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ナニイロセカイ

作者:猫丸
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砕け散った世界

「キャハハハハハ」――うるさい。

「キャハハハハハ!!」――うるさいです。

「ギャギャギャギャ」――やめてくださいっ。

外の世界は敵となってしまいました。仲の良かった……友達だと思っていたのにそれはわたしの一方的な想い? 勘違いだったの? 彼女たちまで笑います。
知らない上級生の先輩達も笑います。廊下を歩いているだけなのにっ、すれ違う人、みんながみんなが、わたしを指さし笑います。もうなんなのっわたしが何をしたっていうんですかっ。
涙が止まらないわたしの前に立つのはハートの女王様は「ねぇなんで生きているの?」――もうヤエテェェェェェェェッェェェェッ!!! 

逃げるようにその場を後にしました。後ろから先生の心配するような声が聞こえたような気もしたけどそんなのは気のせいです。だって先生はハートの女王様の手下なんだから。子供を持つお母さんなのだから。四十人もいる生徒たちの一人でしかないわたしのことなんて、誰も見つけてくれないのですっ。

闇雲に歩き続けました。どこでもいい。敵ばかりの教室。敵ばかりの廊下。敵ばかりの校舎。そこ以外だったらどこでもよかった。とにかくここから逃げ出したかった。独りになりたかった――誰かに会いたかった。

ここは……旧校舎? 無意識で、無我夢中で歩き続けて辿り着いたのは旧校舎でした。足元は夏の間鳴き続けて力尽きた蝉達の死骸で埋め尽くしていました。虫は苦手。カブトムシはG殿の親戚だから嫌いです。蝉取りなんてありえない――そう思っていたはずなのに今日足元に転がる蝉の死骸を見ても不思議と不快な気分にはなりませんでした。ただ一言、お疲れ様でした蝉さんたち。

旧校舎に入って行きました。最近は休憩時間のたびに会いに行っているかもしれない彼の元へ。
最初はただ変な人だと思っていました。せっかく面白い話をしてあげても茶化してふざけて真面目には聞いてくれない変な人。でも彼だけでした、わたしの話を少しでも聞いてくれたのは――実の両親ですらわたしの話なんて聞いてくれなかったのに。
少しずつ近づいてくるいつもの教室。自然と胸が躍ります。足がスキップを踏んでしまいます。……こんなところを見られたらどうしよう、恥ずかしいな、なんて思いながら引き戸へ手をかけると

「そうなんですか~あははっ」

楽しそうに笑う彼の声と

「そうなのよ。突然発狂してね」

もう嫌というくらいに聞いた声。わたしを蔑んだ瞳で見つめ、嘘で塗り固めた笑顔で平然と嘘を吐いて回る、ハートの女王様と僕のトランプ兵たちだ……どうして彼女たちがこんな薄汚れた旧校舎なんかに? ……それよりもチェシャ猫となにを楽しそうに話しているの? ねぇ――なにを?

「本当っ俺の狙った通りに事が動いてくれてよかったよ」ニカッと見たことのない悪い笑みを浮かべるチェシャ猫。俺? 彼はいつも自分のことを僕と呼んでいたはず……。

「なぁ? そうおもうでしょう、ハートの女王様さんっ」

「貴方も相当な嫌な奴ね。私を実行犯にしたてあげて自分は高みの見物、だなんて」

……実行犯? 高みの見物?? よく分からない言葉が出てきて頭の中はパニックです。どうゆうことなの、誰か、誰でもいい、誰かわたしに説明してくださいっ。

「俺は~~~」ニヤリと弱った獲物見つめる蛇のように邪悪な笑みを浮かべたチェシャ猫は「自分の手を汚さずに見てみたかったんだよ。人が堕ちて行くのをさっ」その言葉を聞いてやっと理解しました。理解してしまいました。

わたしはその場から逃げ出しました。教室からチェシャ猫とハートの女王様の楽しみそうな笑い声が聞こえてきます。狂っている。彼女たちは狂っていて、そして残酷で残忍で人間の……代表? 狂っているのは彼女達ではなくこの世界の方?

戦争ばかりしている世界。人が人を貶めている世界。一秒間に何億人と消えてゆく世界。嘘で塗り固められ創られた世界。生きる価値もないわたしの世界は――



                                 音もなく砕け散りました。
 
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