ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで
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憂いの雨と陽への祈り
お節介の代償
ウルトラシィさん……もとい、シィさんと僕は微妙に縁があったりなかったりしている。
僕が攻略組から追放されていた間に最前線に姿を見せなくなったらしいけど、それまでは彼女も攻略組で、僕とは面識があった。
攻略組の中で異彩を放つ少女。 扱い難い武器ベスト10に入るだろう大鎌を楽々と使いこなす変わり種。 僕の昔のギルドメンバーだったリーナが大鎌の扱いに於いてアインクラッド最巧、とまで賞賛したことは今でも強く印象に残っている。
それ以外でも僕と同じく《裁縫》スキルを習得しているとかなんとか。 もっとも大々的に喧伝しているわけでも、店を構えているわけでもないそうなので、こちらも僕同様にそこまで広くは知られていないことらしい。
とは言え、彼女と直接会話したことは今まで一度もなく、顔は知っているし素性もある程度知っているけど知り合いとまでは言えない間柄、なんて微妙な関係性だ。 言ってしまえばその辺りにいたどれか。 もちろん、シィさん側も僕に対する認識はその程度だろう。 とりわけ珍しい話しでもなく、攻略組の面々は大体そんな感じだ。
そんな薄っぺらな関係だから、僕はどうしても挨拶に迷う。 正直に言えばこのまま回れ右をして宿屋に帰りたいくらいだ。
——って言うか、帰っていいよね?
うん、と自分の中での問答を終えて踵を返そうとした瞬間、底抜けに明るい声がその場に響いた。
「わざわざ助けに来てくれてありがと」
「え?」
「ほい?」
突然の謝辞に固まる僕と、そんな僕を見て首をかしげるシィさん。
帰りたいところだけどお礼を言われて何も返さないのも失礼なので、反転しかけていた身体を戻してシィさんと正対する。
「別に助けようとしたわけじゃないんだけどね。 それに、必要なかったみたいだし」
「ふっふっふー、このシィちゃんにかかればあの程度の雑魚恐るるに足らずー。 あ、でも、気持ちは嬉しかったからやっぱりありがとってことでどうさ?」
「どうさって言われてもね……えっと、どうも、とか?」
「なにそれ」
僕の返答がよっぽど変だったのか、堪えかねたように吹き出したシィさんから僕は目を逸らす。 女の子と会話するのは割と苦手だ。 仲のいい子となら意識しなくても、このくらいの距離感の女の子と、しかも2人きりで話すなんて苦行と言っても過言ではない。
主に精神的疲労とアマリに知られないかと不安で。
「それにしても君が1人って珍しい、よね?」
「いや、よねって聞かれても僕自身のことだから。 シィさんも1人?」
「人探し中」
「ん? ああ、さっきそんなこと言ってたっけ……」
確か、ワンコがどうとかなんとか。
ふと疑問に思ってシィさんに視線を投げると、どうしてかバツが悪そうな、あるいは困ったような表情をしていた。
「あー、もしかしてさっきのは聞かなかったことにしたほうがいい話だったりしたのかな?」
「ナ、ナンノコトカネ」
「わかりやすいリアクションをありがとう。 まあ、僕に直接の関係はないことだろうし深くは聞かないよ。 お互い痛い腹を探り合うのは趣味じゃないでしょ?」
「そこは痛くない腹、じゃない?」
「いや、痛いでしょ。 シィさんも、僕も」
「そうかもねー」
ケロリと認めるシィさんに苦笑いを返してから、僕は一歩彼女から離れる。 ここで別れたいと言う意思表示の篭った行動を察してくれたらしく、シィさんも軽く手を挙げてヒラリと振った。
元より僕は1人になるためにこの層に来たし、シィさんは人探しで来たのだ。 目的が違うのに一緒にいる理由はないし、別れるのならここが妥当だろう。
互いに別れの言葉はない。 別段、友達でもなければ知り合いと言うにも弱い関係の僕たちにそんな上等なものは必要なかった。
軽く手を振って挨拶に変え、踵を返す。 一歩を踏み出そうとして、けれど、僕の歩はそこで止まってしまう。
「ん?」「あれ?」
同時に漏れた僕とシィさんの声。
そこに内在する感情も同様で、未知に対する警戒、だった。
「もしかしてそっちも?」
「うん」
「となると見間違いってことはなさそうだねー」
のんびりとした口調で言いながら、シィさんは警戒の度合いを数段階引き上げたのだろう。 すっと目が細められ、周辺に視線を走らせる。 それは僕も同様で、ついでに索敵スキルを発動してまで周辺警戒に臨んだ。
「よくわからないけど数は13。 いける?」
「任せんしゃい!」
「……言っておくけど、最悪の場合は放置して逃げるよ?」
「うわ、ひっどー」
任せろと豪語したのは一体誰なんだろうね? まあ、とか言いながらシィさんに緊張は見えないから、きっと問題はないのだろう。
攻略組を抜けたところで攻略組の上位に位置していたその技量まで失われてはいないはずだ。 最悪の場合は逃げるけど、最悪でなければ出来うる限りの最善を尽くすとしよう。 知り合いがいなくなってしまうのは目覚めが悪いわけだし。
はあ、と嘆息しつつ索敵に反応しているカーソルを見る。 ピンクの色合いと言うことは強敵ではないだろうけど、それにしたって圏内にモンスターが出てくるのは異常事態だ。
いや、ここは既に圏内ではないらしい。 だから、モンスターが出るのも不思議ではない。
