世界をめぐる、銀白の翼
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第六章 Perfect Breaker
状況不利の戦場
いきなりの襲撃。
突発的に始まった戦い。
それに対し全員が飛び出していこうとする中、ショウは冷静に指示を飛ばした。
「全員で出るな!!相手の力に対応できる数人が出ればいい!!」
ショウの言葉に、一斉に皆の足が止まる。
その中、翼人たちは止まることなく前へと飛び出していっていた。
「あの男は僕が・・・・」
真っ先に飛び出して言った理樹が、セルトマンへと飛翔して行く。
刃を周囲に展開し、その一本を研ぎ澄まして突っ込んでいったのだ。
だが、その目の前に現れる男が一人。
「おっと、そうはいかない!!」
ガキィッッ
「な!?」
その男は掌で理樹のバリアの刃を受けた。
そして弾かれて少し下がる理樹に、男は軽く笑って腕をまくった。
「僕のこれを受けて・・・無傷?」
理樹のバリアの硬度は、そのまま刃の硬度になる。
刃の切れ味は理樹自身の力量次第なのだが、それでも受けて無傷なのはおかしい。
冷や汗を垂らして、見据える。
「そう!!この頑強さこそ、我が身に受けし一つの完全!!」
「身に受けた・・・完全?」
「我々はあの人から各完全を承った。実験体と言えば聞こえは悪いが、今は最高の気分だぞ!」
男が吼える。
ならば、他の三人も何かしらの力を――――
「先の戦いじゃ、あの人がお前狙いだったから行けなかったが・・・・今度はきっちり、優劣つけようじゃないか!!」
「クッッ!?」
飛び出してきた男。まるで防御のことなど全く考えないその体勢。
しかし、今の理樹ならばこれの意味が十分に分かる。
「ハァッ!!」
「ガードっ!!」
ゴ ォォン!!!と重々しい音がして、理樹のバリアと男の拳が衝突した。
威力はそうあるわけではない。だと言うのに、この音。
つまり
「これを殴って手に怪我しないなんて・・・・」
「そんなもんか?」
ビキッッ!!
「!?ッ、流動ッ!!」
男の硬度に驚きながら、理樹の目の前で自慢のバリアにヒビが入る。
理樹のバリアそのものには威力はない。
せいぜい、出現させる時の速度くらいの威力しかない。後は理樹自身の力によるものだ。
故に、この状態で砕けると言うのは単純な話であり
「僕のバリアより・・・硬い!?」
「おっと・・・これはすぐに決着か?」
流動して流されたバリアに投げ飛ばされながらも、男が着地して首を鳴らす。
「我が身に受けた完全は「不傷の完全」!!「EARTH」最硬防壁と、是非戦ってみたかった!!」
異常な攻撃力があるわけではない。
裏をついて、バリアを突破するわけではない。
つまり、単純な硬さ合戦。
しかし圧倒的に優位なはずのこの勝負において、開始わずか二分で
「ダァッ!!」
ドンッ、ベキィッッ!!
「ぐ、ゥっ!?」
直枝理樹が、押され始めている。
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「みんなで一緒に行った方が・・・・」
「相手の力が未知数なんだ。下手に戦力を出して一斉に潰されたらマズイ」
皆を「EARTH」ビルにもどし、待機命令を下すショウ。
アリスや翼刀をはじめ、皆が準備済ませて戦闘に参加しようとするのを、ショウが説得して止めていた。
「相手の力が全くわからないんだ。翼人であっても、初見はキツイ」
「・・・・みんながそれを解くまで一応待つのですか?」
「そうなる。非常に悔しいがな」
そう言われては反論もできない。
相手は不意を突いたとはいえ理樹に手傷を負わせた男の一団だ。しかも、その力は全くの不明ときた。
いままで「EARTH」の敵は、それなりにその力がわかっている相手だった。それがわからず、前情報も何もない以上、全員で飛び出すという愚は起こさない。
蒔風が飛び出した今、それを諌めるのはショウの役目だ。
どうにかして全員をビルに押し込み、そのまま外に背を向けた状態で一息つく。
「わかってくれた?」
「しょうがない・・・ですね」
「じゃあわかったら一気にぶっとばしてやる!!」
「よっしゃ、その息・・・・」
だ。と続くはずだった。
しかしてそのショウの言葉は、想った通りに続かなかった。
まず、自分を見る翼刀の視線が上へとずれて驚愕に変わったのを見た。
次にショウを、背後に現れた人影が覆う。
言葉を切らせ、瞬時に振り返って拳を突き出すショウ。
そこにいたのは、フロニャルドでヴィヴィオ達を攻撃した大男。
異常なほどに隆起した腕の筋肉は、すでに成人男性三人分の大きさになっている。
成人男性の腕三人分ではない。
成人男性が三人しがみついているのではないかというほどの、巨腕となっているのだ。
外見は完全に化け物のそれである。
身体に対してアンバランスなそれを振り上げ、そのまま重力と筋力に任せて叩き落とす大男。
ショウはそれを、直感を信じて拳で受ける。
二人の拳が、正面からぶつかるその瞬間、地面が一瞬にしてひっくり返った。
暴風と言うには生易しい、まさに爆風が巻き起こる。
二人の周囲の地面が浮き上がり、ビルの正面のガラスが五階まで粉々に砕け、30階までヒビが入っていく。
割れた枚数が少ないのは、あくまでもこの一撃の威力がショウへと送られているからだ。
瞬時に、翼刀が全員を背中で押し込みながらバックステップしたのでそちらは無事だが、遅れていたら戦闘不能になっていたかもしれないほどの「攻撃力」
ショウの迎撃は、咄嗟にとった予備動作なしの攻撃としては、タイミングも威力もばっちりだった。
はずなのに
(どんだけの攻撃力だ・・・よ・・・!?)
