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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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幻影の旋律
  開戦の狼煙

 あれから共闘を誓った僕たちは、最短距離ではなくわざわざ遠回りをして環状構造のフロアに出るボスモンスターは全て殲滅した。
 フロアボスにだって勝てると言うのは冗談にしても、それでも僕たちの戦力であればそこそこ強いボスクラスモンスター程度、特に問題にはならなかった。 むしろ通路が狭すぎるせいで普通に出てくるモンスターの方が厄介だったりしたけど、それはまあ仕方ないだろう。
 ちなみにわざわざ全てのボスモンスターを殲滅して回ったのにはきちんとした理由がある。 と言うのも、リンさんとヒヨリさんとティルネルさんの《チーム・リンさん》と僕たちはフロアボス戦以外では初対面で、当然だけど共闘の経験はない。 そんな状況でクエストボス戦をやるほど無謀ではないので、連携の確認を目的にボスクラスモンスターで肩慣らしをしたわけだ。 《クーネさんと愉快な仲間たち》の4人とは付き合いが長いので必要はなかったけど、それでもさすがに9人での連携はやはり中々大変だった。
 とは言え、基本的な戦闘指揮はクーネさんがいるし、突発的な状況に対応することが得意なリンさんだったり、ありとあらゆる可能性を精査して対策を思考する僕だったりがいるので、余程の事態にならない限り危険はないだろう。 そもそも、今回のクエストは《龍皇の遺産》からの派生クエストであり、それはつまり2人パーティーでの攻略が前提なのだ。 油断はしないけど、それでも9人もいてクリアできないなんてことはないはずだ。 このまま何事もなければ、だけど。

 「さて、この先にいるのかな?」
 「ああ。 少なくとも俺たちはこの先で奴に会った」

 そして僕たちはダンジョン最奥部に鎮座するボス部屋の前にいた。
 目の前の扉を開ければ遂にボス戦が始まるわけだ。 既に作戦会議は終わっているし、絶対の前提は犠牲者を出さないでの攻略なので、準備も装備も万端である。

 「じゃあ、いこっか」

 僕が言うと、扉に手をかけてうずうずしていたアマリが勢い良く扉を開け放つ。 手筈通りにニオちゃんとアマリが最前列、その後ろに僕とリンさんとクーネさん、レイさんとリゼルさんとヒヨリさんとティルネルさんは更に後ろからボス部屋へと雪崩れ込んだ。

 「ふむ、ノックもなしに無礼な人間どもよのう」

 そしてそこにいたのは1人の龍人。
 ヴェルンドさんとは比べるまでもない小柄な、それでも僕より幾分か大きなその龍人は不愉快そうに眉を寄せ、不調法な侵入者を揃って睥睨する。

 「して、何用で参ったのじゃ?」
 「あなたが龍皇の居城から盗ませた財宝の数々を返してもらいに来ただけだよ」
 「ほう。 あの不愉快な鍛治師め、人間なんぞに助力を求めたのか。 やれやれ、龍人族の風上にも置けんのう」
 「財宝を手に入れるために人間に助力を求めたあなたには言われたくないだろうね」

 嘲るように言った龍人に嘲笑を返して僕は続ける。
 リンさんたちのクエストは既に破棄されているので、このクエストを進行するのは僕の役目なのだ。

 「大人しく渡さないのなら力尽くで奪い返すけど、どうする?」
 「ふむ、ちなみに大人しく渡せばどうなるのかのう?」
 「そんなのもちろん決まってるよ。 僕の友達に手を出したんだ。 たとえ大人しく従ってもぶっ殺す」
 「かっ、かかっ、人間の分際で吠えよるのう。 そこまで吠えられると気持ちがいいわい」
 「で、どうするのかな?」
 「渡すわけがなかろう。 あれは既に儂の物じゃ」

