機動戦士ガンダム・インフィニットG
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第十七話「悪魔の子」
前書き
次で最終回にします。
「父さん……?」
ホテルにて、僕は気まずくも父さんに問う。もちろん、あの束という人のことである。
「どうした?」
「束さんっていう人……父さんの知り合いなの?」
「……」
しかし、父さんはただただ黙ったままだった。しばらくの沈黙がこの一室に広がり、僕はさらに気まずさを感じた。言ってはいけないことを聞いてしまったのだろうか、僕はやはり答えなくていいって言おうとしたが、先に口を開けたのは父さんの方だった。
「……お前には、知られたくなかった。あのISの開発者が父さんのもと同僚だったことを」
「あ、IS!? あの人が!?」
「アムロ……知らんのか? 彼女が、篠ノ之束がISの生みの親だってことを」
「……!?」
どういうことだ? あの人がISの開発者だって!? 僕は知らなかった……
……いや、知らなかったんじゃない。自分自ら忘れたんだ。
――どうして?
実をいうと、白騎士事件以降の記憶は、母さんが死んだということ以外わからなくなった。
テレビで重要な人物が取り上げられていたというのだけは知っているも、それが誰なのかは覚えていなかった。
――いいや、違う……
僕が、その人物を忘れたんだ。僕の母さんを殺したあの人物のことを……
人を憎むのがとてもつらくて、いやになって、だから、忘れたんだ。その人のことを……
「……ッ!!」
急な頭痛に襲われ、僕はとっさに頭を抱えて苦しんだ。
「あ、アムロ!?」
父さんが慌てて駆け寄ってくる。しかし、僕は混乱と憤りで頭の中があふれ出して、どうにもならない。
「ぐぅ……!」
僕は、そのまま勢いよく部屋から出て疾走する。父さんの制止にも耳を傾けずに。
「ハロハロ! アムロ!!」
そのあとを転がりながらハロが後を追った。
*
宿にて
千冬は、ISの候補生やMSの代表生及び教員たちを集めさせると、一旦旅館へと連れ戻した。何やら緊急事態の様子で他の教員たちがドタバタしている。
気が付いたころには、旅館の一室が巨大な司令室に早変わりしており、薄暗い部屋で千冬はブリーフィングのモニターを見せた。
「今から二時間前、ハワイ沖上空で突如暴走してしまった第三世代のISシルバリオ・ゴスペル、通称「福音」が謎の巨大な機影に福音が襲われ、撃墜されたという。福音のパイロットは無事で済んだが、問題はこの巨大な機影だ……」
「……?」
それに、MS教員一同が反応する。第三世代の新型機を、それも暴走を起こしたISを、
襲うともなれば……
「これが、暴走した福音を襲った例の所属不明機の姿だ」
千冬が表示したその画像、不気味な紫に染まった蕾状の物体である。
「MA(モビルアーマ)!?」
フォルドが叫んだ。それも、襲うとなればかなりの重装備を施された圧倒的能力を持つ恐ろしい機体であろう。
「それも、最悪の相手だ……暴走福音がこのMAへ攻撃を行ったのだが、損傷個所が次々に再生されるという光景が映ったという」
「「……!!!ッ」」
マット達は、目を見開き唖然となる。予想したくもない最大の悪夢がよみがえる。
「まさか……」ルース
「まだ、しぶとく生きてやがったのか!」フォルド
「……デビルガンダム!」ユーグ
「織斑先生、福音のパイロットの状態は?」マット
「特に異状はないとのことだ」千冬
