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ハイスクールD×D ~赤と紅と緋~

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第2章
戦闘校舎のフェニックス
  第17話 喧嘩、売ります!

 
前書き
オリジナルの小説を投稿してみました。よかったら、そちらも読んでみてください。 

 
 アーシアが蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)ことラッセーを使い魔にした翌日の夜、俺はベッドの上で座禅を組んでいた。
 というのも、先ほど風呂に入ろうとしたときだった──。

『あっ・・・・・・』
『なっ・・・・・・』

 確認を怠ったせいで、アーシアと鉢合わせしてしまった。おまけにお互いいろいろ見合ってしまった。
 しかも、俺が出ようとしたら、アーシアが「裸の付き合い」をやりたいなんて言ってきたもんだから、俺の理性はいろいろと大変だった。
 なんとか理性を保ちつつ、アーシアに裸の付き合いの意味を教えつつ、女の子なんだから、男が入ってきたらもっと防衛的な行動をするようにと警告しようとしたタイミングで母さんがやって来て誤解をされてしまい、俺は思わず逃げ出してきてしまった。
 ただ、そのときのアーシアの裸やら裸の付き合い宣言が頭を離れなかったので、こうして座禅を組んでアーシアに対する煩悩と雑念を払っていた。

「俺はエロくない。俺は変態じゃない。アーシアは守るべき存在。アーシアと暮らしてるけど、エッチなことは考えちゃいけない。南無阿弥──んぎゃあああああっ!?」

 そうだよ、悪魔がお経を唱えちゃダメだろ!
 危うく自分で自分を成仏させてしまうところだった。
 俺は頭痛で痛む頭を抱えながら、とあるところに電話をかける。

『なんだよ、イッセー? こんな時間に?』

 通話先は明日夏のケータイだった。

「なあ、明日夏。悪魔でもできる煩悩退散法知らねぇか?」
『は?』

 ケータイの向こうから、明日夏の素っ頓狂な声が聞こえてきた。
 俺は先ほどあったこと説明し、アーシアをエロい目で見ないようにしたい旨を伝える。

『・・・・・・・・・・・・』

 ブツッ。ツーツーツー。

「って、無言で切るなよ!?」

 こっちは真剣なんだよ!
 俺はもう一度明日夏にかけ直す。

『はっきり言うぞ。おまえには無理だ』

 バッサリ言われてしまった。

『だいたい、おまえから煩悩を取ったら、思考回路の大半が停止するだろうが』

 そこまで言うかよ! そして、否定できない俺!

『ま、そういうことだ。諦めろ』
「そういうわけにはいかないんだよ! アーシアは守るべき存在なんだから、そんなことしちゃいけないんだよ!」
『・・・・・・アーシア的にはそのほうがいいんだけどな・・・・・・』
「ん、なんか言ったか?」
『いや、なんでもねぇ』
「ともかく、こっちは真剣で──」

 カッ!

「えっ、魔法陣!?」

 突然、部屋の床に魔法陣が出現した!
 しかも、それに驚いて、ケータイを落としてベッドの下に行ってしまった。
 魔法陣のほう見ると、見覚えのある図柄。これは、俺らグレモリー眷属の文様だ。つまり、誰かが転移してくるってことだ。
 誰だ? てか、なんで俺の部屋に!?
 いっそう強い光が部屋を照らし出した次の瞬間、魔方陣から一人の女性が現れた。

「部長!?」

 現れた女性は部長だった。何やら思いつめたような表情をしていた。

「ど、どうしたんですか?」

 部長は俺を認識するなり、ズンズンと歩いてきて、俺の目の前に来る。

「イッセー。私を抱きなさい」


―○●○―


 一体何事なんだ?
 いきなりのイッセーからの相談の内容に呆れていたら、いきなり誰かがイッセーの部屋に転移してきたみたいで、それはどうも部長みたいだ。
 そこまではよかったが、そのあとの部長の言葉に思わずフリーズしてしまった。

