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勇者にならない冒険者の物語 - ドラゴンクエスト10より -

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ラーディス王島にて

 ウェディの青年の身体は、ジアーデの回復魔法で完全に回復されていた。
 呼吸も元に戻り、一時は安心したのだが・・・。
 エルフの少女、チョウキは手づくをしながら焚火の脇に横たわる青年の横顔を眺めていた。
 海に落ちた経緯で装備を失い、下着姿になっていたが、ジアーデの装備カバンに入っていた革の鎧一式を譲ってもらい、今はそれを着ている。
 焚火には鉄鍋がかけられており、ジアーデが薬草と獣肉にキノコや野草を入れてスープを作っていた。
 彼女に聴いて分かったことだが、ここはどうやらヴェリナード王国の管理する遺跡のあるラーディス王島という島らしい。
 管理されているとはいえ、軍隊や管理組織が常駐しているわけではなく、モンスターや犬型の種族、シードッグが生息しており、安全な場所とは言い難いようだ。

「でもよかったにゃあ、貞操が守られたんだからにゃあ」

 シードッグの慰み者にならずに済んだことを言っているらしい。
 ジアーデは、オーガ族の女性で、オーガにしては小柄な体格をしている。それでも、チョウキよりも頭二つ分大きいのだが。
 赤い肌に黒いストレートヘア、神官の法衣をまとい、鋼の槍を装備しているところを見ると、彼女はパーティーに属して後衛を担当するタイプではなく単身で冒険するタイプの戦闘力を備えた冒険者のようだった。
 鍋をかき混ぜながら海水からとったらしい湿った塩をもみほぐしながら鍋に投入する。

「でも、犬族は猫族と仲が悪いはずだけどにゃあ。猫相手に商売してるやつもおるにゃね」

「そなたのそのしゃべり方はどうにかならんのか? オーガが猫族のような話し方をするのは正直気になるのだが」

「人それぞれじゃにゃいかにゃー? 子供のころからこんな話し方だったから今更直せって言われてもにゃあ」

「まあ・・・いいのだが・・・」

「いいならいわなきゃいいにょに」

 単にろれつが回っていないだけなんだろうか、とチョウキが首をかしげる。
 それにしても、とウェディの青年に向き直って言った。

「傷がいえているのに、目覚めないのは何か理由があるのか?」

「ジアーデはお医者さんじゃにゃいからわからにゃいけど。死の淵まで落ちた魂はそう簡単には戻って来ないものにゃよ。気長に待つしかないかにゃぁ~」

「他人事だな・・・」

「他人事だし。でもまぁ、安静にしておいたほうがいいのは確かだから船着き場まで行って、ミューズ海岸に渡ることを提案するにゃ。その先にあるジュレットの町なら冒険者の宿もあるし、しばらくは安静に過ごせるはずだにゃ」

「ミューズ海岸?」

 え、しらないの? と言いたげに目を丸くしてジアーデがチョウキを見た。

「もしかしてチョウキって、どこかのお嬢様?」

「こう見えてもカミハルムイ王国の武官の家の出だ」

「ワーオ、お金持ちだったんだ・・・」

「そんなに高い位の家ではないがな」

 ウェディの青年の髪をすきながら苦笑する。
 ジアーデが目を輝かせてチョウキを見た。

「なんでまた旅に出たにゃ? 武官のお家なら、ほかの家に嫁げば安泰だったにょに」

「5人姉妹の末っ子ではな。いい家に嫁げるわけでもない」

「少なくとも死ぬ目にはあわにゃいよ~」

「証を建てたかったのだ」

 意味が解らない、といった表情でジアーデは固まり、鍋をかき混ぜる手も止まる。
 チョウキは伏目がちにウェディの青年の髪をすくのをやめて語った。

「家にいても何かを期待されることもなく、末っ子というだけで何不自由なく暮らすことは出来ていた。だが、私は父上に期待してほしかったのだ。そのために、戦士として武術も学んだ。魔法使いにもなれるように書物も勉強した」

 正座の姿勢になり、ジアーデに正面に向き直る。

「だが、ツスクルの学び舎に入学することもさせてもらえず、私はただお人形のように扱われていただけだった。父上も、ついぞ私と面と向かって話をしてくれたことはない」

「見返したかった?」

「そうだ。だから私は、私を慕ってくれる家臣が冒険者の道を示してくれた時に、これこそが我が道だと信じて疑わなかったのだ。・・・結果、洋上で悪魔の襲撃を受けて家臣を失い、私を助けてくれようとした青年にも、このような仕打ちを・・・」

「それは彼に失礼だにゃ」

「なに?」

「ウェディは恋に歌に生きる種族だにゃあ。エルフに、というか異種族に恋をするウェディは珍しいけど、その彼が信じて戦ったのなら、それは意義のある事だにゃ。感謝はしてあげてほしい。だけど、憐れむのはとても失礼だと、ジアーデは思うにゃあ」

「そう・・・か。・・・私は、彼に期待してもよいのだろうか・・・」

(ウェディに恋するエルフも珍しいけどにゃ)

 ジアーデは口には出さず、ウェディの青年の横顔に見入るエルフの少女に苦笑した。

「さ、スープができたにゃ。とりあえず腹ごしらえだにゃ」

 ジアーデは木のお椀にスープをよそると、チョウキに差し出してきた。
 右手で受けて匙をうけとる。
 一口すすり、こくんと飲み干した。

「・・・美味い・・・」

「当たり前だにゃあ。あたしは調理ギルドで料理も学んだことがあるくらいだからにゃ!」

 もっとも、調理職人を目指したわけじゃないから本格的なのはたいして作れないけど、と付け加える。
 自分のお椀にスープをそそいでウェディの青年の方を見る。

「少しは栄養付けさせないといけないんにゃけど。お医者さんじゃにゃいから意識のない人に栄養を付けさせるやり方がわからないにゃ」

 と、肩をすくませると、チョウキの取った行動にぎょっとして腰を半分浮かせる。

「て、ちょっとまつにゃあ! スープを口に含んでおまえは何をしているにゃあ!?」

 チョウキはスープの水分だけを口に含むと、ウェディの青年に口づけをしていた。
 ゆっくりとスープを送り込む。
 ウェディの青年ののどが、ゆっくりと動いてこくり、こくりとそれを飲み込んでいた。
 うっとりとした表情でジアーデに向き直る。

「なに、とは。栄養を少しはつけさせたほうがいいのだろう?」

「お前は天然か!! 天然にゃの!? 間違って肺に入って呼吸が止まったらどうするつもりさ!?」

「普通に飲み込んでいるぞ?」

 再び接吻する。

「お前に羞恥心はにゃいにょかーーーーー!!」 
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