その後の情報によると、今のところDG細胞による被害は出ていないようだ。
「……IS及びMSの教員は訓練機のISとMSを使って空域を確保し、お前たち専用機持ちが本作戦の要となってこの迎撃任務を担当してもらう」
「そ、それって……!?」
俺が要と聞いて驚く。
「つまり……荒らしまわるそのMAを、我々だけで止めるということだ」
ラウラがわかりやすく説明した。
「はぁ!? 専用機持ち……先生、俺達は?」
ジュドーが質問した。
「無論、お前たちにも手伝ってもらう」
「マジかよ!?」
「一々、驚かないの!」
隣で凰が注意する。
「いや! 驚くだろ? そもそも、これ事態軍が解決するようなこったろ!?」
当たり前のことだとジュドーが言い返した。
「ふざけんなテメェー!! 教官がこそこそ隠れて、ヒヨッコ共に重役させろって根端かよ!?」
フォルドの怒号が響いて、真耶が慌てて千冬の後ろへ隠れた。
「フォルド教員、これ以上騒ぐのならご退場願おう」
千冬の目が強張る。しかし、フォルド以外のMS教員らは一斉に千冬とISの教員たちを睨みつけた。それも怖く。
「千冬先生! あなたは本気で言っているんですか?」
マットが問うと、千冬は平然な顔をして答えた。
「当然だ。今、十分な戦力で戦えるのは候補生か代表生の専用機とガンダム以外はない」
「だからといって、生徒を……それも未成年の子供たちを危険にさらすのですか!?」
「彼らとて、専用気持ちだ。それなりの責任を重んじている。逆に我々が行けば、足でまといになりかねん。それに、これは政府かの要請だ!」
――馬鹿げてる!
マットは思った。ISなら、自衛隊からISを派遣すればいいだけのことだ。それなのに、未成年の少女らを戦闘へ巻き込むなんて! と、マットにしてはとても許しがたい内容である。もちろん、他のMS教員も同意見だ。
「……千冬先生、今回ばかりは我々も目標の迎撃に参戦させていただきます」
「断る。本作戦の指揮官は私にあるのだ!」
「これ以上あなたの指揮に任せてはおけない! ここから先は我々が受け持つ!!」
マットが感情的になって千冬と激しく対立する中、天井から「ちぃちゃ~ん!」と、誰かを呼ぶ声と共に激しい揺れが起こり、天井の一部が外れて中からもう一人の影が飛び出してきた。
……凝りもせずに登場した束である。
「ど、ドクター・T!?」
マットが、突然の来訪者に目を丸くさせる。ここで騒ぎを起こせば何をしでかすか分かったものではない。苦虫を嚙み潰したように、MSの教員らは指をくわえて黙っていた。彼女と対等に張り合えると言ったらガンダムファイターのシャッフル同盟しかいないだろう。
「ちーちゃーん!」
「またお前か……!」
「聞いて! 聞いて!? 私に超いい方法が……」
「出てけ……」
と、鬱陶しがる千冬。
「ここは! 断然、紅椿の出番だよ!?」
「なに……?」
束の言葉に、千冬の視線が彼女へ移る。
彼女の話によると、紅椿は全身を展開装甲……つまりは、装着しているアーマーそのものを防御、攻撃、スラスターといった万能武器として使用することができるらしい。とにかく、ずば抜けた凄い力を有しているとのこと。
その後、束によって話は勝手に進められてMSの教員らは不服この上なかった。
内容によれば、ほぼISメインの戦闘。MS勢は後方支援とは言えないスタントで待機することになる。