『イッセー。私を抱きなさい!』

 本当に一体何事なんだ。
 どうも、イッセーはケータイを落としたみたいで、それも部長の目が届かない場所に落ちたみたいで、いまだに通話状態になっているのに部長は気づいていない。
 イッセーもイッセーで、パニックになって忘れているようだ。

『私の処女をもらってちょうだい! 至急頼むわ!』

 ケータイから聴こえてくる様子から察するに、頭の整理が追いつかないうちにどんどんことが進んでいるみたいだった。

『・・・・・・いろいろ考えたけど、これしか方法がないの』

 ん、方法?

『既成事実ができてしまえば文句ないはず』
「既成事実・・・・・・そうか、そういうことですか、部長。イッセーが相手なのもそういう理由か・・・・・・」

 ここ最近の部長の様子、先日の会長が部長に呟いた言葉、頭の中でパズルのピースがすべて埋まった。

 ゴトンッ。

「ん?」

 背後で物音がしたので振り向くと、床に飲みかけのスポーツドリンクが落ちていた。幸い、キャップは閉められていたので中身はこぼれてなかった。
 すると今度は玄関のほうから慌てたようにドアが開閉された音が聴こえてきた。

「千秋か。聞かれたようだな」

 まぁ、千秋の想いを考えれば当然の反応か。

「さて、これからどう転ぶのやら」


―○●○―


 こ、これは一体!?
 いきなり部長がやってきたと思ったら、「エッチしよう」と言い出したと思ったら服を脱ぎだし、何がなんだかわからないうちに俺はベッドに押し倒されていた。

「イッセー、あなたは初めて?」
「は、はい・・・・・・」
「お互い至らない点はあるでしょうけど、なんとかして事を成しましょう。大丈夫。私のここにあなたのを収めるだけよ」

 自分の下腹部に指を当てる部長。刺激的すぎて脳みそが弾けそうだよ!
 次に部長は俺の右手を取ると・・・・・・自分の胸に押しつけてたぁぁぁっ!
 指から伝わる夢にまで見たおっぱいの感触に脳がパンクしそうだよ!

「わかる? 私だって緊張しているのよ」

 確かに柔らかいおっぱいを通して右手にドクンドクンと高鳴りが伝わってきた。

「で、ですが、俺、ちょっと自信がないです・・・・・・」

 情けなくも、不安げで緊張に包まれた声をあげてしまった。

「私に恥をかかせるの!?」

 部長のその一言で理性が弾け飛んだ。
 俺は部長を押し倒そうと起き上がる!

 バンッ!

 その瞬間、部屋のドアが勢いよく開け放たれた!
 見ると、そこには切羽詰まったような顔をした千秋に鶫さん、燕ちゃんがいた!
 ていうか、見られた! ベッドの上にいる男とほぼ裸の女。どう見ても、これからやろうとしている男女にしか見えないし、実際にやろうとしていました!

「・・・・・・迂闊だったわね。部屋に人が入れないようにしておくのを忘れるなんて」

 さらにパニックになる俺に対し、部長は落ち着いていて、嘆息していた。

「・・・・・・部長、これはどういうつもりですか?」

 すごく怒気を孕んだ声音で部長に尋ねる千秋。

「ごめんなさい。あなたたちの想いを考えれば、この状況を認めたくないのも仕方のな──」
「・・・・・・私が怒ってるのはそこじゃないです!」
「え?」

 自分の言葉を遮って言われたことに、部長は怪訝そうにする。

「・・・・・・二人がちゃんとお互いのことを愛し合っているのなら、動揺はしてもここまで焦ったりしません。でも、いまのこれは、ただイッセー兄の性格に漬け込み、自分の都合から利用しようとしただけです。それはイッセー兄の心を弄ぶことと相違ありません。いまの部長はあの女と(おんな)じです!」
「ッ!?」

