世界をめぐる、銀白の翼
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第六章 Perfect Breaker
雨 降って
数週間前
ワルプルギスの夜討伐を終え、魔法少女たちを解放してから数日後
時空管理局地上本部
上層階に存在する、光の指さない一室。
その部屋の扉が開かれ、スーツを着た男が入ってきた。
時空管理局上層部から直接の、それも正式な呼び出し。
それに応じて、「EARTH」局長・蒔風舜はやってきた。
部屋が締められると、まったく中が見えない。
しかし、蒔風は不安になることもなくその部屋の中心(と思われる)方へと足を進める。
そしてある程度進むと止まり、後ろに手を回して待つ。
しばらくして、モニターが出現して会話が始まった。
『今日は急に呼び出してすまないな。蒔風局長』
「いえ。しかし、なぜ呼び出されたのか心当たりがないのですが」
お互いに丁寧な口調だが、それには多少挑みかかるような含みがある。
時空管理局と「EARTH」は協力する間柄ではある。
だが、それを良しとする人間だけとは限らない。
設立されてから永らく世界の平和を担ってきただけの実力とプライドを持つ管理局からすれば、「EARTH」などは新参者だ。
それがここ数年でここまで実績を伸ばしてきたことを快く思わないのだろう。
今回蒔風を呼び出した声の主達も、そんな一派の人間である。
対して蒔風自身はと言うと、管理局自体に悪印象を持っているわけでは無い。
「EARTH」も確かに様々な事件を解決してきたが、それは事件の規模の大きさでそう思えるだけであり、実際の所は「平和の砦」というイメージは断然時空管理局が強い。
ゆえに、時空管理局に対抗意識もないし、協力すべきところは必ずしもある。
だが、全面的に信頼しているかと言えばそうではない。
内情をすべて知るわけではない蒔風からすれば、同じ時空管理局だとしても「何かある」と思ってしまうのはしょうがないのだ。
ともあれ、今回の話を進めていく。
蒔風にはスポットライトのようなものが真上から当てられ、部屋の一番強い光源になっている。
その周りを、高さ二メートルちょっとあたりの場所に三つほどのモニターが浮いている。そこには人物像が映し出されているが、モニターの不調か、それとも最初からそのようになっているのか顔ははっきりと映っていない。
「ワルプルギスの夜に関する事件ならば、報告書にまとめて提出したはずですが」
『そのことは・・・いや、一応関係はあるか』
『あの報告書は実によくできていたよ。現状は良くわかっている』
「では、ほかになにか?」
ワルプルギスの夜襲撃に一応関係がある、と言いながらも、報告書に不備はないという。
ならば、彼らは何を聞きたいのか。
『この魔女・・・・ワルプルギスの夜とやらは、以前にも出現しているらしいな』
「ええ」
『報告書によると、ミッド市内で行われたインターミドル・チャンピオンシップの会場だった』
「それ以前にも出現した可能性は否めませんが。しかし、その存在はすでに消滅しました」
『うむ。確かにそうあるな』
『魔女と言う存在が消え、代わりにマジュウとかいうものが存在するようになってしまったらしいが?』
報告書を手に、男がその内容を読み上げる。
魔女は消え、その因果から解き放たれたとはいっても破壊された見滝原一帯の街はそのままだった。
全てがなくなったわけではない以上、見届けた「EARTH」はそれをまとめる必要がある。
そして、それを時空管理局にも渡していたのだ。
事実、魔法少女たちに真実を伝え、彼女らのソウルジェムを集めるには時空管理局の力がなければ不可能だった。
『信じられんな。14歳の少女がまさかこのようなことを為すとは・・・・』
「待ってください。マジュウ出現は彼女たちの責任ではありません」
『ああわかっている。そのことを言いたいのではない』
ピ、という短い音がして、新たにモニターが出現する。
そこには、襲撃されたインターミドル・チャンピオンシップ開催会場の映像が流れていた。
だが、そこを襲撃しているのはワルプルギスの夜ではなく巨大なマジュウだが。
『君の言う話では、この襲撃もワルプルギスの夜のものらしいが・・・・』
「報告書を読んでいただければわかると思いますが・・・・」
『ああ。改変され、全時間軸の魔女が消えたのだろう?よって、あまりに大きな自体はこのようにして残ってしまったと』
実際は違う。
あのワルプルギスの夜の襲撃がなければ、翼刀たちは見滝原に行ってなかったし、その結果としてまどかたちは最悪の末路を辿っていた可能性もあった。
こうして、ある種のタイムパラドックスから来る因果律が、このように事実を変えてしまったのだ。
事実、これ以外のワルプルギスの夜が原因とされた大災害と呼ばれたものは、全て消えていたのだから。
