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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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憂いの雨と陽への祈り
  8時じゃないけど全員集合

 重い扉が地を擦る音を聞いて、ユーリは俯けていた顔を上げた。 特に何をするでもなく待ち構えることができたのは到着したのが誰かを正確に掴んでいたからだ。
 索敵スキルによって表示された光点はふたつ。 このダンジョンに現在いるのはユーリとアマリを除けばたった2人しかいない。 ならば考えるまでもなかった。

 そして現れたのは黒い髪をした少女と見紛うような顔立ちの少年だった。 先程まで走っていたはずだと言うのに悠然とした風を装ってボス部屋へと足を踏み入れる。
 グルリと部屋の中を見渡した彼は、ユーリを見ながらも意識に入れることなく、スヤスヤと寝息を立てる自身の伴侶のだけを見て小さく微笑した。 その隣にいるユーリを完膚なきまで無視して、だ。

 「まったくもう……」

 呆れたようにため息を吐いても、安心していることが丸分かりだった。
 ユーリから見れば唐突な睡眠だったが、夫婦としても相棒としても今まで共に過ごしていたフォラスがそれを知らないはずがない。 ならばその心配も仕方がないのだろう。

 小さな微笑のままフォラスはユーリの隣で眠るアマリへと歩を進める。 その眼中にユーリを入れないのは相変わらずだが、さすがのユーリもツッコミを入れる気にはなれなかった。 それだけフォラスの表情は安らいでいたのだ。
 そっとアマリの傍に膝を突き、微笑をそのままに柔らかな手つきでその桜色の髪を撫でる。 顔を近付け、一言だけ囁いてアマリの頭の下に自分の膝を滑り込ませた。 いわゆる膝枕である。

 「…………」

 小さな囁き声もユーリにはしっかり聞こえてしまう。 それでも聞かなかったことにできたのは、先程のアマリとの一幕があったからか。 さすがのフォラスも人狼スキルを知らないのだろう。 それを油断と言うのは酷だった。

 「へいユーリ、何があったの?」

 訝しげにフォラスの横顔を眺めていたユーリに気軽な声が掛かる。振り向くまでもないし、誰かを悩むこともない。 それはいつも聞いている幼馴染の声だった。

 「知らん。 あいつが突然寝ちまったんだよ」
 「寝たぁ?」
 「気になるならあいつに聞けよ。 教えてくれるとは思えないけどな。 で、そう言うそっちは何があったんだ?」

 そこでようやく自身の相棒を見上げたユーリはそこにあった向日葵のような笑顔に柄にもなく安心した。

 「こっちはまあ、クエスト? よくわっかんないクエストに巻き込まれた? いや、巻き込んだ?」
 「なんで疑問系なんだよ」
 「よくわかんないからね!」
 「なんでそこだけは自信満々なんだよ……」

 やれやれとため息を吐いたユーリの隣にシィがストンと腰を降ろす。 やはり気軽に気負いなく隣に座れるのはこの互いでしかないのだろう。

 「よくわっかんないんだけどさー、フォラスがいきなり『アマリ!』って叫んだと思ったら大疾走。 その直前にストレージ開いてたからこの事態を察したんじゃないかな? 虫の知らせって奴かも」
「虫の知らせ、ねえ。 つーか、あいつはあいつのあれを知ってるんだよな?」
 「知らないってことはないんじゃない? フォラスってかなり事前準備とか情報収集とか、そう言うの徹底してるっしょ?」
 「知ってて最前線に立たせてんのかよ……」
 「そこはまあ、私たちが口出しすることでもないんでね?」

 殊更突き放すような声音はそのまま彼女の優しさなのかもしれない。 触れて欲しくないだろう部分を巧みに回避する嗅覚はさすがと言えた。 相手をからかうことが大好きなシィだが、絶対に踏み越えてはいけないラインを考えなしに踏み越えたりはしないのだ。 もっとも、それは逆に、考えがあれば踏み越えると言うことでもあるが。