もちろんこのことはMS学園へ報告した。学園長のレビルは即政府へかけより、後にMS参戦の許可を取ると、マット達に「専用機ガンダム」使用の許可を下した。
こうなれば、後々から千冬が言ってきたとしても連邦政府からの命令となれば彼女とて逆らえないはずだ。
マット達は、こっそりと宿を離れてMS学園から来た数代のトレーラーと合流した。
彼らはトレーラーの内部で密かにそれぞれのMSを装着した。
「ふぅ……久しぶりに乗るな?」
マットは久しぶりの愛機、陸戦型ガンダムを纏った。ガンダムの量産機でもあるこの機体だが、マット機だけは後方のバックパックを改良して二基のファンを取り付けたフライトユニットタイプになっている。
「久しぶりだな? ガンダム!」
ルースは、白と青で彩られたガンダム4号機を纏う。局地戦闘タイプの機体だ。一番の目玉は背にしまわれた巨大な対艦用殲滅兵器メガ・ビーム・ランチャーは強力だ。
「血が騒ぐぜ!!」
フォルドの機体、白と赤で彩られたガンダム5号機。4号機の支援機として開発されたガンダムとはいえ、背のドラム型のマガジンとつながった巨大なジャイアント・ガトリングは多くの目標を無双できる威力だ。
「また、こいつを力を借りるとはな?」
ユーグの機体、ガンダム7号機はアムロのガンダムに似せたカラーディングが施されていた。さらに、その上からフルアーマーパックを装備していく。
重装フルアーマーガンダム7号機、攻撃力を極限にまで高め、その火力はMA並みの力である。大型スラスターと大容量プロペラタンクを装備することで機動力共に航続距離に優れており、ビーム防衛のIフィールドが搭載されていないことを除けば。アムロのパーフェクトガンダムと互角のスペックになる。
「いいか! シャッフル同盟が到着するまでの間、何としてもターゲットを食い止めるぞ!?」
あとは、できるだけISの候補生たちをフォローすることも忘れてはならない。
『皆さん、準備はよろしいですか?』
トレーラーの各機よりノエルの声が聞こえた。
「ああ、いつでもいける!」
「久々のガンダムだ、腕が鳴るぜ!」
しかし、突如としてアクシデントが発生した。各機の画面より途端にエラーの表示が飛び出してきたのである。
「な、なんだ!?」
それどころか、機体が動かない。
「ノエル! ノエル!?」
マットが必死でトレーラーのサポート室へ連絡をいれるも、応答がない。
「くそっ! ここまできて……いったい何が起こったんだ!?」
マットは各機に通信を入れるも、やはいり無線は完全にシャットダウンされていた。
「こいつはまさか……!」
おそらく、いや……このような芸当は彼女しかできないはずだ。
「ちくしょう! 束のアマぁ!!」
彼らのMSにハッキングしてプロテクトをかけた。犯人は篠ノ之束である。彼女は意地でもISを活躍させようという根端だろう。何よりも、自分の妹を……
「天災め……!」
ユーグは動けないMSとなって悔しくそうつぶやいた。
ある浜辺にて
「アムロ……! アムロ、どこっ!?」
海岸を必死で走りながら有人のビーチから無人のビーチまで走りつつアムロを探すのは、明沙であった。先ほど、テムから電話が鳴りアムロが来てないかを問われたのだ。それを聞いて、彼女は不安に駆られて先生らがいないこの隙に宿を出てアムロを探し回っているのである。
「どこ行っちゃったの?」
そのとき、ふとアムロと思われる気配を感じた。僅かであるが旅館からそう遠くない無人のビーチから旅館へと近づいている。
――アムロ……!?
