ハイスクールD×D ~赤と紅と緋~
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第2章
戦闘校舎のフェニックス
第18話 修業、はじめました!
「はぁ・・・・・・ぜぇ・・・・・・はぁ・・・・・・」
「ほら、イッセー。早くしなさい」
「は、はーい・・・・・・」
部長とライザーとのレーティングゲームが決まった翌日、俺たちは現在、山道を歩いていた。
なぜこんなことをしているのかというと、昨日、ライザーが立ち去ったあとにまで遡る。
『期日は十日後と致します』
『十日後?』
『ライザーさまとリアスさまの経験、戦力を鑑みて、その程度のハンデがあって然るべきかと』
『悔しいけど、認めざるを得ないわね。そのための修業期間として、ありがたく受け取らせていただくわ』
部長とグレイフィアさんとの間にそのようなやり取りがあり、十日後のライザーとの一戦までこの山で修業することになり、修業する場所である山奥にあるという部長の別荘に向かっている。
眷属じゃない俺たちも、修業の手伝いができればと、自主的にやって来ていた。
「大丈夫か?」
俺は隣で虫の息になりかけているイッセーに話しかける。
「・・・・・・・・・・・・正直、キツい・・・・・・」
まぁ、当然だろうな。
ただでさえ、なれない山道だってのに、自分の荷物しか持っていない俺と違い、イッセーは自分の分に加え、女性陣の荷物も持っているわけだからな。
これも一応、修業らしい。
「お先に」
イッセーの横を木場が素通りしていく。
木場もイッセーと同じくらいの荷物を背負っていたが、その表情は涼しいものだった。
「クッソォォォ・・・・・・木場の奴、余裕見せやがって!」
「・・・・・・失礼」
木場の余裕な振る舞いに憤慨していたイッセーだったが、その横をイッセーの十倍以上の荷物を背負っている塔城が素通りしたことで、その光景に驚いて後ろに倒れた。
―○●○―
山道を登ること数十分。俺たちは目的の別荘に到着した。
なんでも、この別荘は普段は魔力で風景に溶け込んでいて、人前に姿を見せない仕組みらしい。
「さあ、中に入ってすぐ修行を始めるわよ」
「すぐ修業!? やっぱり部長は鬼です!」
「悪魔よ」
別荘の中に入ってリビングに荷物を置き、動きやすいジャージに着替えるために、女性陣は二階に上がり、男の俺たちは一階の適当な部屋で着替える。
着替えている途中で、イッセーがふと木場に訊く。
「なあ、木場。おまえさ、前に教会で戦ったとき、堕天使や神父を憎んでるみたいなことを言ってたけど、あれって?」
アーシアを助けるために教会に攻めこむときに、「個人的に堕天使や神父は好きじゃないからね。憎いと言ってもいい」と木場は言っていたな。
「イッセーくんもアーシアさんも部長に救われた。僕たちだって似たようなものなのさ。だから僕たちは部長のために勝たなければならない。ね?」
「ああ、もちろんだぜ!」
質問のほうははぐらかされていたが、木場の言葉に気合を入れるイッセーだった。
―○●○―
そして始まった修業。部長は特に俺を中心に鍛えあげようとしてくれていた。
そのため、他の眷属とワンツーマンで修業させられた。
木場からは木刀を使って視野に関する指導を受けた。──結局、一太刀も浴びせられなかった。
小猫ちゃんからは打撃に関する指導を受けた。──その小さな手で何度も吹っ飛ばされてしまった。
朱乃さんからは魔力に関する指導をアーシアと一緒に受けた。魔力の塊作りでは、アーシアがソフトボール大の塊ができたのに対し──俺は米粒くらいのしか作れなかった。
部長からは体作りと称して、でっかい岩を背負わされた状態でダッシュや腕立てをやらされた。やっぱり、部長は鬼だ!
そして──。
「なあ。明日夏は何を教えてくれるんだ?」
一抹の不安を感じながら、木刀を片手に俺の前方に立つ明日夏に尋ねる。
「俺との修業は回避訓練だな」
「回避?」
「ああ。おまえの『赤龍帝の籠手』はパワーアップに時間を要する。しかも、その間に大きなダメージを受けるなりすると、強化も解除される。それを避けるための修業だ」
なるほどな。それ抜きにしても、ダメージはなるべくないに越したことはないしな。
「で、具体的に何するんだ?」
俺がそう訊くと、明日夏は木刀を構えだした。
「俺の攻撃を避けろ。それだけだ」
「えっ?」
有無を言わさず、明日夏が木刀を振るってきた!
