魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第4章:日常と非日常
第123話「嫌い」
前書き
トレーニングルームでの戦闘ですが、シャマルさんを筆頭に何人かが共同で張った結界内で行っています。結界がないとアースラが壊れますからね…。
ちなみに、ユーノはいないので結界の強度に若干の不安があったり…。
=司side=
ドンッ!
「なっ…!?」
「はぁっ!!」
一歩踏み込み、一気に間合いを詰める。
そして神速の一突きを放つ。ギリギリ反応されたらしく、掠るに留まる。
…そこで少し頭が冷める。今のが優輝君なら、あっさり受け流されただろうな。
「速…!?」
「シッ!」
躱した方に叩きつけるように薙ぎ払い、すぐにシュラインを回転させて叩きつける。
どちらも間合いを離す事で躱されたけど……まぁ、いいや。
これで今の私の状態を冷静に判断できる。
シュブリマシオンの効果は途切れていない。だから、この身体強化はその効果。
さっきまでと身体能力が違うのは、私の“怒り”が起因している。
“怒り”がそのまま“祈り”の力に変換されたから、ここまで攻撃的なんだろう。
その証拠に、動きが少々荒っぽくなってた。
「(…大丈夫。思考は落ち着いている。…“怒り”はまだまだあるけどね…!)」
手を休める事はない。
周りに魔法陣を用意しておき、魔力弾を展開する。
それを放つと同時に間合いを詰め、シュラインを振るう。
「はぁあああ!!」
「ぐっ……っ…ぁああああっ!?」
突き、突き、突く。
槍と言う武器において、突きという攻撃はリーチと速度を生かしたものだ。
故に防ぎにくいが…余程の実力、もしくは練度がなければ隙がある。
それを私は魔力弾と魔法陣から放つ圧縮魔力で補う。
結果的に、強力な攻撃が隙を見せずに何度も襲い掛かる事となる。
さすがに、彼も凌ぎきれずに攻撃を喰らっていく。
「(けど、まだ足りない!)」
しかし、それだけでは倒すのには足らない。
それに何よりもそれでは私の気が済まない。
「(もっと…もっと強く、速く!)」
横にずれ、地面を蹴る。
すれ違うように横を通り抜け、その時に穂先で切り裂く。
圧縮魔力による攻撃も連続で放ち、攻撃の手を休めない。
「(もっと…こいつを、屠れる力を!)」
“蹂躙”の意志が、力となって私に宿る。
天巫女の力は、こういった感情にも応えてくれる。
「『シュライン!余ってる魔力のリソースを、全部身体保護に!』」
〈『はい!』〉
シュブリマシオンの効果を、速さと力に特化させる。
そして、身体保護をすることで、体に掛かる負担を減らす。
「っ………!」
ダンッ!ダンッ!ダンッ!
魔方陣を足場にし、飛び交うように速度を上げていく。
優輝君がよく行う魔法陣を足場にした戦法…その模倣だ。
「捕らえよ、戒めの鎖!」
―――“Warning chain”
「しまった…!?」
圧縮魔力を躱した所に、バインドである光の鎖を放ち、拘束する。
「堕ちろ!!」
―――“電光石火”
神速の連撃。体感だから比較しづらいけど、私を助けに来た時の優輝君に迫る速度で、彼を切り刻む。
「ぐ……ぁ………」
「…………」
それは一瞬の出来事だった。
全ての攻撃を全力で放ったため、神夜君はその場に崩れ落ちた。
「……ちょっとは、スッキリしたかな」
「ぐ……ぅ…」
自分でも驚く程強くなった。
これなら優輝君にも…って、“怒り”が原動力だから、無理かな。
「くそ……司……」
「…耐久力は流石、と言うべきかな。この前の戦闘だと一方的な攻撃だったから忘れてたけど、相当頑丈だね」
というか、この前のあの男が例外なだけなんだけど。
「俺は……お前を………」
「助けたい?救いたい?…随分と他の皆とは違ってしつこく食い下がるね。何かそうする理由とかあったっけ?」
そういえば、何かと彼は私に声を掛けたりしてた節がある。
