ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで
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憂いの雨と陽への祈り
クエスト開始
「寝込みを襲った?」
「いや、未遂だよ。 最終的には思い直しました」
「そりゃアマリちゃんも怒るよ」
「だよね……うん、わかってるし反省もしてる」
「って言うか、ちゅーしたかったら起きてる時にすればいいのに」
「え、あ、いや、それはほら、恥ずかしいって言うかまだ早いって言うか、だってほら、ねえ?」
「ごめん、ちょっとよくわかんない。 え、だって、2人って結婚してるんでしょ?」
「まあ、うん」
「しかも結構長いよね?」
「そろそろ2年だね」
「で、どこまで進んでるの?」
「…………」
「いいから答えろー」
「……えっと、一緒のベッドで寝てます」
「他には?」
「手を繋いだり、とか?」
「ヘタレ」
「うっさい。 って言うかそっちこそどうなのさ? 今日は一緒じゃないみたいだけど?」
「あー、うん、ちょっと色々やり過ぎたから逃げられちゃったんだよねー」
「色々?」
「ケモミミ巫女とか最高の萌えだよね!」
凄くイイ笑顔で親指を立てるシィさんには呆れを大量に込めたため息をプレゼントするとして、ここにはいない彼女の相棒さんに同情の念を送っておいた。 それと同時に謝罪の念も送っておくとしよう。
ここは簡素な牢屋。 質素な鉄格子が嵌っただけの、力尽くで破ろうと思えば簡単だろう、本当に華奢な造りの牢屋だ。
手狭な構造で、中には小さなベッドが1つあるだけの牢屋で、僕とシィさんは2人きりだった。
……いや、誓って言うけど、なにもないよ? ただ、一緒の牢屋に押し込まれただけで、それからはただくだらない話しをしてただけだ。 主には近況報告とか愚痴とか美味しいクエストのこととか、後は同じお針子として裁縫関連のこととか、それなりに話しは弾んだけど浮気とかではない、決して。
「それにしてもよくわっかんないクエストだよねー」
言ってシィさんは小さなベッドに腰掛ける。 ギシリと軋む音は壊れないか不安にさせるけど、壊れることなく彼女の体重を受け止めているようだ。 壁に背を預けて床に座る僕はシィさんを見上げる形になって、その形の良い脚のラインを直視してしまう結果になるわけで、不自然にならないように視線を外しつつ適当に相槌を打った。
「あんまり動かないのも退屈なんだけど……ちょっと脱獄とか興味ないかね?」
「いやいや、大人しく従うって決めたのはシィさんでしょ? だったらもう少し我慢してよ」
「このくらいの格子なら素手でも破れそうだよね!」
「僕はシィさんについてきた身だからそれが決定なら従うけど?」
「うーん……」
コツコツコツとブーツの踵を鳴らすシィさん。
確かに動かない現状はちょっと退屈だけど、僕としては我慢も苦ではないので沈黙を守るとしよう。 アマリと会えない今、やることもやりたいこともやらなければならないこともないから尚更だ。
それに……
「どうせすぐに動くだろうしね」
「ほい?」
「ただの予想だけどさ」
でもまあ、恐らくはそこまで外れていないだろう。 それを証明してくれるようなタイミングで僕の索敵に反応が出たわけだし。
ガチャガチャと言う硬質な足音と共に反応はどんどん近づいてくる。 これでようやく状況も動くし、シィさんも退屈しないで済みそうだ。
「——それでそれで……って、聞いてるですか!」
「いや、聞いてない」
「そんな悪い子にはお仕置きですねー」
「全力で耳を傾けますから勘弁してください!」
その2人は明らかに異質だった。
カラカラに乾燥した広大な砂漠のど真ん中。 周囲は人型の骸骨兵士と巨大なサソリに囲まれ、それらを屠りながらも危機感のない掛け合いを繰り広げている。
1人はフードを目深に被り、1人は桜色の髪を振り乱して踊る。 刀と斧との共演は敵となる害意を容赦なく刻み、砕き、斬り、潰す。
圧倒的な力の差は数の差を考慮に入れたところでただの蹂躙であり、然りとて彼女たちがそれを望んでいたわけではない。
「あ、ユーリちゃん、ちょっとしゃがむです」
「てめぇアマリ! 俺をちゃん付けで呼ぶな!」
一方が忠告と同時に斧を振るう。 もう一方は鋭い突っ込みを入れながらも身を屈めて頭上を通り過ぎる斧を見送った。 その斧の行き先は敵の一団がいて、ただの一振りで3体いた骸骨兵の命の悉くを喰らい尽す。 大振りの攻撃で隙ができた一方に襲い掛かろうとした敵は、もう一方が身を起こしながら振るった刀によってその生も瞬きの間に断ち切られてしまう。
連携と呼ぶには酷く歪な共闘。
舞い散る青いポリゴン片の中、ユーリとアマリは合わない呼吸とリズムで踊り続けていた。
「キリがないなぁおい!」
「じゃあ逃げるですー? 尻尾を巻いて逃げるですー?」
「誰、が!」
「だったら文句を言わずにキリキリ働くですよー。 ……キリがないだけに」
