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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
  守鶴

「おめえ中々、見所あるがな」
「お、お前……これ……?」

 ガマ吉がにやり、と笑う。サスケの驚いた声に、ナルトは笑って答えた。その声の調子も先ほどのものとは全く違ったものになっている。
 森の中に溢れるオレンジ色の数。その数約千体以上。ナルトでないと出来ないような芸当だった。

「サスケ。お前はゆっくり休んでろ。――あとはこのうずまきナルトに、任せてくれってばよっ」

 ――ナルト
 単純な罠に引っかかっていたナルトや、カカシの千年殺しを食らっていたナルトや、ドベでウスラトンカチのナルトはもういなのだと、サスケは改めて気づかされた。
 目が眩むほど眩しく、眩しく、更に眩しく――輝く、その姿。
 オレンジの光が同時に飛び上がり、手裏剣を放つ。四方八方から投擲される手裏剣に、我愛羅は舌打ちして右腕をあげ、手裏剣を防いだ。

「食らえぇええっ!!」

 四体のナルトが一瞬の我愛羅の隙を見逃さず、我愛羅を高く蹴り上げる。

「う!」

 一発目――

「ず!」

 二発目――

「ま!」

 三発目――

「き!」

 四発目――
 その時になってサスケは気づく。この技は彼の使用した獅子連弾と似ているのだ。違うのは――

「ナルト二千連弾――――――――ッッ!!!」

 二千を越すナルトが一斉に我愛羅に殴りかかる。殴られた箇所から砂が噴き出し、我愛羅の姿は更に崩れていく。よろめきながらも着地した我愛羅に、更に二発、拳が決まる。ドッ、音を立てて我愛羅が落下した。地面にのめりこむ我愛羅に向かって、何千体ものナルトは更に飛び掛っていく。
 ――こいつ……一体何者だ……ッ!?
 先ほどまでは怖気ついたように、全く攻撃をしてこなかったというのに。
 ――どこからこんな、力がッ……!? こんな……こんな奴に……ッ

「負けるわけがあるかぁあああ――――ッ!」

 ふと起き上がった我愛羅の叫び声が空を振るわせた。ドバッ、と砂の塊が上に向かって突き上げ、ナルトの影分身を貫いていく。直接攻撃を受けなかったナルトも、影分身の受けたダメージが跳ね返ってきたことによってかなりの激痛を覚えながら枝の上に墜落する。もうもうとした砂埃の中、何かのシルエットが浮かんでいる。とても巨大な、何かの。

「なんだ……あれは……っ!?」

 サスケが目を見開いた。
 巨大なシルエットがこちらに向かって前進してくる。巨大な巨大なシルエット。砂埃が晴れ、足音のかわりに地響きを立てる巨大な化け物の姿があらわになった。
 青色の紋様の走る砂色の巨大な体躯。残虐な瞳。先ほどよりも数倍巨大でおぞましいその姿。これこそ我愛羅の中に潜むものの本当の姿なのだ――そうナルトが悟ったその時、気づけば砂がナルトの体を取り囲み、締め付け始めていた。

「ナルトォオオオ!!」

 サスケが叫ぶ。助けにいこうと思っても、呪印の痛みの反動に体は思うように動かず、サスケは両手を前に突いた。体を支える腕が震える。
 ――さっきの分身で、チャクラは、もうっ……
 砂が喉を締め付けようとする。ぎゅ、と目を瞑ったその時、不意に脳裏に浮かび上がるサクラの姿。
 ――サクラちゃん
 心を決める。口元から流れ出た血を指先で拭う。砂が完全にナルトを包囲する。
 ――これで終わりだ! 砂漠そうそ――

「口寄せの術ッ!」

 砂が現れる。煙と共に現れたのは、守鶴に匹敵するほど巨大な姿。
 ナルトが前回九尾にチャクラをもらって口寄せしたことのある、ガマ吉の父親。――ガマブン太。
 影分身であんなにも多量のチャクラを消費したというのに、まだこんなに巨大なものを口寄せできるチャクラが残っていたとは。目を瞠るサスケは、ナルトが宣言するのを聞いた。

「サクラちゃんは……俺が守る!」

 守りたい人がいる限り、諦めることは出来ない。
 そして守りたい人がいる限り、自分はもっと強くなることが出来る。
 守りたい人がいる限り。
 もう、負けられない。

 そんなナルトとサスケを見ていた烏が、ばっと空に飛び上がった。

 +

「――――!」
「……どうしましたか、イタチさん?」

 破壊の真っ只中、店で団子を食っている二人組とは実にシュールだった。様子をずっと見させておいた影分身の変化である烏から受け取った情報にイタチは目を細める。

「一尾の人柱力が完全体になったらしい」
「……いいんですか、本当に」

 そう告げれば、鬼鮫がぽつりと言葉を投げかけた。何が。そう答えて見せれば鬼鮫は黙り込む。彼が言っていたのは弟のサスケのことだろうというのはわかっていた。だが暁では相手の過去について触れないことが暗黙の了解となっている。鬼鮫もこれ以上深入りしてはいけないというのはわかっているのだろう。
 だが流石に鬼鮫も疑いをもち始めた頃かもしれない――大蛇丸の粛清が言い訳に過ぎないかもしれないということなど。何かその疑いを徹底的に晴らしておける理由があればいいのだが、とイタチは一人思った。
 サスケを守るために、自分は悪役でいなければならない。サスケに僅かでも自分の真実を知らせては、いけない。

 +

 最初は杯を交わしていないといって協力を渋っていたガマブン太を説得してくれたのは、ガマ吉だった。
 守鶴にいじめられたのをナルトに守ってもらった、その言葉にやる気になってくれたようである。

