うぬぼれ竜士 ~地球防衛軍英雄譚~
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第18話 4人の伝説
鮮血に塗れ、肉や骨が露出し。頭蓋は砕け、片目は抉られ。幾多の肉片が瓦礫に混じり、辺り一面に転がっている。
――そんな中でも、巨獣ソラスは戦いを投げ出さずにいた。駆逐すべき人間がまだ、目の前で生きているからだ。
「……は、ァッ……はッ……」
だが、人間の方も血みどろの重傷であり、生きているのが不思議なほどである。だが、その眼光に宿る闘志が、彼の身体を突き動かしていた。
互いに満身創痍になりながら、それでもなお、一歩も譲らず闘い続ける。永遠のように感じられる時の中、どちらかが斃れるまで。
――それが、生存を賭けて激突した両者に課せられた、宿命であった。
「あ……ぐッ!」
しかし、如何に強者といえど、片方は所詮「人間」。人智を超えた侵略者である巨獣を屠るには、後一歩及ばない。
雌雄を決するべく、巨獣が灼熱を吐こうとする中。得物を構えねばならないはずの身体が、言うことを聞かないのだ。
後少し、余力があれば。両腕が折れてさえいなければ。そう呪ったところで、何かが変わるわけでもなく。
永遠の眠りを拒み続けてきた人間が、いよいよ屠られる。その瞬間が、間近に迫り――
「はあぁあぁあッ!」
「やああぁあぁッ!」
――少女達の叫びが、その運命を捻じ曲げた。男の頭上を駆け抜ける、2人の妖精は……血だるまと化した巨獣の顔面に、同時に銃口を向ける。
刹那、蒼い稲妻が巨獣を襲い――けたたましい悲鳴が天を衝いた。
「……な……!」
死を迎えようとしていた男は、その光景に瞠目し――隣に現れたもう1人の男に、肩を貸された。
「……よ、まだ生きてたな」
「ア、アーマンドさ――ぐッ!?」
「ひとまずこれで勘弁してやる。次に俺らをお荷物扱いしてみろ、こんなもんじゃ済まねぇからな」
と、思いきや。いきなり腹に拳を叩き込まれ、むせ返ってしまう。
その拳に心当たりがあったのか――リュウジは、アーマンドに苦笑いを向けた後、神妙な面持ちで2人のペイルウイングを見上げた。
「……まさか、かりんさんまで。副司令、なんて無茶な……」
「そんだけ、息子のてめぇが大事なんだろ。……しかしまぁ、さすがだな。加勢するつもりで来たんだが、ほとんど死に掛けじゃねぇかアレ」
「……ダメ、です。サンダーボウ10では、いくら弱っているソラスでも決定打には及びません! せめて……後1回、これを撃てれば……」
2人のペイルウイングは、ソラスの火炎放射を縦横無尽にかわしながら、その全身に蒼い電撃を浴びせている。だが、効果が薄いのか――ソラスは痛みに叫びながらも、攻撃の手を緩めない。
ペイルウイングは機動力と引き換えに、防御力が犠牲になっている。このままでは、いずれエネルギーが尽きて火炎放射の餌食になってしまう。
そうなる前にソラスを仕留め、2人を守るには――今リュウジの足元に転がっている、ボルケーノ-6Wを使うしかない。
何十発とこれを浴びたこともあり、最早ソラスは半死半生の身。後1回、この砲口から放つ6連弾を浴びせられれば、間違いなく決着を付けられる。
だが、ボルケーノを使える隊員はリュウジしかいない。そのリュウジも、今は両腕が折れてしまっている。
このままでは、起死回生の好機を地面に転がしたまま、悲劇を迎えてしまう。
「……上等だ。『伝説の男』の戦果、俺ら4人で再現してやろうじゃねぇか!」
――やがて、アーマンドは意を決したようにボルケーノを拾い。それをリュウジの肩に乗せ、自身はその後ろに回った。
「うっは、クソ重てぇなコレ。こんなん抱えて今まで戦ってたのかよ」