「全然上手くないからな! ドヤ顔するほど上手くないからな!」
刻む。 斬る。 バラバラに。
砕く。 潰す。 グシャグシャに。
当初は無限に思えた数の敵も既に数える程しかいない。
「あっはぁ!」
振り上げられた死神の刃は周囲の砂ごと敵を飲み込み、慈悲なく無へと返す。
「しっ‼」
縦横無尽に駆け巡る迅雷の如き連閃は数多の敵を標的に、音なく命を摘み取る。
そうして最後の1体をポリゴン片に変えた2人は一瞬だけ視線を合わせて軽くハイタッチを交わした。
「うにー、さすがにちょっと疲れたです」
「お前がか? これは今日にでも雨が降るな」
「恵みの雨ですねー」
「皮肉って知ってますかねぇ!」
「知らない子ですねー」
噛み合わない掛け合いは、けれど親しさの証左だった。 一方がアマリであることを加味すれば尚更だ。 そこそこ親密でなければアマリは会話をしようとはしないし、軽いハイタッチとは言え接触をすることはない。
ユーリとアマリは既知の中だ。
攻略組として肩を並べていた以外にもちょっとした縁があった。 端的に言えばアマリは偶然にもユーリの弱味であり秘密を知り、その秘密が故にユーリに興味を持っているだけのことだったりする。
「ところでアマリ。 お前、ここがどこだかわかるか?」
「ふえ? んー、記憶にあるようなー、ないような?」
「ここは32層のフィールドだ。 確か《始祖の砂漠》とかって名前だったはずだ」
「ほえー、よく覚えてるですね」
「相棒が残念だからな。 で、だ。 お前、なんかクエスト受けてたか?」
「受けてないですよー。 家でゴロゴロしてたら強制転移ーだったです」
「やっぱりか……」
アマリの危機感のない返答にユーリは顔をしかめつつ、グルリと周囲を見渡す。 敵影がないことに息を吐きながらも警戒は緩めていないのか、鞘に落とした刀の柄に軽く触れた。
ここは彼の記憶通り、32層にある広大な砂漠フィールドだ。 だが、もちろんユーリはこんなところに自ら足を運んだわけではない。 ユーリがいたのはここから1階層下にある31層の宿屋で、なんの前触れもなく強制転移させられてここにいる。 話を聞く限りアマリも似たような状況らしい。
視界の端に受けてもいないのにクエストログがチラついている。 それも知らない名のクエストだ。
《その罪過は誰が為に》
クエスト名からはどんな内容のものなのか予想もできない。 難易度も危険度も、当然だが推察すらできない状況だ。
ユーリからしてみれば32層は低層域なので、戦闘面に限って言えば危険はないだろう。 加えて、性格や人格に百歩どころか万歩譲って目を瞑れば、アマリの恒常火力を含めた戦闘能力は非常に頼りになる。
「ユーリちゃんユーリちゃん」
「……なんだ?」
「次の敵はどこにいるですか? どれをぶっ殺せばいいですか? もっともっとぶっ殺したいです。 私はすとれす発散用のさんどばっくを所望するです!」
「…………」
沈痛な沈黙である。
「なあアマリ」
「ですです?」
「……いや、なんでもない。 とりあえずアルゴにメッセ飛ばそうぜ。 あいつならこのクエストを知ってるかもしれないしな」
「ですねー。 情報料は私も3割くらいは出すです」
「いや、5割出せよ」
「女の子にたかるですか? ユーリちゃん最低ですねー」
「おい待ておかしくないですかねぇ⁉」
「仕方ないから2割出してあげるです。 特別ですよ?」
「譲歩してやったみたいに言ってんじゃねえよ! 出す額が減ってんじゃねえか!」
「うにー、疲れたですー」
「人の話を聞けやコラァ‼」
心の底からの絶叫は砂漠の空に虚しく響いた。
雨の止まない世界と雨の降らない世界。
叶うことのない恋。 叶えてはならない恋。
彼女たちは引かれ合い、触れ合い、求め合い、けれどその先に未来はなく、この逢瀬は神様が気まぐれでもたらした奇跡のような絶望だった。
逃避の果てに行き着いてしまった少年。
衝動のままに行き着いてしまった少女。
己が内に重大な秘密を抱え込んだ少年。
己が内を誰にも見せようとしない少女。
彼らの出会いは世界の彩りを変え、その理を完全に崩壊させる。
この頃の彼らは、それをまだ知らなかった。
後書き
ユーリちゃん ああユーリちゃん ユーリちゃん(語彙
と言うわけで、どうも、迷い猫です。
またしても話が全く動かないですね。 いやはや由々しき事態です。
前回の後書きで書いた通り、ようやくユーリちゃんのDEBANがやってきました。 登場早々、我が家のぺったん娘に振り回されてるけど人狼でも似たような状況だし仕方ないよね、と言う感じで遠慮はゼロです。 彼には強く生きてもらいたいものです(恒例
さてさて、次からは本格的にクエストが進行していきます。
詳細不明のクエストを受けた2人の明日はどっちだ⁉︎ って言うことで、続きはまたの機会に。
ではでは、迷い猫でしたー
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