 「ユーリさん」

 と、そこでようやくフォラスがユーリに意識を向けた。 今まで無視していたことなど露ほども匂わせず、さながら今初めて気がついたかのような自然さで。

 「アマリのこと、ありがとね。 ここまで運んでくれたんでしょ?」

 その声は穏やかで、その表情は柔らかく、しかしその瞳に宿る鋭い光は怒りだろうか。 少なくとも言葉通りに感謝をしているようには見えない。 怒りを向けられる心当たりのないユーリは小さく首を傾げてみるが、やはり心当たりは見つからなかった。

 「で、どうやってアマリのことを運んだのかな? 背負ったの? 抱えたの? 引き摺ったの? もちろんどう言う手段であれアマリに触れたんだよね? どこに触れたの? 腕? 手首? 身体? どうやって触れたの? そっと? ぎゅっと? ぐっと? ねえ、答えてよユーリさん。 ねえ?」

 あ、これヤバイ

 とユーリが感じたのかはわからない。 だが、非常に微妙な気分になる追求だった。
 もちろん倫理コードがあるので疚しいことはなかった。 背負っての移動ではなく肩に担いでの移動だったので色めかしいことなんて一分として存在していない。 そもそも緊急事態ではなくとも異常事態ではあったので、そんな余裕があるはずもなかったのだ。 余裕があれば楽しむと言うわけでも断じてない。

 ユーリからすれば心外な話だ。 だが、同時にわからない話でもない。
 あるいはシィが同じ状況になってフォラスが運んだとしよう。 そうなれば感謝こそすれいい気分がしないだろうことは容易に想像できる。 理不尽とわかっても理屈ではないのだ。

「すま――「とまあ、冗談は置いておいて」

 故に詫びようとしたユーリだったが、その声はフォラスによって遮られてしまう。

 「安心してよ。 アマリのことは大事だけど、そこまで電波じゃないつもりだから。 もちろん何かしらがあったって言うなら怒るけど、そんなこともなかっただろうしね」

 それともあったの?

 そう言ってニヤニヤと笑んだフォラスの姿は、ユーリの記憶にある攻略組だった頃と何も変わっていない。 いつも通りと言えばいつも通りだが、だからこそフォラスのことが苦手だったのだ。

 「ああ、思い出したよ。 お前はそう言う奴だったっけな」
 「思い出してもらえたのなら何よりだよ」

 笑うフォラスとしかめ面のユーリ。 友人とは言えないがかつて共に肩を並べていた2人の少年は友好的ではないが気安い言葉を投げつけあった。






 「――って言う感じだと思う。 あくまで予想だし確証はないんだけど、多分そこまで外れてはいないんじゃないかな」
 「キモいな」
 「キモいよね」
 「容赦ないなー」

 ため息を吐いてみるけど2人の反応はまるで変わらない。 と言うか、シィさんは聞いてたはずなんですけど?

 「とまあそんな感じでこんな感じだと思う。 で、それを踏まえて質問ね。 みんなはこれからどうするの?」
 「どうする?」
 「撤退するのも選択肢なんじゃないかなってことだよ、ユーリさん。 言っちゃえばこれは突発的な共闘だからね。 これ以上続ける理由はないんじゃないかな?」
 「そりゃまあそうだ。 俺は巻き込まれただけだし、そこの馬鹿に至っては……いや、すまん。 巻き込んだ側だったな」
 「それでも巻き込まれようって決めたのは僕自身だからね。 そこまでシィさんの責任にはしないよ」
 「おいごるぁ」
 「つってもここで退くのは趣味じゃない。 最後まで付き合うぜ」

