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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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コラボ
~Cross over~
  Superstition;迷信

「……ッ」

―――またか。

視界に奇妙な揺らぎを感じ、黒雪姫(クロユキヒメ)は思わず額に手を当てた。

クリアな青一色に透き通った世界。《バースト・リンク》コマンドによってダイブできる、《初期加速空間(ブルーワールド)》だ。

現実世界の黒雪姫の首に装着された量子通信機器、ニューロリンカーの奥深くには、謎のアプリケーション《ブレイン・バースト》がインストールされている。BBプログラムは、黒雪姫本人のコマンドに応えて思考を一千倍に加速し、この青に染まるフィールドへとフルダイブさせている。

通常、初期加速空間はマッチングリストをサーチして対戦相手を探すための、いわば対戦のための準備空間だ。だが、この誰もいない加速空間では外部アプリを起動し、現実での煩雑で時間をかける類の作業をするのにはうってつけであるという事で、もっぱらそちらの目的のほうが主目的に据えられる。

黒雪姫もその例に漏れず、梅郷(うめさと)中学校の副生徒会長として溜まる厄介な事案を初期加速空間内でさばいていたのだ。現実では一時間かかる作業だとしても、一千倍という高倍率で加速するこの空間の中では実に3.6秒で済む。

今日の放課後までに提出しておかねばならなかった案件が記されたテキストウインドウに、生徒会認証を記すハンコを押す。

作業自体は単純明快。ゆえに黒雪姫は手を止まらせることなく軽快に進めていた、のだが。

ふと奇妙な気配を感じて顔を上げると、視界に映る梅郷中の生徒会室の中央――――楕円形の会議用テーブルの上空が、まるでカゲロウのようにゆらりと揺れた気がしたのだ。

「……なんだ?」

呟き、黒雪姫はアバターの姿で椅子から降りた。

カツカツ、とハイヒールを鳴らして躊躇いなく近づく。こういう時に少しも物怖じしないのは、果たして《あちら》で鍛えられているからだろうか。

目を凝らすと、やはりテーブルの天板の上空五〇センチほどのところで景色がかすかに波打っている。

……否。

「――――フム」

テーブルから上。実に一メートル弱くらいだろうか。横はそんなにない。それくらいの空間がたわんでいる。

そう。まるで、透き通った何かが動いた、とでもいうかのように。

実は、このような現象に接するのはこれが初めてではない。最近、ここ一か月ほど、フルダイブしていると、たまにこうやって視界に妙な揺らぎが見えることがあるのだ。しかも、通常のVRワールドではなく、《加速》しているときに限って。

―――ラグやテクスチャバグ……いや、それはないか。今までその手の抜かりをBBプログラムが犯したことはない。

「……………バースト・アウト」

途端、意識が引っ張られるような奇妙な減衰感とともに景色に色が戻る。

初期加速空間から脱した黒雪姫は、黒揚羽のアバターから生身の身体に戻った身で、先刻まであの揺らぎのあった会議用テーブルを見るが、やはりというか当然のようにそこには何もなかった。

ブルーワールドの景色は、治安監視網(ソーシャルカメラネット)の映像から作られる3Dマッピングにて自動生成されるものだ。てっきり役員の誰かが大きな荷物―――例えば大きめの花瓶だとか―――を置いたりして、そこに常からある生徒会室のデータが被ることによって起きたものではないか、という推論を立てたのだが、それも空振りらしい。

「やはり、ラグが何かだったか……」

おとがいに指を這わせる黒雪姫の聴覚に、そこで軽やかな電子音が響き渡った。

音声通話の着信ボタンが青白く点滅し、それを反射的に押す。それが非通知のものだと分かったのは通話中を示すアイコンが仮想デスクトップ上に浮かんだのと同じくらいだった。

『よう』

頭の中で弾ける幼くもドスのきいたハスキーボイス。

その声に聞き覚えがあった黒雪姫は知らず、渋い表情を浮かべながら声のトーンを下げた。

「なんだ、貴様か」

『なんだとはご挨拶だな、黒いの』

そう言って赤の王――――《不動要塞(イモービルフォートレス)》スカーレット・レインこと上月(コウヅキ)由仁子(ユニコ)は、けらけらと笑った。










ことは一週間前。二〇四七年一月二三日になる。

赤の王スカーレット・レインが仕掛けたソーシャルエンジニアリングに嵌った黒雪姫の《子》であるシルバー・クロウは、その唯一無二である飛行(アビエーション)アビリティによる助力を求められた。

その内容は、もはや加速世界の負の遺産とも言うべき《災禍の鎧》――――《クロム・ディザスター》討伐作戦だった。

黄の王まで絡む一大騒動の果てに、何とか黒雪姫達は《鎧》を討ち取ることに成功したのだ。

その際、レインの《かんしゃく》によって黒雪姫は黒焦げにされて死にかけたりしたのだが、そこは割愛してもいいだろう。

その練馬戦域の支配者である赤の王は、遅まきながらの事後報告のようなものを言いたく、音声通話をかけてきたらしい。

『約束通り、プロミ(ウチ)のモンは杉並には手を出すなって伝えたぜ。これで少なくとも、今週の領土戦からは停戦協定が通じるはずさ』

「そうか……」

少なくないリスクが生じた《災禍の鎧》討伐作戦だったが、無論黒雪姫達《ネガ・ネビュラス》もそれにただで助力するほどお人好しではない。

見返りとして赤の王率いるレギオン《ザ・プロミネンス》に対して、領土戦における無期限停戦協定を要求したのだ。

三ヶ月前、シルバー・クロウvsシアン・パイル戦にかこつけて、大衆の前で格好よく復活宣言などをのたまったものの、現存するネガビュの構成人数は黒雪姫のアバター《ブラック・ロータス》を入れてもたった三人。まだ他レギオンとの本格抗争は避けたいところだった。

