| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第114話 魔人が本気になるようです


Side ―――

「ま、待て!話せばわk「"魔蟲王召喚『ベルゼブブ』"!!!」」
ゾワッ――――――――!!!

魔法が発動した瞬間、愁磨達の足元が黒く染まった様に見える程の数の蟲が湧き出した。

術者が選択した"対象の足元"から、地獄に生息する魔蟲を一定時間召喚し続ける、嫌悪感を

与えるだけの攻撃力皆無の拷問魔法。

ツェラメルが噂を聞きつけ、対愁磨用に創造・設定して放置していた魔法だけに―――


「「にょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!???」」


当の本人達には、効果絶大。

ノワールとアリアは一瞬早く回避行動に移り、愁磨と、まさかのヴァナミスも叫びながら

逃げ惑う。

発動するまでは唯一目視のみが関知方法であり、一度魔法陣が完成してしまえば、術者や

魔法陣を壊しても停止しない。その上、ネギに近づけば召喚される蟲が増える。

故に、冷静でない愁磨達は、これでもかと逃げ回るしかない。


「参ったね、こんな魔法まで習得してるなんて。お陰でヴァナミスまで使い物にならない。」

「ああ、正直良い誤算だよフェイト。皆さん、僕はこいつを押さえます!」
バチッ!

愁磨との約束を反故にし、当然の様に構えた二人。

既に『術式兵装』し終えたネギがフェイトと、武装した戦闘組がデュナミスと対峙する。

救助に長けた夕映達がラカン達を助け出すまでの約二分。


「倒せってんならキビシ-けど、足止めだけなら楽勝よ!」
ドンッ!
「軽く見られたものだ……が、お姫様が相手では、成程厳しい。」

「ほ、褒めたって手加減しないわよ!!」

「全く面倒な齟齬だ。ここまで来て封印する利点があるとは思えんのだが……。」


余裕そうに明日菜・楓・古の相手をするデュナミスだが、極めた影魔法の大部分を封じられ、

本来ならば圧殺出来る筈の相手に、逆に封殺されていた。

格上を相手に、相性だけを鑑みて采配された、僅か数分の遅延。

しかし分の悪い賭けはヴァナミスの戦力外化により、一気に形勢は逆転。


「人質回収したです!」

「よし……!明日菜さん!」

「分かってるわ、よぉ!!!『無極而大天斬』!!」
ボボボボッ!

