恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS
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790部分:第六十四話 公孫賛、誰からも忘れられていたのことその五
第六十四話 公孫賛、誰からも忘れられていたのことその五
二人で歌いその憂いを和らげた。そのうえで都に向かった。しかしであった。
いきなりだ。何進の屋敷に入ろうとしたところでだ。彼女が見たこともない美女にこう言われたのだった。
「待て、貴殿は駄目だ」
「何っ、どうしてだ?」
「貴殿、何者だ」
こうだ。その女に鋭い目で言われたのである。
「素性がはっきりしない者を大将軍のお屋敷に入れる訳にはいかぬ」
「私は公孫賛だ」
こう己の名を名乗って返した。
「それでわかる筈だ」
「知らぬな」
だが女は鋭い目でまた返す。
「そうした名はな」
「馬鹿な、何故知らないのだ」
「知らぬものは知らぬ」
また言う女だった。
「とにかくだ。素性のわからぬ者を入れる訳にはいかぬ」
「どうしてもというのか」
「そうだ、どうしてもだ」
「くっ、御主何者だ!」
たまりかねてだ。女の名を問うた。
「見たところ文官だが」
「私か。私の名はだ」
「何だというのだ」
「司馬慰だ」
こう名乗ったのであった。
「司馬慰仲達だ。覚えておくのだな」
「司馬慰だと?あの宮中で近頃名を知られてきている」
「名を知られているかどうかは知らぬ」
それはだというのであった。
「だが。司馬慰は私だ」
「そうか。御主がか」
「とにかくだ。貴殿が入ることはだ」
「駄目だというのか」
「そういうことだ」
こう告げてであった。司馬慰は公孫賛を屋敷には入れなかった。そうしたことがあった。
そしてであった。彼女は何進の屋敷から己の屋敷に戻った。そこで影達と会っていた。
「姉上、何かあったのですか」
「大将軍のところで」
「ええ、少しね」
こうだ。影達に話すのだった。
「公孫賛が来ていたわ」
「あの幽州のぼくちくだった」
「あの女がですか」
「大将軍の屋敷に入ろうとしていたわ」
このことを話した。
「けれど。名前を知らないということにしてね」
「追い出しましたか」
「そうされたのですね」
「今。大将軍の傍に武人を置くことは避けないとならないわ」
それでだというのであった。
「だからね。排除したわ」
「よい御考えかと」
「それで」
影達も司馬慰のその言葉に頷く。
「張譲殿もそろそろ動かれますし」
「ですから」
「そうよ。だから今はね」
公孫賛はだ。彼女の傍にいてはならないというのである。
「去ってもらったわ」
「では我々もですね」
「今は」
「ええ。病になるわ」
不穏な笑みを浮かべてだ。司馬慰は言った。
「そうなるわよ」
「わかりました。それでは」
「私達も」
影達も司馬慰のその言葉に応えた。
「そうしましょう」
「そうしてですね」
「今は隠れ。そして」
「ことの成り行きを見守りましょう」
こんな話をしてだ。彼女達は闇の中に消えた。そうしてであった。
司馬慰は病を得て姿を現さなくなった。それが宮中にさらに不穏な空気を増させていた。
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