 千秋の言葉に部長は目を見開いてショックを受けたようだった。
 千秋がここまで怒りをあらわにする女──たぶん、レイナーレのことだろう。

「・・・・・・・・・・・・そう、ね。その通りね。本気でイッセーのことを想っているあなたからそう言われても仕方ないわね・・・・・・」

 部長は何やらぶつぶつと呟いていた。
 そこへ、再び部屋に魔法陣が出現した!
 誰だ? 朱乃さんか? それとも木場? もしくは小猫ちゃん?
 だが、魔法陣から現れたのはまったくの別人で、銀色の髪をしたメイド服っぽい出で立ちの若い女性だった。てか、メイドさん?
 メイドさんは俺と部長を確認するなり、静かに口を開いた。

「こんな下賎な輩と。旦那さまとサーゼクスさまが悲しまれますよ」

 メイドさんは呆れたように淡々と言った。

「サーゼクス?」
「私の兄よ」

 部長のお兄さん!?
 驚く俺をよそに、部長は立ち上がってメイドさんと対峙する。

「私の貞操は私のものよ。私の認めたものに捧げることのどこが悪いのかしら? それから、私のかわいい下僕を下賎呼ばわりするのは私が許さないわ。たとえ、兄の『女王(クイーン)』であるあなたでもね」

 メイドさんの言葉に部長が不機嫌になり、俺のために怒ってくれる。
 一方、メイドさんは床に脱ぎっぱなしになっていた部長の服を拾う。

「何はともあれ、あなたはグレモリー家の次期当主なのですから。ご自重くださいませ」

 メイドさんは拾った上着を部長の体にかけると、視線を俺や千秋たちのほうに向ける。

「はじめまして。わたくしはグレモリー家に仕えるグレイフィアと申します。以後お見知りおきを」
「あ、はい!」

 改めて見ると、本当に美人で綺麗なヒトだなぁ。

 ぎゅぅぅぅっ。

 なんて見惚れてたら、部長に頬を引っ張られてしまった。痛い、痛いですよ、部長!
 部長はすぐに手をはなすと、フッと微笑む。

「ごめんなさい、イッセー。私も冷静ではなかったわ。お互い忘れましょう」

 部長はそう言うと、今度は千秋たちのほうに向き直る。

「あなたたちも騒がせてごめんなさいね。特に千秋には非常に不愉快な思いをさせたわね」

 そう言って頭を下げる部長。

「イッセー? まさかその方が?」
「ええ。兵藤一誠。私の『兵士(ポーン)』よ」
「・・・・・・『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を宿し、龍の帝王に憑かれた者。こんな子が・・・・・・」

 グレイフィアさんが俺のこと驚愕したような表情で見てきた。
 な、なんなんだよ? なんの話だ?

「話は私の根城で聞くわ。朱乃も同伴でいいわね?」
「『(いかずち)の巫女』ですか? 構いません。上級悪魔たる者、かたわれに『女王(クイーン)』を置くのは常ですので」

 そこでいったん話が途切れて、部長が再度こっちを向いた。そして、ベッドに腰掛ける俺に目線を合わせる。

「迷惑をかけたわね、イッセー」
「い、いえ・・・・・・」

 チュッ。

 頬に触れる部長の唇。て、えええええええっ!? 俺、部長にキスされた!

「今夜はこれで許してちょうだい」

 そう言うと部長はグレイフィアさんと一緒に魔法陣でどこかへとジャンプしていった。
 い、一体なんだったんだ?


―○●○―


 朝、今日は早朝特訓はなしになり、そのままイッセーたちと学校に向かっていた。

「なあ、明日夏」
「なんだ?」
「部長ってなんか悩みがあるのかなぁ?」

 まぁ、昨夜のようなことがあれば、さすがにそう思うか。

「俺の推察でよければ聞くか?」
「ああ、それでいいよ」

 イッセーに俺の推察を話そうと──。

 ドガッ!

 ──したが、突如、イッセーが背後から何者かによって殴り倒されていた!

