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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第六章 Perfect Breaker
  場景解釈

これまでのあらすじ


EARTH」上空数万キロ。
召喚されたキャスター、クライド・ハラオウン所有のエスティアをはじめとするサーヴァント数体を撃破することに成功するクロノ達。

地上には朝日がのぼるも、まだ薄暗い。



倒したサーヴァントは、地上のプレシアを含め計七騎。
残るサーヴァントは、ブレイカー:鉄翔剣ただ一人。


「EARTH」側の作戦は――――――




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「今の内に行くべきか、どうするべきか」

「そうは言っても、舜さんとか翼刀とかはまだ回復してないんですよね?」

「そうですね・・・・せめて一人でも戦線に戻れれば、このまま一気に、という案もあったのですが」



「EARTH」(仮)の廊下を、ショウ、唯子、アリスの三人が並んで歩いている。

一晩休み、僅かではあるが睡眠もとれたショウは完全に体力回復している。
このまま彼を起点に攻め、セルトマンを落すと言う算段もあるのだが――――


「エスティアの攻撃なんざ、セルトマンにとってはいくつかある攻撃法の一つにすぎないだろうな」

「ってことは、まだある?」

「そりゃいろいろと・・・・とはいえ、向こうのサーヴァントもかなり削ったはず」

「節操なしに召喚しなければ、ですけどね」

セルトマンの聖杯の接続先は「アーカイヴ」だ。
この世界に接続、結合された世界と、この世界その物の原点に手を伸ばした彼は、その中から召喚してきている。

つまり、別段死人に限定する必要がないのだ。
「英霊の座」であるならば、(例外はある物の)必然的に死人だが、こちらはその制限がない。

幸いなことに一人の人物を召喚するのは一回までなので、同じ人物を立て続けに、ということはないようだが――――



「一番肝心なあれがまだ召喚されてないのが一番恐ろしい」

「ああ・・・「彼女」ですか」

一階で食事を済ませた彼等は、蒔風たちの様子を見ようと医務室へと向かっている最中。


もしも彼らの考える「彼女」が召喚されるとして、それを相手にできるのは一体だれか――――

無論、蒔風はその一人だ。
加えて交戦経験のあるショウ、そして翼刀も候補に挙がる。

今となれば、他の翼人も候補に挙がる。


「彼女」は確かに化け物じみた力を持ってはいるが、その力が割れている以上恐れる物ではない。

当時は空中要塞故の苦戦だったが、クラウドたちでも戦える相手だ。


「この七人を中心に考えると・・・結構余裕ありません?」

「・・・・一芸特化のオフィナとフォンがまだいる。さらには、セルトマンの力も未知数だ」


一芸、と言うと何やら気が抜けるが、攻撃の完全、見極の完全はまさにその頂点にある。

そして、セルトマンとの交戦はあったものの、彼自身の力は何一つとしてわからない――――


「わかっているのは、大聖杯からの魔力を十全に受けて、そしてそれを運用するだけの出力があるバカ回路を持っているってことだ」

セルトマンは、魔術回路を基盤とする魔術師だ。

彼自身の魔力の貯蔵量は、大聖杯と繋がっている時点で推測するだけ莫迦らしい。
だが魔力がいくらあっても、その運用が出来なければ意味がない。


魔力というガソリンの量と威力に、エンジンが耐えきれず暴走、爆発する。
普通の魔術師なら――――否、たとえ優れた魔術師であっても、それこそサーヴァントとなるほどの魔術師であってもそれだけの魔力を受けて運用しようとすれば、回路が焼き切れて良くて死人、悪くて廃人だ。

しかし、にもかかわらずセルトマンはそれだけの魔力を運用して、なお余りある魔力出力量を誇っている。



「う~ん?」

「えっとですね・・・・簡単に言いますと・・・・」


畑違いの魔術と魔力回路の話に煙を上げる唯子に、アリスがわかりやすいたとえで説明しておく。

それを聞きながら、ショウは医務室の扉を開く。


「おぉい、蒔風。起きたか?てかちゃんと寝たんだろうな・・・・・・・おい」

「・・・・・・すぅ、すぅ・・・・(チラっ)」

「何寝たふりしてんだ。起きてんのか?」

「んっ・・・・ふぁ・・・・お?おはょ~・・・・」

台詞の上は完璧だが、その態度は何とか取り繕おうとしているようにしか見えない。
蒔風の「今起きましたアピール」にやれやれと呆れながらショウはズカズカと医務室に入る。


