市のとあるビルの屋上。
士郎は静かに佇んでいた。
普通の試験前の局員なら緊張などから身体を解したりするものだが、士郎はそのような準備は不要とばかりにただ待っていた。
試験が始まるまでのんびりと空でも眺めていれば良いものだが、生憎と士郎の周囲を覆う結界によって晴天に恵まれた空を眺める事も出来ない。
この結界、元々は張る予定ではなかったのだが、士郎がヘリで屋上に降ろされた時に
「試験の破壊目標が見えてしまうので結界を張っていただけますか?
フライングで減点はされたくないので」
という言葉で急遽張られたものである。
「眼が良過ぎるのも考えものということかな?
とはいえ眼が悪ければ狙撃も出来ないからな」
この眼の良さが戦闘の中では役立ってきたが、自然と遠いものにもピントを合わせてしまうので、見えてしまう。
その視力だけでも特異な存在となってしまう自分に内心ため息をつきながら待っていると
「お待たせしました」
通信モニターが開き、士郎にとっては気の知れた女性が写っていた。
「今回の試験官を担当するエイミィ・リミエッタ執務官補佐です」
魔導師試験の受験者の確認をしますね。
希少技術管理部魔術技術課所属、衛宮士郎嘱託魔導師。
陸戦Bランクの取得試験と戦闘規模ランクの評価試験で間違いないですか?」
「はい。間違いありません」
今回の試験の陸戦Bランクは魔導師ランクとして存在するランクなので取得試験となる。
対して戦闘規模なんていう正規ランクは存在しないのであくまで取得ではなく、評価試験として先日、通達が士郎に届いているのでそのことに疑問を感じる事もなかった。
試験相手の執務官がクロノといい、知り合いばかりが試験を受け持っていいのかと逆に心配する士郎である。
「それでは試験内容ですが、事前通達と異なる事がありますので注意ください。
非破壊ターゲットですが、今回混戦となる可能性が高い為、非破壊ターゲットは除外されました。
各チェックポイントを通過し、時間制限内にゴール地点を目指してください。
チェックポイントの妨害は迎撃しても回避しても問題ありませんが、戦闘規模ランクの評価に繋がりますので注意してください」
要するに魔導師ランクのゴール時のタイムで評価するが、戦闘規模ランクは撃墜数で評価するらしい。
そもそも妨害に出てくるのが本局武装局員と地上本部陸戦武装局員、執務官である。
それを突破してゴールするのが陸戦Bランク試験とは到底思えないと内心で首を傾げながら、徹底的にやると宣言しているのだが非殺傷だが、全力で叩き潰す気でいる士郎。
管理局からいえば到底陸戦Bランクレベルの試験ではないので、ある程度の戦闘規模ランクがあればゴールできなくても魔導師ランクを与えるつもりだったのが、そのあまい考えが悪夢を生む事になる。
「何か質問はありますか?」
「いえ、ありません」
「それでは試験開始まであと少し、ゴールで会いましょう」
エイミィの敬礼に敬礼で返しモニターが消えるとあわせて敬礼を解く士郎。
それと同時に試験開始のスタートの開始のカウントダウンモニターが表示される。
モニターのランプが三つから二つ、一つと減っていく。
そして、STARTの文字が表示され、視界を遮っていた結界が解除される。
瞬間、士郎が動き出す。
士郎が立っていたビルよりも高く、周囲で一番高いビルに一気に空を駆ける。
その駆ける間にも周囲に視線を走らせ、冷静に破壊目標の場所を確認していく。
士郎がビルの屋上から視線を向ける。
未だ沈黙を守るスフィアを補足するだけでなく、そのさらに向こうも補足している。
向かってくる士郎の頭を抑え包囲するつもりなのか空に展開された本局武装局員。
普通の魔導師の神経からいえば、空に展開されてた武装局員は脅威と写るが、士郎から言わせれば
「……そんな遮蔽物のないところで立つなど的なんだが」
正直、飽きれば混じった言葉が零れてしまう。
とはいえそれを通信で教えてやるほどあまくはない。
本局武装局員の後方で身を潜め奇襲の準備をしている地上本部陸戦武装局員の方が士郎からすればよっぽど警戒するべき相手だ。
一瞬、士郎の脳裏に陸と空両方が一斉に襲撃した方が効果的なのではと考えるが、本局と地上本部の関係が仲が良いとは言いがたい事を思い出す。
士郎の視覚にもクロノの姿は補足できていない。
「クロノは俺の狙撃を知っているだけにさすがに隠れているか」
チェックポイントの配置はスタート地点から一キロ付近にスフィア群、二キロ付近に本局武装局員、三キロ付近に地上本部陸戦武装局員が配置され、四キロ付近にゴール地点があり、ゴールの近くは障害物が少なくひらけている。
クロノと士郎が一対一で戦うのは、模擬戦以来。