「イッセェェッ!」
「貴様って奴はぁぁッ!」

 犯人は松田だった。その隣には元浜。二人とも何やら激しく憤怒の表情をしていた。

「な、何? 朝から過激だねぇ、キミたち?」

 そして、当のイッセーも心当たりがあるのか、殴られたことに怒らず、ただ苦笑し、とぼけながら尋ねる。

「ふざけんなっ! 何がミルたんだ! どう見ても格闘家の強敵じゃねぇかぁぁぁっ!」
「しかも、なんでゴスロリ着てんだっ!? 最終兵器かぁぁっ!?」

 ああ、そういうことか。
 先日、イッセーに女子を紹介してくれと二人にせがまれたときに紹介した人物がそのミルたんだ。その容姿は筋骨隆々の体に魔法少女の格好と正直なんとも言えない人物なのだ。女子と紹介されてそんなのと会わされれば、二人じゃなくても怒って当然か。

「ほら、魔女っ子に憧れてるかわいい漢の娘だったろ?」
「男と合コンできるかぁぁぁっ!」
「しかも、女装した連中が集まる地獄の集会だったぞぉぉぉっ!」
「怖かったよぉぉぉぉっ!? 死ぬかと思ったんだぞ、この野郎っ!」

 その光景を思い出したのか、二人は涙を流してお互いに抱きつきながら震えていた。
 よっぽど、恐怖を感じる集まりだったみたいだな。

「魔法世界について延々と語られたんだぞ! なんだよ、『魔法世界セラビニア』ってよぉぉっ!? そんなの俺知らねぇよぉぉぉぉっ!」
「俺なんて、邪悪な生物『ダークリーチャー』に出くわしたときの対処法なんて習ったよ・・・・・・。死海から抽出した塩と夜中しか咲かない月見草(ムーンライトフラワー)を焼いて潰して粉にして作る特殊なアイテムで退けるらしいぞ・・・・・・。どう考えてもミルたんの正拳突きのほうが効果的だと思うんだ・・・・・・」

 叫ぶ松田と呟く元浜は恨み節を叫び、呟きながらイッセーに迫る。

「う、うぎゃあああああああああああっ!?」

 次の瞬間、イッセーは二人にぼこぼこにされたのだった。


―○●○―


「婚約騒動?」

 放課後、オカ研がある旧校舎への道を歩きながら、改めてイッセーに部長の悩みに関する俺の推察を話していた。

「たぶん、部長は家族からどっかの御家の貴族との婚約を迫られているんだろう」

 貴族社会じゃ普通のことだし、そうじゃなくても、現代社会でもとある一部分ではさまざまな理由で政略結婚なんてよくあることだからな。

「で、部長はそれをいやがっている。だから、昨夜(ゆうべ)のようなことをして強引にでも破談にしようとしたんだろう」

 それぐらい、切羽詰まっていて、焦っているんだろう。

「もっとも、これはあくまで俺の推察だ。必ずしもそうとは限らねぇぞ」

 とはいっても、正直、この可能性が一番高そうなんだけどな。

「木場はなんか知ってるか?」

 イッセーは途中で合流した木場に訊く。

「僕は何も知らないけど、でも、僕も明日夏くんの推察が一番可能性が高いとは思うよ」

 木場も同意見か。

「朱乃さんなら何か知ってるかな?」
「あのヒトは部長の懐刀だから、おそらくは──ッ!?」

  部室の扉を前にして、木場が突然立ち止まって目を細める。
 かくいう俺も、木場と同じ反応をしていた。

「・・・・・・ここに来て初めて気づくなんて・・・・・・この僕が・・・・・・」
「・・・・・・まったくだ・・・・・・しかも、自然体でこれか・・・・・・」

 ここまで来て、ようやく、部室内に相当な力を持った存在がいることに気づいた。
 これだけの力を持ちながら、ここまで近づかなければ気配に気づけなかった。しかも、気配の感じから、自然体な状態で気配を消していた。相当な実力者だな。
 イッセーとアーシアはわけがわからないといった様子だったが、千秋に鶫、燕は俺たちと同じように気づいたようだ。
 イッセーは俺たちの様子に訝しげになりながらも、部室の扉の取っ手を掴む。