拳を突き出した状態で、ショウは動けなくなっていた。
「EARTH」において、最高出力ならば蒔風を凌駕するこの男がである。
しかも相手からの攻撃は、一発ではあるがそれはまだ終わっていない。
いまだにその威力は叩き込まれていて、ショウはそれに耐え、流すのに全神経を使っているのだ。
それでもそのほとんどをショウへと流しきっているのは、男の技量と言うよりはその力が大きすぎて流しきれないと言うのが正しい。
「おらおらその程度かよ「EARTH」の最高火力ってのはよォ!!」
(ッ!?まず、このままだとオレが潰れ・・・・)
男がなおも叩き潰そうと押し込んでくる拳の威力は、初撃から下がるどころかさらに上がった。
ショウの拳は既に開かれており、掌でそれを押し返そうと耐えている。
血が吹き出し、荒れ狂う大気の摩擦でジリジリと肌が焼けているのがわかる。
「あぁ!?不意打ちで終わるのかよつまんないぞ!?」
(バッ・・・カいうんじゃ・・・・)
つぶれる。
それをショウが覚悟した瞬間
「――――凶」
「あん?」
「斬りッッッ!!!」
バガガガァァァッッッ!!!
巨大な大剣が男の肥大した腕に叩き込まれ、「凶」の字に血が流れ出た。
同時に大男は下がり、ショウが掌を震わせながらしゃがみ込んでしまう。
「おい、大丈夫か」
「は・・・まさか助けてくれるとはな」
「相手の力をギリギリまで見てた。あれはまずいぞ」
膝立ち状態のショウの隣に、クラウドが立つ。
「凶斬り」の威力から見て、あの出血量は少ない。
見ると男の左手、手刀部分が赤くなっていた。
恐らくはとっさにあそこで凶斬りを受けたのだろうが、咄嗟がゆえに受け切れなかったというところか。
「お前は・・・・」
「攻撃こそ最大の防御!!攻撃は最大の手段!!俺の受けたのは「攻撃の完全」だ!!全部ぶっとばしてやるから、なんでもこいやぁ!!」
笑いたくなるような戦術。
しかし、それを可能にしてしまうほどの出鱈目な攻撃力。
二人掛かりでも構わんと、男が肩を構えてタックルで突っ込んでくる。
「行くぞ。その手、大丈夫か?」
「誰に言っていんだ・・・誰に!!」
「グルぁあああああ!!!」
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「まずは第一段階「接続」までの時間を稼げ。それが終われば後はもういい・・・のだが」
「何する気かは知らないけどさ・・・・これ以上何かできると思ってんのか?」
セルトマンの前に、蒔風が立つ。
だと言うのに、セルトマンは顔を蒔風に向けながらも、足元に何やら赤い液体をばら撒き魔法陣を描いている。
「止めるの?面白いものが見れるんだけど?」
「面白いのは好きだが、お前を止めないといけないんですよオレは」
冷静そうな口調をしているが、明らかに芝居がかっている。
飛び出してくる激情を、ふざけた態度で塗りつぶそうとしているように。
「ふむふむ。アライアはやはり直枝理樹の所か。オフィナの相手は・・・・まさかあの二人が組んでるとは驚き」
周囲を見渡し、それでも作業をやめないセルトマン。
だが、ガシャン!と言う音と共にその作業は中断を余儀なくされた。
「こっち見て話せ」
見ると、蒔風がその手に何かを持っていた。
手っ取り早く言うならば、それは手裏剣だった。形は矢じり型。
蒔風の投げたそれが、魔法陣を描く液体の入ったビンを砕いたのだ。
液体は地面にぶちまけられるよりも早く空中に霧散し、跡形もなく消えて行ってしまう。
「・・・・・・」
「お前に用があんのは俺だ。戦いたいなら相手してやるから――――やられる場所くらい自分で選べ」
「・・・そうか。そうするか」
「あ?」
「任せた。加々宮」
ドォッッ!!
