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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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幻影の旋律
  星の瞬く空を見上げて

 星の瞬く夜。 空に浮かぶ月。 吹き抜ける風は生ぬるく、秋の訪れを未だに拒んでいた。
 月と星以外の光源がない世界。 水面に反射する光はどこか幻想的で、そこに佇む彼女もまた、幻想的なまでに美しかった。
 脳裏に焼き付いた光景は消えることなく、ふとした拍子に思い出す。 もう見ることのできないだろう姿を思い出して、不思議な寂寥感に襲われるのだ。







 アインクラッドの空は、次層の床(と言う表現が果たして正しいのかは微妙だけど)に隠されていて見上げる機会はあまりない。 外周部の柵に近づけば見えないこともないけど、別に空に強い思い入れがあるわけでもない僕がわざわざ足を運ぶこともなく、必然、月も星ももう長いこと見ていなかった。
 ここでアマリや、あるいはリーナたちがセンチメンタルなキャラクターであるのなら見に行ったりしたかもしれないけど、僕の周りにそう言う人は集まらなかったらしい。 こう言うのも類は友を呼ぶ、なのだろうか?

 とは言えそれも今までのこと。
 SAOが開始されて初めての夏。 その終わりに、僕は星を見るために外周近くまで来ていた。
 もちろん宗旨替えしたわけでも、アマリたちの趣味が変わったわけでもなく、彼女たちとはまた別の友達に誘われてのことだ。

 曰く、この層の外周部で今日の夜、特別なイベントが発生する、と。
 それだけであればわざわざ僕を呼び出す理由にはなっていないけど、なんでも敵性エネミーが出現する可能性があるそうなのだ。 彼女たちであればある程度のモンスターなら問題ないはずなのに、心配性なリーダーは僕に護衛を依頼してきた、と言うわけだ。
 まあ、彼女の心配もわからないことはない。
 普段であればフィールドにモンスターが出現しない22層にイベント限定のモンスターが現れる、なんてことになれば最悪ボスクラスが出てもおかしくはないだろう。 とは言えここが22層であり、イベントもそもそも戦闘重視ではないらしいのでそこまで心配する必要もないだろうとは思う。
 それでも彼女から直々の依頼を受けて断れるわけもなく、結局僕はついてきたのでした、まる。

 「お人好し属性はなかったはずなんだけどね……」

 やれやれと首を振りながら独りごちる。
 そう。 1人なのだ。

 いや、別に彼女たちから逃げてきたわけではない。
 彼女たちのリーダーが用件を伝えないまま森に入って、それから全然帰ってこないのだ。 位置追跡をしてみた結果、一応キャンプ地の近くからは離れていないらしく、その迎えに僕が駆り出されたわけだ。

 と言うか、モンスターが出るかもとか言っておいて1人になるなんてどういう了見なのだろうか。 心配性な彼女らしくもない行動に眉を顰めつつ、僕は森の奥へと向かう。
 幸いプレイスタイルから索敵はそこそこ鍛えてあるので人探しは得意だ。 隠蔽を使われると流石に微妙だけど、まあその心配はいらないと思う。 と言うか既に索敵範囲内に彼女を捉えていたりする。

 自然豊かな22層は諸々の都合からレベリングには不向きで、僕はあまり訪れたことはない。 ここが最前線だった頃に滞在していただけで、それ以来はさっぱりだ。
 だからだろう。 僕は知らなかったのだ。 この先に何が待っているのか、なんて……
 情報集取を怠っていなければ予想はできたはずだ。 あるいは僕が探しに行かず、彼女たちに丸投げしていただろう。
 けれど僕は何も知らず、呑気に彼女を探しに森に入ってしまった。 故に、事件は起こる。 もっとも、この時の僕はそんなことを全く予想もしていなかった。






 そこは小さな水場。
 外周から届く月と星の明かりが水面に映り、キラキラと幻想的な輝きを放っている。 吹き抜ける夏色の風は深夜だというのに生ぬるく、けれどそんな些事を不快に思う余裕は僕にはなかった。

