逆襲のアムロ
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44話 取るべき道
* ラー・カイラム 艦橋 3.14
ブリッジ内はまるでお通夜だった。
カラバとの合流を果たし、ラー・ヤークからもハヤト達がロンド・ベル旗艦ラー・カイラムへ搭乗していた。ネオジオンのシャアとその部下たちも一緒だった。
誰もが一通りの戦が全て終わった事に安堵したがっていた。しかし謎の宇宙潮流による各サイドの機能不全、艦隊の機能不全、兵士たちの帰る場所が脅かされていることに気を病んでいた。
降伏を表明したティターンズのジェリドらも艦橋にいた。軍機能、政治機能は既に破綻、失われていて、彼らをどうしようかという意見もなかった。それは世界の異変による状況下で皆が参ってしまっている何よりの証拠だった。
シャアは周囲を見渡し、自分と瓜二つの人物を見かけた。それをカミーユに尋ねると、クワトロ秘書官と教えてくれた。亡きゴップ議長の秘書だということだ。彼の頭の中には世界のあらゆる知識が詰まっていると理解した。
シャアの目の前にブライト・ノア准将が副官のメランを連れてやってきた。
「シャア総帥、この度の戦い見事でした」
ブライトはこんな雰囲気の中で出来る限り労ったり、挨拶周りをしていた。ネオジオンの活躍は目を見張るものがあった。何と言ってもドゴス・ギアの撃沈、ティターンズの首魁を倒したことが大きい。
ブライトが手を差し伸べてきたため、シャアはそれに応えた。
「いえ、皆優秀なスタッフ、クルーによって為されたことです。私いち個人など微力にしかすぎません」
ブライトはシャアの謙遜を快く思った。
「そんな貴方だからこそ、皆が付いてきて結果を残せたのだと思いますよ」
「そう評価していただけるならば有り難く受け取りましょう。しかし・・・」
シャアの濁しにブライトが頷く。このラー・カイラムに来るまでに謎の揺れや災害にカラバ、ロンド・ベル共に半数以上の被害を被った。そしてマスコミによる各サイドの機能不全の報道。
全員が困惑して頭を抱える中、一定の答えをもたらしてくれる人物らがブリッジにやって来た。それを見たはロンド・ベル、カラバのほとんどのクルー驚き、ジェリドらは呆然とし、ハヤトは眉を潜めた。アムロは平然と眺めていた。
「・・・恥じらいもないですか?」
ハヤトがそう声を掛けた人物はパプテマス・シロッコだった。その隣にはテム・レイ博士、オクトバー技師、そしてカイ・シデンとミハルが一緒に入って来た。
まず最初にテムが話始めた。
「この度の異変は、サイコミュによる異常現象と考察している」
アムロはシロッコの話と同じだと思った。テムは話をつづけた。
「憎き恨みをあるかと思うが、この際後回しにして共に考えるべきだ。彼の頭脳を利用しない訳にはいかない」
皆沈黙だった。無言の同意としてテムは受け取った。次にシロッコが話始めた。
「私の今後の目的、目標は2つだ。フロンタルを倒し、サイコミュを棄てることだ。この順序でなければならない」
「まずはフロンタルとは?皆が初めて聞く名だと思う。そしてなぜサイコミュを棄てるのですか?」
「フロンタルはこの世の黒幕が造り出した存在。この世の悪を集積する為だけの存在だ。彼が用いる道具がサイコミュ。黒幕がただの気まぐれで自然災害を造り出した。ただそれだけだ」
感情の昂りにハヤトが反応した。
「気まぐれって・・・、そんな為に我々は!」
「余りに世俗より超越してしまうと、私らが起こした戦争ですら人の気まぐれでしかない。彼の真意は誰もが測ることはできない」
「誰ですか?そいつは」
「サイアム・ビスト。ビスト財団は少なからず誰もが聞いたことあるだろう」
シロッコは周囲を見渡し、ビストについての理解は多少なりとも知っていると感じ取った。
「彼の道楽だった。彼はこの世界のものとは違うものを利用して世界にチャレンジを求めた」
「一個人にそんな権限が・・・」
「あるのだ。なければ現状が無かった」
シロッコはトーンを落とした。天才と言われる自分ですら、個の限界を痛感しているようだった。
「まず言っておくことがある。この世の真理だ」
シロッコはゆっくりと歩き始めた。