蒔風の真下から、いきなり地面が噴出した。
蒔風はバックステップでそれを回避するが、土砂の中から伸びてきた腕に胸ぐらをつかまれて投げ飛ばされてしまう。
「く、の!!」
その腕を、蒔風は容赦なく脇下の朱雀を抜いて、槍にして切り落とした。
ボトリと相手の右腕が地面に落ち、しかし相手の悲鳴も唸り声も聞こえてこない。
当然である。
その相手はなおも「右腕」で蒔風を殴りつけ、更にセルトマンとの距離を取らせたのだから。
(斬った瞬間再生・・・?ってことは)
蒔風はその攻撃に少し顔をしかめ、それでも余裕そうにその部位をさすって軽く睨む。
「お前か」
「お~う俺だ。フロニャルドではよくも串刺しにしたなコラァ」
セルトマン曰く加々宮――――その男が、蒔風に中指を立てて挨拶をしてくる。
蒔風がチラリと地面に落ちた右腕を見ると、それはすでに塵芥へと崩れてなくなってしまっていた。
他の二人の戦闘の会話も聞こえてくる。
こいつらは基本スペックもさながら、更に突出した能力をそれぞれ備えている。
そのなかで、この加々宮という男の能力は
「再生だったか」
「そう!俺の完全は「回復の完全」!!絶対に死なないし、殺されない!!だからあんたにだって――――!!」
ダンッ!!
「負けない!!!」
加々宮の正拳突き。
それを蒔風が掌で逸らして受け、懐へと飛び込んでいった。
その手には、円刃に組み上げられた龍虎雀武が。
腕を軽く振るって高速回転させたそれが、高音を発して加々宮の腹部を斬り裂いた。
「ゴふっ!?・・・っだぁ!!」
「フッ、ッとぅ!!」
男が口から一気に吐血し、蹴りを放って蒔風が退避する。
しかし、吐血している状況とは裏腹に男の顔色に変化はない。
「ごほっ、か――――べっ!!」
一回咳をしてから、喉に溜まった血を吐き出す。
様子からして、身体の機能として血は噴き出したが、痛みは無いようである。
「さっすがにつえー・・・・やっぱこないだのは完全に敵だと思ってなかったか?」
それはある。
口に出さず、それでも蒔風は胸中でその質問に返答した。
あの時の加々宮は蒔風にとって、あくまでも戦興行に乱入してきた男という認識だった。後から向かうべき場所が出来たので、構っている暇もなかった。故に全力など出すはずもない。
対して、今のこの状況で蒔風は手を抜かない。
攻撃は確実に相手を倒す範囲内。
神経を尖らせ、手を抜いた戦いはしていないはずだ。
だと言うのに
(受けた右手が・・・・やばいな)
相手の腕を横から押し出すように逸らした右掌。
そこの皮がうっすらと剥け、血液がしたたり落ちていた。
直接触れたわけではない。
あくまでも逸らすための軌道誘導なので、添える程度に出した手だ。
だと言うのに、その拳圧で掌の皮が向けたのだ。
(痛みも感じず、超再生能力。それでこの威力ってことは、身体のリミッターでも外してんのかこいつ)
推測、推論。
蒔風の頭はすでに回り始めている。
「・・・・よかった」
「あん?」
「あっちの超攻撃力とか、超硬度の肉体とかより、お前の方がよっぽど楽に倒せる」
蒔風がまっすぐに加々宮を指さし、堂々と宣言する。
見栄かハッタリか。
しかし、その言葉は加々宮のプライドを確実に傷つける。
「力の上下とか強いか弱いかじゃなくてな、攻略法が立てやす過ぎんだろ、それ」
「・・・・・まさかとは思うけどよ、細胞残らず焼き尽くす、だとかいうものじゃないだろうな?」
「わかるか?それも一つだ」
「は、無駄だ」
自信満々に言う加々宮が、蒔風の言葉を鼻で笑う。
親指を下に向け、バカにするようにあざ笑う。
「すでに実験は済まされてんだよ。全身焼失実験も、圧力縮小実験もすでに結果は出ている。様々な手段でこの肉体を崩壊させようとも、その結果はごらんのとおりだ」
これが結果さ、と言わんばかりに、自分の身体を誇示する加々宮。
