銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第百八話 キルヒアイス、担がれる
いよいよサイオキシン麻薬密売撲滅作戦前夜です。
ラインハルトは、とんでも無い手で軟禁。
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第百八話 キルヒアイス、担がれる
帝国暦482年10月15日
■オーディン フォルゲン伯爵邸
この日、カール・マチアスは敷地内にある別邸で実家から借り受けているメイドに起こされ、更に実家の食堂から食材を只で貰い実家の料理人に造って貰っている食堂で食事をした後、これまた実家の地上車で軍務省兵站統括部へ出勤していった。
つまりカール・マチアス・フォン・フォルゲンは兄のコネで軍に押し込んだ後も、フォルゲン伯爵家四男として未だに実家に寄生して臑齧りをしているのである。少なくない給料は遊興の為に使い果たし、更に足りなくて、サイオキシン麻薬密売に手を染めた程である。
兵站統括部に着くと、憲兵隊に補給のことについて行ってくれと言われたために、特に気にせずに憲兵隊へと向かったのである。それが長い長い拘留生活の始まりとも知らずに。
憲兵隊総監部に到着し氏名と用件を申告すると、経理部長副官だと言う人物が現れて経理部長室へ案内された。副官がカール・マチアスの到着を告げ扉を開けると、部屋の中央に机があり、その上に大量の書類の山が出来ていた。副官がカール・マチアスの到着を告げると書類の山の間から眼鏡をかけた初老の大佐が顔を出してきた。
「カール・マチアス・フォン・フォルゲン中佐であります」
「御苦労。小官は経理部長、アウグスト・フォン・シュターデン大佐だ、中佐今日は宜しく頼む」
「はっ」
それから夜まで、補給に関しての書類の決裁の手伝いをさせられて最終的には夜中まで掛かりながらその日の仕事は終了した。その後憲兵隊総監に酒を薦められシコタマ飲んだ結果、そのまま酔いつぶれて憲兵隊宿舎へ泊まることになった。
マチアスが寝静まった直後、宿舎の部屋がトレーラに乗せられて移動していはじめた。しかし只だからと410年ものワインをシコタマ飲んだマチアスは、目的地到着までとうとう気がつかなかった。
翌日午前5時、マチアスの泊まった宿舎の部屋を積んだトレーラーは目的地に到着した。その場所は装甲擲弾兵と武装憲兵隊が共同で使っている演習地であった。
未だマチアスは睡眠時間三時間ほどである。部屋へ武装憲兵がバズーカを持って侵入してきた。
「トイアーフェルト曹長、準備は良いか?」
「お任せください」
フリッツタイプヘルメットを被り、フィールド用迷彩服を着たニヤケ顔の中年男が部屋へ入りマチアスに向けてバズーカを構えて、ぶっ放した!
バズーカ自体は空砲だが、凄まじい炎をと爆音が鳴り響きマチアスはいきなりの仕打ちで飛び起きた!
