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ナニイロセカイ

作者:猫丸
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ハートの世界

「――さん。ちょっといいかしら」

呼ばれた。呼ばれてしまった。
誰よりも早く、朝早くに登校して来て自分の机の上にうつ伏せになって静かにして存在を消して空気に徹していたのにご指名を受けてしまいました。

<ハート女王様>

自分こそがこの世で一番美しいとでも思っているトゲトゲのバラのような女の子。小学二年生の頃に一度だけ同じクラスになったことがある女の子。どうしてこうなってしまったんだろう。何が彼女をここまで変貌させてしまったんだろう……。
今の彼女は、自他認めるクラスのマドンナであり、支配者であり、ラスボスである、学級委員長さん。

「私達トモダチよね?」

後ろにスペードとジャックのトランプ兵を従えたハートの女王様はわたしの両手を握りしめ嘘で塗り固めた笑顔で平然と嘘を吐きます。あぁ……気持ちが悪い。見ているだけで朝食べたチョココロネが口から飛び出してしまいそうです。あぁ……気持ちが悪い笑顔でわたしは――そうだね、と答えました。

体育の授業。小学校の頃までは男女共同で行っていたのにどうしてか、なぜか中学校に入ってからは男女別々、内容も別々で行います。隣のクラスの女の子たちと一緒に。
体躯の先生はその道で有名な人らしくすっごく厳しくて嫌いです。ただでさえ運動音痴なのに目を付けられて一対一で教えられたりなんてしたら目立ってしまい困ってしまいます。

「じゃあ二人ずつグループに別れてやろうか?」

今日の授業はバレー。ボールを見るといつも思うのですが、どうしてボールというものはとんでいくのでしょうか。わたしが投げても地面に転がるだけ。ドッチボールなんて危険です。むかしからなぜか逃げるのだけは得意だったわたし。いつも最後まで残ってしまい、クラスの命運を背負わされて、ボールが当たればみんなから大ブーイング。至近距離から顔面に当てられたこともありました。すっごく痛かったけど、もうドッチボールをしなくてもよかったのはよかったです。当てた犯人はダイヤのキングでした。

「あら――さん。また一人?」

体育のことについて考え事をしていたらまた、わたしは独りになっていたようです。バレーコートで一人ぽつんと立っていました。まあいつものことです。先生とやるのなんて慣れました――なのに。

「もぅみんな――さんが一人で寂しそうじゃないっ。――さん、私と一緒にやりましょう?」

「さすが学級委員長っ。よかったわね――さんっ」

嬉しそうな笑顔の先生と作り笑顔のハートの女王様とわたし。あはは……と近づけばボール拾い決定です。勉強も出来て運動神経も抜群で口もうまい彼女は、自分の手も体操服も汚さずに授業を終えました。ひたすら走らされてボール拾いをしていたわたしは汗まみれの土まみれ――疲れました。





                                      もう疲れたよ。
 
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