アタエルモノ
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第三話
前書き
どうも、もう二度と、一日で書き上げようとしません。
―公園―
「はぁ………………。」
俺はベンチに座るなり、デカい溜め息を一つ。溜め息をしたら幸せが逃げてくとよく言うが、それならむしろ、今までの分で十分お釣りが来るだろう。
…………あれから。
俺は半強制的にこれから毎日、あの教室に来ることを沙紀(アイツが名字で呼ばれることを嫌ったため)と約束することになり、十五時位にようやく開放された。
…………最初は逃げようと教室をでて、自分の教室の扉を開けたら、目の前で沙紀が手を振っていた時にはどうしてくれようかと思った。(沙紀曰く、『ワームホール』と言うものを使ったらしい。最早何でもありだ。)
他のいくつもの教室に入っても『部室』に入ってしまうため、早めに諦めた。
「しかし…………なんで俺なんだ?」
まだまだ肌寒さが残る公園の中で、少し傾き始めた太陽を背中にそう言った。
なんで俺があんなに絡まれたのか。
なんでアイツは俺に絡んできたのか。
なんでアイツがあんな『力』を持っているのか。
なんで他人の願いを聞くのか。
なんでそれを叶えるのか。
何一つとして――分からない。
「…………あいつ、それについては全く教えてくれなかったな。」
当然だが、俺はその辺の質問は全て沙紀に聞いた。
それらに対して、沙紀は全てにこう答えた。
『いつか話すよ。』
いつだボケ。
とまぁ、こんな感じである意味話が通じなかった。そもそも、存在事態が常識が通じないんだけどな。
しかし、外見は目茶苦茶可愛いのになぁ、と思ってしまう。少なくとも、今で十五年間生きてきた中ではナンバーワンの可愛さだ。胸を張って言える。俺が威張る事でもねぇけどさ。
「ま、綺麗な薔薇にはトゲがあるって言うしな。」
どう考えてもそんな生ぬるい言葉で片付けられるような問題ではないのだが、明日は明日の風が吹く、だ。気にしちゃ負けだ。明日の俺、ファイト。
俺はベンチから立ち上がると、下宿先のアパートに向かって歩き始めた。馴れない土地とはいえ、ここからアパートまでなら余裕でたどり着ける。
アパートは、ここから歩いて五分位の閑静な住宅街の中にある。朝の運動には少し物足りない距離だ。
「しっかし…………明日から一人暮らしかぁ。」
俺は公園を出て、歩道を歩きながらそう言った。
今日は入学式ということもあり、親父とお袋が地元の徳島から俺のアパートに泊まり込みでやって来ていた。明日の朝、俺が学校に行く前に帰るらしい。
…………しかし、まさかこんなことになろうとはな。
俺が、あの七宮学園に通えるとは。
俺の家の家庭事情は、はっきり言って他の家庭より貧乏、と言うか借金が酷かった。
親父の親父、つまり俺の祖父さんが、借金を俺達に隠したままポックリ逝っちまった訳だ。総額四百万。
そもそもあまり裕福ではなかった俺らは、一気に生活が激変した。さっき沙紀に言われた通り、煎餅なんかなかなか食べれなかった。
そんなわけで、当事中学生の俺は朝に新聞配達しながら少しでも足しになればと働いていた。あまり誉められたことじゃあなかったけどさ。
そんな奴らがどうして私立高校なんかに通えてるのかって話だが…………。
まぁ、あれだ。
お袋が買った宝くじが大当りしちゃったわけだ。総額二億。
いろんな意味で生活が再び激変したね。
当然借金は完全に返済。ついでという感じでマンションと車を購入。ただまぁ、それ以上は後世のための遺産にしようとしたわけだ。
そこで、親父が俺にこんなことを言ってきた。
『いいか、ヒロ?これからお前は自分の行きたい高校に行っていい。公立でも国立でも私立でも。中学校でしんどい思いさせちまったからな。高校では、お前の能力の限りのことをしてこい。』
そう言われて、元々頭は悪くなかった俺は、国内有数の私立校、七宮学園を受験した。
結果、合格。俺は地元から出てきて、下宿することになった。
まぁ、なかなか数奇な運命だなと。支払ったものと言えば、中学の三年間位かな?