優輝君とよく一緒にいるようになってからは減ったけど…。
「別に前世で知り合いって訳でもないし…」
「っ……俺は…!」
「…あぁ、もしかして…」
私にも経験がある事だ。
私だってよく優輝君の傍に行ったり、話しかけたりする。
…つまり……。
「…まぁ、いいや」
彼は私の事が好きなのだろう。
だけど、それは敢えて口には出さない。
私はこれから心をへし折りに掛かる事になるのだから。せめてもの情けだ。
「いつもいつも騙されているだとか、そう言う事言うけどさ、確固たる根拠なんて存在しないよね?…まさか、いちゃもんのように言ってただけなんて言わないよね?」
「当たり前だ…!皆、あいつに盲信的になっている…!」
「盲信的?どこが?」
椿ちゃんや葵ちゃんはよく一緒にいるけど、優輝君の無茶を咎めたりする。
緋雪ちゃんだって仲睦まじいだけで、そんな様子はなかった。
実際は互いに支え合っていたからこその信頼関係だったみたいだけど。
アリサちゃん、すずかちゃん、アリシアちゃんも別に盲信的ではない。
霊術の特訓とかで文句を言ったり弱音を吐いたりするし…否定的な意見も言う。
まぁ、大体が優輝君の方が正しいから封殺されてるけどね。
奏ちゃんは私と同じで優輝君とは前世の知り合い…と言うか恩人だね。
恩人だから、その態度が盲信的に見えるんだろうけど…実際は違う。
線引きはちゃんとしているし、無闇矢鱈と信じている訳でもない。
「皆、ちゃんと線引きはしているし、私含めて信頼も信用もしているけど、疑う時は疑うよ?…まぁ、間違ってた事がほとんどないんだけど」
「っ……!だけど、緋雪は確かに…!」
「…緋雪ちゃんと優輝君の関係はそんなものじゃないよ。むしろそれは侮辱とも取れる。……あの子は、“兄”として優輝君を信頼していただけに過ぎない」
…もしくは、その時覚えてなかったとしても、二人の前々世…“ムート”と“シュネー”の記憶からの信頼関係だったかもね。
“司なら大丈夫”と、ここ数年の間に優輝君から聞いた話だからよくは知らないけど。
「…と言うかさ、そっちの方が盲信的に見えるんだよね。以前までのアリシアちゃん達含め、貴方の周りにいる女の子達は、決めつけがましい事でもあっさりと信じてしまうし、根拠もなく優輝君を悪く言ってるだけなのに、同じ考えを持っている。…どっちの方が盲信的に見えるかなんて、言うまでもないよね?」
「っ、そんな事はない!」
否定したのはいいけど、具体的な理由は言えないようだ。
だって、優輝君と違って“信頼関係”を示せる事柄がないのだから。
かつて敵だったフェイトちゃんや、ヴォルケンリッターの女性陣。
彼は初見で彼女達を無自覚に魅了していた。
そこに“信頼”と呼べる“積み重ね”は存在していない。
「だ、だけど、司は……」
「…シュラインに教えてもらったの。…私は、天巫女には精神干渉の類は一切効かない。……貴方の…お前の言う“洗脳”の類は一切効かないって事。だから、これは私の意思であるのは間違いないし、優輝君に洗脳されてるなんて“戯言”、一つも合っていない!」
「っ……!?」
穢れなき聖女。それが天巫女のもう一つの能力。
…と言うか、体質みたいなものだね。聖女らしく、穢れを受け付けない的な。
ただし、自分から“負”に堕ちる場合は例外みたい。以前の私のようにね。
「そんな、そんなはずは…!」
「…………」
否定の材料がないのか、それ以上は言えないらしい。
…もう、終わりにしようか。
「もう言い返せないみたいだね。決めつけや思い込みばかりだったからこうなるんだよ」
「っ……」
「私はね、お前のそういう所がずっと前から…“大嫌い”だったんだよ!」
これは、ずっと前から…こいつがどういう人間か知ってから抱いていた想い。
優輝君とは全然違い、その優輝君を悪く言ってばかりだった。
前世の事で考えていなかったけど、私はずっとこいつに対して怒っていたんだ。
「ぇ……?」
