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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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憂いの雨と陽への祈り
  嫉妬の炎

 「うーむ……」

 前を歩く2人を眺める。 そこにいるのはユーリさんとシィさん……ではなくユーリさんとアマリだ。
 アマリがユーリさんにのべつ幕なしで話しかけている横顔と、それを受けてげんなりしながらも応じている2人。 その取り合わせが僕の心にさざ波を立てていた。

 「ふーむ……」

 さて、ならばどうしてこうなったのかを紐解いておこう。 以下回想。

 『私はユーリちゃんと先頭に行くです』
 『え?』
 『は?』
 『ほい?』
 『ほら、行くですよユーリちゃん』
 『おい待てわかったから尻尾を引っ張るんじゃねえ! っこら耳ならいいってわけじゃねえぞ!』
 『…………』
 『…………』
 『あでゅー』
 『だから引っ張んじゃねぇ!』

 回想終了。 と言うか、わざわざ回想を挟むまでもない。
 どう言う理由でかはわからないけどアマリがユーリさんとの先行を希望し、ユーリさんがそれに従っただけのこと。 僕とシィさんに制止の隙などなかった。

 いや、2人1組で前衛後衛を分ける意義はわかるんだ。 ここの通路は狭いし、連携も稚拙なこの4人でチーム分けもせずに進むのは些か無謀だと思う。 そこはいい。 それはわかる。
 だけど、だったらチーム分けは僕とアマリ、シィさんとユーリさんになって然るべきだ。 と言うか、それが最も安全で最も安心できる組み合わせのはずなのに……

 「むーふ」
 「嫌なら嫌って言えばいいじゃん。 何を遠慮してんの?」
 「別にー。 アマリがそうしたいって言うならそれを尊重するだけだし。 あんまり束縛するのも趣味じゃないだけだし。 って言うか、それを言うならシィさんこそ、嫌なら割り込んでくれば?」
 「嫌だけど、その分このクエストが終わったらユーリをいっぱいもふっちゃる」

 ムッと少しだけいじけたように言うシィさん。 その突き出た下唇が何とも味のある表情だった。

 「で、フォラスはやっぱ嫌? まあ聞くまでもないけどさ」
 「嫌って言うか落ち着かない? とは言え止める理由もないからなんとも」
 「本当は?」
 「すっごくやだ。 アマリの隣にいるユーリさんにムカついてる。 正直に言えばこのままぶん殴って麻痺させて回廊結晶で迷宮区に放り込みたい気分」
 「同感であります」
 「アマリに八つ当たりするの?」
 「おまいう」

 ごもっともである。

 「はぁ……わかってるんだよ。 ちゃんとわかってる。 これはいい傾向だとも思う。 アマリにどう言う意図があるにせよ他者に興味を持つのは言うまでもなくいい傾向だし、ユーリさんがその相手に選ばれた理由もなんとなくだけどわからなくはない」
 「うちの自慢のワンコですから」
 「ドヤ顔しないでよ……。 でも、でもさ、やっぱりこれはやだ。 アマリの隣に立つのは僕じゃなきゃやだ。 醜い嫉妬だってのは重々承知だし、そもそもこの組み合わせはアマリが望んだものだってのもわかる。 わかる、けど……」
 「ま、恋は理屈じゃないかんねー」

 にひひと笑うシィさんに背中を叩かれた。 僕からしたらどうしてシィさんが笑えるだけの余裕を保てているのか謎だけど、とは言えそんなことを口に出したら負けな気がして何も言えない。 我ながら何に負けるのかわからないけど。

 「ほんと、何考えてるんだか……」
 「フォラスにわかんないなら誰にもわかんないと思うよ。 後は本人のみぞ知るって奴?」
 「……本人に聞くべきだと思う?」
 「さあねー。 気になるなら直接聞けば良いんでない?」

 突き放すような言葉は耳が痛い。
 もちろんそれもわかっている。 こんなところで悩んでいないで本人に直接聞けば良いと言うのは非常に正論だ。 でも、それができるようなら苦労してはいない。