それを差し引いても有り余るような結果になったわけだが。
…………まぁ、まさかあんなのに絡まれることまでが数奇な運命だったんだろうな、と一人で納得した。
そんな事を考えていたら、いつの間にやらアパートに到着していた。
このアパート――『コーポ中沢』は、三階建てのアパートで、一フロア五部屋の、合わせて十五部屋。学園が近いこともあってか、学生に多く使われている。
元々一人暮らし用に作られたのだろう。六畳一部屋、トイレフロ付き、家賃六万二千円。これが高いのか低いのかは個人の判断に任せよう。
俺は外付きの階段を昇って、二階の奥から二番目の部屋、『204号室』に入る。
「ただいまー、親父よぉ。いい加減鍵ぐらいかけろって。徳島と違って都会なんだからさぁ。」
やはり、防犯とかに疎い両親が留守番していたから、鍵はしまってなかった。
「おう、おかえりんさい。良いじゃねえかよ!どうせ俺が盗られて困るようなもんなんてねぇんだしよぉ。」
聞きなれた威勢のいい声が聞こえてきた。この声の主は八重樫 源信(やえがし げんしん)、俺の親父だ。
「本当よぉ。いいじゃない。」
それに遅れて聞こえてくるおっとりした声。お袋の、八重樫 遥(やえがし はるか)だ。
俺は半分諦めたように、靴を脱いで部屋に上がる。流石にこの狭い部屋に三人もいると余計に狭い。
まぁ、明日には広く感じるんだろうけどな。
「ところでよぉ、ヒロ。どうだ?友達になれそうなのは見つかったかい?」
親父は身体を乗り出して俺にそう聞いてきた。
ふむ、友達になれそうなのねぇ…………。
「まず、俺の隣の席の福島ってやつとは話をしたな。なかなか話しやすい相手だったよ。それに、出席番号一番の赤坂かな。号令でやらかしてた。あとは――――。」
俺はそこまで言った後、少し黙った。
沙紀のことを言おうか少し悩んだ。いや、言っても信じてもらえる訳ないんだけどさ。
「――だいたいそんなもんかな。」
「へぇ、なんとかなりそうじゃない。」
お袋はそう聞いてホッと息を吐いた。どうやらそこが気掛かりで仕方なかったらしい。
「明日からは俺たちは居ねぇからなぁ。気ぃ引き締めて行けよぉ?」
…………しかし、相変わらずこの親父は一々ヤーサンっぽいのだろうか。家に招いた友達に、ほぼ百パーセント、『お前の父ちゃんってカタギ?』って聞かれる。カタギです。
「まぁまぁ、不安になったら電話かけてくるのよ?」
お袋はお袋で、なんでこんなのを人生の伴侶に選んだのか不思議で仕方ない。絶対もっといい男がいたはずだ。
「さてと、これから俺達は晩飯買ってこようと考えてるんだが…………何が食いたい?」
親父はそう言いながら立ち上がった。
うーん…………ここは…………。
「牛丼。大盛で。」
牛丼なんて食べるのいつ以来だろ…………小学三年以来かな…………?
「…………すまんなぁ、俺らのせいじゃあないけどすまんなぁ…………。」
「んなこといいから、ほれ、頼むぜ?」
と、俺を残して親父とお袋は部屋を出た。
さてと、部屋の整理でもしますかね。
俺は引っ越しの荷物を整理しようと、机の上から片付けを始めようとした。
「あ…………?」
俺はそこで、二枚の紙切れを見つけた。どうやら、新幹線の指定席のチケットのようだ。
しかし、その日付。
四月八日、十四時三十二分。
一時間後だった。
俺は慌ててお袋に電話をかけた。
『あら、どうしたの、ヒロくん?』
「おい、お袋!新幹線の日にち、今日じゃねぇか!」
『え?ちょっとあなた!どういうこと!?』
『あ?あれ、今日って七日じゃねえっけか?』
―一時間後―
俺は駅で親父達を見送っていた。二人とも窓際の席で窓を開けていた。
「それじゃあ、気を付けるんだぞ!」
親父はキメ顔でそう言った。
「それはこっちのセリフだバガ親父!」
思わず叫んでしまった。こんな感じのポカはよくあることだが、流石に今回は洒落にならない所だった。
三万円ドブに捨てようとしてたわけだからな。
「元気でいるのよ?」
お袋もなんだかんだで流してるし…………気を張ってるのは俺だけよ。
「はいはい、わかったよ。そっちこそ元気でな。怪我とか病気とかすんなよ?」
「「あぁ、それじゃあ。」」
二人は同時にそう言うと、窓を閉めた。程なくして、動き出す新幹線。
俺はその新幹線が見えなくなるまで、そこで見送っていた。
「…………帰るか。」
俺は駅を後にして、晩飯を買う予定だった駅前の大手牛丼チェーンの店で、牛丼大盛を持ち帰りで頼んだ。
―アパート前―
「あー、ちくしょう。」
ドタバタしたせいで、しんみりするような時間もなく、俺は一人で若干いらいらしていた。
「なんとなく、親父が狙ってやったように感じちまうんだよなぁ…………。」
それこそ深読みか。
俺は頭をふって、これからの一人暮らしを頑張ろうと意気込んで、扉を開けた。
「あ、おかえり。遅かったね。」
神谷 沙紀が、そこにいた。
後書き
読んでくれてありがとうございます。文字の打ち過ぎで気持ち悪いです。内容も込みで、しっかりスケジュール管理しねぇとなぁ…………。
それでは、また次回。
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