慌てて尻もちつくようにして避ける。
「えっ、ちょっ、待っ!? な、なんか、避け方のコツとかは!?」
「ん、そうだな。相手の動きを予測することだな」
「ど、どうやって!?」
「木場に言われたように、視野を広げて相手をよく見ろ。視線の動き、行動に移る際の仕草などからある程度は予測できるはずだ」
そう言いつつ、明日夏は木刀を上段に構える!
「あぶねっ!」
その場で横に転がって上段から振り下ろされた木刀の一撃をかわす。
「そうだ。そんな感じで俺の動きをよく見ながら避けろ。てなわけで、本格的に始めるぞ」
さっきまでよりも視線を鋭くして木刀を構える明日夏。
「ちょっ、ちょっと待っ──」
有無を言わせず、明日夏の手に握られた木刀が振るわれた!
「うわあああああっ!?」
木刀を打ち付けられた痛みによる悲鳴が山に響いた。
―○●○―
「相手から視線をそらすな! ましてや、相手に背中を見せるな!」
背中に強烈な痛みが走る。
「避けたからって気を緩めるな! というか、戦闘中に気を緩めるな!」
避けたと思ったら、すぐさま別の一撃が振るわれる。
「フェイントにも細心の注意を払え! 誘導するためにわざと避けさせるための攻撃にも警戒しろ!」
見事フェイントに引っかかった俺は強烈な突きで吹き飛ばされてしまった。
「・・・・・・木場にも小猫ちゃんにも全然敵わねぇ。魔力もアーシア以下。明日夏の攻撃も全然避けれねぇ。俺いいとこなしじゃん・・・・・・」
「まぁ、木場や塔城は鍛えているし、それなりに実戦を経験してるんだから、敵わなくても仕方ねえよ。魔力も一応、伸ばそうと思えば伸ばせるから、あんまり気に病むな」
地面に大の字になりながらぼやく俺に歩み寄ってきた明日夏がフォローしてくれる。
「回避訓練も別にすぐ避けれるようになれなんて思ってねぇよ。重要なのは相手をよく見て、先を読める目を養うことだからな。それさえできれば、訓練前よりは回避率がぐんと上昇するはずだ。実際、訓練開始直後の段階で俺は本気の三割でしか打ち込んでいないのに対し、さっきまでは四割ぐらい本気出してたからな」
うーん、素直に喜んでいいのか微妙だな。
「それに、人にはそれぞれ特性があるしな」
特性? 特性ねぇ。
「なあ、俺の特性ってなんだと思う?」
「スケベ」
間を開けずにズバッと告げられた!
身も蓋もないな、おい・・・・・・。
「あと──」
「ん?」
「がんばり屋で諦めが悪い──要は根性がある」
そうなのか?
まぁでも、長い付き合いのこいつにそう言われちゃ、がんばらないわけにもいかねぇか!