 森の中の小さな水場。 月と星の照明。 水面から反射した光を浴び、キラキラと輝く彼女。 いつも縛っている赤い髪は解かれていて、水を吸っているのか普段とは違う色合いを見せている。

 「————」

 薄暗い視界の中でも色褪せない白い肌。 やや丸みを帯びた、けれど決して太っているわけではない女性的な身体のライン。 髪に隠れた横顔がチラリと見えて、それはドキリとするほどに美しかった。

 (って言うか腰細い!って言うか肌白い!なにあれ髪が下りてて普段と印象違うんだけど濡れてるのも色っぽいって言うかいやいやそんなことより目を逸らさないとって言うか女の子ってあんな下着着けてるんだうわ可愛い待とう落ち着こうこれは覗きだ悪意はなかったにしても覗きだ流石にこれはまずいし事故って言っても現状は明らかに事件だしって言うか肌綺麗なんですけど落ち着こう落ち着こう音を立てないように回れ右すればなんとか間に合うバレる前に逃げられるいやいや別に覗くつもりがあったわけじゃないから逃げるっておかしいけどここにいたら色々まずいここにいたら色々やばいバレる前に回れ右回れ右回れ右わうわ鎖骨綺麗)

 完全にショートした思考回路は冷静さを奪い、足は竦んだように動かない。 目も彼女を中心に捉えて動かず、彼女の動きに合わせて反射的に動くだけだ。

 このままでは見つかってしまう。 いくら友達だとは言え大問題なこの現場が見つかれば僕は最悪犯罪者になってしまう。 いや、と言うかそもそも全力で目を逸らさないといけないのに、わかっているのに、僕は彼女に釘付けになっていた。

 ————と

 「……ん?」
 「あ……」

 ————そこで

 「……え?」
 「あぁ……」

 ————クーネさんとバッチリ目が合ってしまった。

 「————っ! きゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁじぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼」

 そして迸った絶叫を聞きながら、僕は自分の社会的な生命が潰えたことを悟った。





 「…………」
 「………………」
 「…………」
 「………………………………」
 「……………………」
 「……………………………………」

 沈黙が重い!

 いやまあ、確実に僕のせいだから突っ込めないんだけど。 と言うか自分でもわかるくらい顔が真っ赤で思考がなにも纏まらない。

 簡潔に状況を説明しよう。
 水浴びしていたクーネさんの着替え現場に遭遇した僕と、着替え現場を僕にバッチリ目撃されたクーネさんが外周の柵にもたれて並んでいる。
 ……うん。 説明したところで状況はなにも変わらない。

 あの後。
 クーネさんの絶叫を聞きつけたリゼルさんがそれはもう感服するほどの速さで現場に飛んできた。 ここは圏外で、複雑に入り組んだ洞窟の先にある場所だから人が殆どこないとは言え確実に安全だと断言できるわけもなく、クーネさんの悲鳴を何者かに襲われたのだと思ったらしい。
 故にキャンプ地に残っていたメンバーの中で最も速く最も隠密性に優れたリゼルさんが駆けつけたのだろう。 リゼルさんが到着して少ししてからニオちゃんとレイさんが追いついたのは、ステータス的に速く走れないニオちゃんを慮ってのことだと思う。

 この時点で僕の悪行がバレて、社会的に抹殺されるはずだったんだけど、なにを思ったのかクーネさんがリゼルさんの到着よりも早く僕の腕を掴み、近くにあった茂みに放り込んだのだ。 そればかりか、駆けつけたクーネさんたちに『小さな虫が突然出てきて驚いちゃって』と、少し苦しい言い訳までして誤魔化してくれた。
 いやまあ、僕としてはとてもありがたい話だし、これでアマリたちにお仕置きされずに済むと胸を撫で下ろしたわけだけど、クーネさんの真意がまるでわからない。

 いかに事故とは言え、年頃の女の子の下着姿を覗いたのは僕で、その行為は許されないだろう。 クーネさんは僕を吊るし上げる権利があり、僕を隠す道理はないはずなのに……

 「……えっと、フォラス君?」

 どうやら思考に集中しすぎていたらしい。 隣に座るクーネさんが訝しげに首を傾げて僕の顔を覗き込んでいた。
 顔が赤い、とか思ってはみたものの、僕の顔も同様に真っ赤なことだろう。