「人間の体は100%を出せないようになっているが・・・俺の肉体のリミッターはそれの12倍まで跳ね上げることが可能。オフィナは自分が最強だとか抜かしてるがな、あんな力だけのノータリンじゃあ意味ねェンだよ!!」
傷つけられたプライド分の激昂を吐き出すように、加々宮は蒔風に向かって罵声を浴びせる。
だがそれを聞いて蒔風は、更に口角を上げ、穏やかににっこりと笑った。
非難の嘲笑でもなく、哀れむものを見る冷笑でもなく、感情の高ぶりからの喜笑でもなく
それは、子供に向けるかのような優しい笑顔で
「それで?」
短く、優しく、問いかける。
ブチン、と
加々宮の脳内で何かがキレた。
瞬間
「やってみなきゃ、わからない(パチン)」
蒔風が指を鳴らすと、足元から獄炎が噴き出して加々宮の全身を、細胞の一つすら残らず焼き尽くした。
「ちょろい・・・・さ、その大層な完全と俺の獄炎、どっちが強いのかな?」
ポケットに手を突っ込み、楽な姿勢で立って蒔風が、吹き上がっていく炎を見上げる。
「にしても、あちー・・・・」
蒔風が、遠くのセルトマンの方へと視線をずらす。
セルトマンもそれに気づくが、こちらを見て笑うばかりで―――――
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「む、あれで加々宮をやったと・・・違うな。倒せようとどうしようと、再生までの時間でこっちに来る気か」
セルトマンは焦るわけでもなく、冷静に自分の状況を見定めていた。
そして結果
「まあ加々宮に任せればいいか」
自らの依然として優位な状況を疑わず、黙々と作業へと戻って行った。
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セルトマンと、その四人の仲間の最後の一人。
フロニャルドで観鈴の衝撃波を回避し戦闘を最後まで続けた、性格の軽い青年。
彼はあの時と同じように観鈴を相手にしようとして―――――
「いかせねぇよ」
鉄翼刀に捕まっていた。
「EARTH」ビル正面をオフィナが襲撃したので、その姿を見失いそうになった青年―――フォンは、それでもあっちの方かと歩を進めて観鈴の方へと向かっていた。
あの中で彼女を見失わないのは、彼がもつ完全が故。
だが、その途中に鉄翼刀が立ちふさがったのだ。
そして今、どうしても相手にしなければならない状況らしい。
「そこどいてくれないかなー?」
「断っとく。どうせろくなことにならないだろ」
「困ったなー」
困った、と言う割には、フォンは別段そう言った感情を抱いていない。
この男は、観鈴自身にそう固執する理由がないからだ。
オフィナは、自らの攻撃力をぶつける、同じく高出力の相手を選んだ。
同じようにアライアも、自分の能力と同じ相手を。
加々宮に関しては、フロニャルドでの借りを返したかったのだろう。
対して、このフォンにはそれがない。
観鈴のもとに向かったのはただ単純に、彼女が残った翼人であること、フロニャルドでのやり取りに一応決着をつけておこうと考えたからである(そこまで大きな考えではなく、こうしておこうかな、と言う軽いものだが)
セルトマンからは自分の邪魔をさせないように指示されてはいたが、強い上下関係にあるわけではないのでそこまで命令を重要視していない。
たとえ無視しても、彼なら大丈夫だという確信がある。
それほどまでに、あの男は強い。
全員が無視したらさすがにまずいが、自分一人くらいは――――と、軽く考えているのだ。
なので、このまま目の前の男を相手にしてもいい。
別の選択肢を選べるのなら、様々な攻撃をして来れる北郷一刀の方が狙い目だったのだが――――つまるところ、男が困ると言うのはそう言うことである。
「君じゃ、つまんないんだよね」
「ァんだと?」
「だって使うのは刃幕とその武術でしょ。変則的な衝撃波とか、多種多様な攻撃方法に比べたら見劣りするかなぁ~」
ヒュボッ!!