 僕のため息はきっとアマリには届かないのだろう。 僕の苦悩はアマリには理解されないのだろう。
 ニヤニヤ笑うシィさんの横顔が深く印象に残った。

 「ほんと、どうしようかねぇ……」

 答えはどこからも届かなかった。 だけど、僕はその答えを知っている。
 知ってはいるんだ。 できるかどうかは別にして……





 「索敵に反応! 前方から3、後方から4!」
 「前の敵は任せるです!」
 「じゃあ後ろの敵はフォラスに任せたー」
 「いやいやシィさんの見せ場は取れないよ」
 「どうでもいい押し付け合いをしてないでさっさと倒せ馬鹿ども!」

 ユーリさんの叱責に首を竦めつつ後方を見遣る。 実を言えば僕の索敵にも反応があったので驚くこともないけど、とは言えわざわざ真正直に索敵範囲と精度を教えてあげる必要もないので黙っていたのだ。

 さて、どうしたものか……。

 「ほれほれフォラス、いいところを見せないとアマリちゃんに愛想尽かされるよー」
 「その煽りは僕に有効だって知って口にしてる辺りがシィさんだよね……」
 「いけー殺れー。 私とのデュエルで手加減しまくってやがった罰だー」
 「あ、バレてた?」
 「あの全力疾走見せられたら気付くってーの」
 「じゃあシィさん、先行して撹乱よろしく」
 「うわ、こいつ人の話しを軽やかに無視してる」
 「撹乱はシィさんの十八番でしょ? 人の気分まで撹乱するのは玉に瑕だけど」
 「一言多い!」

 言いつつも短槍を構えて敵に向かっていくのだからちょろい限りだ。 人を煽ることが大好きらしいシィさんは、その実煽られ耐性が低いのかもしれない。

 狭い通路内でのエンカウントはこのダンジョンに来てから初めてと言ってもいい。 あることにはあったけど、その時は前後それぞれ分かれて戦闘に入ったので、連携なんて必要なかったけど……まあ、なんとかなるか。

 適当に締めた思考はそのままシィさんの腕に対する信頼と、それから僕の精神的余裕のなさだ。 正直、さっさと終わらせたい。

 初手の接触は押し付けたり役割通りにシィさん。 右手で保持した短槍の切っ先を現れた蟻型モンスターに向ける。 疾走の勢いそのままに、さながら矢か砲弾の如き突貫だ。 レベルの低い敵を交通事故に巻き込んだかのように粉砕すると、今度はその場で深く身を沈めて別個体の顎から逃れる。

 ふむ、さすがに視野が広い。

 「だぁくそっ! またこいつらかよ⁉︎」
 「あはーぶっ殺すのも飽き飽きしてきたですよー」

 背後から聞こえる2人の声から察するに、このモンスターがアマリとユーリさんが戦ったと言う無限湧きの蟻なのだろう。 狭い通路で襲われたのはこの場合、僥倖かもしれない。

 「シィさん、前に出過ぎないように気をつけてね。 集団戦闘の基本は同時に相手取る敵の数をいかにして少なく抑えるか……って、言うまでもないかな?」
 「もち」
 「よもぎ?」
 「ボケは私の仕事っ!」

 ズビシっと振り返って宣言するシィさんだけど、さてはてどうだろう? 少なくともこのクエストが始まってからのシィさんはむしろ綺麗なツッコミを入れてくれているシーンの方が多い気がする。

 真面目くさってそんなことを考えながら、僕もまた状況に介入した。
 先行しているシィさんに蟻たちの視線は集中している。 ここまで綺麗に敵愾心を集めてくれれば僕は仕事がしやすいと言うものだった。

 「肩、借りるよ」
 「あ、こら」

 戦場でぬるぬる動いているシィさんの肩に手を置き、そこを支点にしての蹴り。 もちろん非力な僕の一撃なので大したダメージはないものの、それでシィさんに向けようとしていた針による突き刺しをキャンセルさせる。 着地と同時にシィさんと蟻の一団との間に滑り込んだ。
 シィさんにのみ集中していた敵の視界に無理矢理入った僕に敵の動きが一瞬止まる。 その一瞬で追撃……ではなく、首を横に倒して射線を確保した。 と、刹那、その僅かな射線を的確に通して短槍が光芒を散らしながら目の前にいた蟻の右目に突き刺さる。
 成果を確認すると同時に醜悪な蟻の奇声を無視して突き刺さった短槍の柄頭を殴り、それを更に奥へと押し込んだ僕の追撃は殊の外効いたらしい。 予想よりも早く絶命して、その身をポリゴン片へと姿を変えてしまう。