「二年前、私の問題が解決するまでは、ずっと抑えてたんだけどね」
…余程“嫌い”と言われたのがショックだったのだろう。
呆然としているのを、私は無視して術式を起動させる。
「…縛れ」
〈“Warning chain”〉
「っ!?」
「決着自体はまだ着いていなかったから、着けさせてもらうよ」
ずっと練り続けていた魔力を使って幾重もの鎖で縛りつける。
これなら、例え優輝君でもしばらくは抜け出せないだろう。
実際優輝君に仕掛けようとしてら、準備すらさせてもらえないだろうけど。
「本来なら、ジュエルシードがなければ扱えない。…それほどまでに、本気の天巫女の魔法は魔力を消費…と言うよりは、“祈り”の力が足りない」
「っ…!外れない…!」
霊力を用いて術式を組んでいく私の前で、彼は拘束を外そうとする。
だけど、無駄だよ。それも“祈り”の力をふんだんに使っているのだから。
「でも、霊力と天巫女の力は相性が良くてね。まだ全然使いこなせていないけど、一発だけなら放てるんだ」
「………!?」
出来上がる術式。そして、そこに光が集束していく。
本来ならもう放てるのだけど、敢えて少し遅らせる。なぜなら…。
『司!?そんなの放ったら結界が…!』
「『……ごめん、優輝君。こうしないと気が済まないんだ。後は任せるよ』」
『…まったく…。後で椿から小言を言われるのは覚悟しろよ』
「『わかってる』」
優輝君達が私の攻撃を受け止める準備が間に合わないから。
でも、これでもう十分。さて…。
「……光よ、闇を祓え」
〈霊力収束。…撃ちます〉
―――“サクレ・クラルテ”
極光が、トレーニングルームを埋め尽くした。
=out side=
「椿!葵!奏!アリシア!アリサ!すずか!」
「優輝!?司は一体何をするつもりなんだ!?」
司との念話の直後、優輝は霊力を扱える者を全員呼び集める。
クロノも魔力ではないエネルギーが集束するのを見て、優輝に尋ねる。
「霊力を用いた、天巫女の力だ!クロノもあの時見ただろう。ジュエルシードの魔力を用いて放たれた砲撃を!」
「あれか…!……って、霊力を用いるという事は…!」
「ああ!シュラインを改良して霊力でも非殺傷が適用するようにはしてある!でも、魔力の結界ではあの砲撃で破られてしまう!」
呼んだ六人が集まったのを確認し、転移魔法を用いる。
「僕らが受け止めてくる!」
「優輝!?…頼んだ…!」
霊力であるならば、魔法では防ぎ辛い。
その事もあって、クロノは優輝達に頼るしかなかった。
「『ありったけの霊力で障壁を張れ!僕が相殺を試みるから、余波は任せた!』」
「『わかったわ!』」
結界内に転移し、優輝が霊力で念を送って指示をし、全員が攻撃に備える。
優輝以外が霊力の障壁を幾重にも張り、優輝は霊力を集束させる。
優輝が司の砲撃を軽減し、障壁で残りを受け止める算段だ。
―――“サクレ・クラルテ”
「(来る!)」
極光が部屋を埋め尽くし、拘束されている神夜を呑み込んだ。
そのまま、砲撃は壁に…優輝達がいる所へ飛んでくる。
「はぁあああああああ!!」
優輝が砲撃を放ち、他の皆は障壁に力を込めた。
「いい?今回は何とかなったけど、今度からはちゃんと場所を考えなさい。確かに優輝の事で怒るのは理解できるけどね?」
「うぅ…………」
…決闘が終わり、クロノ達の所に戻った優輝達。
皆がいる場所で、椿は司に対して説教をしていた。
「いやぁ、優ちゃんの盾がなかったら焼けてたよ。司ちゃんの…と言うより、天巫女の攻撃は受けたくないなぁ…」
「闇を祓う光だからな…。吸血鬼な葵には効果抜群だもんな」
そう。司の砲撃は優輝の砲撃、椿たちの障壁を以ってしても防ぎきれなかった。
そこで優輝は盾を創造し、それで防いだのだ。
魔力と相性のいい霊力であっても、物質化させれば普通に防ぐ事ができた。
「(……砲撃でしばらく視界が悪くなってて助かった…。まさか、霊術による変身が解けてしまうとは…)」