「ななななんんんだー!!!!」
「起きたか?」
火薬の臭いの中、マチアスは何が何だか判らない状態でパニクっている。
次第にハッキリしてくる意識の中で、いきなりの攻撃に怒りが沸々と沸いてきたが、その怒りをぶつける前に、再度バズーカ攻撃を食らうと、部屋の四方の壁が外れて、外側へと倒れていった。外を見ると荒涼とした原野が広がっているだけであった。
マチアスは呆気に取られるが、そこへ憲兵隊総監副官ケスラー大佐が現れマチアスに引導を渡す言葉を放った。
「カール・マチアス・フォン・フォルゲン、卿をサイオキシン麻薬密売人の元締めとして逮捕する」
呆気に取られ、動揺しながらも、嘯くマチアス。
「ししし証拠は有るのか!」
そう言われたケスラーの手にはマチアスがサイオキシン麻薬を売人に受け渡す姿がハッキリ映った写真が握られていた。
「どうだね、証拠は未だ未だあるのだけどね」
ケスラーの言葉に、更に動揺するマチアス、更に次々に出されてくる証拠の山に真っ青な顔になっていく。
「うわーーーー!!!」
マチアスはいきなり崩れ落ちて叫びはじめた。
「カール・マチアス、それでは来て貰うぞ」
そう言われて、マチアスは憲兵隊が仮設した庁舎に引き立てられて行った。
その頃帝国全土でも各地の憲兵隊上層部及び内務省警察局長ハルテンベルク伯爵以下の幹部が4日後のXディーに向け準備を終え、手ぐすね引いて待ち構えていた。
帝国暦482年10月18日
■リューゲン星域 カイザーリング艦隊旗艦テュービンゲン
ラインハルトは、装甲擲弾兵のお誘いから逃げるために数日前から仮病を使い自室に隠れていた。特にヘールトロイダ曹長が強引に誘いをかけてくるのが、嫌で嫌で逃げているのである。キルヒアイスから相談を受けた、カイザーリング中将は笑いながら、暫く休むように告げたのである。
ラインハルトが当直明けに食堂で食事中にヘールトロイダ曹長がスケスケのシースルー制服を着て現れた時はラインハルトは食べていたザワークラウトを吐き出して、そのまま自室へと逃げ出したほどであった。心配したキルヒアイスが飛んできて、部屋で毛布にくるまっているラインハルトを見つけて励ました程である。
「ラインハルト様!大丈夫ですか?」
「キルヒアイス、俺はあれほどの攻撃を受けたことがない」
「女性が怖いのですか?」
「違う!神聖なる戦場であんな破廉恥な行為が許せんだけだ!」
そう言うラインハルトの顔は青ざめていた。そうであろう、女性の裸など見たことがないのであるから。精々幼い頃アンネローゼと一緒に入ったお風呂で見たぐらいだろう。
それ以降、ヘールトロイダ曹長の誘いはエスカレートして、ラインハルトの引きこもりの日々が続いている。
帝国暦482年10月19日
■リューゲン星
リューゲン星に到着したカイザーリング艦隊は、此処では半舷上陸を行った。
ラインハルトとキルヒアイスは別々の組になってしまい、ラインハルトが艦内に引きこもったが、部屋の入り口付近にはヘールトロイダ曹長が陣取っていた。
上陸中だが、キルヒアイスはキルドルフ大尉に連れられて、地元の駐屯地へ仕事で出かける事になった。オーディンのように自動運転のGPSなどが完備されていない田舎星であるから、運転士を頼まれたのである。
「済まんな准尉、折角の休みなのに」
「いえ、お気になさらないで下さい。自分もどうすれば良いか迷っていましたから」
「ヘールトロイダ曹長については申し訳ない」
「シェーンヴァルト少尉が大変迷惑していますし」
「んー、姐さんは、並みの装甲擲弾兵じゃ敵わない女傑でな。中々説得に応じてくれないんだ」
「大尉、出来るだけ早く、開放してあげて頂きたいのです」
「判った。努力するよ」
そう話している最中に田舎道の近くの畑に填った軍用車を見かけた。
不思議に思いその車の近くへ向かうと、車の影から服を破られ肌も露わな女性が助けを求めて飛び出してきた。
「止めろ!」
そう言うとキルドルフ大尉は、キルヒアイスに車を止めさせ、車から飛び出していく。キルヒアイスも同じく用心しながら車から降りる。