「物事は自然に偶発的に起きた事象を必然だった、それが真理だ。ただ、石を投げつけるより、爆弾を放る方が被害が大きい。それは皆がそう思うだろう」
全員が納得する。シロッコはブリッジの中央で立ち止まる。
「今回は爆弾よりもさらに強力な破壊兵器がただ世界に投下された、という訳だ。それがサイコミュだ」
次の説明に皆が首を傾げていた。そして沈黙。シロッコは構わず続けた。
「そして時代究極のサイコミュ兵器を備えたフロンタルを倒すに同等の力を用いなければならない。その力は諸刃の剣であり、代償が今起きている事象だ」
沈黙の中、ブライトがシロッコに尋ねた。
「この事態がサイコミュが?」
シロッコはテムを見た。その続きは技術屋であるテムが話した方が説得力があるかと思ったからだった。テムも察して話し始めた。
「そうだ。技術屋としてアフターケアをしている最中、ナガノ博士と共にその危険性についても議論は重ねていた。ただ予測でしかなく有り得ないこと、科学的にだ。まさか空間に危害を及ぼすとはSFのことだけだと思っていたのだ」
テムは一つ間を置いてから話し続けた。
「今まではそこそこの自然現象に済んでいたのは、この世界が動乱と言う名の揺れで多少の水がコップからこぼれ出たという例えに過ぎない」
相槌を打つようにアムロが話に割って入った。
「それが満水でオーバーフローしたと言いたい訳なんだな、親父」
テムは答えたアムロを見て、「ご名答」と答えた。
「世界均衡というコップに注がれたサイコミュという力の水が今こぼれ出てきた。それによりコップの外側が濡れてコップが置かれた裸の世界であるテーブルが濡れた。結果、サイコミュで起きていた不可思議な現象が世界で様々な災害がもたらされている」
次はシャアがテムに尋ねた。
「我々は専門家ではありません。例えでも具体的に説明願いますか?」
「我々がサイコミュにより斥力場や引力場を用いて物を曲げたり、ビットを操り飛ばしたりしていることはシャア総帥も知っているな」
「ああ」
「だが、その原理までは詳しくは解明されていない。が、直撃であった弾を曲げることはその弾が別の所に飛ぶのは分かるな?」
シャアは頷く。当然のことだからだ。テムはそこに疑問を呈した。
「つまり通常の物理現象で直撃するはずだったものが別のところに害を及ぼす。それも物理現象として未解明な力で、だ」
テムは周囲のクルーを見渡して、シロッコと同様にゆっくりと艦橋中央へゆっくりと歩く。
「ほんの些細な事だと思う。今や世界にサイコミュに関わる製品が出回り、その現象が世界規模で起きたと考えたらどうだろうか?」
ブリッジ内がどよめいた。テムは話し続けた。
「在り得ないことが有り得るのは世界の均衡を壊す。いや、均衡を保つために世界が望む、これが姿なのかもしれない。ただ人類にとってはとても有難くない」
シャアはテムに結論を促す。
「して、どうすればよい?我々は」
「シロッコの言う通り、サイコミュを棄てる。フロンタルを退治した後でな」
「それで世界はこの状態から脱せるのか?」
「少なくとも、事態の悪化は防げるはずだ。現状が最悪ならば止めることはできんが・・・」
「しなくとも変わらずで、して変わらないかもしれないか・・・」
シャアとテムの会話にアムロが再び割り込む。
「だがやらない訳にはいかないだろう」
皆がアムロに注目した。
「まだ見ぬ新にして強敵を我々は相手にする。それにオレにできることはモビルスーツに乗って戦うだけだ。それで世界の異変を食い止めることができるならば、ただやるだけだ」
アムロの意見に頷くものもいれば、そうでもないものもいた。
だが大所帯な艦橋内で発言を憚り、沈黙していた。そこに1人手を挙げた。
「ちょいといいですかね?」
スレッガーだった。歴戦の猛者で皆が認める指揮官でもあった。
シロッコに向けて手を挙げたので彼は「どうぞ」と一言いった。
「オレらはアムロ中佐と同じで戦うしかできない。それが生業としてきたからだ。だからそこに敵がいれば戦おう。おたくら政治絡みな話はよくわからんが、敢えて率直な意見をききたい」
シロッコはスレッガーを見ていた。話口調からスレッガーがとてもシンプルな人物だと感じた。
