少年は魔人になるようです
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第115話 少年達は予想外のようです
Side ―――
「さて諸君。俺の嫁を散々嬲ってくれた礼だ。やってみようか?まぁ―――本気でな!!」
瞬間、魔力ではない力――"神力"が、津波の様に押し寄せる。
ただ本気を"出した"だけにも関わらず、先制するつもりだったネギ達は動きを止めてしまう。
「あ、そうだ、楓。」
思い出した、とポンと手を打って楓を呼ぶ。
緊迫した空気の中、たっぷり10秒程が過ぎる。
「……………………拙者でござるか!?」
「……お前意外に楓がいるってか。」
素っ頓狂な声を上げて、芸人ばりのリアクションを取る忍者・楓。
それもそうだろう。今まで苗字呼びしかしてこなかった憧れの師匠兼先生が、いきなり自分を
名前で呼び捨てたのだ。
『楓でござるかー、うへへ・・・』などとふにゃっているのを見たノワールまで鼻息が荒く
なり、何が原因か分かっていない愁磨だが、収拾を付けに動く事にする。
「コホン、簡潔に言うが。人質にするつもりなら、意味が無いからやめておけ。
素直に渡した方が俺の怒りを買わず済むぞ?――と言う訳で、返して貰うぞ。」
忠告と脅しと決定を伝えると、"天狗之隠蓑"から簀巻きにされた三人を勝手に取り出す。
―――"他人が干渉できない空間"と言うのが大前提のアーティファクトだっただけに、
それを軸にした戦術や緊急の避難もご破算になってしまった。
「ふがふー!もががもがーー!」
「はいはい、今外すって。」
「ぶはぁ!ご、ごめんなさい、愁磨はん。お仕事し切れんかった。」
「すみません、愁磨さん。初めてのお仕事だったのに、失敗しただけじゃなく手を煩わせて
しまって……。」
先に拘束から解放された二人は責任を感じ、エヴァ達と同様、下を向いてしまった。
とは言え、ハルナの策に丸っと嵌められてしまい、一網打尽になったのはもみじの責任が
大きい事は『答えを出す者』で把握していた為、二人の功を労う。
「気にすんな、どーせもみじが悪い。」
「うぐ、そ、それはそうだけどさー……確かにボクが全面的に悪かったんだ…ごめんよ…。」
まさかの、からかったのを素直に謝られてしまい、バツが悪くなる。
これでは当初の予定通り普通に慰めたのでは機嫌が直らないだろう――と、半分仕方なしに、
半分は、ここまでついて来てくれた嫁(仮)を今までの分も労う為に、抱き寄せて頭を抱える。
「よくやってくれた、ここまで。流石は俺の嫁だ。後は3歩下がって見てろ。」
「…………………………ぉ、ぉぉお、おほぉおおおお!我が世の春が来たぁあああああ!!!」
「……いいなぁ……。」
瞳を星とハートにするという離れ業をして予想以上に喜んだもみじを早速うっちゃり、嫉妬や
何やらのジト目を向けて来る木乃香とネカネも同じようにしてやり、障壁を張る。
そして、変身シーンで待ってくれている敵並に、謎の待ち時間を過ごしている反逆者に向いた。
「さて、今度こそ待たせたな。折角のラスボスだ、第一形態と行こうか。」
そう言うと、軽く足を開き1回転し、コンパスの様に地面に印をつける。
「おいおい、まさか?」
「『形態起動:モード≪Alucard≫≪鋼の錬金術師≫』、宝具開帳……うーん、いいか。
"騎士は徒手にて死せず""王の財宝"。
勘が良いな、ちうたん。第一形態は『俺をこの円の外に出してみろ』だ。」
魔力供給兼残機・万能化・武器強化を起動し、かかって来いと挑発する。
ここに至って遊ぶ気なのか、完全に自分達を舐め切っているのか――どちらかは分からずとも
初めに話し合った予想が当たったと同時に接近。ネギ・ラカン・ジオンが至近で構え、アル・
ガトウ・ゼクト・ジルダリアが中距離で遅延を解放、エーリアスが変異強化魔法をかける。
『全ての味方の攻撃属性を付与し、相応の多段攻撃に変異、全方向から撃ち出す』と言う、
『大魔導士』エーリアスが代々研鑽を重ねて作り上げた強力無比な魔法。
ネギ達の目に見える愁磨の魔法障壁は、アルやゼクトの様な身の回りを小さく護る強固な十重