「よう」

「おう、おはよう」

「今起きたのか?」

「そぅだよ」

「・・・・・ベッドの中見せなさい」

「な、なんで」

「言いから見せろ!!(バサッ!!)」

目を逸らして口笛を吹く蒔風だが、吹けていないためただのおちょぼ口だ。
その態度に呆れながら、ショウが蒔風の掛布団を一気に剥いだ。


そこには―――――

「なんだこれは」

「・・・・・んが」

「あ?」

「漫画です」

散乱した少年漫画だった。
しかもよく見ると、読み終わっているのか壁とベッドの隙間から落ちている漫画が、下に積み上げられていた。


「・・・・・お前、休めって言ったよな?」

「まあねー。マジでアルカンシェル対策には精根尽きたと言うか」

「だからお前は回復して戦いに備えるんだよな?」

「今スッゲーリラックスしてた。間違いない」

ムカッ

「・・・・何か言うことは?」

「・・・・(布団めくられて的な)きゃー、えっちー?」

「ちげぇ!!」


どうやら一晩中、漫画を読み漁っていたらしい。

確かに風邪をひいたときというのはよほど辛くないと暇になってゲームでもしたくなるものだが・・・・・
今の蒔風にも、同じような心理が働いたらしい。


「でも寝たから!!ちゃんと寝たから!!ほら!!ここまで回復してる!!」

「確かにそうだけどな、でもそう言うことじゃないだろぅがーーーー!!!!」


うがーーー!!と起こるショウだが、視界の隅に何かを見た。
そしてそちらをクルリと見る。

そこには残りの翼人と、翼刀の寝ているベッド。


理樹と一刀は携帯ゲームで通信プレイ中で
クラウドは携帯をいじっているも、枕元に置かれた携帯ゲームは二人と同じもの

観鈴はというと、誰の影響か薄い本をゴソゴソと布団の中に押し込んで隠していた。

そして翼刀は、ポータブルDVDプレイヤーで映画を見ていた。脇には見終わったDVDのパッケージが。


とどのつまり―――――


「お前ら、寝たか?」

「「「「「・・・・・・うん」」」」」

もしもこれを言葉通り受け取ったのなら、そいつはこの先社会で生きて行けまい。


「この・・・・この・・・」

ワナワナと拳を震わせながら、それでも一撃を我慢するショウ。
だが


「あっ、やべっ」

ズボッ

『たくさん上手に、焼けました~!!』

『オリャー!!』


ブチリ


イヤホンの抜けたゲーム機から、そんな音がしてショウがキレた。



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「EARTH」(仮)から、とある五人へと向けられた一人の罵声と怒声が外まで轟く。
その声は、大聖杯内のセルトマンにまで聞こえたとか聞こえなかったとか。



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「お ま え らァ~~~~!!!」

「いやいやまてまて!!!ほら!!翼刀のおかげで予想以上に回復してんだよ、俺ら!!」

「バカ言うな!!翼刀だって体力も何もないはず」

「あー、そうでもないんすよ。あくまでも治癒能力があんのはコイツなんで、ほっといてもそれなりに回復するんす」

そういって、ヴァルクヴェインを取り出す翼刀。

確かに、神剣ヴァルクヴェインには治癒能力がある。
翼刀が力を籠めればそれだけ回復は早まるが、剣だけの力でも多少の治癒力はあるらしい。


「まあ微々たるものですけど」

「でも俺ら翼人にはそれでもっ十分だった、ってこと」

「んで、ある程度回復した翼刀がちょいと力を籠めれば、更にそれが加速して――――」

その話を聞き、とりあえずまだ呆れは残るものの納得するショウ。
起き上がれるのか?と蒔風に聞くと、翼刀以外は7割がた回復したらしい。


「まあ翼刀は回復したらその分の力を使って俺らの回復に回したからな」

「む・・・・」

むすっとした顔をしながらも、腕を組んで頷くショウ。

その脇では、翼刀と唯子が話をしていた。


「え、おじさんが?」

「ああ。あの親父が迷い出てきやがった。そっちはどうしてたんだ?」

「あ、うん。ヴィヴィオちゃんと一緒に昨日は学校いって・・・ほら、あの子たち自分たちも戦うとか言いそうじゃない?そのお目付け役的な意味で私も一緒にいたのよ」

どうやら昨日ヴィヴィオ達と一緒に、唯子は聖王教会に泊まっていたらしい。
非常勤教員である唯子は今日は非番らしく、ヴィヴィオ達を学校に送り出したことを確認し、それからこちらに帰ってきたと言うことだ。