「ちわーっス」

 イッセーが扉を開けたことで、室内の様子が目に入ってきた。
 部長、副部長、塔城と、あと一人──銀髪のメイドの姿があった。
 メイドの正体は間違いなく、昨夜(さくや)、イッセーの部屋に現れたメイド。名前はグレイフィアさんだっけか。
 部長は見るからに機嫌が悪く、副部長も表情こそいつも通りのニコニコ笑顔だが、纏っている空気が冷たい。塔城も、ソファーに座って我関せずな態度だ。

「全員揃ったわね?」

 俺たち、というより、イッセー、アーシア、木場を確認した部長が何かを話そうと立ち上がる。

「お嬢さま、わたくしがお話ししましょうか?」

 そう申し出るグレイフィアさんを部長は手で制する。

「実はね──」

 カッ!

 部長が口を開こうとした瞬間、部室に魔法陣が出現する。
 部長たちが使っているのとは紋様が違っており、魔法陣から炎が巻き起こって部室内を照らしだしていた。

「・・・・・・フェニックス・・・・・・」

 木場の呟きと同時に炎がさらに燃え上がり、炎が収まると、そこには赤いスーツ姿の一人の男が後ろ向きで佇んでいた。

「ふぅ、人間界はひさしぶりだ」

 男が振り返る。
 その顔はなかなかに整っていて、赤いド派手なスーツと相まって、なんかホストみたいな感じだった。

「会いに来たぜ、愛しのリアス」

 男は部長を視界に捉えると、そんなことをのたまった。
 だいたい把握した。この男の正体を。

「誰だ、こいつ?」
「この方はライザー・フェニックスさま。純血の上級悪魔であり、フェニックス家の御三男。そして、グレモリー家の次期当主の婿殿」

 イッセーの呟きにグレイフィアさんが答えた。

「グレモリー家の当主って、まさか!?」
「すなわち、リアスお嬢さまのご婚約者であらせられます」

 どうやら、俺の推察はビンゴだったようだな。


―○●○―


「いやぁ、リアスの『女王(クイーン)』が淹れてくれたお茶は美味しいものだな」
「痛み入りますわ」

 ライザー・フェニックスとか言う部長の婚約者が副部長の淹れた紅茶を誉めていたが、副部長は嬉しそうにしていなかった。
 部長もかなり不機嫌そうだった。
 ライザー・フェニックスはそんな部長にお構いもなく、さっきから部長の髪を弄くったり、太股を擦ったりしていた。
 ちなみにイッセーはライザー・フェニックスの事を恨めしそうに見ている。

「いい加減にしてちょうだい。ライザー、以前にも言ったはずよ? 私はあなたと結婚なんてしないわ」

 部長が立ち上がり、ライザー・フェニックスにもの申すが、当の本人はどこ吹く風という様子であった。

「だがリアス、キミの御家事情はそんな我儘が通用しないほど切羽詰まってると思うんだが?」
「家を潰すつもりはないわ! 婿養子だって向かい入れるつもり。でも私は、私がいいと思った者と結婚するわ!」

 どうやら部長は自由な恋愛をご所望のようだ。まぁ、だからこそ、この縁談をいやがってるわけだが。

「先の戦争で激減した純血悪魔の血を絶やさないというのは、悪魔全体の問題でもある。キミのお父さまもサーゼクスさまも未来を考えてこの縁談を決めたんだ」

 なるほど。確かに奴の言う通り、先の悪魔、天使、堕天使による三つ巴の戦争でどの勢力も甚大な被害が出たと聞いた。悪魔も大半の純血悪魔が死に絶えたと。
 そのことを考えれば、純血を絶やさないためのこの政略結婚も悪魔全体にとって重大なものなのだろう。
 部長も頭では理解しているはずだ。だが、心では納得できないのだろう。