 「あ」
 「なぁ⁉︎」

 勢い余って短槍が地面を転がり、残った2体の蟻の足元に転がった。

 「なんかごめん」
 「逝ってこい」
 「イエス、マム」

 シィさんの短い指示に短い返礼で返すと僕は隠蔽を発動。 完全に戦闘状態に入っている状況なので感知されなくなるほどの効果は期待できないけど、それでも困惑したように動きを止めた2体の蟻に踏み込むと、その足元から短槍を回収して、ついでにアッパー気味の掌打を放った。
 左腕に装備したガントレットが付与されているノックバック増大の効果を十全に発揮し、蟻の身体を僅かに浮かせることに成功する。 もう1体の蟻は元気にこちらを睨むので、回収した短槍を見様見真似で投擲してみた。

 「あれ?」

 けど、いかんせん不慣れだからか、それが蟻の身に突き刺さることはない。 ガィンと硬質な音を響かせてあらぬ方向へと飛んでいってしまう。

 やれやれまた回収か、と諦め気味に息を吐いたところで宙を舞う紅色が僕の視界の半分以上を覆った。

 「ヘイ、フォラス、ナイスパス!」
 「嘘でしょ……」
 「喰らい晒せ! 蹴り☆ボルクゥ!」

 信じ難いことに、飛んでいった短槍に先回りしたシィさんが宙空で身体を捻り、柄頭に痛烈な蹴りを入れたのだ。 それの軌道は綺麗に直線の尾を引き、僕が先程怯ませ、そして既に復活していた蟻の腹部に突き刺さる。
 その成果を確認するでもなく音と位置関係で把握した僕は、鞘に納めていた片手剣の片割れを右逆手で引き抜き、最後に残っていた蟻の脚を斬り飛ばす。 グラリと揺らいで低くなった頭部にその場で反転した勢いを乗せて逆手に握った剣を突き刺して完全に命を摘み取った。

 なお、この交錯の際はスカート姿のまま行われたものだけど、神の悪戯かシィさんの技量か、その中が覗けることはなかった。 非常に残念である。 ……ごめん、今のなし。

 「およ? フォラス、顔赤いけどー?」
 「気のせいだよ」
 「お、もしかしてパンツ見えなくて残念とか思った?」
 「まさか」
 「なんなら見る? 今ならチラッと見せてあげてもいいんだよ?」

 真面目な顔でスカートの裾を指で摘むシィさん。

 「……いい。 見ない」
 「にひひ、ちょっと悩んだっしょ。 このむっつりめ」
 「純情な男の子をからかうんじゃありません」
 「純情」
 「何か?」
 「いやー、べっつにー。 思春期エロガッパかって思っただけ」
 「エロガッパ……」

 何気ない一言に傷付いたのも束の間、アマリのいる方向から凄まじい爆発音……否、爆裂音が轟いた。 どうやら向こうも終わったらしい。

 「……結局、無限湧きはしなかったね」
 「されてたら面倒だからいいじゃん。 あ、フォラス的には時間稼ぎがしたかったとか?」
 「答えがわかってるなら聞かないでよ」
 「あっはっは、悩め悩め少年よー」

 朗らかに笑われてため息を吐くしかできなかった。 
 

 
後書き
 シィちゃんとフォラスくんが絡むとどうしてギャグになるのだろうか?←おい
 と言うわけで、どうも、迷い猫です。
 嫉妬の炎に抱かれて消えろ!とか叫びたい今日この頃、いかがお過ごしでしょうか? 燃えろー爆ぜろー、っつーかお前こそ楽しく浮気中じゃねーか、みたいな。

 さてさて今回のコラボ本編も残すところ後……2話くらい、かも?(弱気
 思えば長かったものです。 いや限りなく自業自得ですけどねw
 次の話は……どうなるのだろうか? 不安しかないけど乞うご期待!

 ではでは、迷い猫でしたー 
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