「おじさんを倒さなきゃいけないの?」

「そうなるな」

「でも・・・・・」

「気にすんな、唯子」


唯子の表情は暗い。

翼刀のことを考えれば、それは当然だ。
何しろ自ら手をかけた肉親を、また倒さなければならないのだから。


しかし、翼刀はそんな唯子の頭をなでる。

「気にすんなっつったろ。どっちにしろ、俺は親父を倒さなきゃいけない宿命にあるんだ――――まあ本当は殺すなんてことにはならないはずなんだけどな」

「?」

翼刀の言葉に、首を傾げる唯子。
だが自分の頭をなでる翼刀は、闘志を宿した瞳で外を――――「EARTH」ビルの、大聖杯の核がある部屋を睨み付けた。


「さてともあれ、こうしてまた夜が明けてしまったな!!」

「三日目突入か。こんなこと前例にないぞ」

「前例も何も、セルトマンみたいな男の前例があってたまるか」

「まあそりゃそうだが」


そう言いながら、身支度を整える蒔風。

ここ一番のお気に入りの服は、第一日目にズタボロだ。
二日目までなんとか着てはいたが、もう限界らしい。

理樹や一刀たちが私服を、クラウドがいつも通りの服を着ている中、蒔風だけは青のGパンに赤いジャージを羽織るという恰好だった。


「色合いはまあいいが・・・・ファッションセンスはねーな」

「うるさい」


そう言いながら、食堂兼会議場へと入る蒔風。
朝食をとる為でなく、もう一方の目的のために席に着く。


「みんな!!肝心なところでぶっ倒れて本当にすまない!!エスティアへと向かってくれた人は、ホントありがとう!!マジで助かった」

口調だけだと軽く感謝を述べる蒔風だが、その言葉には重いほどの意が込められている。


そのエスティアに向かったメンバーや、昨晩戦ったメンバーはすでに医務室送りになっている。
「送り」というのは、大丈夫だと言うメンバーをシャマル達が強引に連れて行ったからである。



「今日も始まったわけだが・・・・・この戦いがキツイと思ったら、降りてもいいぞ」

蒔風の言葉に、皆が止まる。


今は特に会議中、というわけではない。
食事をとっている者もいれば、この戦いをどう戦って行こうかと雑談する者もいる。

そのなかで蒔風がブリーフィングしているだけなのだが、蒔風の一言に皆が一斉にそちらを向いた。


「セルトマンの戦力は未知数。加えて、無限とも思えるサーヴァント。辛い戦い・・・戦いじゃなくても、辛いものがあると思う」

それはそうだろう。

乗り越えてきた過去。
倒してきた敵。

それらが再び自らの前に立ちふさがる。
その撃破は、実力の上で有利だとしても、彼らの心に何も影響がないわけがない。


その中でも、自らの肉親や家族以上の存在を葬ることにもなるメンバーもいるのだ。
それを考えると、蒔風はかつて戦った敵だからという理由で「あいつは任せた」等という気にはなれなかった。



それでも皆は戦うと言うだろう。
彼等を知っている蒔風からすれば、その答えはおのずと出てくる。

自分がそう言われてもそう言うだろうし、彼らがそれで「戦いを降りる」と言い出すような人間でないことも知っている。
だからと言って、それに甘えてしまうのが、蒔風は怖かったのだ。


だから、これは確認事項。
答えは解っているし、回りの人間も「わかってるくせに」と笑っている。

忘れないための、甘えないための質問だ。


「んなこと言って、俺らがいまさら降りるなんて言うと思うか?」

「無茶な戦いは今更。しかも相手は俺らの知り合いを好き勝手に使うんだぜ?もう俺らとしても許せないからな、あいつは」


そうそう、と皆が頷いていく。
その光景に安堵の表情で力が抜けていく蒔風。

そして何だか気恥ずかしくなってしまい


「まあ最初からわかってたけどな!!」

「お前最低だ」

そう言って指差し、ショウに突っ込まれる。

そうして笑いながら話を打ち切り、蒔風は再び確信する。




この仲間なら、勝てる。
セルトマンがどれだけのサーヴァントを繰り出しても、セルトマン自身にどんな力があっても、俺達なら必ず勝利を掴むことができる。


どんなに優秀なセイバーでも
どんなに遠くから射止めるアーチャーでも
どんなに素早いランサーでも
どんなものに跨るライダーでも
どんなに高出力のキャスターでも
どんなところでも忍び込むアサシンでも
どんな狂化を果たしたバーサーカーでも
どんなことでもできるブレイカーでも


