剣術と魔法で異世界生活
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第1章
やって来ました異世界
第2話 早速戦闘、そして出会い
神さまの不手際で死に、その神さまによって異世界で蘇った俺、暁月飛鳥は現在、目覚めた場所から少し歩いた先にあった道と思しきところを歩いていた。
たぶん、この道を道なりに進んでいけば、街なり村なりに着くだろう。
「街とかに着いたらどうすっかな」
意気揚々とスタートしたのはいいが、現在、俺は無一文だ。まずは働き口を探さないとな。
神さまからは『冒険者』の職業をオススメされた。
内容はRPGゲームによくあるやつと同じで、依頼をこなして報酬をもらう単純なものだ。
特にいまはなりたいという職業はないので、ひとまずそれでいいだろう。この世界の住人もだいたいは冒険者になってるらしいからな。討伐系なら、培ってきた剣術の技術が役立てるだろう。
冒険者になるには『冒険者ギルド』というところに行き、冒険者登録をしなければならない。
「よし! 街に着いたら、まずはギルドに行って冒険者登録だな!」
やることが決まり、足取りが軽くなった。
「ふふふんふふふん、ふふふふふーふん♪ ふーふふーふーふーふんふーふふん♪ ふふふんー、ふふふふんふーふーふんふー♪ ──ん?」
好きな特撮の主題歌を鼻歌で歌いながら歩いていると、遠目で道のど真ん中に何かがあるのが見えた。
「なんだあれ?」
気になった俺は早足でその何かの下まで向かう。
「············こいつは······」
俺の視界に入ったのは、高級そうな馬車の見るも無惨な姿だった。
「魔獣······いや、盗賊の類か?」
馬車には剣や鈍器らしきもので殴りつけられたような痕が何箇所もあり、矢が数本刺さっていた。
「············ひでぇな」
馬車の近くには馬が何頭か死んで横たわっていた。こちらも馬車と同様の傷があった。
俺は馬の一頭に近づき、その体に触れる。
「······まだ温かいな」
それはつまり、この馬が死んでから、まだそれほど時間が経っていないことを示していた。
あたりを見渡すと、草の上に赤い液体がたれているのを見つけた。間違いなく血、それも血痕だった。
血痕は道の脇にあった林に向かっていた。
「······手遅れの可能性もあるが、このまま見過ごすのもな!」
俺は血痕をたどって林に向かって駆け出す。
―○●○―
血痕をたどり、林の中に入ってから数分が経った。
いまだに血痕の主は見つけられなかった。
「ッ!」
しばらく走っていると、少しひらけた場所が見えてきた。
「いた!」
そしてそこには、大木を背にして怯えたような表情をしている流れるようなプラチナブロンドのロングヘアーにアイスブルーの瞳を持った少女が一人。
その少女を庇うように黒い礼服を着た白髪の老人が一人。たぶん執事かなんかだろう。ケガをしているのか肩を手で押さえていた。
その前には九人の兵士と思しき男たちがいた。たぶん護衛兵士だろう。
さらにその前に軽鎧を身につけた肩まで伸びた金髪のセミロングで騎士のような少女がいた。
その者たちに対峙するように二足歩行しているトカゲの兵士、いわゆるリザードマンが十体いた。
そのリザードマンたちの後方に杖を持ち、顔まで覆う黒いローブをまとった男性と思しき者が一人。たぶん魔法使いだろう。
状況はだいたいわかった。おおかた、執事の後ろにいる少女はどっかのえらい御家のご令嬢かなんかで、その少女を狙ってあのローブの男がリザードマンを率いて襲った、といった感じだろう。
だとするとやばいな。
少女と執事は見る限り戦闘力はほぼないだろう。
護衛兵士と思われる男たちは皆大ケガを負っていた。とてもじゃないが、戦える状態じゃない。
となると、現状は最前にいる少女騎士一人が背後にいる者たちを守りながら孤軍奮闘をしている状態だ。だがその少女騎士も、息が上がっているうえに、どこか動きが鈍い感じだった。特に足さばきが。おそらく、足をケガでもしたのだろう。
やられるのは時間の問題だった。
とか状況確認している間に少女騎士の持っている剣がリザードマンの一体が持つメイスの一撃で弾き飛ばされた!