息を切らして、明沙は旅館へと戻ると、そこからアムロが向かう方向へ走り出した。
そして、たどり着いた場所がテトラポットの群れが広がる海岸である。その一角に腰を下ろす少年が一人、その姿を見て明沙は叫んだ。
「アムロー!?」
「……?」
その声にアムロは振り向いたが、彼女を数秒見てすぐに視線を波打つ海に戻した。
「アムロ、どこに行っていたの? アムロのお父さん、心配しているよ?」
「明沙……」
すると、アムロは再び彼女へ振り向いたとき、彼女はアムロから伝わる闇を感じた。
とてつもない不愉快な、怒りと悲しみをアムロから感じたのである。
「どうしたの……?」
いつもの根暗さとは違う風格に、明沙は心配になった。
「篠ノ之のやつは、まだ旅館にいるのか?」
「どうしたの? そんな怖い顔して……」
「……篠ノ之の奴は何処にいるかって聞いてんだッ!!」
アムロが怖い顔をして怒鳴った。それに、一瞬明沙はビクッとしたが、しかしアムロから伝わってくる感情を知って、すぐに落ち着いた表情に戻った。
「篠ノ之さんが……どうかしたの?」
「……ッ!!」
アムロの表情は一層に怖くなる。その感覚をさらに受けた明沙は、彼が何をしたいのかという行動が、薄々感じ取れた。
「アムロ……」
「ほっといてくれ!」
そのとき、二人の頭上の空を四機のISが通過した。そのうちの一機が、紅椿を纏う箒であったのだ。MSの教員が足止めされている隙に候補生たちはすでに出撃してしまったのだろう。
「アイツ……!?」
この場から走り出そうとしたアムロだったが、彼の片腕を明沙が抱き着いて引き留めたのだ。
「離せよ!?」
「ダメだよ! そんなことしたって、何になるの!?」
「僕の母さんやお前の父さんを殺した仇なんだぞ!?」
「だからって……暴力なんて、絶対にダメぇ!!」
「何でだよ……何でなんだよぉ!!」
暴れそうになるアムロの身体を、必死で抑える明沙。しかし、彼女はそんな彼を見ていくうちに、今まで心にとどめていた悲しみが、一気にあふれ出てきた。
「ダメだよぉ……これだけは、本当にダメなのぉ……!」
すすり泣く明沙と同様に、アムロもまた歯を食いしばりながら涙を流し始めた。
「あの子のお姉さんであって、あの子が殺したわけじゃないでしょ……?」
「知るかよ! あいつが……何食わぬ顔で束と話して、堂々とそいつの作った第四世代機を乗り回して! そんなの見ていて、我慢できるわけないじゃないか!?」
「だって……それでも、復讐なんてしたって意味ないよ……!」
「嫌だぁ!」
その叫びに続いて。次第に弱まるアムロの声が静かに明沙の耳へ響いてくる。
「……やだ。そんなの、いやだ……僕は……僕は……!」
「アムロ……」
「なら、かえせよ……かえしてくれよ……母さんを、僕の母さんを、いつも僕に微笑んでくれていた、僕の母さんを……」
「アムロ……!」
明沙は、そうやって訴え続けるアムロの声に、これ以上耐えることができずに彼の肩に顔をうずめて泣き出した。そんな泣きながらでも、彼女は静かに続ける。
「耐えるしかないの……そんなことしたってアムロのお母さんは喜ばないよ? こうして残された私たちは、死んでいった人たちの分までこの先も生き続けなくちゃいけないの……!」
「だからって……だからって! こんなこと、あっていいのかよぉ……!」
「でも、復讐なんてダメ! 絶対に……」
「……!」
アムロの膝はガクッとおち、そのまますすり泣いた。そんな彼を慰めるように、明沙は彼を後ろからそっと抱きしめるのであった。
*
時を同じくして、四機のISは謎のMAが潜伏しているという空域へ到達した。何せ、新型のISを一撃で倒したということから、そうとう侮れない相手でもある。
そして、前方に見えてきたのは不気味な紫で彩られた巨大な蕾である。蕾は、そのまま浮上しつつ待機していた。
「あれが目標か……?」
箒は紫の蕾を睨んだ。大きさからして自分たちのISよりも数倍巨大なスケールだろう。
彼女以外の三機は散開して蕾の気をそらすために攻撃を行った。
だが、蕾は至近距離からの実弾は通用せずに閉じた花弁が跳ね返すだけだ。
「皆さん! 離れてください!?」
距離を取ったセシリアは、スターライトを連続で放った。だが、蕾へのダメージはない。
「くぅ! これでも……」