全員が撤退したのを見計らい、無効化の斬撃で何もない空間を斬る。

警戒せざるを得ないフェイト達の動きが止まり二人も離脱するが、それも一瞬。

ネギ達に魔法を放とうとするが―――


「なん、だ?魔力が繋がらないだと?」

「……迂闊だった。まさかここまで干渉出来るとは。記憶が戻らなくても力は徐々に戻って

いるのかもしれないね。」


魔法は発動せず。悠々と逃げて行くネギ達を・・・明日菜を恐々と見送った。

ツェラメルが設定した"精霊"は、謂わばアプリケーション(魔法)を使う為にPC(世界)に設定された

プログラム。そこに割り込むとなれば、創造主か、同等の権限を持った愁磨だけだった。

その神の領域に敵が侵入して来たと言うのに、正気の二人が真っ先に行うのは。


「取り敢えず、SEになってる人達を助けようか。」

「BGMですらない者がメイン戦力とは困ったものだな…。」


未だ蟲に追われ、叫んでいるだけの"神"率いる仲間を助けに向かう。

明日菜の技の効力が切れるのを待ち、ネギが描いた魔法陣から核となる術式を抜き取り、

代わりに送還の術式を挿入する。

召喚され続けていた蟲は収束し消え、ずっと防御していたフェイトもそっと息をついた。

それを合図に、霞む程の速度で逃げ回っていた四人は、力なく地に伏し動かなくなった。


「……大丈夫かい?」


呆れたように気遣われた上位者三人は伏した間も無く、ユラリと立ち上がる。


「……………………………ろす。」

「……………………………ふふ。」

「・・・・・・・・・ぎ・・・。」


愁磨達がボソリと呟いた時、一時を凌いだネギ達は、負傷した"紅き翼"の四人に"桜神楽"を

突き刺して回復させながら、楓達の元へ走る。


「いや、効くけどよぉ……これ、見た目凶悪すぎねぇか?」

「効力は本物ですから!それにしても、戦闘音が聞こえません。まさか……!」


一線級の戦闘力を持つ楓・古がまさか早々に負ける事など有り得ないと思いながらも、

焦り、走りついた先には―――


「おお、ネギ坊主。早かったでござるな。」

「えー……、そちらも早かったみたいです、ね?」


焦げて(・・・)簀巻きにされた敵方三人と、無傷の味方三人。

大方もみじが・・・と惨劇を容易に想像出来た救出陣は説明を求めず、目を背ける。

楓は頷き、隠れ蓑に三人を無造作に放り込んだ。


「それよりも!下に愁磨さん達が居て、用意していた魔法を使ってしまいました。」

「アイヤー、それ絶対怒ったアルよ!?全員集合しないといけないのに困った!」

「つか待てよ先生、急がなきゃいけないのは分かるけど、目標は変えねぇのか?」

「それは…………。」


フェイトの証言を思い出し、一瞬思案する。

愁磨を倒す策を立てて来たネギではあるが、全て成功しても万が一の勝率よりも、

時間稼ぎをすれば全員をほぼ安全に帰還させた上で計画を破綻させられる方を取りたい。

そうすれば彼等と話し合い、問題を解決する方法を模索する事も出来る筈。


「あまり変えすぎるのも……いえ、臨機応変に行きましょう!

もみじさん達をたお…拘束したように、あと一組各個撃破出来れば、戦力を増やして再度

上下層へ別れられます。合流される前にジオンさん達の所へ行きます!」

「うん、出来なくもない気がして来たな。」

「おお!千雨ちゃんから太鼓判が!皆行くわよーーー!!」

『『『おおーーーーーーー!!』』』


ご意見番から是が出され、ネギ達の士気が上がる一方、だが・・・と数人が疑問に思う。

現状における、和解の次点と思える解決方法が敵から舞い込んだのだ。


「ネギ・スプリングフィールドぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ビリビリビリビリ!!
「ひっ……!?」


しかしそれも、聞き慣れてはいるが、自分達の経験からは想像出来ない怒りの叫びにより、

事態を動かさざるを得なくなる。つまり、結果的に、結果に繋がる可能性があるなら、と

思考外に追いやられてしまう。


「え、い、今のってアリア、ちゃん……?」
ドォオオオオオオン!! ズドォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「ネギ!お前愁磨だけじゃなくアリアちゃんにまで!?」