「助けてください」
恐怖に怯えた様子で助けを求める女性は20代ぐらいの日焼けした農家の娘のようであったが、可愛い顔をしていた。
「大丈夫か」
キルドルフ大尉が女性を抱きかかえる。その時である、車の方から唸り声と共に軍服を着た大男が飛び出してきた。益々怖がる女性。
キルドルフ大尉が、女性をキルヒアイスに預け、大男と対峙する。しかし大男は戦術も何も無く只ひたすら殴りかかってくるだけである。素早い動きで大男の延髄を蹴り倒した。
キルドロフが安心した瞬間、気絶したはずの大男が立ち上がり又殴りかかってきた。
「大尉危ない!!」
キルヒアイスの言葉にキルドルフ大尉は直ぐさまバックステップで逃げざまに、大男を投げ飛ばし頸を絞めて気絶させることに成功した。直ぐさまプラスチック製使い捨て手錠で男の手足を縛り上げ、怯えて震える女性に、自らの軍服の上着を与えて話を聞き始めた。
話によると女性は、10kmほど離れた農家の娘で、サーシャと言い畑で作業中に軍人から道を聞かれ、案内させられている最中にいきなり襲われ、暴れるうちに車が畑に突っ込み。その直後に我々が反対側から通りかかったので助けを求めたと話してくれた。軍人は何処の誰だか知らないとのことであった。
話を聞いた、キルドルフ大尉はキルヒアイスに向かい話し始めた。
「准尉、此は由々しきことだぞ。誇り有る帝国軍人が婦女暴行とは情けない」
「全くです」
キルヒアイスは持ち前の正義感からか非常に憤っている。
「そいつを荷台に載せて、地元の憲兵隊へ行くぞ」
「フロイライン。済まんが、調書作りに協力してくれないか」
震えていた、サーシャであったが、意を決したように頷いた。
数十分後に地元憲兵隊へ到着した。
憲兵隊では連絡を受けて早速大男の身柄を拘束し、サーシャから事情を聞き始めた。
更にキルドルフとキルヒアイスも事情聴取を受けたのである。
事情聴取をしてきたのは、若い中尉でキスリングと名乗った。
「お疲れ様でした、大尉殿、准尉。最近あの手の犯罪が多いのですよ」
キスリングはやれやれという顔で話す。
暫く、雑談を交えながら、事情を聞かれていた中で、入室してきた憲兵軍曹がキスリングへ耳打ちしてきた。その話を聞いたキスリングの顔色が変わる。
それを不思議そうに見つめる2人。
キスリングが意を決した様に2人にむき直して、話し始める。
「あの男の身分が判明しました」
「何処の所属でしたか?」
「リューゲン軍事宇宙港で倉庫主任をしている。アルベルト・バッハ大尉です」
「帝国軍も落ちたな。大尉が婦女暴行かよ」
キルドロフが嘆き、キルヒアイスは益々憤るなかで、キスリングの顔が更に真剣になる。
「そのバッハ大尉の体からサイオキシン麻薬の成分が検出されました」
2人は驚きの顔する。
「サイオキシン麻薬だって!ご禁制の品じゃないか。道理であれだけやっても立ち上がった訳だ!」
「許せませんね」
「此はオフレコなんですが、最近辺境星域では、サイオキシン麻薬が蔓延していまして、憲兵隊、警察も捜査しているのですが、末端の密売人や密売人の元締めは逮捕できるのですが、問題は何処から入手したかが判らない状態なんです」
その様な話をしていると、再度入室してきた憲兵軍曹がキスリングへ耳打ちしてきた。その話を聞いたキスリングの顔色が再度変わる。今回は驚愕と言って良いほどの状態で有った。
「どうしたのかね。中尉?」
「いえ、大変言いにくい事なのですが、今上司を連れて来ますので暫くお待ち頂けますか」
「構わんが」
そう言いキスリングは憲兵軍曹と共に出て行った。
不思議がる2人。
「大尉、何か判ったのですかね」
「そうかもしれんな」
暫くすると、キスリングが上司を連れて来た。
「はじめまして。小官はリューゲン憲兵隊司令アドルフ・ニードリヒ大佐です」
「はじめまして。小官は、カイザーリング艦隊所属装甲擲弾兵エミール・キルドルフ大尉であります」