 「ん、うん。 あー、うん?」
 「……見た、わよね?」
 「あ、む……うん、見た。 ごめんなさい」
 「そう……」

 そしてまた無言。

 それもそうだろう。
 年頃の女の子が着替えを覗かれたのだ。 それがどれほど恥ずかしいことなのかは想像するしかないけど、察して余りあるほどの羞恥だと思う。

 「えっとね、ほら、今日、凄く暑いでしょう? で、ここの下見に来た時に綺麗な湖があって、気持ちよさそうだなって思っていたの。 そしたらほら、ちょっと水浴びしたくなっちゃって、でも『水浴びしてくる』なんて言ったらレイたちも一緒にきたがるでしょう? そうしたらフォラス君だけ居残りになるし、それはちょっとあれかなって。 だから私が先に水浴びして、レイたちには戻ってから話しをして3人が水浴びに行っている間は私とフォラス君で留守番をしようと、そう思ったのよ。 わざわざ護衛を頼んでおいて1人だけで留守番をお願いするよりいいかなって思ったのだけれど、完全に裏目だったわね。 だってそんな、まさかフォラス君が探しにくるなんて思ってもいなかったから……えっと、だから……ごめんなさい。 きちんと説明してからくるべきだったわね」

 ……これが本心だと言うのだから恐ろしい。
 下着姿をばっちり目撃されて、それで謝罪の言葉が出てしまう辺り、いくらなんでもお人好しが過ぎるだろう。

 「ううん。 謝るのは僕の方だし、悪いのも僕だよ。 こう言う事態を想定して動かなくちゃいけなかったって言うのもあるけど、見たら見たで直ぐに目を逸らすなりなんなりやりようはあったのにそれをしなかった。 いくら悪気がなかったとは言え、やっぱり悪いのは僕だ。 それに正直な話し、クーネさんがあまりに綺麗だったから見惚れちゃってたし……って、ごめん、今のなし!」

 きょとんとした顔から更に顔を真っ赤にしたクーネさんを見て自分の失言を悟る僕。
 今の言い方とか完全にアウトだ。
 見惚れちゃってたって、僕は変質者かなにかか? いやまあ、今の状況はまさしくそれなんだけど。

 と、そこで……

 「ふふっ」

 クーネさんが笑った。
 楽しそうに、愉快そうに、笑った。

 「えっ、と?」
 「ふふ、ごめんなさい。 だって、そんなに慌てたフォラス君って初めて見たから」
 「むう……」
 「でも意外。 フォラス君、きちんと女の子に興味があったのね」
 「そりゃ僕だって一応は年頃の男の子だもん。 人並がどの程度なのかはわからないけど、それなりにそう言う感情だってあるわけだし、やっぱりドキドキもするよ……」
 「普段のフォラス君からは想像もできないわね」
 「……そうかな?」
 「いつもの余裕がなくなっているわよ。 そう言うフォラス君を見るのはやっぱり新鮮ね」

 むう、と唇を尖らせて不満を表現しておくとしよう。

 「ところでフォラス君。 女の子の下着姿を覗いておいて感想のひとつもないのかしら?」
 「ん? んー、感想言っていいの? 徹底的に詳細な感想をひとつと言わずレポートにして纏めるけど?」
 「それは勘弁してほしいわね……」
 「僕をからかおうなんて100年早いよ。 そこまで露骨にからかいにこられて慌てるほど僕は可愛くないからね」

 あははと笑う僕とクスリと笑うクーネさん。
 ようやく取り戻したいつも通りのやり取りになんとなく嬉しい気持ちになった。 こう言う平和で穏やかな会話はやっぱり心地いい。
 僕の周りにいる人たちは変な人ばかりで、こうもスムーズな会話は望むべくもない。 類が友を呼んだのか、友が類を呼んだのか……