「ワシらでもキレた所など見た事ないんじゃが!ええい、四の五の言っておられん!」


近づいて来る爆発音に急かされ、ゼクトが通路を土魔法で埋め立てる。

脱兎の如く逃げ出しながら壁を量産し、僅かに聞こえて来る破壊音に怯えながら、

ジオン達が閉じた壁に、僅かに先行していた明日菜が"桜神楽"を振り下ろす。


「そいっ!」

「「「ちょ、まっ……!!」」」


一応配慮したのだろう、人が通れる一部だけを消すという芸当を見せた明日菜だが、

慌てて反応したネギ達の防壁が三枚、開いた部分へ張られた瞬間。

ボゴォッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
「あぶなっ!?」

「向うでぶちかましてる時に狭い出口つくりゃそこから吹き出すのは当たり前だろ!?」

「ご、ごめんて!」

「内輪揉めは後だ!向うは戦闘中なんだ、注意しろ!」


窘められたネギは改めて『雷天双壮』を発動し、一番耐久力のあるラカンと共に先陣を切る。

広間は元の壁や床には傷一つ無いにも関わらず、魔法で作り出された最高硬度の鉄柱や氷塊は

もとより、炎や闇もが抉れている、不自然な戦場となっていた。


「チッ、私達相手にここまでやれるとは!初代も誇らしいだろうよ、"大魔導士"!!」

「ああもう、あんたよりアーカードと戦わなきゃいけないんだから、いい加減倒れなさいよ!」

「おや……これは意外と押しているのではありませんか?」


魔法を避け後退するエヴァは、傷こそないが息が僅かに上がっており、後ろに見える真名と

しずなも若干ではあるがダメージを追っている様子だった。

対し、刹那やジオン達は回復魔法を使えるエイルのお陰か無傷。

刀子は相変わらず姿が見えないが、この様子であれば無傷ではない事が想像出来た。


「チャンスです、行きましょう!」

「真名、拙いわ。勢揃いみたいよ。」

「参ったね、このままじゃノワールさんに叱られると思ったけれど、これは無理だ……。」


ネギが余計な声を上げ、それに反応した真名としずなだったが、劣勢の戦闘中でそちらにまで

反応する事は出来ない。

雷速で駆け抜け、憎々しげに自分を睨んだエヴァと対峙し、一合した所で・・・気付いた。

突っ込んだのが自分だけと言う事に。


「え、ちょ、皆さん!?」

「いやぁ、大人数で劣勢の女の子達をボコりに行くってどうよ。正義の味方として?」

「わりぃ先生、戦力にならねぇ私が言うのも何だが、オッサンの意見に賛成だから、残りのも

見学って事で。」

「えぇえええぇええぇぇえ!?ここに来て見栄を気にするんですか!?」


まさかの『ダセェ事したいならお一人でどうぞ』宣言で、ネギはここ一番で大混乱に陥る。

戦闘組に目を向ければ目を逸らされ、後衛組に目を向ければ謝罪と応援が飛び、ゼルクに

至っては自分を指差し笑いこけている。

麻帆良組は千雨の指示に(なぜか従順に)従っただけで、ネギも頭から抜けているが・・・いや、

脳内を占めすぎて分からなくなっているが、迫る愁磨達は三人ではなくフェイトらを含めた

六人+αであり、敵の首魁である『造物主』の姿が未だ見えない。

早く決着させるに越した事はないが、神出鬼没・予測不能・行方不明の自分達より実力が上の

怪物らを一瞬でも無警戒にする訳にはいかなかった。それに―――


「(ボコってるのがネギだけなら、間違いなくアリアちゃんはそっち行くしな。)」

「(我々の希望を囮にするとは本末転倒と言うか何というか……。)」


自分達が唯一、絶対に相手にし難いアリアをネギに押し付ける役割もあった。


「ああもう!それならそれで、僕が頑張ればいいだけです!」

「ガキが、調子に乗るなよ……!!」

「あらまぁエヴァったら、口が悪くなってるわよ。」


自分達を軽く見る発言をされてキレたエヴァであったが、それは生意気なネギにではなく、

"見敵必殺"―――敵を絶対倒すと言う重大な役を任されておきながら、倒すどころか敵に

良い様にされ、挙句、ネギにまで苦戦している自分が許せなかった。


「(歯痒い…!これが兄様達が抗う修正力だか主人公力か。しかし、だからと言って……!!)

一番長く一緒にいた私が負けていては、示しがつかないだろうがッ!!!」
ギュボッ!!

気合を籠めた魔法が、対峙していた四人を待機していた面子の方へと吹き飛ばす。

攻め急ぐネギ達は予想以上の抵抗に焦り、温存していた魔力で加速用の『雷の暴風』と、

強撃用の『終焉の咆哮』を装填し、突貫する。


「"超越雷化!『真・千磐破雷(チハヤブルイカズチ)』"!!」
ズンッ!
「ぐ……!!」

「"右腕解放 『崩龍正拳』ッッ!!"」
ガォウッ!