二十重の球の重なりでなく、フェイトやデュナミスの様な立体の曼荼羅でもない。
中心の障壁一枚につき一本、計十本の"木"が生えているのだ。
"幹"が伸び、そこから数千の"枝"に分かれ、数万の"葉"と言う障壁が折り重なっている。
対応属性以外を無効化する葉を一枚一枚突破し、その数倍の硬度を持つ枝を折り、
更に数十倍の幹を破壊して漸く大本の障壁を一枚突破できる―――
自分達を遥かに上回る実力者相手にそんな事は不可能だ、との建前。
『んなメンドイ事やってられっか』と初代ジオン・ジルの本音の下、出来たのが愁磨に勝るとも
劣らない、チートクラスの魔法だった。
初手で出されては、"大魔導士"だけで魔法世界の全てを管理する神たるツェラメルにさえ
致命傷を与えられるであろう技に、更に世界最高の火力群を上乗せした一撃。
「そう来たかぁ……。」
その究極の攻撃に溜息をつき、態々多少思考して起動させた能力も使わず、ガイナ立ちで
待ち受ける。
至近にいた三人が訝しむ間もなく、次々と着弾して行く。さながら、8.8cm砲が
マシンガンの様に放たれる轟音が数秒続き、煙の中にいた人影が掻き消える。
確認する為、ラカンが気弾で煙を晴らすと。
「…………最悪だ、最悪も最悪だ、初手としては論外にも程がある。」
つまらなそうに荒々しく頭を掻く、無傷の愁磨。
効果を期待し確信したからこそ初撃に全力を注いだジオン達は愕然とし、自身のこれまでと
歴代の成果を全て出した上、上限まで増殖させたエーリアスは魔力切れで膝を付く。
「そん、な………一枚も突破出来ないなんて……。」
「一枚"も"だと?まさかお前ら、俺の障壁の特性すら理解出来てないでブッパしたのか。
ボスですら何度も挑んで攻略するのが常なのに、ラスボス相手になぁ……これだから……。」
別の理由でショックを受けている隙に、その絶対障壁を魔法班が再度解析を試みる。
「(でもさぁ、この多重無効化障壁が偽物に見えないんだけど?)」
「(しかしワシらの見立てが外れたのは事実じゃ。認識阻害の可能性もあるが・・・。)」
「相談するのは構わんが、順番待ちしてるんだから『退け』。」
ゴウッ!
「うおっ!?じゅ、順番待ちだと?」
先程の衝撃から立ち直れず、進退極まったまま固まっていた前衛諸共、雑魚の如く端に
追いやられる現・魔法世界最高戦力達。
だが、ネギだけが吹き飛ばされず、愁磨の前に立たされていた。
「まったく浮気者が。オッサンと戯れてないで「ちぇりゃあああああああああああああ!!」」
ガキィィン!!
危機を察知して飛び出した明日菜が相も変わらずの大上段飛び斬りで斬りかかるが、完全に
防がれ、高音を立てて弾かれる。
「あぐぐぐ、手が痺れるぅ!ネギ、大丈夫!?」
「あ、明日菜さん!無茶したら……!」
たたらを踏んで後退し、助けに入られたネギが直ぐにフォローに入る。
その空白時間で前衛組が愁磨を囲み、中・後衛を少し遅れ参陣した。
―――とは言え、急いだ所で、愁磨は動くつもりはなかったのだが。
「お前は相変わらず頑張り過ぎなんだよ……無駄に。」
「む、無駄って何よぉ!?」
「次はお前らの番だって言っただろうが。まぁ、もう無駄な事はしないと思うが……
十分だけ待つ。お前らが攻撃し終えたら、次は俺の番だぞ。」
「げっ!?」
いくら動けなくとも、反撃すると言われたら慌てずにいられないネギ達は作戦会議を開始。
世界を滅ぼそうとしているラスボスの目の前だと言うのに、信頼しきっているのを見て、
思わず愁磨は苦笑してしまう。
「さて皆の衆、ぶっちゃけ案ある人いる?」
「んー、力押しじゃダメだとしか分からないアル。」
「……恐らく、単純な……単一な?攻撃では徹らないのだろう。先生、先程の攻撃で変化は
無かったのか?」
「完全に無効化されたようですし、変化と言われても―――」
そう言いながら佇む愁磨を盗み見ると、障壁にノイズが走り、一瞬消えかけた。
初めての事に目を見開き、思わず固まって見入ってしまう。
「(障壁にノイズ?そんなの聞いた事無いし・・・そもそも障壁なのか?