「シロッコ将軍は連邦の中枢にいて、このような状況を回避できた可能性があったのではないのかな?オレらは知らないが、サイコミュもフル・フロンタルたるものもオレの見立てでは大分昔から知っていたようだ。将軍程の器量・才覚・権力が有れば淘汰できたはずだが、それはオレが期待しすぎなだけかな?」
シロッコは成程そういう意見が来たかと思った。スレッガーの意見にルーが同調した。
直前の話ですんなりとした解決策を話されたことに疑問に思う者は少なからずもいた。シロッコは全てとは言わないがほとんどの事情を知っていた。そうすれば現状を避けることができたのではと。
「そ・・そうよ!シロッコ将軍は大きな力があるのに、こうなる前に予測できてサイコミュもフロントル?ってやつものさばらせないはずよ」
「(ルー、フロンタルよ)」
そうエマリーが心の中で思った。だがエマリー自身もシロッコがそれをできたはず、予測できたはずなのにそれをしなかったことに疑問に思った。自分だけでない少なからずはクルーがにわかに考えていて、その発言に全てのクルーが呼応するようにざわついていた。
シロッコは手を挙げた。するとざわめきは少しずつ止んでいく。
「私は世界を才覚あるものたちが正しく導いていければそれでよいと思い、当初は力を備えることに尽力した。それと並行して見えない違和感に私がいつでも関与できる様な状況にもありたかった。それは今日のような状態に関してだ。それは私の勘だった」
スレッガーはこくりと頷く。シロッコは話し続けた。
「現実的な問題が現状の問題と比較して、遥かに勝っていた。予測はできたが、現実に起きもしていないことに従うほど世の中は甘くはなかった」
「ですねえ。宇宙がこのままではおかしくなります、世界が崩壊します~って、誰もが現状を体験しなければ誰もが信じなかったでしょう」
スレッガーがそう相槌を打った。シロッコはスレッガーの絶妙な相槌に感心した。全クルーがシロッコの言い分に納得していた。
「時の権力者はそんな予測を超えた与太話を信じる傾向にあった。彼らには一般人よりも見る力に長けていたのだ。彼らはそれにいとも簡単に取りつかれていった。予測が現実化するのも時間の問題となったわけだ」
「その一端がサイコミュでもあったわけですねえ」
「そうです。彼らの仕掛けの1つです。他にもあります。例えばフロンタルです。そしてここにいる皆でその苦難を乗り越えていきました。しかしその苦難に対応するに同等の力を持ってして対峙する必要があります。その集大成としてア・バオア・クー落としによる奇跡が必要でした」
シロッコの発言に一同アムロを一目見た。アムロは肩を竦める。さすがにアムロも一言添えた。
「これが将軍の狙いであったわけですか?」
今度はシロッコに目が向いた。シロッコは頷き答えた。
「実体験でも既に私の能力上ビームの偏光をこなしては未来予測まで朧気ながらも意識にフィードバックしてくるシステムだと認識している。その向こうに何かあるかなど予測だけなら意図も容易い」
アムロが眉を潜め、仮定の話をした。
「将軍。もし、地球にアレが落ちたらどうするつもりだった」
シロッコは間髪無く答えた。
「一つのピリオドになったと思う。むしろ落ちた方が丸く収まったかもしれん」
その意見にテムとカイ、ミハルが表情を曇らせた。カミーユがそれを察知し、尋ねた。
「どういう意味ですか?レイ博士、知っているんでしょ」
今度はテムに皆の視線が向いた。頭から落ちる汗をハンカチで拭きながらも答えた。
「・・・予測でしかない。予測の話しかできない状況に苛立つ。ナガノ博士と場所は違えど共同研究を続けていたのだ。勿論サイコミュのな」
テムはオクトバーに指示し、ブリッジのメインモニターにあるデータを映し出した。それは縦軸がサイコミュの稼働レベルと横軸が時間軸だった。そこから先はオクトバーが話し始めた。
「我々は未知なるサイコミュにある一定の負荷を掛けていく実験を今日まで続けてまいりました。そこには時期によってレベルが変化していたのです。それによって実験機器にも影響を及ぼしましたので、それを制御する機器を開発、改良も重ねてきました」
オクトバーがポインターを使い、データ数値が隆起している部分や落ち着いた部分を示す。