 「意外と言えばもうひとつ。 今日はまさか来てくれるとは思っていなかったわ」
 「……これでも友達思いのつもりなんだけどね」
 「でも、基本的にはアマリちゃんたちが優先でしょう?」
 「別行動だってよくしてるよ。 アマリはともかくとしてもリーナとかアインとかエリエルなんて行動範囲が違うからあんまり一緒にいないしね。 ああいや、違うのは行動範囲って言うより行動原理、かな?」
 「そうやって小難しいことを言って誤魔化しても駄目よ。 大方、悩みでもあるんでしょう? 今なら聞いてあげるわよ」
 「むぅ……」

 さすがはクーネさんだ。 本当によく見ているし、相変わらず感情の機微に聡い。

 そう。
 僕は今、色々と思うところがあってアマリたちと別行動をしているのだ。 今回のクーネさんからのお誘いも渡りに船で、だからこそ快諾したと言う裏事情もある。
 そしてクーネさんがわざわざ僕を誘ったのもそれを察したからだろう。

 「悩み、って言うと違う気もするんだけど、ちょっとね」
 「それはアマリちゃんのことで?」
 「アマリたちのことで、かな。 いやほら、さっきも言ってたけど、僕たちってそれなりに一緒にいるでしょ? で、そろそろギルド作ろうかなー、とか思ってるんだ」
 「へぇ、フォラス君がギルドを?」
 「似合わないのは重々承知だよ。 だけどさ、こう、目に見えないけど確固とした繋がりの証明が欲しいって言うか、みんなで一緒にいてもいい理由が欲しいって言うか……だって、ギルドを作れば一緒にいていい言い訳になるし、それぞれに居場所ができるかなって……」

 我ながら纏まらない思考を垂れ流す。
 それでもクーネさんは笑うことも呆れることもなく、無言で先を促してくれた。 だから、そんな優しさにもう少し甘えてみようと思った。

 「別に言い訳が欲しいわけじゃない。 誰に何を言われても僕たちは多分この先も一緒にいると思う。 けど、なんて言うのかな……うん、やっぱり繋がりを形にしたいんだよ、僕は。 そうしないと不安になる。 だけど……」
 「アマリちゃんたちが同意してくれるか不安?」
 「……うん」

 不安なのだ。

 もしもギルドを作ろうと提案して断られたらどうしよう?
 今の関係が崩れたらどうしよう?
 僕から離れて行ってしまったらどうしよう?

 僕たちはそれぞれに色々と抱えている。 だからこそ人との繋がりを忌避し、人と繋がることに臆病だ。
 それでも進みたいと僕は思っているけど、彼女たちはどうなのか、当然だけど全くわからない。 結婚して僕の妻になってくれたアマリの考えですら、僕はわからないのだ。

 ——でも

 「大丈夫よ」

 ——クーネさんは穏やかな微笑で

 「アマリちゃんもリーナもアインちゃんもエリエルさんも、きっと同じ気持ちのはずよ」

 ——優しい微笑で僕の髪を撫でる。

 「だから大丈夫。 私が保証するわ。 みんな、あなたの一言を待っている」
 「そう、かな? そうだといいなぁ……」
 「ふふっ、きっと楽しいギルドになるわよ。 落ち着いたらまた一緒に遊びましょう。 今度はみんなで」
 「うん、落ち着いたら、きっと」
 「ところでギルドの名前はもう決まっているの?」
 「そっちはばっちり。 名前は————」

 星の瞬く空を見上げると、流れ星が一条の軌跡を描いた。 
 

 
後書き
 フォラスくんラッキーすけべ回。
 と言うわけでどうも、迷い猫です。

 今回のお話はコラボが始まる遥か以前の時系列。 SAO1年目の夏です。
 フォラスくんの前科と悪行が見事に晒されていますね←おい

 そんな直後にまできっちり母性を発揮するクーネさんのオカン力は凄まじいと思います。 他作者様のキャラを使って過去編とはどう言うことだと言うツッコミは受け付けませんので悪しからず。

 次はコラボ本編の続きです。
 ギャグテイストの話を挟んだので、これからまたシリアスに戻るとしましょう。

 ではでは、迷い猫でしたー 
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