このメンバーなら、勝てる。

この光景がなくなる未来など、思い至らなかった。




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「ふふ・・・・あっちに負ける気は無いらしい」

「?そりゃそうでしょう。負ける気で戦うなんてことあるわけないですって」

「勝ち目がなくてやる気失くすかもよ~?」

「そりゃもう戦う気がないって言うんだよ。で、セルトマンさん。どういうことで?」


大聖杯内で、セルトマンが腕と脚を組んで椅子に座っている。

ただ座っているようだが、その目は何かを読んでいるかのように左から右に走り、また左からを繰り返していた。



「奇遇なことに、私にも負ける気は無い」

またおかしなこと言いだしたよこの人、と肩をすくめてフォンを見るオフィナ。
まあそれ含めて面白い人だけね~、とそんな視線をオフィナに返すフォン。


「エスティア内で試したが、まだあの段階を召喚するには不完全らしい」

「なにか召喚できなかったんで?」

「いや、やってみようとしたが予想通りに出来なかった」

「は?」

「ああ・・・・予想通りにいかなかった、ではなくてな。私が予測していた通りに「できなかった」ができたということだ」

「つまり・・・・予想通りの失敗ってことで?」

「いや、失敗じゃない。あの召喚で成功だ。期待通りに召喚できれば上々、できなくとも予測通りということだ」

「えーと。たま~に何言ってるかわかんないよね?」

「気にするな。お前達には不利益にならないし、するつもりもない」

「まあそれならあんたを信じていきますが」


それは良し、と笑みを浮かべて席を立つセルトマン。
その間の会話中も、そして今こうして歩いているときも、その瞳は何かを読むようにせわしなく動いている。


セルトマンの思考は走る。




すべて私の予測通り。
次の段階に進むにはまだ少しデータが必要のようだ。

あそこで「闇の書の前所有者そのもの」を召喚できれば期待通りなのだが、やはりそう簡単にあれは打ち破れないらしい。
結局「闇の書の闇」という形での召喚になった。まあそれは予測通りだ。



つまり、今この状況でのブレはない。

このまま行こう。予測通りに。
いや、予測というのは少し違うな。


これはまさに――――――


「記述通り、というべきか」



セルトマンの瞳が動く。左右に動く。
左から右へ。そして左に戻ってまた右に向かう。

その瞳の先には何もないが、彼の目にはしっかりと映っている。


彼の瞳の中に映り、彼の脳髄に刻み込まれる情報。描写。文章。


そしてその確認作業を終えると、右手で何もない目の前の空間を撫でる。
そこに、見えない壁がありそれを拭くかのように。


実際には



実際に彼の目にのみ見えている光景は




それは一冊の書物のような体形を取っていた





そしてそれが閉じられると、カバーがあらわになる。
だがそれも一瞬。彼の視界から解けるように、水に沈むように輪郭を朧にして消えた。

その一瞬。
一瞬だけ見えた、そのカバーに書かれた文字の一部。


それは



「さあて・・・・・第六章、今後の展開は・・・・」





to be continued
 
 

 
後書き

はてさて、場景解釈。
それは蒔風か、それともセルトマンか。

こういうダブルミーニングみたいなタイトルが好きです。


前話が完全に「第六章最終話じゃねぇの!?」みたいな感じになったので、思い切り流れをぶった切る話で行きました。
故にクロノをはじめ、エスティアメンバーは出てこず。

さて、セルトマンにとって「闇の書の闇」。正確には「闇の書の闇に取り込まれその物となった前所有者」の召喚は、予測通りだったらしいです。

こういう召喚になることは解っていたが、一応それ以上を期待して召喚した、ということですね。
では、セルトマンが望んだ召喚はどんなカタチだったのか。

別クラスでの召喚等と言った次元ではないようです。


不気味に笑うセルトマン。
これから外に向かい、次なるサーヴァントを召喚する気ですね。





唯子
「次回。次なるサーヴァント召喚だって!」

ではまた次回 
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