雷速に竜巻の射出が加わった超高速の体当たりを辛くも防御するが、続く炎と雷の拳は弱った

障壁を易々と破壊し、エヴァを高々と打ち上げる。

追撃を阻止しようとした真名達はそれぞれ、"大魔導士"に抑えられてしまう。

拘束用の『雷の投擲』をネギが装填したと同時に、入口の石壁が破壊された。


ドドォォォオン!
「・・・追い付いた。」

「まったく、アリアが八つ当たりしながらじゃなかったら、もう少し―――」


そして、追い付いた愁磨達の姿が見えたと同時に、ネギが跳び上がる。

愁磨が一瞬遅く事態を把握した時には、既に、エヴァの至近で拳を振り下ろそうとしていた。

ラカン達はその隙に詰め寄り、待機していた自分達の役割を果たすべく動き―――


「"双腕解放 『双槍双打掌』!!"」
ガシュンッ!


両手での発頚に付与させ、内部から拘束される二重の槍。

"雷速"で既に動いていた事により隙も無く、完全に決まった筈の一撃。

その一撃は、エヴァとの間に差し入れられたか細い掌に防がれていた。


「な………っ!?」

「調子に―――」


自分を見下ろす、怒りに燃えた瞳を見た瞬間。


「術式解「乗り過ぎだ!!」
ガッ!


確定的な"死"を理解したネギは、頼みの綱である『術式兵装』を逃げる為だけに解放しようと

するが、愁磨のただのストレートで吹き飛ぶ。

勢いを殺せず、五度、六度とバウンドして、壁に激突して漸く止まった。

鈍痛で朦朧とするネギと、目を離さなかったにも拘わらず、動きを追えなかった"紅き翼"は

愕然とする。


「(は、速すぎる!?雷速に割り込むなんて、そんな……!)」

「…拙いですね、≪禁忌ヲ犯シタ救世主≫状態でもないのに、この速度。」

「だーっから手ぇ出す前に片付けなきゃならなかったのによぉ。」


遂に最強の敵が本気になってしまったのを理解したネギ達は、エヴァを抱きかかえてゆっくり

降下してくる間に、自身の持てる全力を瞬時に出す為に気を練る。


「に、兄様……わ、私はまだやれるぞ!傷ももう無い!服は、直せないが……でも!」

「……いいやエヴァ、お前は俺の頼みを全うした。すまない、俺が不甲斐無いばっかりに。

これ以上お前が傷つくのは俺が辛い、後ろで見守っていてくれ。」

「…………悔しいけど、邪魔にはなりたくない。頑張って、兄様。」

「ああ、任せろ。」


ポンと頭を撫で障壁を張ると、今度は"大魔導士"の方へ移動する。


「ハッ、漸く来やがったなアー「『飛べ』『飛べ』『飛べ』!」ごあッ!?」

「ちょっ!」

「キャアっ!」


意気揚々と愁磨の相手をしようとした"大魔導士"を神言を持って一瞬で吹き飛ばし、戦って

いた三人を救出する。


「真名、しずな……エヴァ程回復力ないんだから無理するなって言ったのに。

ありがとう、苦労をかけた。」

「んっ、少しくらい無茶しないと、褒めて貰えないだろう?」

「ま、まぁ、その甲斐はありましたけれど……私は慣れませんね、これ……。」


ドヤ顔の真名と照れているしずなにも障壁を張り、刀子にも後ろに下がっているようにも

言おうと探すが、既に"影"に隠れてしまい、出て来る気配が無い。

自分が危険にならなければ出て来る事も無いか、と納得し―――準備万端の敵へ向かう。


「さて諸君。俺の嫁を散々嬲ってくれた礼だ。やってみようか?まぁ―――本気でな!!」


不本意な理由ではあるが・・・遂に、少年と魔人が、激突する。

Side out
 
 

 
後書き
何の因果か七夕更新。雨降ってるしお祭りも来月だし関係ありませんけどね。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