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第三章
「大変なことになる」
「それは何故ですか」
「兵を助けられないのですか」
「若し門を開ければどうなる、敵軍は目の前まで迫っていてだ」
公孫賛はさらに言った。
「騎馬隊もいる、足の速いな」
「その者達が城に入って来る」
「そしてそのまま攻められるからですか」
「だからというのですか」
「ここは門を開けられないのですか」
「そうだ、門を開ける訳にはいかん」
袁紹軍が城に入りそのまま攻め落とされるからだというのだ。
「だからだ、いいな」
「くっ、しかし」
「五百の兵達が」
「それがしの弟が」
「若しここで五百の兵達を救えばだ」
門を開けてというのだ。
「五百以上の兵を、いや我等全員がだ」
「死ぬと」
「そうなるというのですか」
「だから開ける訳にはいかぬ」
公孫賛の言葉は変わらなかった。
「よいな、このまま城を守れ」
「そうですか」
「そうせよというのですか」
「何があってもな」
城を開けるなと言うのだった、そしてだった。
実際に門は開けられなかった、こうしてだった。
五百の兵達は城を守る彼等の目の前で袁紹軍に殺されていった、助けを必死に求めるがそれでもだ。
「どうして門を開けないんだ」
「味方が目の前で殺されているんだぞ」
「それでもいいのか」
「早く開けてくれ」
「どんどん殺されているぞ」
「殿のご命令だ」
一人の将校が兵達に苦い顔で言った。
「だからならん」
「どうしてもですか」
「門を開けられないのですか」
「そうだ、仕方ないことだ」
どうしてもというのだった、兵達に。
「このことはな」
「では」
「このままですか」
「五百の兵達は」
「見捨てる」
将校もこう言った。
「このままな」
「目の前でやられてるのに」
「味方がそうなってるのに」
「それでもですか」
「殿が決められたことだ」
将校はこう言うしかなかった、それでだった。
彼等は見ているしか出来なかった、味方の兵達が逃げる場所もなく為す術もなく憑かれ鵜はてたうえで殺されるのを。彼等は苦い顔で見た。
その後でだ、彼等は忌まわしい顔で話をした。
「あの五百人助けられただろ」
「それで助けないって何だ」
「俺達もああなるのか?」
「城が危ないからって切り捨てられるのか」
「そうなるのか?」
こうした危惧も出て来た。
「このままここにいたらな」
「あの五百人みたいになるのか」
「弟みたいになるのか」
「公孫賛に見捨てられるのか」
「見捨てた様な奴だしな」
自分達もと思いだ、それでだった。
彼等はここでだ、こうも話した。
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