しかもあの時はお互い色々と制約が多かった故に今回はそれなりに本気の戦いになる予感を士郎はしていた。
「ミーデ」
「Jawohl, Bogenform」
士郎が左腕を伸ばし、その手に握られたカードが一瞬で弓となり士郎の手に収まる。
「では、掃討といこう」
士郎の右手動き、矢が次々と放たれる。
展開されたスフィアを破壊し、隠れたスフィアを建物を貫き破壊していく。
まるで見えているかのように一発も外す事無くスフィアを破壊していく。
事実、士郎は正確に視覚していた。
本来なら二人一組で実施される試験だけに地下等外部から絶対に見えない位置にもスフィアは存在するのだが、今回は士郎一人という事で単独で破壊できるように位置が調整されている。
無論、発見しづらいようにビルの中などに潜んでいるスフィアもあるのだが、士郎からすれば隠れていないに等しい。
廃棄都市とはいえ周囲のビルには汚れながら残っている窓ガラスも多くそれを鏡にして、直接見えない箇所も補足している。
直接狙えない標的は複数の矢を使い兆弾で破壊していく。
しかしながら、大型スフィアは矢の一発とはいかない。
陸戦Bランクを受験してきた者達を苦しめてきた大型狙撃スフィア。
伊達に固い装甲はしていない。
反撃とばかりに自身に降り注いだ攻撃に反撃しようとセンサーを攻撃方向に向ける。
だが大型スフィアは攻撃者を補足することが出来ない。
士郎はスタート地点から近くのビルに動いただけであり、大型狙撃スフィアの攻撃範囲に入らない。
そして、次の瞬間には放たれた九射が継ぎ矢となり、装甲を突き破り沈黙した。
こうしてスフィア群は一度も士郎を補足し射撃する事無く全機が沈黙したのだ。
それを確認し、そのままスフィア群の向こうに視線を合わせ、再び弓を引き絞る。
武器を構えてから一歩も動く事無く、一度の反撃を許す事無く、ただ弓による狙撃というふざけた方法によるスフィアの全滅という光景に監督役のエイミィをはじめ、モニターしていた面々は息を呑む。
今回の試験は魔術師、衛宮士郎の試験という事もあり、本局や地上本部の幹部達も見ているが、あまりに想定外の戦い方であった。
これが仮に拠点防衛戦とすれば攻める側の恐怖は計り知れない。
魔法により照準補正でもなく、ただ弓術という技術による攻撃。
今回は魔導師試験という事もあり矢は実体弾だが、実戦なら魔力を使う事すらない可能性もある。
モニターで見ている側は驚愕だが、士郎が狙いを定める者達からすれば現在の状況は何が起きているのか把握できていなかった。
士郎がスフィア群を抜けるのがわかるようにサーチャーを展開し、その映像を監視していたが、そこに写るのはスフィアが破壊されていく映像だけで士郎の姿は一度たりとも映っていない。
「いったい、何が起きている?
探索班、状況は?」
「未だ反応なし。
周囲五百メートルに魔力反応はありません」
本局武装局員の隊長は周囲に探査魔法を奔らせ、情報を集めようとするが何も反応はない。
「何がどうなっているんだ」
見えない敵。
ましてスフィアをどうやって倒したのかも把握できていない。
「魔術師とはいえ魔導師ランク試験だ。
魔術による攻撃とは考えにくい。
ならどうやってスフィアを、ん?」
士郎がスタートしたはずの方向を睨む本局武装局員の隊長の目に一瞬、赤い光が奔る。
気のせいかと眼を擦るよりも速く。
爆発音と共に配下の局員が撃墜された。
「物陰に退避!!」
士郎の狙撃に気がついた訳ではない。
ただ経験から退避しなければ全滅するという危機感から叫んでいた。
空に展開されていた武装局員達が高度を落し、ビルの陰に退避しようと空を駆けるがその最中にも赤い閃光は武装局員に襲い掛かる。
「くそっ!
何人墜とされっ!?」
物陰に隠れ、状況を把握使用するよりも早く、曲射で放たれた矢が降り注ぐ。
「防御体勢をとり屋内に退避しろ!!」
必死にシールドを張りながら武装局員達が建物内に飛び込む。
既に三十いた武装局員達のうち、半数が既に脱落していた。
だが悪夢はまだ終わらない。
「飛行魔法が使えないと聞いていたが、これでは上を取ることも出来ない。
むしろ分断され狭い屋内じゃこちらが不利だ。
各員、状況を報告しろ」
この状況下で不用意に外に出る事はできない。
狙撃というよりも爆撃のような攻撃が止み、砂煙が収まり始めた頃、窓の外に視線を向けながら武装局員の隊長から通信が飛ぶ。
飛行魔法を使えない士郎相手に制空権を確保しておけば有利に叩けると考えていたが、完全に裏目に出た格好だ。
「こちら副隊長、以下二名。
隊長の道路側向かいのビルです。
こちらから隊長の姿を肉眼で確認できます」
「こちら第五班二名、第六班一名、隊長のとなっ!?」
通信が途切れる。
「おい、応答しろ!