しかし今そのことを言ってもしょうがないので、蒔風は相手が理解しているように理解すれば良いとして、先に話を進める。
「いい加減、話を本題に移してもらえませんか。自分も暇ではないので」
『異世界との交流企画をしているんだったかな?』
『時空管理局からも、八神君が出ているそうだな』
『おぉ、彼女ならば華になるな』
「お三方」
勝手に盛り上がる三人に、蒔風の一言が止めにかかった。
珍しく、蒔風が苛立っていた。
この三人の会話は、こうしてみると朗らかなものだがその言い方が明らかに臭いのだ。
そう、まるで「この話をしたら彼がかわいそうだよ~」と、解っていて出し惜しみする、ある種の嫌味に近い雰囲気。
「早く話を進めていただけないか」
『・・・・ふむ。ではこれを』
口調もさらに強くなり、モニター内でさらに映像がいくつか映し出される。
『君たちは会場の観客避難を誘導させるために、その使い魔を使用したそうだな』
「あれだけの広範囲をカバーするのに、自分たちだけではどうしても手が足りなかったんで」
蒔風の記憶内ではワルプルギスの夜とその使い魔を撃退していたはずだが、映像内では魔獣を相手にしている。
そのモニターには蒔風と七獣が映されていた。
「まさか今ごろ、あいつらを調べさせろなどと言うわけではないでしょうね」
『そんな話ではない。問題はこっちだ』
そして、蒔風たちの映像が消されて映し出されたのは
「・・・そういうことか」
『そう。彼は確か「EARTH」の副局長だな』
蒔風ショウと、その使役獣である三体の魔獣の姿が映されていた。
「彼とは皆さんも会っているはずですが」
『ああ、何度かうちにも来ていたからな。だが、その時は気づかなかったよ』
そうして、更に映された映像には数年前の事件が。
倒壊し、炎上する地上本部と、ケルベロス
そしてそれを切り倒したサラマンドラ
浮上したゆりかごの周囲を飛び交う迦楼羅
それらそれぞれを比べつかのように、今回の映像と並べられている。
『当時の彼は、姿のはっきりしない・・・・「奴」だったかな?』
『この映像に映っている獣と、今回の使役獣。一体はわずかに形状が違うようだが、同じものだろう』
『答えてもらおう、蒔風局長。彼は、数年前のJ・S事件においてゆりかごを強奪し、我々に牙を剥いたものと同一人物か』
『当時の報告書には、主要人物なる者を殺害し世界を食らう、とあった』
『君はそんな犯罪者を、副局長にしたのかね』
内心
蒔風はついに来たか、と思っていた。
ショウのことをよく知る人間ならば、もはや彼がそう言うことをする者ではないことはわかっている。
だが、その過去はどうあっても消せるものではない。
彼が数多くの人間に刃を向け、その命を脅かし、世界を崩壊させようと目論んでいたのは事実だ。
現在の「EARTH」の中にも、少ないとはいえ彼を警戒する者はいないわけではない。
その現状を、ショウ自身もすべて知ったうえで、必要あらばその償いはすべてすると言ってもいる。
だが、蒔風はそうではない。
ショウはもう十分に苦しんだ。
もはや望んだ自分の世界は戻せず、自らそれを破壊し、喰らい、消滅させた罪の意識に一生苦しむことになるのだろう。
自分が復活した時、ショウは縋り付き涙した。
その涙を、蒔風はいまだに忘れられない。
別人とはいえ自分自身だからだろうか。
蒔風はその苦しみと悲しみを、肌で感じていた。
もしここで彼を連れてこい、と言うのであれば、ショウは表情一つ変えることなく来るのだろう。
そして糾弾され、ショウはそれを黙って受け入れるのだろう。
「待ってください。彼はもはやあの時の「奴」ではありません」
『確かに、見た目は大きく変わった。どことなく局長に似ているし、顔つきもいい』
『だがそういうことを言っているのではない。我々が言いたいのはそのような犯罪者を重役に据えて貴様は責任が取れるのか、と言うことだ』
「お言葉だが、時空管理局も前科のある者を引き入れているのでは」
つい口から出てきた言葉だが、同時に心が痛む。
心で謝りながら、まっすぐに正面を見る。
「特殊部隊に、執務官、司令官。かなりの重役だと思いますが」
『それはいい。彼女らは罪の清算をすでに終えている』
『だが君はそう言った事実を報告するでもなく、彼を別人としてそのポストに入れた』
「彼が危害を加えた人間はすでに彼を糾弾する気はありませんし、最も被害をこうむった自分も彼を責めるつもりはありません。これ以上の彼に対する罪状はもうないと思われますが」
蒔風自身、行っていることが稚拙な言い訳であることはわかっている。
彼等が言っているのは、要するに「けじめをつけろ」と言うことなのだ。
だが、蒔風はこれ以上ショウを攻め立てるようなまねはしたくなかったのだ。
"LOND"に唆され、自らを見失い世界を破壊し、そしてそのすべてを失ってしまった青年。
それを取り戻すためだと言う妄執に取り付かれ、世界を渡った狂人。
一歩間違えば、もしかしたら自分がそうだったかもしれない。
