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うぬぼれ竜士 ~地球防衛軍英雄譚~

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第17話 決意の戦姫達

 ――破壊の限りが尽くされた、瓦礫の山。その険しい道程を踏み越えた先に、深緑の巨影は待ち受けていた。
 咆哮を上げ、地を鳴らし、全てを穿つ。本能の赴くままに、命あるものを蹂躙する。

 それが、インベーダーが差し向ける侵略兵器としての、巨獣ソラスの存在意義であった。

 それは主人である異星人が、この地球を去った今も変わっていない。彼はまるで、行方をくらました主人を探すかのように、瓦礫の海を彷徨い続けていた。
 人々を襲う、という至極単純な命令を果たしながら。

 ――やがて、彼は足を止め。
 たった1人で立ちはだかる、愚かな人間をその視界に捉えた。

「……オレも、お前も。長く生きるには、業を重ね過ぎた」

 その者は、託された呪物を手に。右眼の傷跡を撫で――巨獣と相対する。
 それは巨獣にとって、久方ぶりの獲物であった。知性も理性も投げ捨て、主人すらも失った、孤独な彼が求める……ただ一つの獲物。

「そろそろ……終わりにしよう」

 その巨大な顎から噴き上がる、灼熱と咆哮。それを前にしてなおも、愚者は怯まず――引き金を引く。

(……君に似た安らぎ。それを守るために今日まで、オレは命は続いていたんだ)

 死に場所を、求めるかのように。

 ◇

 ――去りゆく背に、手を伸ばしても。声を絞り出しても。結局自分は、何一つ掴み取ることが出来なかった。

 その無力感に打ちひしがれながら、フィリダは表情のない顔で炊き出しを続けている。
 そんな彼女の様子を目にした人々は、口々に声を掛け気遣うのだが――それに笑顔で応えることさえ、困難になっていた。

(結局、私は何も変わってない。成長していない。リュウジがただ1人で戦いに行こうっていう時に……私は、ただ見ていることしかできなかった……!)

 唇を噛み締め、その麗しい貌を歪ませて。フィリダは1人、思案に暮れる。
 ボルケーノを間近で見た時。去りゆく瞬間の、鋭い貌を見た時。足が竦んでしまい、自分は動けなかった。
 肌で感じてしまったのだ。レベルが違い過ぎると。

(そんなの……言い訳にならない! 何がEDFよ、何が精鋭ペイルウイングよ――何が「白金の姫君」よ! 肝心な時にいつも、私はッ……無力じゃない!)
「ちょ、ちょっとフィリダ。……休みなよ、疲れてるんだよ。大丈夫大丈夫、アスカさんならきっと帰ってくるから」

 気づけば、頬に雫が伝っていた。さすがにこれ以上は見ていられない、と思い至ったコリーンが、彼女を裏手のテントで休ませようとする。
 ――すると。

「今さら自分の無力さが分かったみたいね」

「えッ――!?」

 聞き覚えのある声に反応し、咄嗟に顔を上げた瞬間。フィリダとコリーンの前に、1人の少女がふわりと降り立った。
 ペイルウイングのユニットを纏う、巨峰の持ち主は――鋭い眼差しで、フィリダの瞳を射抜く。腕を組む彼女の胸が、たわわに揺れ動いていた。

「カ、カリンさん……!? どうしてここに……!?」
「呆れた。父さんが義兄さんのために用意した戦力が、あんな筒1本だと本気で思ってたわけ? 『白金の姫君』が聞いて呆れるわ」
「……! カ、カリンさん、私達のために日本から……!?」
「勘違いしないで。私は、義兄さんを守るために駆け付けて来たの。泥棒猫なんてどうだっていいわ。……父さんは心配するだろうからって、義兄さんには私が来ること言ってないらしいけど」

 ――極東支部副司令の娘にして、1ヶ月でペイルウイングの訓練過程を卒業した才媛。その名声を背負う一文字かりんは、フィリダの顔を見るなり鼻を鳴らす。

「ま……あなたの情けない顔を見れただけでも良しとしてあげるわ。……で、結局どうするの?」
「ど、どうっ、て……」
「私、前に言ったわよね。次会うまでに義兄さんを落とせなかったら、私が貰うって。……足が竦んでるならちょうどいいわ、ずっとそこで震えてなさい。義兄さんはソラスを片付けてから、私がそのままお持ち帰りするから」
「なっ……!」

 あからさまに挑発して来る彼女に対し、フィリダは眉を吊り上げる。……すると、生気を失っていた彼女の眼に、微かな光が灯った。
 それを見逃していなかったかりんは、ニヤリと口元を緩める。

「これで分かったでしょ。あなたなんかじゃ、義兄さんの力になんてなれない。そんなあなたに義兄さんと添い遂げる資格なんて、これっぽっちもありゃしないわ。あの巨獣なら私と義兄さんで始末してあげるから、あなたは全てが終わるまで、ここで震えていればいい」
「……!」
「フィ、フィリダ……!」

 かりんはさらに言葉を並べ、フィリダをなじる。血が滲むほど拳を震わせ、唇を噛みしめる彼女に、コリーンは心配げに声を掛けた。
 ――その時。

「……渡さないわ! あなたなんかに、リュウジは渡さない! 私はこれからもずっと、あの人と一緒に……このロンドンで生きていく! 失った笑顔を、幸せを、取り戻すために!」
「……ようやく、それっぽい面構えになったわね。もう戦闘は始まってるはずよ、混ぜて欲しけりゃ40秒で支度なさい!」
「そんなに……いらないわ!」

 フィリダは燻っていた想いを爆発させ、テントの裏に備えていたユニットを素早く装着する。
 強い意志を感じさせる、その手際と目付きを前にして――かりんは不敵に笑う。好敵手(ライバル)を見つけたかのように。

 一方、戦う決意を固めたフィリダは、勇ましい面持ちでコリーンに向き直る。気勢を取り戻した親友を見つめるコリーンも、どこか安堵した様子だ。

「ごめんなさい、コリーン。無断出動になっちゃうけど……なんとか、あなたに責任が及ばないようにするから」
「……なぁに言ってんの、そんなのどうだっていいわよ。炊き出しも市民のお世話も、全部やっといてあげるから……絶対、帰って来なさいよね」
「うん……ありがとう!」

 そして、互いに敬礼した後。フィリダはかりんと視線を合わせ、飛び立とうとする。
 ――エアレイドの装備を着込んだアーマンドが、身を引きずるように現れたのは、その直後だった。

「待てよフィリダ、乳牛女ァ……! 何勝手に話進めてやがる! 俺も1発あいつをぶん殴らなきゃあ、気が済まねぇんだよ!」
「……あら、いたの類人猿」
「いたのじゃねぇよ! 乳もぐぞ!」
「ビークルもないんだし、あんたがいてもクソの役にも立たないわ。帰って寝なさい。そしてそのままくたばりなさい」

 そんな彼に、路傍を這う芋虫を見るような視線を注ぎながら、かりんはフィリダと共に飛び立っていく。
 アーマンドは懸命に地を駆け抜け、その後を追い続けて行った。

「くたばんねぇよ! エアレイドの取り柄がビークルだけだと思ってんなら、大間違いだぞ!」
「……全く、うるさい男ね。静かにしないと、あんたから消すわよ」
「やってみやがれホルスタインが!」
「もうっ……2人とも、喧嘩してる場合じゃないでしょ!」

 ――そうして、時折フィリダが仲裁しつつ。彼ら3人は、1人戦い続けるリュウジの元を目指して、瓦礫の海原へと漕ぎ出して行くのだった。
 
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