そのままリザードマンはメイスを少女騎士に振り下ろそうとする。
「どりゃあああ!」
その前に俺は横合いからメイスを振り下ろそうとするリザードマンに助走をつけた飛び蹴りをかましてやった!
リザードマンは腰をくの字に曲げながら吹っ飛んでいった。
突然の乱入者に俺以外のその場にいた全員が呆気に取られていた。
「き、貴殿は!?」
「話は後! いまはこいつらの対処のほうが先決だ!」
真っ先に硬直から立ち直った少女騎士の問いかけをバッサリと切り捨て、眼前のリザードマンたちを見据える。
リザードマンたちの装備は、曲刀と盾を持った奴が四体、槍を持った奴が二体、メイスと盾を持った奴が二体、弓矢を持った奴が二体。
リザードマンたちを率いているローブの男は俺の乱入に最初は驚いていた様子だったが、すぐに余裕の笑みを浮かべた。
一人加わったぐらいどうってことないと思っているんだろう。
「さてと······」
ベルトに差している龍絶牙の鞘を左手で握り、柄に右手を添える。
それを合図にリザードマン二体が曲刀で斬りかかってくるのを、リザードマンの懐に入るように避け、愛刀を鞘から引き抜き、すれ違いざまにリザードマン二体の急所を切り裂く!
「ッ!」
横合いからさっきの仕返しとばかりに蹴り飛ばしたリザードマンがメイスを振り下ろしてくる。
「フッ!」
メイスを避け、振り下ろされた勢いを利用して背負い投げ、倒れたリザードマンに龍絶牙を突き刺す。
「おっと!」
飛んできた二本の矢を一本は体を捻って避け、もう一本は掴んで止める。
うーん、後衛からの遠距離射撃は厄介だな。
先に弓矢を持った奴を叩くか?
そう思うと同時にたったいましとめたリザードマンのメイスを握り、弓矢を持ったリザードマン二体目掛け投擲する。
そのスキにさっきしとめたリザードマン二体の曲刀を二本同時に投擲する。
投げつけられたメイスに怯んでいたリザードマン二体の胸に曲刀が突き刺さった。
「さてと、これで厄介な後衛は潰した──っと!」
背後から斬りかかってきたリザードマン二体の曲刀をわずかな動きでかわし、リザードマンに背後を見せながら腰を落として龍絶牙を構える。
「暁月一刀流・三の型──回天!」
その場で一回転しながら龍絶牙を横薙ぎに一閃。
背後からドサッという音が聴こえてきた。
見ると、背後にいたリザードマン二体は胴体から上半身と下半身が切り離されていた。
「残り三体──っと」
メイスを持ったリザードマンの一撃を避け、龍絶牙を振るうが、盾によって防がれてしまう。
「フッ!」
龍絶牙の持ち手を瞬時に逆手持ちに切り替え、その場で回転してリザードマンの首に横から突き刺した。
「おっと」
残る槍持ちのリザードマン二体の突きを槍の間に入るようにかわし、槍を掴んで動かなくする。
まぁ、俺も動けなくなるけど。ま、問題ないがな。
「ハァァァッ!」
槍を動かせず、身動きが一瞬止まったリザードマン二体にずっとスキを伺ってた少女騎士が飛びかかり、リザードマン二体の首が飛んだ。
「おみごと」
これでリザードマンは全滅。あとはあのローブの男を──。
「──て、あれ?」
全部倒したはずのリザードマンがまだいた。というか、ローブの男の影が伸びて、リザードマンが這い出していた。
「······あのリザードマンたちはあの男に呼び出された『召喚獣』。いくら倒しても無駄です」
俺の疑問に答えるように少女騎士が苦い表情で言った。
召喚獣か。となると、あのローブの男をなんとかしないと延々とリザードマンと戦うはめになるのか。
その件のリザードマンはあっという間に最初の数と同じ十体になっていた。
どうやら、一度に使役できるのは十体までのようだな。
「············ならなんとかなるか」
「?」
俺のつぶやきに怪訝そうな表情になる少女騎士。
ローブの男もいい感じに油断してくれてるし、問題ないだろう。
そう思うと同時に龍絶牙を霞の構えで構える。
それを見たローブの男は一瞬怪訝そうな表情を作るが、すぐに余裕の笑みを浮かべた。
「暁月一刀流・奥義──」
ローブの男の指示でいっせいに襲いかかってきたリザードマンの集団の中に突っ込む。
「──二の太刀・桜花!」
俺がリザードマンの集団を通り過ぎたときにはリザードマンはすべて斬り伏せられていた。
「なっ!?」
一瞬にしてリザードマンたちが全滅したことにローブの男はリザードマンの再召喚も忘れて驚愕する。
「フッ」
俺の笑みを見て、ローブの男はようやくリザードマンを再び召喚しようとする。
遅い!