何が起きてる!?
副隊長! そちらから何か見えるか!!」
「……あ……が……っ……」
だが、副隊長に対しての呼びかけも返ってくるのは首を絞められているのか、苦悶の声にならない悲鳴だけで通信が切れる。
通信から流れてくる声に隊長と傍にいた三人の表情に恐怖が見え隠れする。
敵である士郎が既に武装局員達の傍まで迫っているという事実である。
だが士郎は転移は使えない。
どうやってあの距離を短時間で移動したのか武装局員達には理解できなかった。
理解できないのも無理はない。
士郎は頭上から降り注ぐ矢を放っている時、既に移動を開始していたのだ。
初め、空に展開された武装局員達を狙撃し、建物の影に隠れさせ、視界を遮る。
更に士郎自身の発見をされにくくするために頭上から矢を降らせ屋内まで追い込む。
それと同時に狙撃していたビルを降り、発見されにくいように地上を疾走しながら矢を放ち続け、降らせ続ける。
矢が止むころには既に士郎は武装局員達が飛び込んだ建物の侵入しているというわけだ。
そこからは単独行動のものは背後から、複数でいる者達は小石などを投げたり音で意識を逸らした瞬間に一人、また一人と撃破していく。
もはやこの場は士郎の狩場となっていた。
そして、副隊長のいたところからは最後に残った隊長と三名の姿が見えるのだ。
「全力防御!
走れ!!」
それとほぼ同時に向かいのビルから放たれる矢。
士郎の姿を補足する事よりも生存の為に走る。
矢が止み、四人は息を荒くして背中合わせに窓や通路に杖を向ける。
通路や窓に警戒するのは正しい。
それを証明するように外の様子が見えない曇った窓ガラスが音を立てて亀裂が走り、全員が杖を向ける。
だが、このような廃墟の場合、他にも気をつけねばならない。
崩れたところがあり、使われていた当時にはない隙間が存在する。
壁や床、そして天井に
窓から一番遠く、他の三人の視界に入っていないのが一人。
甲高い音を立てて杖が転がる。
振り返ったときには四人は三人に減り、天井にはぐったりとした仲間の足が覗く。
士郎は穴が空いた天井を使い、一名を声も上げさせず上の階に連れ去り、そのまま沈黙させていた。
「上だ!
撃ちまくれ!!」
士郎がいるだろう上の階に向かって三人は手当たり次第に魔力弾を叩き込む。
だがその破壊音が士郎の移動音をかき消してしまう。
士郎は三人の攻撃と共にビルから飛び降り、重力に任せ落下しながら矢を放ち、一人を撃ち抜き、そのまま武装局員達の一つ下の階に飛び込む。
撃ち抜かれた者が倒れ攻撃が止み、意識の有無を確かめようと駆け寄る武装局員。
その動きを士郎は耳を澄ませ、天井に張り付き手で触れ、振動で完璧に把握する。
隊長は順々に消えていく仲間の姿に呆然と倒れた仲間と駆け寄る仲間を見つめていた。
次の瞬間、床を突き破り赤い外套を纏うナニカが駆け寄る仲間を羽交い絞めにし下の階に引き摺り込まれた。
瓦礫の音だけで引き摺り込まれた隊員の声は聞こえない。
本来なら確認しなければならない。
だが本能が悲鳴をあげて杖を向けながら後ずさる事しか出来ない。
(この場は既にアレの狩場だ。
離れないと、地上本部陸戦武装局員に合流して情報を渡さなければ)
本局と地上の軋轢など既に頭になく、生き残るために思考をフルに働かせる。
しかし、それはあまりに遅すぎた。
手に走る衝撃と共にデバイスの杖は隊長の手を離れ転がり、床に引き摺り倒され、蛇のように素早く首に締め上げる。
「あっ……がっ……」
必死にもがくこうとするが、士郎は締める際に右腕を上げさせ首と共に締めているのでは、振りほどく事はできない。
左腕も床と士郎の左膝に挟まれ動かす事は出来ない。
出来るのは精々足をバタつかせる程度である。
隊長は士郎の腕の赤い外套を見つめながら意識を失った。
意識を失った事を確認し士郎は静かに立ち上がり、廃ビルの中を駆ける。
次の標的である地上本部陸戦武装局員達を目指して
後書き
というわけで士郎君の魔導師試験前編でした。
試験本番自体はこの話からなので第百六話のタイトル少し変更してます。
さて、なにやら興が乗ってしまいクロノに辿り着く前に書き込みすぎてしまいました。
前編で五千字超えって・・・
というか既に魔導師の戦い方でもなんでもない気もしますが、そこは笑って許してください。
さすがに少し反省しているので地上本部陸戦武装局員との戦闘は端折ると思います。
さて次回は年末か、2018年の年始にいければと思いますのでよろしくお願いします。
ではでは
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