明日菜さんの攻撃で無効化されない。なのにダメージは受けた・・・さっきの強力無比の単体
火力を無効化しておきながら?」
「おい、漏れてんぞ。……パッと思いつくのは、ダメージ累積系か、大ダメージ無効、
通常攻撃以外無効、って感じか?」
「愁磨先生の事です、もっと普通じゃない効果を付与しててもおかしくないです。」
話し合い、選択肢こそ出て来るものの、確定に至れる情報は無い。
仏ですら三度目で大激怒の所、全てを試させてくれるような相手でもない。動きを止めるしか
ないネギ達だが、僅かにだけ許された時間は無常に過ぎる。
「あーとはっぷーん。」
「クソッ!こうなったら先生、あんたが決めろ!今決めろ、直ぐ決めろ、ハリー!」
「そ、そんな急に言われても!?」
「突拍子もない事ばっか考えてても仕方ねぇんだ!愁磨先生の思考をトレース出来んのは、
あたしらん中で先生だけなんだよ!いや結果は突拍子もないだろうけど!」
時間と千雨に急かされ、現状の情報も絡め愁磨の思考を探る。
「(落ち着け!愁磨さんの事だ、遊んでいる以上言動にヒントがある筈。さっきから自分の事を
ラスボスって連呼してるのはどうしてだ?・・・自分の役割を知らしめる為?
それに対する僕達の役割は?・・・ラスボスに対峙してるんだから勇者?だとしたら相手は
魔王って所か。じゃあ魔王を倒す方法は?」
「せ、せんせー、また思考が漏れてますー。」
「でも魔王ってのはぴったりかも。魔王を倒すって言えば、四天王倒して力を削いで、
聖剣でぶった切るとか?」
「今更遅いですし聖剣もありませんし、それはトドメかと。ゲームを基準に考えて良いのか
分かりませんけど、第一形態相手に使うって、精々"技"くらいで、必殺撃って終わるような
ヌルゲー……は………。」
そこで、自分の発言にハタと気付くネギ。
必殺を撃って終わるようなヌルゲー?自分が一瞬考えただけで思いつく事を、愁磨が発想しない
訳が無い。ならば、そう。
彼がそれを無効化する術式、或は障壁を用意しているのは当たり前ではないか。
自分達がまんまとその思考を読めず、それに当たったのはもう仕方がない事だ。
問題は他の可能性の中のどれを、愁磨がクリア条件に設定したか。とは言え第一形態。
そんなに難しい発想まではしないだろう。ならば、防御された逆を行けばいいだけ。
「さっきの攻撃、"魔王に対する勇者側の攻撃"としたら、どう解釈すればいいですか?」
「………うん?そーだねぇ、普通に合体攻撃……かな?」
「ではその反対は?」
「そ、その反対?一発じゃないんだから、連続攻撃?」
「連続攻撃ってのも何か違う気が―――いや、そうか、そういう事か先生!全部を"勇者"
任せにすんのが不満だったのか!」
「はい。となれば、答えは一つです。」
Side out
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
subSide 愁磨
「あと三分……。」
何かを思いついたらしいネギ達に伝えるでもなく、自分の確認だけの為に呟く。
正直、あいつらと"大魔導士"が残念過ぎて機嫌が悪い。
態々全員を集結させたと言うのに、実力者共だけで突っ込んできた挙句、人の話を聞かんで
倒しにかかって来やがった。
その中にネギが入ってたのは嬉しくもあり何してやがんだって感じ。原作より実力があるから
こそついて来れたんだろうが、自分の嫁を放っぽってオッサン達と戯れてやがんのは原作以下
って言うか主人公として最低だ。俺主観で。
それに、こんなトコで躓かれては計画に支障が出る。
「よーっしゃ、行くよ!」
まず動いたのはハルナ。本を開くが、発現したのは―――強化魔法。元の『落書帝国』とは
違うようだ。だが、それはカウントされるので正解だ。
続くのどか・アーニャ・朝倉がそれぞれ水・火・風の『魔法の射手』で全方位から攻撃を加え、
障壁が歪んだ場所を楓が大手裏剣で斬り、古が如意棒で殴り、小太郎が狗で爆砕する。
「こ、こうなったら行きますわよ!『隆起霧鉄』!!」
ザザザザザザザザザザザザザ!