 予想通りの答えに僕は言葉を返すよりも先に身体を動かした。 具体的に言うなら右腕を。

 徹底的に鍛え上げた敏捷値で腕を煌めかせ、ポーチから引き抜いたピックを龍人に向かって投擲する。 もちろん僕特製の麻痺毒を染み込ませたピックだけど、それが龍人の身を穿つことはなかった。

 「へえ……」

 思わず溢れた声は、ピックを全て叩き落とした龍人の配下に対する賞賛だ。
 それを感じたのかどうかはわからないけど、僕と龍人との間に割って入り、ピックを全て叩き落とした張本人がポツリと言った。

 「ケクロプス様、ここは我々が」
 「うむ、儂は魔剣の封印の解除を始める。 完了するまで奴らを近づけるな」
 「御意」

 そして闖入者は龍人……今回のクエストのボスであろうケクロプスに一礼すると、纏っていた野暮ったいローブを脱ぎ捨てた。 と同時に敵が姿を現わす。

 僕のピック叩き落としてくれた1人目は女性。
 赤い肌と小さな鱗を無数に持っていて、手には身の丈に迫るほどに長く、それでいて細い剣が握られている。 頭上に表示されている名前は《Salamandra(サラマンダー)》。 言わずと知れた火の精霊だ。

 次いでサラマンダーの隣に立つのは、青い肌に薄布を纏っただけの女性。
 武器の類は一切持っていない彼女の名は《Undine(ウンディーネ)》。 リンさんからの情報では爪を伸ばして高速で振るってくるスピード型の敵らしい。

 更にその隣に立っているのは、ボロボロのローブを身に纏った小柄な老人。
 その小さな身体に不釣り合いな巨大なハンマーを手にこちらをジロリと睨んでいる。 名前は《Gnome(ノーム)》。

 最後は宙に浮いている小さな少年。
 小振りのダガーを左右の手に持っている姿は僕の双剣に近い。 背に生えた羽で宙を舞い、両手のダガーで敵を切り裂くその戦闘スタイルは、リンさん曰く『お前に似ている』だそうだ。 つまりはスピード特化型で手数重視らしい。

 この4人が事前にリンさんからの聞いていた四天王だろう。
 四大精霊を従えるとか、どこのマクスウェルだよと突っ込みたいところだけど、さすがにこの空気でそんなことはできないので小さく息を吐いてどうでもいい思考を打ち切る。

 「さて、作戦は事前の打ち合わせ通りでいいよね?」
 「ええ。 フォラス君とリン君の負担が大きくなるけど、大丈夫よね?」
 「もちろんだよ。 そんなに心配ならさっさと終わらせてこっちの加勢をよろしく」
 「了解よ。 じゃあ、リン君も頑張って」
 「そっちもな」

 参謀ポジションにいる僕たち3人の会話を聞いて、まさかそれを待っていたわけではないだろうけど、四天王が一斉に動き出した。
 リンさんから事前に聞いていた限りでは、四天王の実力は今まで戦った中ボスクラスのモンスターと同等。 とは言え4体同時に戦うとなると骨が折れそうなので、その対策は既に打ち合わせ済みだ。

 「ニオはアマリちゃんと一緒にノームを叩いて! リゼルとレイ、それからヒヨリちゃんとティルネルさんはサラマンダーを早急に片付けるわよ!」
 「あはー、ニオちんとペアは初めてですねー」
 「えっと、よろしくお願いします」
 「フォラス、無茶するんじゃないよ」
 「リゼちゃん、フォラスに無茶するなって言っても無駄だと思うよ」
 「じゃあ燐ちゃん、いってくるね!」
 「すぐに終わらせて援護しますね」

 それぞれがそれぞれの言葉を残して割り振られた敵に向かっていく。 残された僕とリンさんは互いに顔を見合わせて苦笑した。

 「無茶するな、だそうだ」
 「あはは、それこそ無茶な要求だと思うけどね」
 「戦闘狂は相変わらずか……」
 「そりゃ、キリトの弟ですから、っと。 じゃあ、いこっか?」
 「ああ、あいつらが終わるまで、なんとか保たせるぞ」