ラウラも遠距離からシュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンを撃ち続けるも、やはり効果はない。
「これなら!」
逆に凰が至近距離から龍咆による衝撃波を浴びせるも、蕾は浮上したままピクリとも動こうとはしない。
そのとき、蕾にある変化が起こった。真下を向いていた蕾の頭は彼女らの方向へ向きを変えると……
「!?」
刹那、凰は背後から蕾の突進に見舞われた。そのダメージは凄まじく、一撃によって戦闘不能に陥った。
「凰!」
ラウラが海へ落ちる凰へ叫んだ途端、いつの間合いか蕾が彼女の頭上から襲ってくる。
「うぐぅ……!」
先鋭部隊黒兎部隊の隊長である彼女がこうも一撃に撃墜された。さらにセシリアの真下からも蕾の突進が現れ、瞬く間に三機の専用機が撃墜されてしまったのだ。
「み、みんな……どうしたんだ!?」
最後に残った箒は、先ほどまで攻撃を行っていた仲間の姿が消えてしまったことに目を丸くした。
「くぅ……!」
こうしてはいられまいと、箒は機体の各部から装甲を展開してエネルギーを放出し、蕾に向かって突っ込んでいくのだが……
そのとき、上空で爆発が起こった。
旅館の指令室では、一瞬で候補生らの専用機が大破したことで、IS勢は騒然となった。
「ば、バカな……! 専用機がいとも簡単に!?」
千冬としても、この現実を受け止めたくなかっただろう。彼女からしてでも代表候補生は、生意気だが腕の立つ熟練のIS操縦者たちだ。しかし、それがこうも短時間で、それも敵に何のダメージを負わせることなく終わってしまったのだ。
「う……ウソでしょ!? 絶対ウソだよね!? なんでパープル蕾に束さんの作った紅椿がボコられるの!?」
束は苦し気に頭を抱えて混乱しながら叫んだ。
「落ち着け……とにかく、次の方法を考えるよりほかあるまい?」
混乱に陥る束を千冬が制止させるが、すでに束はヒステリックに陥っていた。
「織斑先生……やはり、マット先生たちに頼むしか……」
不安になる真耶に、対して千冬は平常を保っていた。
「いや……政府はこちらに任務を命じたんです。ここは何が何でも我々がやり遂げなくてはなりません」
「し、しかし……」
「そもそも、そのマット教員らの姿が先ほどから見当たりません。いったい、どこでなにをしているのやら……!」
と、腕を組んで千冬はため息をついた。
その後、教員のISらが海面に浮かぶ候補生たちを救出したらしく、全員命に別状はなかった。しかし、ISの損傷率は深刻なものである。
千冬は、悔しくも任務の失敗を感じた。しかし、いまだ目標の機影はこの宙域に潜んでいることから、まだ二度目のチャンスはあるとして政府から下る次の指令を待った。
*
明沙は、アムロの肩を担いで旅館まで帰ってきた。玄関で誰かを呼ぶと、明沙の声に
ふすまからカミーユが現れた。彼は、彼女につかまっているアムロを見て目を丸くした。
「アムロ、どうしたんだ?」
カミーユは、いつもとは違う尋常じゃない彼を見て、部屋で待機中のジュドーや一夏たちも呼んだ。
「おいおい? 大丈夫なのか?」
不安げにアムロをのぞき込む該。そんな彼の後ろには心配して見守る隼人がいた。
「明沙、アムロは一体どうしたんだ?」
ジュドーは、アムロに寄り添って彼を見る明沙へ訳を問う。
「……ちょっと、大きなショックを受けて」
明沙は、いくらクラスメイトだからとはいえ、周囲にアムロの過去を離したくはなかったし、アムロ自身もそれを望んでいるに違いないと思った。
「しっかりおしよ? アムロ……」
エルも、いつも厳しくアムロに接しているが、クラスメイトの顔なじみが急にこんな状態になったことで、彼への心配が募った。
「アムロ……」
ルーも、いつものような大人しげのある彼とは違うとして、彼の状態を見守り続けた。
「アムロさん……どうしちゃったんでしょう?」
リィナも、いつものように明沙を煙たがるアムロとは正反対の状態を見て、みんなと同様の不安を抱えた。
「……もしかして、アムロの父さんと束さんのことか?」
その中で、一夏は自分の中で心当たりのある話を思い出し、それを口にしてしまった。
「一夏君!?」
明沙は、つい彼の方へ振り向いてしまった。ジュドーは、そんな彼女の反応を見て、図星と感じた。
「明沙……アムロに何があったの?」