蒔風は、どうしても彼を犯罪者だと言い切ってしまうことが出来なかった。
『局長。何も我々は彼を牢につないでその贖罪をさせようというわけではない』
『だが、何もしないというわけにもいかない。それくらいはわかっているだろう』
「だけど・・・あいつは・・・!!」
『そして、それを黙っていた局長にもその責任はある』
「・・・・・・」
『これは時空管理局からの正式な通達だ。無論、「EARTH」は我々の下でも上でもないわけだから、君はこれを跳ね除けることができる』
『しかし、この問題をどう解決するべきかは君自身が最もよくわかっているはずだ』
「・・・・だったら・・・・・それは俺一人でいい」
------------------------------------------------------------
病室
はやてたちにその話を終え、蒔風がため息をつく。
「ま、つまりそう言うこと。俺の十五天帝の内八本・・・・風林火山と天地陰陽は時空管理局に保管されている」
理樹たちは絶句するしかなかった。
まさか今更になって、ショウのことがそんな形で取り上げられるとは思ってなかったからだ。
彼等からしたら済んだ話かもしれない。
だが、そうはいかないのがこの世界という物だ。
「誰かがどこかで責任を取らなきゃいけないんだ・・・・あいつにそれをさせるわけにはいかねぇよ」
「舜君・・・・そのオッチャンたちの話、私聞いたんよ」
「ん?」
「『これで「EARTH」の生意気な若造も少しは黙りましょうな』って!!舜君!ホントに良かったんか!?これで!!」
「あっちがどう思おうと、そう言った思惑だろうと、事実ならしょうがない。反論できなかったんだ」
理屈、屁理屈どちらであろうと、反論できねば正論。
そう挟持する蒔風からして、言い返せなかったのだから相手に従うしかない。
蒔風も言っているが、今度ばっかりは相手の言い分が正しすぎる。
「にしても、そのタイミングでこの事件だもんなぁ・・・・困った」
「困ったってもんじゃないと思うけど・・・・」
「時空管理局側も永久に、ってわけじゃないらしい。有事の際には返してくれるとさ」
「そんな言葉信じられるん?」
「信じるしかない、ってのが現状だがね」
さて、この話は終わりだ、とでもいうかの如く、手を叩いて切り替える蒔風。
それよりも、今回の事件の首謀者だ。
「遠坂さんの話だと、生まれた時からの封印指定の魔術師っているのは結構いるみたいだね」
「俺もバゼットさんから聞いた。家柄だとか、遺伝だとかで受け継ぐ魔術やら魔眼持ち、って言うのは最初からマークされてるんだって」
「その線からの身元割り出しは難しいか・・・・?」
「でも数人には絞り込めた。その中から、一番今回の首謀者に近いのは・・・・・こいつ」
ぱさ、と蒔風のベッドに一枚の書類を置く。
そこに記されたのはある男の情報。
名前:アーヴ・セルトマン
「・・・・だけ?」
「後は一応顔写真なんだけど・・・・」
「・・・違うな」
「うん。写真の男は金髪だけど、僕らがあったのは黒髪だった。顔も違う」
「染めたか、魔術で外見を変えていた?」
「それはないと思うぜ。効かないもんからいろんな攻撃したけど、全然ブレなかったし」
蒔風の推測を、一刀が打ち消す。
「じゃあ・・・・じゃああの男は・・・・本当に何者なんだ・・・?」
------------------------------------------------------------
翌日
蒔風の怪我もだいぶ癒え、七獣も八割がた回復した。
十五天帝として彼等を収納し、腰と腕の軽さに違和感を感じながら、光と共に消す。
んー、と伸びをし、そろそろこの部屋大きくしないとな、と考えていると、部屋の扉がいきなり開いた。
「おい蒔風!!」
「ん?」
扉を蹴破り、一気に蒔風へと掴みかかっていくのは、ほかならぬショウだ。
額に青筋を立て、噛みつくような勢いで蒔風へと怒鳴った。
「てめぇ十五天帝管理局に渡したってのは本当か!!!」
「だれから」
「八神だ!!お前どういうつもりだ。この俺を護ったつもりか!!えぇ!?」
「・・・・・」
ショウの言葉には、正真正銘の怒りしかなかった。
それはそうだろう。
自分の罪のために蒔風がその戦力を手放し、しかもそれが庇ったような形で為されたというのだから。
「いいか・・・・オレはテメェに守ってくれなんざ一言も言ってねぇ!!」
「ああ、だから俺が勝手にやったんだ」
「ふっざけんなよ・・・・俺はお前に守られなきゃならねぇ程落ちぶれちゃいねェンだよ!!!」
「ああ・・・・知ってる。だが」
「俺がかわいそうってか!?みじめってか!?こうされる方が・・・・よっぽど可哀そうで惨めなんだよ!!」
「俺は!!お前がこれ以上」
「いいんだよ!!なんでお前が負い目を感じてんだよ!!ふざけんな!!俺を知った風になってんな!!」
「だが」
「るせぇ!!」
ブンッッ!!