そして、全力の霊力行使だったため、優輝は防いだ後変身が解けていた。
幸い、視界が遮られている間に魔法で変身し直したため、見られていなかったが。
「あの時以来だが、凄まじいなあの砲撃は…。なのはのSLBでも場合によっては敵わないぞ…」
「その場にある魔力を集束させて…だからねぇ。いや、なのははなのはでおかしいでしょあれ。しかもそれ、逆に言えば場合によってはジュエルシード並の出力出せるって事だし」
「……なんか、収拾つかないわね」
そう呟いたアリサは、フェイト達がいる方を見る。
あそこまで完膚無きまで神夜がやられた事に動揺しているようだ。
そして、説教している椿とされている司。…中々カオスな空間になっていた。
「結構混乱してて私達がデバイスで霊術を使ってた事、スルーされてるね」
「これ以上厄介になってほしくないから、助かるのだけどね。」
アリサとすずか、アリシアが戦闘もこなせるようになっている事を、一部を除いてまだ知らない。今回はそれがばれそうになったが、他の事で気が付かなったらしい。
「…それで、ずっと無言で見てたあんたは、どう思ったの?」
「………」
じっと映像を見続けていたなのはに、アリサは問いかける。
「どうって言われても…司ちゃん凄いなぁって…」
「あいつに対しては?」
「…不思議だね。何とも思わなかった」
以前なら負けた事が信じられないと思っていたなのは。
しかし、今では何とも思えなかったのだ。
「…冷めたわね。あたし達も同じ感じだったけど」
「にゃはは…本当、魅了が原因なんだけど、どうして好きだと思ってたんだろ?」
「心を変えられるって、恐ろしいものだよね…」
改めて魅了の恐ろしさを呟くなのはとすずか。
「…でも、なんだかスッキリしたかな」
「完全に司が論破してたものね」
自分が正しいと思い込んでいた神夜を打ちのめした司。
その痛快な論破は見ていて胸が空くような気分だったらしい。
「これで少しは自覚してくれればいいんだけどね」
「ああいう奴はここまで来たらとことん懲りないわよ」
「…それもそうだね」
元より思い込みが激しかった節があったため、懲りないだろうとアリサは思う。
それにすずかも同意なのか、苦笑いする。
「これなら帝君の方がマシだね」
「あいつはむしろ逆だったわね。自覚…はどうか分からないけど、だいぶ大人しくなったわね。今は慣れたからいいけどそれまでは違うベクトルで気持ち悪かったわ」
「あはは…。今まで散々絡んできたのが、一気に大人しくなったもんね…」
事実、今の帝はここ最近めっきりなのは達に絡まなくなっていた。
しかも今は先日の襲撃の事もあってさらに大人しくなっている。
「…そういえば、帝君って最近絡んでこなかったけど、何かあったの?この前の話し合いの時も凄く大人しかったし…」
「この前のは特別大人しかっただけなんだけどね。まぁ、絡まなくなった原因は…一言で言えば、好きな相手ができたからね」
「ふーん……えっ、好きな人!?」
アリサの言葉に、なのははつい驚いてしまう。
幸い、なのはの声で周りが注目する事はなかった。
「そっ。好きな人。あいつも一人の男子って訳…なんだけど…」
「…なんだけど?」
「…あ、あはは…」
事情を知っているアリサとすずかは苦笑いする。
言えるはずがない。帝が好きになった相手が、性転換していた優輝などと。
「…もしかして、私も知ってる人?」
「知ってる…まぁ、知ってるわね。直接話した事はないだろうけど」
「ふーん…?」
いまいち要領を得ない返答に、なのはは首を傾げた。
結局良く分からず仕舞いだったが、別にそこまで知る必要はないと、なのははそれ以上聞こうとするのをやめた。
「っ……俺、は…」
「あ、目が覚めた」
しばらくして、司の砲撃を喰らって気絶していた神夜が目を覚ます。
「っ!司…!?」
「何かな?」
心配して傍にいたフェイトやはやて達よりも若干離れた場所にいる司。
そんな司に目を覚ました神夜は驚く。