エルは、親友である彼女に問う。もちろん、ルーもこの状態は異常じゃないとして、最悪の場合、病に関係する状態じゃないかと思っている。
「でも、アムロが本当にそれを思っていなければ……」
カミーユは、そう言ってアムロの状態を今一度見た。
アムロは、壁にもたれて座り込み、下を向き続けては悲しい目をしている。何事も喋らずに動かない。ただ、悲しい目をしている表情だけはなんとも苦しい顔をしていた。
意識がないわけじゃない。息はある。だが……生きている様子には思えない。まるで、気力というよりも「精神」を失くしたかのようだった。
「確かに、今はそっとしておいた方がいい……」
一夏に付き添うマリーダも、そんなアムロの状態を案じた。周囲も、やはりそのほうがいいだろうと、明沙から事情を聴くことをためらった。
その時、旅館の外の海上から巨大な爆発音が響いた。一行は、何事かと窓からその状況を目にする。そこには、戦闘が行われていた。
蕾状の紫色のMAを相手に、政府が派遣した自衛隊のISが戦闘を行っている。それも中には代表者らしき目立つ専用機らしき姿も見受けられる。
しかし、戦況は絶望的だった。紫色のMAは、ただ突進を行うだけで、次々に自衛隊のISは撃ち落とされていく。そして、専用機も次々に無残な姿になって海へ落ちていった……
そして、生徒たちはそんなMAから学園の第三アリーナで感じたDG細胞とまったく同じ気配を感じ取ったのである。
「あのMA……DG細胞と同じ気配を感じる!」
カミーユが睨んだ。すると、周囲の生徒たちお同じような気配を感じ取った。
「本当だ……間違いない!」ジュドー
「ケッ! まったくシツケ―やろうだぜ」該
「また復活したのか!?」隼人
「DG細胞……」一夏
「しかし、なぜDG細胞が?」マリーダ
だが、新たに加わった生徒たちも同じように感じ出した。
「なんだろう……すごく嫌な感じ!」エル
「感じる、真っ黒な何かが……」ルー
「怖い……」リィナ
そして、後に外から避難勧告が流れ出した。
「「……」」
周囲は、勧告が流れ出す中で全員が同じ意見に同意であった。現れたら、また倒してやると闘志を燃やした。
「先生たちは、どうしたんだろ?」
もし、デビルガンダムが現れたのだとしたら、教員たちも戦闘にでているであろう。
「けど、あの戦場には先生たちの気配が感じない。どこかで、なにかトラブってるように見えるんだ」
と、カミーユ。
「だったら、やることと言ったら一つだろ?」
ジュドーの一言に全員が賛同する。
「何だか知らないけど……助太刀ぐらいはするわ?」エル
「そうね? ここいらで、女のMS乗りが勇敢だってことを、ISの女共に教え込んでおく必要もあるしね♪」ルー
「わ、私も……がんばります!」リィナ。
「しかし……DG細胞のだ。危険すぎる!」
「マリーダさん、でも……」
「ダメだ! これだけは私とて譲れん!!」
しかし、マリーダだけは反対だった。前回の件もあり、やはり断固として反対であったのだ。だが……
「マリーダさん! 本当に、すみません!!」
カミーユの叫びとともに、マリーダの後ろ首に鈍い打撃が襲った。
「あうぅ……!」
痛みとともにマリーダの意識はもうろうとして、彼女は気絶してしまった。これも、ニュータイプの中で一番その力が強いアミーユだからこそできたことかもしれない。
「後が怖そうだ……」
該は、このあと切れたマリーダの顔が目に浮かんだ。
「とにかく、マリーダさんをほかの場所へ移しとくか?」
該と隼人は、マリーダを隣の部屋へ運んで行った。
MS側の生徒は、戦闘とオペレーターとして再びDG細胞に戦いを挑んだ。次々に彼らは明沙とアムロを部屋に置いて、旅館から出ていく。
「……アムロを、頼んだわよ?」
最後に出ていくエルが、明沙へそう言い残した。
彼らがいなくなり、部屋は静まりかえる。残ったのは、明沙と精神を失ってしまったアムロの二人だけになった。その間にも、彼女はアムロに声をかけて気を取り戻すよう試みるが、彼には何の反応もない。
「アムロ……」
自分の声が彼に伝わらないことに、明沙の心は次第に痛みだした。お願いだからと、彼女は何度もアムロに声をかけ続けた。
しかし、今精神を失っているアムロには彼女の声など届くはずもない。
――アムロ……目を覚まして!