「稼働当初はホント微々たる数値でした」
ポインターはまず実験当初を示した。
「これは時期としても6年前、サイコミュも今よりも流通しておりません。しかし、現在は見ての通り」
今度は今の時間の記録をポインターで映す。誰もが一目瞭然だった。時間に比例して増えていた。
「これは流通量が一端を握っております。しかし、何故か株価のように乱高下が見えます」
ケーラの隣にいたアストナージが発言をした。
「私も、気にはなっていました。何故あんな機械を誰もが制御できるようになったのかと・・・。この実験があったからなんですねえ」
オクトバーは頷き、アストナージに語り掛けた。
「ええ、そこの部分は割愛させていただきます。流通させるのが商売で技術屋の仕事でしてね」
ケーラがアストナージを軽く肘でごつく。「うっ」とアストナージは一言。
周囲が少し笑い、オクトバーも笑顔になり、再び話し始めた。
「注目はこの乱高下です。特にこのストップ高やストップ安のようなレベルです。この時期に注目してください。一番のストップ高が・・・」
ポインターで示す時間軸は丁度ア・バオア・クー落としの時だった。
アムロはため息を付いた。代わりにハヤトが発言をした。
「ア・バオア・クー落としで石を跳ね返したときですね」
その答えにオクトバーが頷く。
「そうです。そして困ったことに平時の指数には戻らず少し落ちたままレベルが現時点で徐々に上がり始めています。これが・・・」
シャアが今度は口をはさむ。
「現状というわけか。アムロの隕石返しよりも倍以上は少ないが、平時よりも5倍は数値が高い。これが今の異常というわけか」
オクトバーが「そうです」と答え、話し続けた。
「他にも隆起しては落ち込む、その時期は必ずと言っていい程、戦いが起こり、サイコミュが反応するような事態が大きく起きた。落ち着くと極端に落ち込む。その意味は戦意が落ちたことだと考えます」
ブライトが手を挙げて、質問した。
「オクトバーさん。今までは自然に落ち着いたように見えますが」
「そうですね。きっと仰りたいことは当然の質問だと思います。何故、この度はと言いたいのでしょう」
「その通りです」
ブライトがそう言うと、オクトバーはまた別のグラフをモニターに映した。今度は縦軸がサイコミュのレベルだが、横軸が電気的な負荷力だった。
「我々はサイコミュの一般化を目指す為に耐久実験を繰り返しては制御できるマシーンを生み出してまいりました。その過程での実験データです」
一同がモニターに見入った。オクトバーが話続けた。
「我々は未知なる物質でどのようなことが生じるか、未だに解明できておりません。しかし、制御しなければなりません」
オクトバーは画面を2分割して、片方に実験のシステムを簡易的な図で表示し、説明した。
「そこで2重3重の制御網を敷き、サイコフレームを制御してきました。ことは簡単です。一つ目の壁が破られれば2つ目で食い止める。ただそれだけです」
オクトバーは次の図を見せて、ポインターで引き続き説明をする。
「1つ目の制御をワザと破らせるという実験です。これで機械の限界値を知ります。困ったことに、サイコフレームはある規格を超えた体積になると中々丈夫で壊れません」
オクトバーは実験システムの図を実験過程を説明できるように作っていた。少しずつコマを進めていく。
「この電圧レベルで1つ目の制御が動作不能になります。サイコフレームは反応を自身で少しずつ高めています。そこで制御するために反する力を掛けました。その時の数値が異常だったのです」
オクトバーがサイコミュを操る操縦者に尋ねた。
「過度にサイコミュを操れる方々にお聞きします。後で凄く疲れるでしょう」
その質問にアムロ、カミーユが首を傾げた。カミーユが答えた。
「ええ、ぐったりはまあしますね」
オクトバーが頷く。
「実はサイコフレームの特徴としてニュートンの第一法則を無視しています。まだ仮定ではありますが、そんな気がします。それは現実的でない話です。2つ目の制御網でサイコミュに与えた負荷以上のエネルギーを持ってして抑えつけなければなりません。その力が差し引きしても制御が上回ります」
アムロが顎に手をやっていた。カミーユは腕を組み答えた。