一気に言うことを吐きだし、蒔風を外に向かって投げ飛ばすショウ。
大きなガラスはいとも簡単に砕け散り、蒔風はそのまま宙に放り出されていってしまう。
そしてそのまま落下し、下の池に思い切りたたきつけられて落ちた。
「がほっ・・・ゴホ、ゴホッ・・・なにを」
池から這い出て、むせる蒔風。
下半身がまだ池に使っている蒔風の目の前に、ショウが飛び降りてきて胸ぐらをつかむ。
「お前に同情されると腹が立つんだよ!!俺のことあんだけ間違ってるっつって何度もやったくせに、ここにきて同情かよ・・・・だったら最初から殺されてろよ!!」
「なんだと・・・・!!」
「今更後悔してんなら、最初から殺されてりゃよかったんだ!!だがな」
「だがそれは正しいことではなかっただろうが!!」
「ああそうだよ・・・お前は正しかったんだよ!!」
「・・・・・は?」
「お前は正しかった。そのことをお前が負い目に感じてどうすんだ!!いいか、俺はお前が殺されてくれなくてよかったと思ってんだよ!!」
「・・・・・・」
唖然としてショウを見る蒔風。
完全にキレている。が、その言葉は蒔風を威圧する者でも罵倒するものでもない。
「お前は勝った。最後までな!!結果オレは間違えないで済んだんだ。お前、それが無駄だったと思ってんのか!?えぇ?答えろよ!!!」
「・・・・そうだな」
「あ?」
「わり、どうかしてた」
「・・・・ッ、たく。バカかってんだテメェは」
「バカとは心外な。アホと言え」
「今回ばかりはテメェはバカだよ。「蓋」とれて弱気になってんじゃねーよ」
「・・・・かもな」
ざばっ、と池から完全に出て、大の字になって転がる蒔風。
その蒔風を放るように放し、ショウもしゃがむ。
「あー・・・・言われるとすぐに弱気なっちまうんだよなぁ」
「ふん・・・同じオレなら強く生きろっつったのはどこの誰だよ」
「わりーって」
静かな会話を二言、三言し、ふと空を見上げる。
静かな夏の空。
遠くでは入道雲がむくむくと育っていた。
「なあ・・・・俺やっぱいま弱い?」
「たりめーだ」
「じゃあ・・・・・またなったら頼むわ」
「断る」
「えぇ~・・・・」
「だが」
「?」
「そのいけ好かねぇツラは、いつだろうといくらでもぶん殴るってやる」
「・・・・プ」
「――――似たような顔だと気味がわりーんだよ!!それがしょぼくれた顔ならなおさらだ!!形変わるまでぶん殴ってやる!!!」
「じゃあ・・・・俺より先に死ぬなよ」
「おーおーそのつもりだ。おめーが先に死んでその面二度と見なくていいようにしろ。あとな、まだ勝手にやったこと許してねーから」
「どうすりゃいいのだ」
「何があっても、諦めんじゃねぇ」
数秒の空白
そして、ため息。
言いたいことを言っただけ言って、ショウはそのまま去ってしまう。
嵐のようにやって来たかと言えば、何事もなかったかのようにいなくなってしまった。
蒔風が頭に手を回す。
身体を乾かすには、夏の日差しでも流石にまだ時間がかかる。
「もう少し、のんびりするかね」
そうして、目をつぶる。
遠くの積乱雲から、ゴロゴロと音が聞こえてきた。
to be continued
後書き
ダブル蒔風のケンカ。
なんかいい感じ。
しかし書いててこっぱずかしいなこいつら。
というかホントにショウと「奴」て同一人物だったのか疑いたくなるくらい別人だな。
まあ元々がこんな感じの青年だったんだが・・・
どうしよう。主人公よりもイケメンすぎる。
あ、だから人気投票(過去実施したもの)ぶっちぎりなんだな。
蒔風
「やめろォ!!そのことは言うなァ!!へ、へへ・・・あ、あのころは「奴」だったからな。ショウの今ならきっと」
じゃあやるか?第二回
蒔風
「今回は勘弁してやる」
この小物が
そろそろジンワリと日常編も終わらせていきます。
ではまた次回
ページ上へ戻る