 途中で憤慨しようとしたシィさんの頭を叩いてユーリさんは言い切った。 どうやらお人好し属性はこの人にも実装されているらしい。
 まったく難儀なことだ。

 「まあ危ないことはないだろうしね。 気軽に行こうか」
 「およ、同行オッケーってこと?」
 「そもそもついて来てるだけだからね。 アマリまでくっついてたのは予想外だったけど」
 「そう言やそいつは大丈夫なのか?
 「問題ないと思うよ。 これが初めてってわけでもないから。 あ、これに関しても黙っておいてもらえると助かる。 広まったら危険性どうのこうのを名目にしてアマリが攻略組から排斥されかねない。 それはちょっとね」

 はぁん、と同時に納得したように頷いたユーリさんとシィさんから視線を外した。 そのまま膝の上で眠るアマリの髪を撫でる。
 柔らかな感触に頬を緩めてしまう。 数時間振りだと言うのに随分と久し振りな気がする。 どれだけ僕がアマリに依存しているのかがわかろうと言うものだ。

 正直に言えばこのクエストの進行に危険はないだろう。 ここが低層だからと言うのはもちろん、ここにいる4人は相当に戦力過多だ。
 僕とアマリに関しては言うに及ばず、シィさんにしろユーリさんにしろ攻略組から退いて長くともその戦闘能力は攻略組と遜色はない。 いや、むしろこの世界トップクラスと言える。

 「戦力的には問題なし」

 これは考えるまでもない。

 「相性的にも……うん、アマリとユーリさんはそれなりに相性がいいみたいだね」

 ……すっごく業腹だけどね。

 「ヒースクリフの出した条件も2人が攻略組でないから問題なし」

 つまり、全ての問題点はクリアだ。 クエスト進行に纏わるあれこれも大まかに推測できている。 事前情報と今までとを加味すればクエスト進行率90%と言ったところか。 残っているのは事後処理でしかないと思う。

 だから問題は……

 「この2人が敵か否か、か……」

 敢えて声に出して言うとユーリさんの肩がピクリと跳ね、腰から外して膝の上に乗せていた刀の柄にさり気なく指を這わせた。 その瞳の奥に仄かな光が灯ったのを僕は見逃さない。

 「やっぱり聞こえていたみたいだね。 そのケモミミは伊達じゃないってことかな?」
 「ちっ……」
 「わかりやすい反応をどうもありがとう。 強化されているのは聴力だけってこともないんでしょ」
 「……さあな」
 「こっちのことをこれ以上詮索しないのなら僕もこれ以上の詮索はしないけど?」

クスクスと笑うと実に嫌そうな顔をしてくれる。 シィさんに至っては苦笑いに呆れ笑いをブレンドした実に微妙な表情だ。

 「お互いに領分は守ろうよって言う話しさ。 安心してくれていい。 君たちが無関係不干渉を約束してくれるなぐぇ!」

 そしてニコニコと不可侵条約を一方的に突きつけようとしたところでアマリの手刀が僕の喉に炸裂した。 しかもダメージが発生しないギリギリの境界を見極めて、だ。

 「あ、アマリ?」
 「だめですよー」

 目を覚ましたアマリはほわわんと笑い、緩く首を振った。

 「ユーリちゃんを虐めるのは許さないです」
 「…………」
 「おやおやー、もしかしてアマリちゃんってばうちのわんこにご執心?」
 「うに? うー、ユーリちゃんは面白わんちゃんです。 だからいじわるしちゃだめです」
 「おい待てこら俺は面白わんちゃんじゃねえぞ」
 「私のペットはあげないZE」
 「お前のペットでもねえからな⁉︎」

 3人の楽しいお喋りを聞きながら僕は微妙な気分になっていた。 それはもう正しく微妙。

 まあ、いいか。 
 

 
後書き
 4人全員集合! ユーリちゃんきゃわわ(定期

 さてはてこれで全員集合した今回のコラボですが、すでにうちの主人公が明言している通り危険は一切ありません。 危険なのはどこぞの2人組の脳内だけですね。 イヤー平和ダナー(白目
 次話がどうなるかは未知数。 フォラスくんに虐められていたユーリちゃんの未来はどっちだ⁉︎

 ではでは、迷い猫でしたー 
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