「二の型──疾風!」
焦るローブの男に一瞬で近づき、その首を一閃──しようとした刃を直前で止める。
ローブの男は恐怖で引きつった顔をしていた。
そのまま手刀で男の首を打ち、男を気絶させた。
「これで終わり、と」
龍絶牙を鞘に収め、男のローブの襟元をつかみ、少女騎士のところまで引きずっていった。
―○●○―
「ご助成感謝します」
少女騎士に頭を下げて礼を言われる。
「いや、たまたま通りかかっただけだ。それよりも被害は?」
「······見ての通り、重傷者が多いです。ですが、幸い死者は出ていないです」
「ケガのほうは?」
「重傷ではありますが、命に別状はありません」
そっか。どうやら手遅れにならずにすんだようだな。
「あ、申し遅れました。私は王国騎士団に所属するアイリーン・スパーダと申します。どうぞアイリと」
アイリーンと名乗った少女騎士。歳は俺と同じぐらい、十五、六歳かな? てか、この子、よく見ると右目が紅、左目が翠のオッドアイだな。
そして王国騎士団ね。たしか、神さまから聞いた話だと、俺が降り立ったここは、『アルクェイド王国』と聞いた。彼女はその国に仕える騎士団に所属してるってことか。
「俺は暁月飛鳥。よろしくな、アイリ」
「アカツキ殿ですか」
「あっ、飛鳥のほうが名前だ」
「名前と家名が逆なのですか?」
あ、やべ。もしかしたら、この世界じゃ、日本人みたいな名前は存在しないのかもしれない。
内心焦っているところに、執事の老人が会話に入ってきた。隣にはご令嬢らしき少女もいた。
「確か、極東のとある島国ではそのようになっていると聞いたことがございます」
極東の島国。たぶん、この世界の日本みたいなところなのだろう。
「では、あなたは極東からいらしたのですか?」
アイリの質問にとりあえず「そうだ」と答えておく。
まさか異世界から来たなんて言えないし、そもそも信じてくれないだろうしな。
「ご挨拶が遅れました。わたくし、アルクェイド王家に仕える執事のレイモンドと申します。以後お見知りおきを」
執事、レイモンドさんが深々と一礼する。歳は六十半ばってところかな?
「肩の傷がありますから、無理をしないでください」
「ご心配には及びません。先ほど応急処置を施しましたので、痛みはまだありますが大丈夫でございます」
確かに、あまり苦痛を感じている様子は見受けられなかった。たぶん、そこまで深い傷ではなかったのだろう。
──て、あれ? いまこの人、王家に仕える、て言わなかったか? てことは······。
「······もしかして、そちらのお嬢さんは······?」
おそるおそる尋ねてみる俺。
「わたくしも申し遅れました。アルクェイド王国第一王女、クレア・レスト・アルクェイドでございます」
王女と名乗った少女はスカートの端をつまんで一礼する。
異世界に来て早々、俺はお姫さまに出会うのだった。
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