「よっしゃ! やってやるぜ!」
「いや、少し休め」
「だはぁ!?」
せっかく出したやる気を削ぐように言われて、思わずずっこけてしまった。
「休むことも修業のうちだ」
そう言って、スポーツドリンクを手渡してくれる。
まぁ、実際へとへとだし、言われた通り、休ませてもらいますか。
その場に座り、受け取ったスポーツドリンクをあおる。
「そうだ、明日夏」
「ん。なんだ?」
「なんで明日夏は賞金稼ぎになろうとしてるんだ?」
「なんだよ、やぶからぼうに?」
「いや、ふと気になってさ。あ、いや、言いたくないなら、別に──」
「いや、とくに隠すことでもないから、別にいいけどな。ただ、おもしろくもないと思うけどな」
そう言って、明日夏は自分が賞金稼ぎになろうとした経緯を話し始めた。
―○●○―
俺が賞金稼ぎのことを知ったのは父さんと母さんの死から二年経つか経たない頃だったかな。
当時、兄貴から生活費については、親戚に工面してもらっていると俺たちには伝えられていた。
だが、一年後には俺はそれが嘘だと察した。
その話を聞いた日から兄貴は学校以外のことでよく家を空けることが多くなったからだ。それだけで、兄貴が幼い身ながら出稼ぎに出ているのだと思った。しかも、たまに傷だらけで帰ってくることもあったので、相当に危険なことをしているのだと思った。
だが、普通に問いただしても兄貴は口を割らないだろうと思った俺はどうやって聞き出そうかと思案しながらさらに一年近く経ったある日、あの事件が起こった。
俺の神器に宿るドレイクが俺の肉体を奪おうとしたのだ。
そんな俺を救ったのが当時の兄貴だった。
兄貴は何やら特別な力でドレイクを押さえ込んだのだ。
そして、目の前で起こった超常な出来事に混乱した俺たちは兄貴を問いただした。
兄貴は俺たちを落ち着けるためにやむなしといった感じで話してくれた。異能、異形の存在について、そして、賞金稼ぎのことを、兄貴がその賞金稼ぎになっていたことを。
そして、そのあとすぐに姉貴は見習いを経て正式な賞金稼ぎとなった。
それを知った俺と千秋も賞金稼ぎになろうと兄貴に進言したが、姉貴のときと違って兄貴には猛反対された。とても危険だからと。
それでも食い下がった俺たちに兄貴は観念して、俺と千秋は見習いとなり、正式なハンターになるのは大学卒業後ということになった。
兄貴が大学卒業後という条件にしたのは、その間に俺たちが別の道を目指すことを期待してのことだろう。
だが、千秋はわからないが、少なくとも俺はハンターになることをやめる気はない。
理由はある──が、ぶっちゃけると、そんな大それたものじゃないし、個人的なすごく矮小なものだ。
それは、俺が勝手に抱いた兄貴に対する罪悪感だ。
兄貴は俺たちのために、普通の一般人が歩むような『普通な日常』というものを捨て、命の危険がある非日常的な人生を歩むようになった。しかも、兄貴はかなりの実力と周りからの信頼を多く持つハンターになってしまった。そのせいで、兄貴に寄せられる依頼の量が多くなり、兄貴は律儀にもその依頼をすべてこなすため、家を空けることが余計に多くなった。いまじゃ、ほとんど家にいることはない。
俺にはそんな兄貴を尻目に普通な人生を歩もうとは思えなかった。そんな兄貴に対して罪悪感を覚えてしまったからだ。
兄貴は気にするなと言うだろうが、それでも、俺が気にした。だから、俺はハンターを目指した。
・・・・・・それがどんなに矮小で自分勝手な理由でも。
―○●○―
「とまぁ、こんな感じだ」
イッセーに俺が賞金稼ぎなろうと思った理由を話した。
まぁ、ドレイクの部分はぼかしたけどな。
「おまえってさぁ、必要以上に罪悪感を抱え込まないか?」
「そうか?」
いや、もしかしたらそうかもな。
相手が気にしてなくても、勝手に抱くくらいだからな。
「ま、この話はもういいだろ? そろそろ再開するぞ」
「お、おう・・・・・・!」
若干腰が引けているイッセーに、俺はわりと容赦なく木刀を振るった。
―○●○―
今度はさっそく習った魔力を使っての料理を俺とアーシアは部長に言い渡された。
「もちろん、できる範囲で構わないわ。じゃ、頑張ってね」
そう言うと、部長はキッチンから出ていった。
「お湯さん、沸いてください」
アーシアは鍋の水に手をかざして魔力を放出すると、お湯は見事に沸騰した。
やっぱりアーシアは魔力の才能があるなぁ。
いっぽうの俺は朱乃さんの授業じゃ、結局米粒程度の魔力を出すのが精々であった。
それにしても、朱乃さんのおっぱいはなかなかのものだったなぁ。
授業中、体操着を押し上げるあの豊満な胸についつい目がいってしまった。
なんて、朱乃さんのおっぱいを思い出してエロ思考になりながらタマネギを手に取った瞬間、タマネギの皮だけが見事に弾けた。
今度はジャガイモを手に取り、もう一度朱乃さんのおっぱいを思い浮かべると、これまた見事にジャガイモの皮が勝手にシュルリと剥けてしまった。
へぇ、ジャガイモも楽勝じゃん。
俺はふと、朱乃さんと明日夏の言葉を思い出す。
──魔力の源流はイメージ。とにかく頭に浮かんだものを具現化することが大事なのです。
──スケベ。
そうか! これはもしかして、俺は無敵になれるかも!