「常に制御は心掛けているので、それは自分の中で収めたいからでしかない・・・。理由は・・・その力が育つ傾向にあるからか・・・」
カミーユは得心した表情をした。アムロもカミーユを見て驚きの表情を見せた。ブリッジ内もざわつく。オクトバーが「そうです」と一言、そして続けた。
「この物質は得たエネルギーを基に育ち作用する傾向にあるという一定の結果を得ることができました。現実世界であるまじき行為です。レイ博士、ナガノ博士共に危険性を訴えて、会社上層部と掛け合いましたが、一蹴されました」
オクトバーへの視線がテムに向く。テムが話し始めた。
「お偉方は未知なる力に見せられやすいんだよ。あのメラニーはダメだ。奥方からの圧力に負けては、全世界にその技術の流出を促した。結果がこれだ」
再び、ブライトが手を挙げて発言した。
「オクトバーさん。その、何故今回がという質問に・・・」
オクトバーは「すみません」と一言言って、テムも手でオクトバーに促した。
「世界に流通したサイコミュが反応したことです。それはアムロさんらのきっかけもありましたが、それを流通させたアナハイムにも責任があります。そして現状の全ての利点を効率的に利用し、現在のレベルを維持して上昇させているものが地球圏のあるポイントに存在することが確認できております」
メインモニターが今度は航路図になった。するとある1点を指し示していた。それについてシロッコが話し始めた。
「そこにフロンタルがいる。サイコミュの結晶であるパンドラボックスを携えてな」
「パンドラボックス!」
カミーユが反応した。周囲が驚いた。シロッコは続けた。
「パンドラボックスはビスト財団が叡智を結集させたサイコミュ収集蓄積機。微々たる世界の怨念をため込み、そしてそれを用いて天変地異を起せると仮定される意味不明な機械だ。それを壊すことは何人たりともできない」
シロッコは周りを見渡して、話し続けた。
「フロンタルは時期を狙っていたのかもしれない。時代の過渡期、もはや派閥も思想も落ち着き、疲弊した世界が様々な救済を求めては最も感受性が高まる。つまりはサイコミュを最も効率的に活動できる時期が今であって、アムロ中佐が起こした奇蹟の波に乗り利用したのかもしれん」
シロッコが少し無念さを滲ませた。そして再びスレッガーがパンドラボックスについて質問した。
「何故ですかい?パンドラボックスは人の作ったものでしょうが。破壊できないと?」
「蓄積された力はおよそ数十万の機体装甲密度を秘めていると考えたらいかがかな?」
スレッガーは舌打ちした。「厄介だな」と一言。ブライトがシロッコに尋ねた。
「対策は?」
シロッコは少し笑い、頭を掻いて答えた。
「とても恥ずかしい話だ。ごくシンプルだ。世界が一つとなってパンドラボックスに反抗する負荷を掛ける。そしてサイコミュを棄てる。それで今以上に被害は大きくならずに収束していくのでは・・・と思う」
「思う?」
「憶測でしかないのだ。オクトバー技師も言った話だが、ニュートンの法則を無視した代償が、埋め合わせが世界に起きた事象だという仮定であれば、それで落ち着くことができるか否かは森羅万象に掛かっているとしか言いようがない」
シロッコは軽く熱を帯びてブライトに伝えた。ブライトは「くっ」と口びるを噛んだ。その後一つ途中であった質問を思い出して、ブライトは咳払いをしてからシロッコに尋ねた。
「先の・・・ア・バオア・クー落としが成功していたらどうなったのだ?」
「あらゆる事業が止まり、生存を賭けた方向へ世界が強制的にシフトした。地球が滅亡するからな。そこにはサイコミュという技術の発達や利用もひとたび終焉を迎えて、フロンタルらもガス欠で終了だ」
「ガス欠?どうして」
「彼が動けるのは支援あってのことだ。それは未だ世界の権力者が彼を支持するものがいるからだ。支援が切れる為には支援する権力者らが力を失う程の事態が生じる必要があった」
「それが地球破壊だと・・・」
「そうだ。宇宙に出ようが、地球への依存度は未だ高水準だ。地球無くして人類は成り立たない。支援者を取り締まればいいと思うが、そんなことが出来る訳が無い」