 言って僕たちも事前に定めた標的へと走り出す。

 9人での連携は結局のところ完璧にはならなかった。 僕とアマリは2人での戦闘が基本だし、パーティープレイに慣れていないのがその最たる原因だろう。
 クーネさんたちとの連携だけなら何度も経験があるのでできないこともないんだけど、リンさんたちが入るとどうしても上手くいかないのだ。 と言っても、それは僕たちだけではなく、リンさんたちも、あるいはクーネさんたちも同様だろう。
 そもそも大人数での戦闘をする機会なんてフロアボス戦を除けばそうはない。 まして僕たちはそれぞれがアクの強い戦闘スタイルなので、その連携は至難と言っていい。

 ならばどうするのか?
 答えは簡単で明瞭だった。

 9人での連携がうまくいかないのなら、9人で連携しなければいいだけのこと。
 幸い敵は4体もいるので、こちらもそれに合わせて戦力を分断すればいいのだ。

 四天王の中で最高火力を有するノームには、堅牢な壁であり高火力の一撃を持つニオちゃんと徹底攻撃主義のアマリとのペアで対応する。
 四天王最強のサラマンダーをクーネさんとリゼルさんとレイさん、そこに加えてヒヨリさんとティルネルさんで早急に片付ける。
 スピードよりも伸縮自在の爪を持つトリッキーな戦法で戦うウンディーネは、その手の対応が最も得意なリンさんが足止めして、他のチームが自分たちの敵を倒し次第順次合流する予定だ。
 で、残ったシルフの対応は正直な話し、僕しかできないだろう。 何しろ奴は飛ぶのだ。 このメンバー、と言うよりも恐らくはアインクラッドで最も空中戦に長けている《疾空》スキル持ちの僕が適任なのだ。

 この作戦をクーネさんが提案した時、僕は少なからず衝撃を受けた。

 クーネさんは安全性を最優先する。
 誰も死なないように。 それを大前提にして高効率の作戦を立てるのがクーネさんのスタイルだ。 実際、その采配は適材適所と言う他なく、安全面だけを見れば文句のつけようがない。
 けれど、安全性を最優先にするが故に効率を下げてしまうことも間々あるのも事実。 それを責めるつもりはないし、デスゲームたるSAOでは仕方がないことだとも思う。

 だけど、この作戦はクーネ自身が言っていたように、僕とリンさんにかなりの負担を強いるものだ。
 中ボスクラスのモンスターとは言え、それを単身で足止めするなんて普通のプレイヤーには無謀すぎる作戦だろう。 少なくともクーネさんらしくはない。
 それでも彼女は微妙な苦笑いでこの作戦を告げた。

 『足止めはリン君の十八番でしょう』と。 『フォラス君なら単騎でも遅れを取らないでしょう』と。 どこか呆れたような笑みでクーネさんは言った。

 クーネさんは僕たちが単独でどうにかできると確信したのだろう。
 安全性を最優先して高効率の作戦を。
 この作戦は、だからクーネさんの信念を曲げたものではないのだ。 僕たちならできると、そう確信したからこそ、一見無茶にも見える作戦を提示したのだ。

 そして、それはまさにその通りだ。
 リンさんであれば足止めに集中している限り絶対に負けないし、僕であれば空中戦で高々中ボス1体に遅れは取らない。

 だったらその信頼に答えよう。 
 

 
後書き
 クエスト最終戦開始回。
 と言うわけで、どうも、迷い猫です。
 今回のクエストボス、ケクロプスとその配下である四天王がお目見えしました。

 それにしても久しぶりの更新になりましたね。 いやはや、社会人って大変です(言い訳
 次回の更新はなるべく早く致します。 ええ、きっと。

 ではでは、迷い猫でしたー 
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