NARUTO日向ネジ短篇
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【その微笑みが意味するのは】
前書き
ヒナタのネジ兄さんへの想い。
───ネジ兄さんはあの時確かに、私に微笑みを向けた。
死の間際……ネジ兄さんはナルト君に身体を支えられ、ナルト君の右肩に頭部を預け、私は立っていられなくなって両膝を地面に付いた時、ちょうどネジ兄さんと向かい合うように目線の合う位置になった。
私の眼は、溢れてくる涙で霞んでいたけれど、確かにネジ兄さんの微笑んだ優しい表情が、私の眼に焼き付いた。
滅多に私に向けて笑みを見せてくれた事なんて、なかったのに。
あの優しい微笑みは……何を意味していたんだろう。
私が無事だった事に、安堵して……?
それとも、私に泣かなくていいと……?
『ナルト……ヒナタ様は、お前の為なら……死ぬ』
ネジ兄さんは……私はナルト君の為なら死ぬと言った。
でもそれは……、ネジ兄さんの方だった。
確かにナルト君を先に庇おうとしたのはその時すぐ近くにいた私で、死んだって構わなかった。寧ろナルト君の為に死ねるなら私は───
でもネジ兄さんは、その私とナルト君も庇って……枝分かれした挿し木の術に上半身を無惨に貫かれて致命傷を───
どうして、私じゃなかったんだろう。
本当はあの時……私が死ぬべきだったはずなのに。
ネジ兄さんは……死ぬ必要なんて───
あの大戦では一緒の部隊にいて、ほとんどすぐ近くで共に戦っていた。
ネジ兄さんは、常に私を護るように戦ってくれていて、私は護られてばかりじゃいけないと思って逆にネジ兄さんを護れるように戦っていたつもりだった。
ネジ兄さんが大戦中、眼の調子を崩した時……ネジ兄さんの背中は絶対に私が護ってみせるって───
なのに結局背中を護られたのは、私の方だった。
ネジ兄さんはまるで、大きく翼を広げた鳥のように……私とナルト君を身体を張って護ってくれて───
次の瞬間には、ピンポイントの挿し木の術に貫かれ撃ち落とされてしまった。
医療忍術でも、助けられる状態になかった。
私は……次第に命の灯火を失ってゆくネジ兄さんを、見ているしか出来なかった。
どうしてネジ兄さんは、最期に私の名を、呼び捨てにしてくれなかったんだろう。
日向宗家や分家は関係ない、忍び連合の仲間として共に戦っていたから、敬語や様付けなんて不要だったはずなのに。
ヒナタって、呼んでほしかった。最期の時まで分家として、跡目でもない宗家の私を様付けして居なくなってほしくなかった。
日向の呪印が、ネジ兄さんの額からほどけるように消えてゆく───
ネジ兄さんの死を間近で見届けたのは確かに私とナルト君だったけれど……
最期にネジ兄さんと言葉を交わしたのはナルト君で、私じゃなかった。
ナルト君の腕の中で、ネジ兄さんは息を引き取った。
私は最期に、ネジ兄さんに微笑んでもらっただけだった。
……最期に優しい笑みを私に向けるなんて、ずるいよネジ兄さん。
その時の微笑みを言葉にしたとしたら、何て言ってくれたの?
『ヒナタが無事で良かった』
『俺の為に泣く必要はない』
『後の事は頼む。だが決して、ヒナタは死なないでくれ』
そう言って……くれたのかな。
ネジ兄さんを失って、私は絶望の淵に立たされた。
それはナルト君も同じだった。
でもこのままじゃいけないって……ネジ兄さんが命懸けで護ってくれた想いを決して無駄にしてはいけないって……だからナルト君と一緒に立って───
そして私は夢を見た。
とても都合の良い夢を。
後から知ったそれは、無限月読だったそうだけれど。
私はナルト君と結ばれて、二人の子供が居て、ネジ兄さんはその子供達のおじさんになっていて、とても穏やかな、優しい表情をしていた。
ネジ兄さん、と私が呼ぶと、ネジ兄さんは私に気づいて微笑みを向けてくれた。
『───ヒナタ、お前が望んでくれるなら、俺はずっとヒナタの兄さんとして傍に居るよ』
うん、ずっと傍に居てほしい。
私の大好きな兄さんとして、ナルト君の義兄として、子供達のおじさんとして、家族として、ずっと幸せに───
『あぁ……だが、都合の良い夢からは、覚めなければいけない』
え……?
『出来る事なら、未来のお前達家族とずっと一緒にいたかったが……都合の良い夢ばかり見てはいられない。──けど傍には居るから、眼には見えなくなるだけで。ヒナタや仲間達が俺を想ってくれた時、その心の中に俺は居る。ずっと……お前達を見守っていくから』
ネジ兄さんは優しく微笑んだままでいる……でもどこか、寂しそうに私には見えた。
『さよならは……言わないよ。また逢おうな、ヒナタ』
時が、逆流していく。
私はその流れに逆らえない。
微笑んでいるネジ兄さんが、遠のいていく。
私は必死で声を上げようとした。
ネジ兄さん、待って……いかないで……!!
次に目を覚ました時には、ネジ兄さんの姿を眼で捜しても、どこにも居ない世界が広がっているだけだった。
……けれど、心に想えばいつだって傍に居てくれる。
だから、寂しくなんて───
「──・・・オレが守らねぇと、ネジみてぇにヒナタまで死んじまうかもしれねぇから」
大戦から一年経って、ネジ兄さんの墓前で私にナルト君はそう言った。
「ネジのようには、させたくねぇ。ネジの想いに報いてぇんだ。ヒナタの傍に居て、この先オレが守って行きたい。ヒナタ……オレはネジを守れなかった。仲間は殺させねぇと言っといて、死なせちまった。だからこそ、ヒナタを守らせてくれ。あの時……オレはネジからヒナタを託されたと思ってる。ネジがオレと一緒に守ってくれたヒナタを、今度はオレが守ってくから」
真摯な眼差しと共に紡いでくれたその言葉は、素直に嬉しかった。けれど私は───
「ありがとう、ナルト君。……でも私は、日向を変えて行く努力をしていきたい。私は日向の跡目ではないけれど……命懸けで守ってくれたネジ兄さんに報いたいの。宗家と分家の垣根を取り払って、呪印制度が無くても日向の家族を守って行けるように」
そう……今の私のままじゃダメだから。ネジ兄さんに、ちゃんと認めてもらえたと私自身が思えるまでは───
「そうか……ヒナタなら、きっと出来るってばよ。オレが火影になって、日向を変えてやるってネジに言ってた手前、何だけどよ……オレが火影になる前に、日向は変われそうだな」
ナルト君はそう言って、眩しい笑顔を見せてくれた。
……私はまだ、そんなナルト君の隣に居る資格はない。
無限月読で見た家族のようには、まだまだなれそうにない。
でももし、それが許される時が来たら、ネジ兄さんの想いと共に生きていきたいと心から想える。
ナルト君、ネジ兄さん、時間は掛かるだろうけれど見守っていて下さい。
いつか私が自信を持って、この命を大切な人と繋げていけるように───
ネジ兄さんの想いを、未来へ繋いでいけるように。
《終》
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