「アーマンドさん、何を!?」
「腕が折れて砲身が支えられねぇんだろ! だったら、筒は俺が持っててやる。てめぇは照準を合わせて、引き金さえ引きゃあいい!」
「……!」
「EDFは仲間を見捨てない。あの時、てめぇが俺に教えたことだ!」
初めて出会い、共闘したあの日。
リュウジはフィリダを救うために、家の隙間にギガンテスを突っ込ませ、その反動で転がり込む――という無茶をやってのけた。
仲間を救うためなら、どんなリスクも厭わない。
それが出来ると自分を信じ抜く「うぬぼれ」は、空中レースでかりんを救ったフィリダにも、今ここでリュウジを支えるアーマンドにも引き継がれていた。
――そして、危険を承知で駆けつけて来た、かりんにも。
「義兄さんに手出しはさせない!」
「貴様は必ず、ここで止めるッ!」
2人のペイルウイングは、即興で組んだコンビとは思えないほど、息の合った連携を見せていた。
――愛する男を守り抜く。その行動理念が、シンクロしているからだ。
「……ッ!」
そんな彼女達を狙うソラスの火炎放射は、さらに勢いを増している。邪魔な2人から先に始末してやろう、ということなのだろう。
――なら、その前に決着を付けるしかない。リュウジは震える指先を引き金に掛け、痛みに悶えながらも渾身の力を込める。
そして、引き金を引く直前。
巨獣の火炎放射が、こちらを向こうとし――
「やっちまいなァアッ!」
――た、瞬間。
天から降り注ぐ閃光の雨が、命を屠る刃となり。満身創痍のソラスに、容赦なく突き立てられた。
絶叫を上げる巨獣の姿に、アーマンドが歓声を上げる。それは――エアレイドの衛星兵器要請「サテライトブラスターA」によるものだ。
――アーマンドはこの事態を予期し、予めいつでも撃てるよう待ち構えていたのである。
「ハァン! どうよ俺のパーフェクトな座標指定! 訓練生崩れだからってナメんじゃねぇ!」
「アーマンドさん……!」
「さぁ、行くぜアスカ! てめぇがうぬぼれ野郎かどうか……俺達に見せてみろよッ!」
「……ッ!」
ソラスは痛みの余り、火炎放射を中断している。砲口を向けられている状態で、完全な無防備となった。
――もはや、何も躊躇うことはない。
(かのん……オレは、やっと……)
リュウジは痛みも苦しみも顧みず、ただ渾身の力を込めて指を引き――6方向に飛ぶ弾頭を、発射した。
反動でアーマンドが後方に転がり、支えがいなくなったことで、リュウジもバランスを保てなくなり転倒する。
そんな彼らを尻目に、駆逐すべき巨獣を狙う弾頭に群れは――見事に、その使命を全うした。
衝き上がる爆炎。轟く爆発音。響く断末魔。全てが同時に巻き起こり、吹き抜ける爆風が戦場を席巻する。
巨獣だったものが辺り一面に散らばり、その命に終焉が齎されたのは、その直後だった。
「リュウジ! アーマンドッ! 2人とも大丈夫!?」
「に、義兄さん! 義兄さんッ! しっかりしてッ!」
「……へへ、どうよ。俺達も、わりかし捨てたもんじゃねぇだろが」
「えぇ……そうですね。『うぬぼれ銃士』の、完敗です」
「もう捨てちまえ、そんな名前」
「え……?」
――そして、全ての終わりを悟った時。土埃が晴れた空は、青く澄み渡っていた。
仰向けに転がったまま動けない、リュウジとアーマンド。そんな2人に駆け寄るフィリダとかりん。彼ら4人を、その青空が静かに見下ろしている。
「『伝説の男』がいねぇ時代に、『伝説の男』じゃなきゃできねぇことをやってのけたんだ。『うぬぼれ』なんて、もう誰にも言わせねぇよ」
この時代に築かれた――新たな伝説を。
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