「(“嫌い”って言ったけど…あれは、嘘だったのか…?…ああ、きっとそうだ。こうして心配してくれてるんだ。きっとあれもあいつに脅迫されて…)」
「………ふふ…」
あの時のあの言葉は嘘だったのだろうと、安堵する神夜。
そんな神夜を、司は何かおかしいように笑う。
「…司?」
「ふふ、ホントおかしいよね。…未だにさっきの事が嘘だと思ってるなんて」
「っ………!?」
それが司だとは思えないような、心底馬鹿にしたような笑みで、司は言った。
同時に、神夜は先程言われた言葉を思い出し、息を詰まらせる。
「私はお前が嫌い。それは嘘でも優輝君に脅されてる訳でもない。紛れもない本心だよ。こうして、未だに思い込みで違うと思おうとしてる。それが嫌いなんだよ」
「つか、さ…?」
「おい司!さすがのおめぇでも、これ以上神夜を悪く言うのは…!」
「………」
呆然とする神夜を庇うように、ヴィータが前に出る。
他にもその場にいた魅了に掛かっている女性陣も庇おうとするが…。
「っ……!」
「だったらどうするのかな?“悪く言う”?私は正論と自分の気持ちを言ってるだけだよ?」
「つ、司ちゃん…?」
殺気とも取れるような、その異様な雰囲気に全員が気圧される。
その中ではやてが怯えながらも声を掛ける。
「な、なんや…いつもとなんか違うで…?どうしたんや…?」
「ふふ…文字通り“我慢の限界”が来ただけだよ。今までずっと…ずーーーっと抑えていた気持ちが溢れ出ただけだよ?」
クスクスと笑いながら、司は言う。
そして、気圧される女性陣を無視し、神夜へと近寄り…。
パァン!!
「っ……!?」
思いっきり、その頬を引っ叩いた。
「…今のは、緋雪ちゃんの想いを思い込みで馬鹿にした分」
そういって、さらに手を振りかぶる司。
「これは、恩人である優輝君の記憶を塗り替えられていた、奏ちゃんの分!」
「ぐっ!?」
「…少しは、想いを踏み躙られた人の気持ちを理解しなよ!」
最後に一際強く叩こうとして…誰かに抱き着かれる形で止められる。
ヴィータと同じぐらいの背丈…人間形態を取っているリインだ。
「もう……もう、やめてください…!」
「っ……リイン…?」
「…………」
非常に泣きそうな……否、既に涙を浮かべた顔で、リインは懇願するように言う。
「…悪いけど、邪魔しないで」
「…司さんが怒るという事は、それだけの事をしたんだとリインもわかってるです…。でも、だからと言って人を痛めつけるような司さんは見たくないです…」
「………………」
先程の司の殺気とも取れる“圧”。それでリインは怯えていた。
それでも司を止めようとしたその意志に、司も動きを止めていた。
すると、そこへ…。
「…っと、やっぱりここにいたか」
「ゆ、優輝君!?」
「椿の説教が終わってどこへ行ったと思ったが…まぁ、怒った司なら織崎の所に来ているという予想で正解だったな」
優輝と椿、葵、奏が入ってくる。
「気配も探らずによくわかったねー」
「…前世で、司が怒った時の事から予測しただけさ。一度打ちのめして、まだ反省していないようなら少し間を開けてからもう一度心を折りに行く。…うん、えげつない」
「うぐ…」
確実に打ちのめすための二段構えに、優輝は思わずそういう。
その言葉に司は若干のショックを受けていた。
「…で、様子を見る限りリインに止められたみたいだな」
「う、うん…」
「まったく…」
溜め息を吐き、優輝は司へと歩いて行き…。
「てい」
「あいたっ!?」
「リインに止められる程暴走するな。怒りが溜まってたのは分かるが、それでも小さい子を怯えさせる言い訳にはならんぞ」
頭をチョップで一叩きし、そう窘める。
「ご、ごめんなさい……」
「前世の時もやりすぎだって先生に怒られてただろ?やっぱり司って溜め込むタイプだよな。定期的に発散させろよ?」
「…うん…」
先程までの司はなんだったのかと言わんばかりに、司はしょんぼりとする。
「……ぅ……ぁ……」