それこそが僕とシィさんが別れるのをやめた理由だ。
なんの前触れもなくアンチクリミナルコードが解除された旨を伝えるウィンドウが表示されれば僕たち出なくてもそうしたと思う。 状況がわかるまでは慌てず騒がず冷静に。 もしもの事態に対応するにはそこそこ腕が立つと言う前提条件は必要だけど、人手があったほうがいいのだ。
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……」
「犬が出るって言うのがベストなんだけどねー」
「残念。 僕は猫派なんだよ——っと、来るよ」
「あいあーい」
カーソルが徐々に近づき、そのモンスターが姿を見せる。
「そこまでだ!」
果たして、路地から現れたのは立派な甲冑を着た一団だった。 外見は完全に人間のそれで、言葉を発し、体格も骨格も違わず人間だ。
予想していなかった事態に混乱しつつ横目でシィさんを見ると、僕と同様に状況を飲み込めていないのか、コテンと首を傾げていた。
それでもいつの間にやら装備していた短槍の切っ先は少しもズレずに甲冑の一団に向いている。 僕も自身の分身たる白一色の薙刀——雪丸をピタリと彼らに向け、そして彼らも彼らでこちらにそれぞれの武器を向けていた。
ハルバートに大剣、両手斧もあれば槍もある。 前衛らしき3人は巨大なタワーシールドを掲げ、袋小路にいる僕らを完全に包囲している風情だ。
……抜けようと思えば疾空で余裕だし、そもそも正面突破だって索敵でわかる向こうのレベルからも歴然だけど。
「街中で暴れまわっていると言うのは貴様らだな!」
「暴れまわって? って、ああ、さっきの……ほら、シィさんお呼びだよ」
「一緒にいたから君も共犯じゃない?」
「傍観が罪だとでも?」
「止めなかったから同罪、かも?」
「そこは断言してほしいかな」
「ええい! つべこべ言うでない! とにかく街の治安を乱す輩は拘束する! 抵抗せねば悪いようにはせんぞ!」
なんとも言えない微妙な空気の中でのやり取りを無視してリーダーと思しき甲冑槍装備の人が声を張り上げる。 と、同時に視界の端に1枚のウィンドウが出現した。
【騎士団との諍い】と書かれたウィンドウを流し見してシィさんに視線を投げると、彼女も同様に困った顔でこちらを見ていた。
これは時折発生する、フラグを立てたら強制的に起動するタイプのクエストなのだろう。 彼らの言動から察するに、フラグは《街区圏内での戦闘行為》と言ったところか。 もちろんそれだけだと結構な数のプレイヤーが立てて有名になるだろうから別のフラグがあるのかもしれない。
さて、どうしようか?
言外に視線で問いかけると何か考えるようにしながら、ヒュンと手の中で槍を一回転させた。 どうやら用事があるシィさんはここを力尽くで突破するか、あるいは大人しく彼らに従って時間を消費するかを天秤にかけているみたいだ。 首を突っ込んだ側の僕が決めるわけにもいかないし、なにより用事のない僕は彼らに従おうと抵抗しようと特に構いはしないのが本音である。
ヒュンともう一度短槍を回す。 ヒュンヒュンと続けて回す。 その間にも彼ら——クエストログから察するに騎士団——は少しずつこちらに迫ってきていた。
決断までの時間はない。 このまま放置すれば拘束しようと騎士団さんたちは動きかねないし、そうなったら自衛のための戦闘も止むなしだ。
「んー」
果たして……
「じゃあ、大人しく従おっかな」
「……いいの?」
「いや全然よくないけど! 一刻も早く探しに行きたいけど! でも、でもさ……噂レベルでも流れてないクエストってワクワクしない?」
なるほど廃人ゲーマーめ。
心中で呟いた突っ込みは聞こえていたのか、シィさんはニヤリといやらしく笑う。 顔にはお前が言うなと大文字で書かれている辺り、どうやら僕もワクワクが顔に出ていたらしい。
「了解。 とりあえず従うよ」
降参の意は肩を竦めることで表明するとして、雪丸の切っ先を地面に向ける。 さすがに除装するのは無警戒すぎると判断してのことだけど、隣にいるシィさんはなんの考えもないのか短槍をストレージに戻してしまった。
「大丈夫じゃない? なにかあってもカーソルの色からして素手でもなんとかなるし」
「まあ、そうなんだけどさ……」
「あ、もしかしてビビってるのかなー? 鶏なのかなぁー? へいへーい、フォラスの臆病鶏—」
「そこはせめて慎重って言ってほしいんだけどね、無鉄砲さん」
「あれ? 喧嘩売ってる? もしかして押し売りされてる? いいよ買い叩いてあげましょー」
「ねえ知ってる? 身長って心の広さに比例するらしいよ。 あっ」
「身長のことをフォラスにだけは言われたくない!」
「はいはい小柄小柄」
「はいはいチビチビ」
なんだろう? 一瞬にして頭が悪い会話になったような気が……。 気のせいか騎士団さんたちも呆れてる感じだし……いや、さすがに気のせいだよね?
後書き
いやー、この2人は仲良しさんだなー(棒
と言うわけで、どうも、迷い猫です。
コラボ2話目にしてシィちゃん全開です。 そしてうちの性格が悪いのも全開でしたね。 仲が良いことは素晴らしいことだと思います←おい
全開と言うか恒例と言うか、コラボなのに話しが殆ど進まないのが迷い猫クオリティ。 反省も後悔もしていない。
次話は別サイドのお話し……になるかも?(未確定
ではでは、迷い猫でしたー
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