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首に噛まれ

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第二章

 与平と太平は夜の陣中で晩飯を共に食いながらだ。こう言うのだった。
「雪吉の話、聞いたな」
「うむ、聞いたぞ」
「戦の場で適当に切って持って来た首を手柄と言ったらしいのう」
「それで原田様から褒美を貰ったらしいな」
「原田様も怪しいと思われていたそうじゃがな」
「しれっと褒美を貰ったらしいのう」
「全くとんでもない奴じゃ」
 与平は顔を顰めさせつつ米の粥、雑穀やそこいらの野菜の切れ端をぶち込んだ鍋の中にあるそれを喰らいながら言った。顔を顰めさせて。
「戦で敵を倒すのならともかくな」
「もう死んだ者から首を取ってな」
「それで手柄にして褒美を貰うとは」
「恥知らずもいいところじゃ」
「しかも殿が許されぬと聞いてもする」
「どういう奴なのじゃ」98
 二人で顔を顰めさせながら話していく。
 その中でだ。今度は太平が言った。
「何時かな。そんなことをしておるとな」
「殿にばれてしまうのう」
「それで手討ちじゃ」 
 己の兵といえど信長は姑息な悪を許さない。実際に女の編み笠を取ってその顔を覗こうとした足軽をその場で切り捨てたことすらある。
 その信長だからだ。星吉の様な者はだというのだ。
「何時かそうなるわ」
「なるじゃろうな、やはり」
 与平もこう太平に返す。
「ならない筈がないわ」
「それか天罰が下るな」
「どっちかじゃな。殿に手討ちにされるか」
「天罰か」
「果たしてどっちか」
「どうなるかじゃな」
 こう二人で話すのだった。そしてだ。
 次の戦でも織田家は勝った。確かに兵は弱いがその数と信長自身の軍略で勝った。戦は兵の強さだけでやるものではないというのだ。
 それで勝ったがだ。与平と太平はというと。
「今度は駄目じゃったな」
「そうじゃな」
「首を一つも取ることはできんかったな」
「全くじゃな」
 二人で残念な顔で言うのだった。
「そろそろ足軽頭になりたかったがのう」
「そうじゃな。わしもな」
「そうすればかかあにも倅達にも楽させられる」
「折角そう思っておったがな」
 だがそれは適わなかったのだ。残念ながら。 
 しかしそうした時もあると言ってだ。与平は太平にこう言った。
「まあ次があるわ」
「次の戦で首を取るか」
「そうすればいい。それか普請で働こう」
「ああ、それもあったな」
 織田家は戦よりもむしろ政の方が忙しい。あちこちに領地を拡げ全ての国で政をしているのだ。二人も足軽であるが士分であるので奉行の手伝いもしているのだ。
 そこで手柄を立てようとだ。与平は言うのだ。
「今度池田様が岐阜の城の壁の修理にあたられるらしい」
「ふむ。ではその仕事に入らせてもらうか」
「そこで手柄を立てようぞ」
「そうじゃな。そうしよう」
 太平は与平のその言葉に頷きこの戦でのことはいいとした。だが、だった。
 その雪吉はだ。この時もだった。
 戦の場をちょろちょろと動き回り手頃なものを漁っていた。売る為の刀や槍にそれにだ。
 首を探していた。無論切って自分が討ち取ったということにする為だ。その為にだった。
 首を探していたがここでだ。目の前にだ。
 倒れている侍が目に入った。見れば中々いい具足を着ている。それなりの身分のある者らしい。それを見てすぐに決めたのだった。
 小刀を出してその死んでいる敵の首を掻き切る。そうして首を手に入れて掴もうとする。だがここで。
「痛っ、何じゃ」
 首が急に噛んできたのだ。見れば目はまだ生きていた。それでだ。 
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