「…いつもなら睨んでくるぐらいはするはずだが…あぁ、他でもない司に打ちのめされたのならこうなってもおかしくはないか」
とりあえず反省しているとして、司から視線を外した優輝は神夜を見る。
だが、神夜は司から拒絶されたショックで放心していた。
「っ、よくも…!」
代わりに、別の者が動いた。
神夜の思い込みによる発言で、優輝が全ての原因と思い込んでいたフェイトだった。
フェイトはバルディッシュを起動させ、殺さずとも痛い目に遭わせようとして…。
「っ………!?」
懐にすぐさま移動した椿の短刀により、胸を貫かれた―――
―――かのように、思えた。
「…幻影よ。安心しなさい」
「っ!?はぁっ、はぁっ、はぁっ…!」
実際は、短刀は鞘に収まったままで、ただ押し付けられただけだった。
しかし、“死”を幻視したのは確かだったため、フェイトはその場にへたり込む。
「…いや、抑えるだけでいいだろ」
「ちょっと試したかったのよ。妖狐って幻術が得意でしょう?分霊且つ式姫である私も、狐の性質を持っているかと思って」
「本音は?」
「司の怒りに感化されたのかもね。この状況で斬りかかるなんて、少しは頭を冷やしなさい。そう思ったから、この術を使ったの」
やった事は、“殺される自分”の幻覚を見る。そんな単純な幻術。
元々、椿は神の分霊とは言え、神夜を盲信している者を無条件に許せる程懐が広い訳でもない。だからフェイトに対し幻術を使ったのだ。
…そして、その幻術を使った意図は、もう一つあった。
「“掴めた”わ」
「え、かやちゃんそれ本当?」
「ええ。アリシアと質も似ていたから、さっきの接触でね」
椿と葵の間で交わされる会話。
その意味は司や奏…ましてや優輝にさえ掴めなかった。
「貴様…テスタロッサ達に何を…!」
「何もしていないわ。私は“視た”だけ。その魂を」
「何……?」
フェイトとよく競い合うシグナムが椿に問うが、その応答は意味が分からなかった。
そのまま優輝達と共に去っていく椿を、残った者は見つめるしかなかった。
「…最近術に重点を置いて鍛えていた事と、魂…椿、もしかして…」
「ええ。分霊とは言え、私だって神だもの。魂に干渉する術くらい、使えるわ」
部屋を出た優輝は、何かに気づいたように椿に尋ねる。
「式姫で弓術士としていたのと、優輝と司に頼っていたから盲点だったわ。あの魅了は魂や心、精神に干渉する代物。防ぐ事ができる護符を作った所で気づけばよかったわ」
「かやちゃんは魂を“視る”事ができる。だから、魅了が魂に干渉しているのなら、こっちも干渉するための術式を作って魅了を解けばいいって訳」
「なるほど。それでさっき…」
二人の説明に納得がいった優輝。
「えっと、つまり?」
「魂に干渉する術式を作って、それで魅了を解く事も可能って訳だ」
「ただし、その術式はそう簡単に作れないけどね」
“一から作るから、軽く見積もって半年近くは掛かる”と言う椿。
さすがに優輝も魂に干渉する霊術の術式は知らないため、手伝う事もできなかった。
「根深く浸透している魅了を解けるだけ、マシね」
「それもそうだな。僕も何とか理解して手伝うぞ」
「助かるわ」
魅了をどうにかする手段が増えた。
それは優輝達にとって嬉しい事だった。
新たな収穫があったと、優輝達は満足しながらそのまま家へと帰って行った。
後書き
電光石火…司がその場で編み出した新技。身体強化を速度と力に特化させ、神速の如き速さで切り刻む。魔法陣などを足場にして翻弄するように動くため、防御を固める他ない。
多大な精神的ダメージを与えた司と、何故か犠牲になったフェイトさん。
…どうしてこうなった。()
とりあえず、椿も魅了を解く手段を確立させました。使えるのは当分先ですが。
正直もう必要がないくらいに死に設定な気が…げふんげふん。
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