「父も兄も一族の者も皆、急ぎすぎるのよ! もう一度言うわ、ライザー。あなたとは結婚しない──ッ!?」

 部長が拒絶を口にした瞬間、ライザーは詰め寄って、部長の顎を掴んだ。

「・・・・・・俺もな、リアス。フェニックス家の看板を背負(しょ)ってるんだ。名前に泥を塗られるわけにいかないんだ。俺はキミの下僕を全部焼き尽くしてもキミを冥界に連れ帰るぞ」

 ライザー・フェニックスの言葉を皮切りに二人の魔力が高まりだす!
 まずい! 上級悪魔二人がこんなところでやりあったら、周りがただじゃすまない!

「お納めくださいませ」

 誰もが身構える中、二人の間にグレイフィアさんの静かな声が割り込んだ。

「お嬢さま、ライザーさま。わたくしはサーゼクスさまの命を受けてこの場におりますゆえ、いっさいの遠慮は致しません」

 平坦な落ち着いた声色。しかし、こめられた圧力はすさまじく重い。
 なんてプレッシャーだよ・・・・・・!
 部長も表情を強ばらせ、冷や汗を流しながら魔力を落ち着けていた。

「・・・・・・最強の『女王(クイーン)』と称されるあなたにそんなことを言われたら、さすがに俺も怖いよ」

 ライザー・フェニックスはおどけた様子を見せてはいるが、実際は部長と同様の反応を見せていた。

「旦那さま方はこうなることは予想されておられました。よって決裂した場合の最終手段を仰せつかっております」
「最終手段? どういうこと、グレイフィア?」
「お嬢さまがそれほどまでにご意志を貫き通したいということであれば、ライザーさまとレーティングゲームにて決着を、と」

 グレイフィアさんの言葉に、部長が言葉を失う。

「・・・・・・・・・・・・レーティングゲーム・・・・・・どこかで・・・・・・そうだ、生徒会長が確かそんなことを!」
「ああ、言ってたな」
「明日夏、レーティングゲームが何か知ってるのか!?」
「爵位持ちが下僕同士を闘わせて競うチェスを模したゲームだ」
「私たちが『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』と呼ばれるチェスの駒を模した力を有しているのはそのためですわ」

 俺と副部長でイッセーにレーティングゲームについて説明する。

「俺はゲームを何度も経験してるし、勝ち星も多い。キミは経験どころか、まだ公式なゲームの資格すらないんだぜぇ」

 本来なら、レーティングゲームは成人しないと参加できない競技らしいからな。
 例外なのが確か、非公式の純血悪魔同士のゲームならば、半人前の悪魔でも参加できるんだったな。その場合、多くが身内同士、または、御家同士のいがみ合いによるものだそうだ。
 つまり、部長のお父さんは最終的にゲームで今回の婚約を決めようというハラなのか。
 しかも、未経験者に経験者、しかもフェニックス家の者をぶつけるこのセッティング、完全に出来レースだな。

「リアス、念のため確認しておきたいんだが、君の下僕はそこの男とそこに並んでいる女三人を除くメンツですべてか?」

 ライザー・フェニックスは俺や千秋たちを除いたメンバーを見ながら部長に尋ねる。

「だとしたらどうなの?」
「フハハハハハッ!」

 ライザー・フェニックスは滑稽そうに笑うと、指を打ち鳴らす。すると、魔方陣から再び炎が巻き起こり、無数の人影が出現する。

「こちらは十五名、つまり、駒がフルに揃っているぞ」

 部長側は五名。『(キング)』の二人を加えて、六対十六。出来レースなのに加えて、完全に部長が不利だな。

「美女、美少女ばかり十五人だとッ!? なんて奴だッ! ・・・・・・・・・・・・なんて漢だぁぁぁっ!」

 まぁ、そんなことはどうでもいいとばかりにイッセーが号泣してるんだけどな。
 イッセーの言う通り、ライザー・フェニックスの眷属は(みな)女性だった。
 そして、イッセーの目標はハーレム王──つまり、複数の女性を侍らすこと。
 その目標の到達点を目撃して感無量になってるんだろうな。