そう確信した俺は、次々と野菜の皮を同じように剥いていく。
そうだ、俺の考えが実現できれば、俺は無敵になれるかもしれない!
「イッセーさん・・・・・・」
「えっ?」
「・・・・・・これ、どうするんでしょう・・・・・・」
「あ」
調子に乗って皮を剥きすぎたせいでキッチン内に皮が散乱していた。
ヤバッ、どうしよう、これ?
「・・・・・・なんかすごいことになってるな?」
「わ~、すご~い」
そこに明日夏と鶇さんが現れた。
「二人ともどうしてここに?」
「今晩の夕飯の準備だ。二人が魔力でできることがなくなったのなら、あとは俺たちが仕上げようってな。にしても、ここまで見事に皮を剥いてくれるとはな。しかも、皮には身がいっさいついてねぇな」
「イッセーさんがやったんですよ! すごいですよ!」
「わ~、イッセーくんすご~い!」
アーシアと鶇さんが絶賛する中、明日夏はなぜか微妙な顔をしていた。
「・・・・・・・・・・・・俺の考えが外れることを祈るよ」
むむ、どうやら明日夏は俺の考えに気づいてしまったようだな。これも付き合いの長さによる賜物かな。
―○●○―
イッセーが大量の野菜の皮を剥いてしまったために、今晩のメニューには野菜を使った料理をこれでもかと大量に作った。
特にジャガイモの量が多くて、ポテトサラダにマッシュポテトなどのジャガイモが主体の料理だけじゃ使い切れず、他のすべての料理になんとかジャガイモを使用した。
・・・・・・人生ではじめてだ、こんなにジャガイモだらけの食卓は。
「イッセー。今日一日修行してみてどうだったかしら?」
「・・・・・・はい、俺が一番弱かったです」
食事中にされた部長の問いに、イッセーは気落ちしながら答えた。
「そうね、それは確実ね。でも、アーシアの回復、あなたの『赤龍帝の籠手』だってもちろん貴重な戦力よ。相手もそれを理解しているはずだから、仲間の足を引っ張らないように、最低でも逃げるくらいの力はつけてほしいの」
「りょ、了解っス」
「は、はい」
ま、ちょうど、俺との修業がその逃げる、正確には回避のためのものだった。
イッセーもその回避訓練の成果か、その重大性を理解しているみたいだった。
そんな感じで、それぞれの修業の近況報告をしながらの食事が終わり、部長が席を立つ。
「さて、食事も済んだし、お風呂に入りましょうか」
「お風呂おおおぉぉぉぉッ!?」
部長の一言にイッセーは過剰に反応する。
「あらイッセー、私たちの入浴を覗きたいの? なら一緒に入る? 私は構わないわよ。朱乃はどう?」
「うふふふふ。殿方のお背中を流してみたいですわ」
「わ~い。イッセーくん、また一緒に入ろうよ~」
なぜか、一緒に入る方向に話が進み、イッセーが目に見えてテンションを上げていた。
「鶇もOKね。アーシアと千秋と燕も愛しのイッセーとなら大丈夫よね?」
部長の言葉にアーシアと千秋は顔を赤くしながらも頷いた。
おっ、千秋も結構大胆になってきたな。
燕は肯定も否定もせず、顔を真っ赤にして若干パニックになっていた。
「小猫は?」
「・・・・・・いやです」
「じゃあ、なしね。残念」
小猫の即答と部長の笑顔の一言にイッセーは崩れ落ちた。
「・・・・・・覗いたら恨みます」
そして、塔城はしっかりと釘を指すのだった。
―○●○―
別荘の風呂は露天風呂の温泉で、浸かっていると、疲れがいい感じ取れていった。
そんな中、イッセーは壁に手を当てて、壁を凝視していた。
そして、その壁は男風呂と女風呂を隔てている壁だった。
「イッセーくん。そんなことをしてなんの意味が?」
「黙ってろッ! これも修行のうちだ!」
木場の言葉にイッセーは怒気を含ませて答える。
「ねえ、明日夏くん」
「・・・・・・なんだ?」
「イッセーくんは透視能力でも身に付けたいのかな?」
「・・・・・・知らん」
俺は木場の問いに素っ気なく返し、温泉にゆっくりと浸かるのであった。
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