〈ガキ。お前を子分として認めちゃろう。――しっかり捕まっとけ!〉

 刀を構えて突進し始めたガマブン太の巨躯に捕まる。巨大であるが故に一歩一歩の歩幅が大きいガマブン太を素早く我愛羅と間合いを詰め、そして刀を突き立てた。我愛羅が何も反応できない内に、蛙の足を以って大きく飛び上がる。と同時に、我愛羅の右腕が空を舞う。
 ――すっげー……
 着地と同時に何本もの木々をへし折る。地面に激突した我愛羅の右腕が砂の塊となって崩れ落ちる。陽光に煌きながらくるくると落下した刀が地面に突き刺さり、暴風を巻き上げる。

「あのさあのさ、ガマおやびん! あっちにサクラちゃんいるから、あっちいっちゃだめ! あいつをこっちに誘き寄せるんだ!」
〈サクラちゃん?〉
〈こいつのこれじゃ、オヤジ〉

 ガマ吉がナルトの頭の上にしがみついたまま、小指を立てて見せた。ふん、とガマブン太が面白そうに笑ったその時――我愛羅がおぞましい笑い声を立てた。

「おもしろい――面白いぞうずまきナルトォオオオ!」

 その巨大な体躯の眉間の間から、我愛羅の姿が現れ、そして何かの特殊な印を組んだ。あれが霊媒か、とガマブン太が呟く。守鶴の人柱力となったものの例に漏れず、不眠症に陥り、精神的に不安定になっていったのを伺わせる隈の深い目元と、その目の奥の狂気。
 霊媒が起きている間、守鶴はその本来の力を発揮できない。

〈じゃけど……あの霊媒が眠りに入ったら〉

 ――狸寝入りの術!

 かくん、と我愛羅の体が力を失った。そして巨大な化け物の目の奥で、新たな光が閃いた。

〈やりおったか……!〉
「ど、どうなるんだってばよ、おやびん……!」
〈狸寝入りの術が発動したら……守鶴が出てくる〉

 きらきらと守鶴の目が輝く。狂気一色の声が青空に響いた。

〈ヒャッハァアアアァァァアア!! やっとでてこれたぜええええええぃいいい!!〉

 ひどく醜悪な笑い声は見事に狂気一色だった。以外とファンキーじゃのう、とガマ吉が呟く。その呟きを聞いたか聞かなかったのか、守鶴がこちらを振り返った。嬉しそうに、ひどく嬉しそうに、笑う。

〈いきなり! ブチ殺したいやつはっけーん! 風遁・練空弾(れんくうだぁ)――ん!!〉
〈水遁・鉄砲玉!〉

 守鶴が狸らしく巨大な腹を叩くのと同時に、圧縮された風の塊を放った。パイプを投げ捨てたガマブン太が飛び上がり、玉状の水を口から放つ。ぶつかり合った風と水は嵐を生み、ざあああっと森に雨が降り注ぐ。

「なんて戦いしてやがる……っ」

 雨に打たれながら、サスケは思わず呟いた。自分の想像の次元を遥かに超えたこの戦いに、目を瞠るしかない。

「おやびん、こっちは駄目だってッ」
〈わかっとるわいっ〉

 森の中の桜色を見つけたナルトが叫び、苛立たしげに返しながらガマブン太が飛び上がった。更に三発の練空弾に、鉄砲玉を二発放つ。
 尾獣が得意とする「尾獣玉」を使ってこないあたり、舐められているのだろう。そう思った矢先、ナルトの焦ったような叫び声がする。

「やばいっておやびん! まだ一発残ってるッ!」
「――!」

 そうだ。先ほど守鶴が放ったのは三発、対してガマブン太が放ったのは二発。相殺された水と風が生み出した嵐を突き破って飛んできた練空弾が、ガマブン太に命中する。
 墜落するガマブン太。爆風がまた地面に震動を加える。するり、とまたガマブン太が飛び上がった。これが尾獣玉だとしたらとっくに命はないだろうが、練空弾に篭ったチャクラも半端ではない。これをこれ以上受け続けるわけにもいかない旨をナルトに伝えれば、ナルトが戸惑った声を出す。

「これからどうしたらいいんだってばよ!?」
〈とりあえずはのう、あの霊媒のガキをとつきおこしたれい!〉

 そうすれば術はとけるはずだ、そう説明するガマブン太に、

「どうやって起こすんだよっ!?」

 と慌てふためいて問いかける。

〈ガキに一発食らわせろ!〉

 そういってガマブン太が鉄砲玉を使って練空弾を相殺した。す、と守鶴の肩を掴み、その動きを止めてその前に着地する。今じゃ、と叫ぶガマブン太の声に、ナルトは守鶴の額から上半身だけ体を見せている我愛羅に視線を向ける。
 殴りかかろうとしたその時、守鶴がいきなり身を引いた。ガマブン太が飛び上がって距離を取る。なにするんだってばよぉと抗議の声をあげるナルトに、ガマブン太は一つの作戦を持ちかけ、そして守鶴に向かって突進し始めた。作戦の内容をなんとか飲み込み、慌てふためきながらもそれをなんとか実行しようとするナルトが使ったのは――

「変化の術ッ!!」

 大きな煙があがる。あれは、と目を見開くサスケの視界に映ったのは――
 ――九本の尾を持つ化け狐だった。
 
 

 
後書き
ヒャッハー守鶴さん初登場回。我愛羅対ナルト戦は最低であと四話くらいと予期しています。 
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