「~って思ったり・・・・」
「で?」
二人の間の会話が止まる。
翼刀の手にはヴァルクヴェイン。
フォンの頬には、うっすらと切り傷が。
そして、数本の髪の毛が散る。
刹那の時を置いて、フォンの背後から樹に刃が突き刺さる音がしてきた。
「もういっぺん言ってみろ」
「・・・・へぇ」
ニヤリとフォンが笑う。
おもちゃを見つけた子供が、その遊び方を理解したかのように。
「てめぇは俺がブチのめす」
「そう?無理だと思うな~?」
翼刀が、弾けるように一回転してヴァルクヴェインを振った。
横一線に振られた剣からは、その一線だけではない刃幕が一気に溢れ出してきた。
全てを覆う刃の壁。
それが音速を超えてフォンへと飛来し、その一帯の地面を吹き飛ばしにかかった。
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「こんなもんか」
加々宮を獄炎の炎で焼きつくし、蒔風がセルトマンを見据える。
あの男の自信からして、恐らくこの状況でも再生できるのは間違いないだろう。
だが関係ない。
全身を焼き尽くしているのだ。その再生が済むまでの間に、セルトマンの儀式を止めればいいだけの話。
一瞬、セルトマン視線が交差する。
そして、一歩踏み出した時、蒔風はその視線が自分の一歩後ろに向けられていることに気付いた。
ザァッ・・・・
「言ったろ」
「!!」
「無駄だと」
蒔風の背後から、腕が回されて首元にナイフが当てられていた。
足の力を抜き、崩れ落ちるように倒れる蒔風。
直後、ナイフの首を掻っ切る動作は、何もない空間を通過して行った。
地面を転がって、膝立ちのまま身体を返して背後に向かう蒔風。
そこには、惜しそうな顔をして加々宮がナイフを指で弾いていた。
「焼き尽くそうが、俺は死なねぇよ」
(・・・・再生場所まで自由自在か・・・・・)
セルトマンがあの時見ていたのは、無数の塵が集まって再生して行く加々宮の上半身だったのだ。
もしもあの視線がなければと思うと、蒔風が首元に手を当ててゾッとする。
同時に、確信した。
あのアーヴ・セルトマンと言う男は、本当に自分たちを戯れ程度にしか考えていない。
だからこそ、こちらにヒントを与えるような真似までしてくる。
簡単に終わってくれるなよ、と。
「上等だ」
湧き上がる劇場から、ブチブチと草を握り、土を少し抉り取って握りしめる蒔風。
ユラリと立ち上がって、加々宮に向かい合う。
「面白れぇ。焼き尽くすよりも、もっと面白い倒し方してやるよ、お前」
パラパラと握っていた物を落とし、パチンパチン、と軽快に指を鳴らしてから、人差し指でクイクイと誘いをかける。
「来いよ。まずはお前からだ」
地面が盛り上がり、蒔風の周囲を土が跳ね回る。
幾つかは柱のように隆起し、幾つかは浮き上がってすらいる。
加々宮はそれに対してもニヤリと笑い、蒔風への攻撃を開始した。
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「まったく、みんな好き勝手して・・・・・っと」
その中で、セルトマンは自分の作業を進めていた。
新たに取り出したビンから流れ出る液体は、間違いなく血液のそれだ。
しかも、それには魔力が込められているのかうっすらと発光している。
地面にそれを垂らしても、吸い込まれることなくその上でテラテラと形をとどめていた。
その魔法陣は、あと八割で完成する。
セルトマンが最も多く描いた言葉は「chalice」
完成すれば、詠唱一つで起動する。
「そうすれば、第二段階の入り口だ」
さっきまで晴れていた空はいつの間にか曇天の空へとうつっていた。
まるで、世界がこの舞台をセッティングしているかのように。
昼間だと言うのに薄暗いなか、セルトマンの身体はその魔法陣からの発光に照らされており
下から照らされたその顔は、不気味に笑っているようにも見えた。
to be continued
後書き
さて、各人戦闘が始まったわけですがどれもこれも厄介な相手です。
名前のおさらいと先出ししておきますと
オフィナ、アライア、フォン、加々宮ですね。
誰がどの能力かは、フォン以外は一応説明済みです。まあフォンもわかりやすいですけどwwww
性格としては
オフィナ・・・おらぁ!ぶ っ と ば し て や る よ !!(イケイケオラオラ)
アライア・・・はは!さて・・・どうだ!?(挑発紳士)
フォン・・・どう?これで行くかなぁ~?(性格軽め)
加々宮・・・てめぇぶっとばすからなごらぁ!!→なめんじゃねぇよ・・・・(キレ気味→冷静ギレ)
みたいな。
セルトマンは、この四人の能力をすべて持っている、というわけではないです。
しかし、それでもこの四人よりも強いとされています。
いったいどういう力なんだ~~~
そして、謎の儀式とは?
最後に出てきた英単語を調べると・・・・
おっと、これ以上はネタバレ。
もう出せないと思ってたあんな人こんな人が出せるような場面に!!とだけ言っておきます。
では、この辺で
蒔風
「次回、各々苦戦」
ではまた次回
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