ブライトは首を傾げた。シロッコは気にせず続ける。説明を全てできていないからだ。
「我々には権限はなく、権力者は所謂一般市民であり、そして特権階級だ。軍属の我々から見れば、こちらが社会弱者なのだ。そいつらに致命的なダメージを与えて、人類を生き延びる可能性としての一つが隕石落としだったに過ぎない」
「だが、その支援者からの・・・」
「邪魔が入るかと?元より彼らには結束力などない。あるのは各々の小さな利益だけだ。フロンタルは上手くそれを引き出しては燃料を得ていた。それを断つ手段は余りに細かすぎて、費用対効果も得れずに寧ろ全てがダミーであって、本物でもある。隕石落としの結果に危機感はあるが、彼ら1個の力は余りに微小だった」
ブライトはシロッコの説明を聞き終えると肩を落とした。
その数秒後、トーレスより艦に接近するモビルスーツの反応について報告があった。
「艦長、それ程の速度ではないですが、救難ビーコンを出して接近してくるモビルスーツがあります」
ブライトはトーレスに目をやり、アムロとシャアは近づいてくる感覚に懐かしさを覚えた。シロッコも同様だった。アムロが口にした。
「・・・ララァが戻ってきたか。理由は知らないが」
続けてシャアも言う。
「ああ、オーガスタの時と同じ雰囲気だな」
シロッコも次いで言った。
「メシアの支配から脱したのか・・・。確かに雰囲気が無い」
すると、そのモビルスーツより通信が入った。
「・・・聞こえますか。救助を求めます。私はララァ・スンです。ご存じでないでしょうが、もう一人の私はフロンタルとの戦いに精神を投じ、私が私であります。世界の危機です。助けてください」
それを聞いたスレッガーが「だとさ」と言った。メランがその通信に従い、モビルスーツデッキのスタッフに指示を出した。
「これから来るモビルスーツを丁寧にキャッチしろ。この事態の、世界の命運がかかっている」
ブリッジにいる全ての者が近づいてくる1機のモビルスーツを見つめていた。そんな中、コウとキースが今までの話で知恵熱を出していた。
「ああ、こんな事態にして話がややこしい」
キースがそうぼやくとコウも同意した。
「この艦に世界の動向の全てがかかっているといっても過言でないからな。色々面倒なのさ」
その会話に後ろからアレンが両名の間に入って肩を組んだ。それに2人とも驚く。コウが叫ぶ。
「アレン少佐!」
「おう、全くだな。でもな、こんな事態普通じゃありつけないぜ。まあ堪能しようや」
その発言にキースが眉を潜めた。
「気楽すぎませんか?」
「そうでもしないと気が狂うわ」
アレンは顔が笑っているが心底は真逆だと2人は感じていた。
* ゼウス ブリッジ内
フロンタルがブリッジ内である人物を迎えていた。側近のマリオンとクスコは訝しげにその人物を見ていた。
「(何なんだ。このじいさん)」
クスコがマリオンに密かに話す。マリオンは無言で首を傾げた。
「(わからない。マスターは何をお考えなのか?)」
見るからに年寄りなのは明らかだが、立ち振る舞いやその背筋は若者のようだった。
その老人がフロンタルに話し掛けた。
「確かな結果をもたらしてくれた。礼を言うぞ、よくぞやり遂げた」
「マイ・ロード・サイアム。貴方がそう命じていたまでです」
マリオンとクスコはその老人がサイアムという名だと知った。
サイアムはブリッジにある艦長席に腰を下ろす。
「それも1つの選択肢に過ぎない。私がこの様に100歳も超える程の肉体に満ち溢れた力を齎したパンドラボックスの力も副産物に過ぎない」
フロンタルは頷く。そして改めて指示を仰いだ。
「マイ・ロード。世界を壊すという望みはそのままでよろしいでしょうか?」
サイアムはフロンタルを見て笑みを浮かべた。
「構わぬ。私はこの特等席にて崩壊を見ることができるだけでよい」
「かしこまりました。存分にご堪能ください」
フロンタルはマリオンとクスコに目配せて共に退出を促した。
独りになったサイアムは目の前のモニターに映る地球を見ていた。
「(イレギュラーがどう動くか。まだまだ余興は続きそうじゃのう・・・)」
サイアムはクスクスと笑っていた。
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