また、何としてでも《鎧》を討ち倒したいレインからすれば、端から拒否権などないに等しい内容だったが、降りかかったリスクの数々を思い起こせばそれくらいは願ってもいいだろう。

とはいえ、討伐戦の際に行動を共にしたが、こうやって事後報告を入れてくるタイプには思えなかった。

―――律儀なものじゃないか。

黒雪姫が内心感心していると、それに反してニコは訝しげな声色を出す。

『なんかテンション低ぃな。なんかあったのか?』

「ム。いや……そうだな。王の貴様になら少し訊いておきたい」

『ンだよ、改まって』

黒雪姫が逡巡したのは、先刻の揺らぎのことについて、同じ王のニコならば知っているかもしれないと思ったからだ。

二代目とはいえ、仮にも王の一角。そこら辺のバーストリンカーとは比較にならないほどの経験を積んでいるはずである。

「なぁ、ニコ。お前は初期加速空間――――いや、加速中に風景のラグなどを見たことはあるか?」

『あァん?ラグぅ?……それはテクスチャバグとかそんな類か?』

「そのようなものだ。カゲロウのように景色が歪んで見える、と言ったほうが分かりやすいか」

『……現実のマッピングとの同期ズレとか?』

「私もその線かと思ってバーストアウトしたが、別段変わったこともなかった」

ふぅ~む、と二人揃って唸る。

王二人分の知識を動員しても見たこともない現象。それは加速世界で初めて観測されるものとほぼ同義だ。

未知。

それがダンジョンだとかアイテムとかならば心躍るものだろうに、と嘆息しつつ、黒雪姫はまだ残っている生徒会の書類をチラ見する。

「ま、今この場で言ってもしょうがないさ。悪かったな、変なことを言って」

「別にいいけどよー……」

後ろ髪引かれるようなニコの声。

だが、その言葉が唐突に、怪訝なものに変わった。

「あン?オイ、ロータス。お前、なんかトンネルの中にでも今いンのか?」

そして、奇妙なことを言い出した。

あまりの不可解な物言いに黒雪姫も優美な眉丘にシワを寄せる。だが、喉元まで出かかった「何だと?」という言葉は、寸前で締め出されることになった。

別に、生徒会のメンバーが部屋に入ってきたとか、そういうリアルワールドでのハプニングがあった訳ではない。

黒雪姫にとっては聞きなれた、しかしこの場この瞬間だけは絶対に聞かない類の音が聴覚いっぱいに響き渡ったのだ。

――――バシイイイィィッッ!!――――

雷鳴のような鋭く乾いたサウンドエフェクトは、ニューロリンカーにインストールされたBBプログラムが、黒雪姫の意識を自動的に現実比一千倍に加速させた音だ。それはつまり、何者かが黒雪姫――――バーストリンカー《ブラック・ロータス》に《対戦》を申し込んできた、ということだ。

これが、それこそ青のレギオンの根城である新宿あたりならば、《黒の王》に挑んできたその度胸と裏打ちされた自信をへし折ってやろう、となるのだが、しかし……

―――ありえんッ!!

黒雪姫がいたのは梅郷中――――自分の率いるレギオン《ネガ・ネビュラス》が領土とする杉並戦域(エリア)の中に位置している。

レギオンの団員(メンバー)及び頭首(マスター)は、その領土内に限り他リンカーからの《乱入》をシャットアウトできるので、この杉並の中で黒雪姫が対戦を吹っ掛けられるなんて事は本来起こるはずがない。

加えて、個人宅や病院などの大きな公的機関や一部企業もなのだが、その敷地内はグローバルネットから別種のローカルネットが敷かれている。梅郷中もその例に漏れず、学内ローカルネットがきちんと稼働しており、黒雪姫だとて校門をくぐったその時からグローバルネットとは隔離されている状態だ。

必然的に、対戦相手は校内にしか存在しないことになる。そして、同じレギオンのメンバーならば対戦を持ち掛けることも可能。

だが。

―――ハルユキ、くんか?それともタクム君?

レギオンのメンバーを思い返すも、こんな方法で相談してくるような喫緊の用事など、当然のように思い当たらない。

トラブル、あるいはイレギュラー。いずれにせよ異常事態特有の、無制限中立フィールドで目の前に突然神獣(レジェンド)級エネミーがポップするようなヒリヒリとした空気を黒雪姫は感じ取る。

立て続けの不可解な出来事に硬直していた精神は、しかし眼前に【HERE COMES A NEW CHALLENGER】の文字列が燃え上がり、周囲の光景が様相を変え始める時には、《対戦》モードに切り替わっていた。 
 

 
後書き
……なにこれ、という純SAO読者の皆様あいすいません。
AW読者の、AW読者による、AW読者への新編でございます(汗
私はこれまで二度、様々な他SAO二次小説とコラボさせていただきましたが、その度に編の名前を変えています。
一度目がcross storys編、二度目がcross world編です。……はい、cross繋がりなんですなw
んで、さて今回の編名はどうしようと考えていると、もうこれしか思い浮かばなかったんですな。cross over編w(説明しよう!クロスオーバーとは異なるジャンル同士が交差して新しいことを創ることだヨ☆)
そして拙作とクロスでオーバーさせるとしたら――――まぁ、この作品しかあるまいwと思った所存が今回であります(笑)
中でも言いましたが、時系列で言えば2巻のちょっと後という感じになっております。当初はずっと後にしようかと思っていたのですが、アニメだけ見たという方にも分かりやすいように、アニメの内容の中で決定いたしました。
どうか今しばらく生暖かい目で見守ってくださいませませw 
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