「・・・・・・お、おい、リアス。この下僕くん、俺を見て号泣してるんだが・・・・・・?」

 ライザー・フェニックスも軽く引いてた。

「・・・・・・その子の夢がハーレムなの」

 部長も少し困り顔になって答える。

「・・・・・・キモいですわ」

 ライザー・フェニックスの眷属の誰かがそう呟いた。

「フフッ、そういうことか。ユーベルーナ」
「はい、ライザーさま」

 ユーベルーナと呼ばれた女性がライザーに歩み寄る。
 ライザー・フェニックスはユーベルーナの顎を持って顔を上に向かせ、そのままキスしだした。
 さらには、体までまさぐり始めた。

「おまえじゃこんなことは一生出できまい、下級悪魔くん?」

 ・・・・・・趣味悪いな。
 部長もすごい嫌悪感を出していた。

「うるせぇッ! そんな調子じゃ、部長と結婚した後も他の女の子とイチャイチャするんだろう!? この種まき焼き鳥野郎!」
「・・・・・・貴様、自分の立場をわきまえてものを言っているのか?」
「知るか! 俺の立場はな、部長の下僕ってだけだッ! それ以上でも以下でもねぇッ!」

 イッセーは叫ぶと、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を呼び出す。
 マズい・・・・・・。

「ゲームなんざ必要ねえ! この場で全員倒してやる!」

Boost(ブースト)!!』

「バカッ! イッセーッ!?」

 俺の叫びを無視して、たいして倍加も済んでない状態でイッセーはライザー・フェニックスに突っ込む!

「ミラ」

 ライザー・フェニックスが呼ぶと、奴の眷属の中から一人の少女がイッセーの前に飛び出してきた。祭り装束みたいな和服を着用し、棍を持った小柄な少女であった。
 少女は淡々と棍を突き出した!

 ドゴォッ!

 部室内に鈍い激突音を響く。

「あ、明日夏!?」

 イッセーは自身の目の前で少女の突き出した棍を掴んで防いでいる俺を見て驚愕していた。
 少女が前に出ると同時に俺は戦闘服を身にまとい、少女の棍が突き出される瞬間になんとかギリギリ二人の間に入って棍を防ぐことができた。

「・・・・・・イッセー、下がれ」
「でもっ!?」
「いまのおまえじゃ、誰にも勝てない。俺が見た限り、この子はあいつの眷属の中でも弱い部類だ。おまえはこの子の動きが少しでも見えたのか?」

 俺の言葉にイッセーは苦虫を噛み潰したような表情を作って顔をうつむかせる。

「そいつの言う通り、ミラは俺の眷属の中じゃ一番弱い。そのミラを相手にこのざまとは。ハンッ、凶悪にして最強と言われる『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の使い手がこんなくだらん男だとはな!」

 ライザーの嘲りにイッセーはますます表情を曇らせ、血が滲むほど手を握りだす。

「わかったわ。レーティングゲームで決着をつけましょう」

 部長は低く淡々と、しかし力強く宣言する。

「承知致しました」

 グレイフィアさんの了承を聞いたライザーは不敵な笑みを浮かべる。

「ライザー・・・・・・必ずあなたを消し飛ばしてあげる!」

 部長の挑戦にライザーは不敵な笑みを絶やさず、真正面から受ける。

「楽しみにしてるよ、愛しのリアス」

 ライザーとその眷属たちの足下で魔法陣が光り輝く。

「次はゲームで会おう。ハハハ、ハハハハハハハハハハハ!」

 それだけ言い残すと、ライザーの笑いに合わせて魔法陣から炎が燃え上がり、炎が収まるとライザーとその眷属たちは消えていた。 
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