「はじめまして。小官は、カイザーリング艦隊所属航海科ジークフリード・フォン・キルヒアイス准尉であります」
「大尉、准尉、言いにくいのだが。バッハ大尉に自白剤を使用した結果。サイオキシン麻薬の供給元が判明したのだ」
「何ですって」
「大佐殿、何故我々にその事を?」
「キルヒアイス准尉の疑問は尤もだが。供給元が問題でな」
「我々にも関係が有ると言うことですかな」
「大尉、その通りだよ。貴官の所属しているカイザーリング艦隊こそサイオキシン麻薬の供給元だとバッハ大尉が自白したのだよ」
驚きを隠せないキルヒアイス。
じっと考えるキルドルフ大尉。
その姿を見る、ニードリヒ大佐とキスリング中尉。
「此は、我が儘なお願いになるのですが、大尉達に協力して貰えないだろうか」
ニードリヒ大佐とキスリング中尉は、神妙な顔で頭を下げる。
キルヒアイスはキスリングが持参したサイオキシン麻薬の犠牲者の写真を見て目を顰める。
キルヒアイスは、持ち前の正義感から再度憤りを感じ協力しようと考え出した。しかしキルドルフ大尉がどう出るかが心配であった。もしかして密売組織の仲間だったら、ラインハルト様が危ないと。
「准尉。俺は手伝いたいが卿はどうだ?」
キルドルフ大尉も眉間に皺を寄せながら、犠牲者の写真を見て話しかけて来た。
キルドルフ大尉の普段の姿を思い出しても正義感溢れる好感な人物で有ったために信じようと考えた。
「はい。大尉殿協力したいです」
その話を聞いて、ニードリッヒ大佐は益々頭を下げる。
「ありがとう。それでは、明日憲兵隊でカイザーリング艦隊を検挙するので、手伝って貰いたい」
「了解しました」
「それで、貴官達は明日まで悪いが此処にいて欲しいのだ」
「情報漏れですか。仕方有りませんな」
「帰らないと、ちょっと」
キルヒアイスはラインハルトの事が心配で堪らない。
「済まないが、貴官を信用してはいるが、万が一がある。我慢してくれ」
「艦隊には、大尉が酒の飲み過ぎで、一晩泊まると連絡しておきます」
「おいおい。俺は酒乱じゃないんだがな」
「調べましたが、8度ほど、酒場で暴れて憲兵隊へ泊まってます」
キルドルフは、キスリングの問いかけに口を尖らす。
「仕方ないな。それじゃしょうがないさ准尉。諦めよう」
結局、キルドルフとキルヒアイスは一晩憲兵隊で泊まることになった。
帝国暦482年10月19日
■オーディン 憲兵隊総監部総監室
総監室ではグリンメルスハウゼン、ケーフェンヒラー、ケスラー達がリューゲンのニードリヒ大佐からの報告を受けていた。
「そうか、御苦労。明日が本番だ確実にな」
「はっ」
「ニードリヒ大佐とキルドルフ大尉は良くやってくれました」
「全て芝居とも知らずに、キルヒアイス准尉もいい面の皮だな」
「しかし、シェーンヴァルト少尉を剥がすのに、ヘールトロイダ曹長がスケスケのシースルー制服とは、儂も見たかったの」
「そうですな。儂も見たかったですわい」
「閣下」
グリンメルスハウゼンとケーフェンヒラーの合いの手にケスラーが頭を抱える。
「コホン。兎に角、此で全ての準備が整いました、明日一斉に検挙に入ります」
「そうじゃな」
「陛下が明日朝に三長官と各尚書に命令をだすのじゃからな」
「此から、忙しくなりますな。遊んでおったグリルパルツァーの尻を叩かんといかんな」
ケーフェンヒラーがにやつきながら、楽しそうに話す。
「閣下達も宜しくお願いいたいます」
ニヤケながら、グリンメルスハウゼンとケーフェンヒラーが判ったと手を振るが、ケスラーにしてみれば、心配でしかないのであった。
こうして帝国を揺るがすサイオキシン麻薬密売撲滅作戦の火蓋が切られて行くのであった。
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トイアー=高い フェルト=田 で高田=早朝バズーカというわけです。
判らない人は早朝バズーカでググろう。
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