「伝説に挑むのです!『風花旋風風牢壁』!!」
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
続き、戦乙女隊の二人――エミリィとベアトリクスが砂鉄と思しきもの降らせ、巻き上げる。
「"フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ!『楼止閣往』"!!」
ガキィン!
それを夕映が固定する。・・・なんだ、何が目的だ?いや、意外は意外だ。
俺をここから動かせって言ってるのに、動かないように囲って固定したんだから。
「よおおっしゃあ!"アネット・ティ・ネット・ガーネット!ものみな 焼き尽くす 浄化の炎!
破壊の王に して 再生の 微よ!我が手に宿りて 敵を喰らえ!『紅き焔』"!!」
ゴゥウォオオ!!
そこに犬っ娘:コレットが爆炎を放つ――って、成程、粉塵爆発k
ズドォオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッォオ!!!!!
「うおぉ、強烈!」
込められた魔力からして、全力。ただの学生だと思っていたが、成程。
中級魔法が工夫で戦略魔法級の威力を叩き出す。これこそが俺が望んだ形の合体攻撃だ。
それとは別に、繋がっている。後は―――
「お前らだけだ。」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
Side ネギ
『燃える天空』を超える威力の爆発の中を、上空から突き進む。
『風花旋風風牢壁』を上手くコントロールしてくれているお陰で、今なら全部ぶつけられる!
「"ラス・テル・マ・スキル・マギステル!契約に従い我に従え 高殿の王 来たれ巨神を
滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆!百重千重と重なりて 走れよ稲妻!!"」
普段は早さを優先して詠唱破棄か高速詠唱する所を、威力を優先して、詠唱する。
凄く変な気分だ。威力が高まるのが分かるのに、消費される魔力は寧ろいつもより少ない。
威力を上げても意味が無いのは分かってる。けれど、本気でぶつからずにいられない!!
「『千の雷』ッッッ!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
雷が降り注ぎ、跳ね返ったものや外れたものは渦巻く風に乗って、縦横無尽に襲う。
でも、まだ障壁は割れない。だから、あの技で!
「ベアトリクスさん、収束!」
「えっ!?は、はい!」
キュゴッ!
いつか愁磨さんが使い、僕が時間をかけて真似した『雷迎』。それが一瞬で出来る!
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッッッ!!
「おわっ!?」
バリィィィィ――――ン!
「割れた……!!」
雷が弾ける音の中でも響く甲高い音。それと同時に、割れるのが分かっていた様に飛び出して
いたオオトリの明日菜さんが、守りの無くなった愁磨さんへ斬りかかる。
「ハァッッ!!」
教えを守ったコンパクトで鋭い一撃は、その師匠の体に袈裟懸けに見事に吸い込まれ―――
「………え?」
―――ブシャァアアアアアアッ!!
そう、躱すでもなく、防ぐでもなく、受け止めるでもなく。
明日菜さんの剣を受け、血だまりに沈んだ愁磨さんを、僕達は呆然と見るしかなかった。
Side out
後書き
お久しぶりです、最近めっきり寒くなりましたね。ちょー寒い。
前回更新が真夏の頃と言う不良更新っぷり。誠に申し訳ない(今更
次回、出来れば次々回はモンハンWの前に更新しておきたい所ですね。
では、鍋でもつつきつつ、歩くような速さで。アリヴェデ。
ページ上へ戻る