アムロの胸元へ顔をうずめて、今も泣きそうになる明沙であったが、彼の胸に顔を埋めるにつれ、次第に彼女の意識は遠のいていったのである。
旅館から飛び立った複数のMSは、一斉に紫のMAとの戦闘を交えた。しかし、いくら代表生で、アリーナでの戦いを得たとはいえ、やはり今回ばかりは手強かった。
「くそっ! なんて装甲だ!!」
上空から図太い閃光が放たれる。ゼータガンダムのメガビームランチャーがMAの蕾の装甲にあたるが、蕾はランチャーの攻撃を跳ね返し、突進を続けてくる。
「シツコイわねぇ!!」
ルーの蒼いゼータガンダムのウェーブライダーが急降下しつつ攻撃を加え、また連携してエルのマークⅡもビームライフルを撃ち続ける
各生徒たちは相手に隙を見せずに攻撃を加え続け、さらに攻撃の手を緩めはしなかった。また、相手の突進を各自ビームサーベルで切り払うなどでダメージを軽減しつつ、チーム戦と連携に極められた戦術で、個々の強すぎるISの代表候補生らとは違った戦いぶりを見せた。
「みんな! 下がれぇ!!」
ジュドーのダブルゼータはぎりぎりの至近距離から額のハイメガキャノンを放った。
狙いは確実で、この至近距離でもろに食らった蕾は、ハイメガキャノンのビームを存分に浴びせられることになる。
しかし……
「ウソだろ!? ジュドーのハイメガキャノンが通用しない!?」
隼人が叫んだ。そう、蕾はあの巨大なビームに機体ごと飲まれたというのに、受けたダメージなど何処にも見当たらなかった。
だが、そんな蕾にもやや反応があった。蕾は、攻撃が止み、呆然とする彼らの前で、その蕾を徐々に開きだした。
『敵MAから巨大なエネルギー反応を確認しました! 皆さん、注意してください!?』
外部より、リィナの無線が各機に届いた。
展開される蕾の隙間からこちらを除くようににらみつけるツインアイ、それは紛れもなくガンダムタイプのものである。いや……これは、ガンダムであった。
なぜなら、展開しきった蕾の奥に潜むその姿、それは蕾の根元から宙吊り状になってこちらを見つめる「ガンダム」の姿であった。
「が、ガン……ダム!?」
一夏は、目を丸く見開いた。
「ま、まさか……!?」
ジュドーは、かつての悍ましき事件を記憶から呼び起こした。
「……デビルガンダム!?」
カミーユが叫ぶ。開花した蕾から表れたそのガンダムの瞳は彼らを睨みつけると、自分を覆っていた四枚の蕾を一斉に本体からビット、ファンネルのように分離させた。
移動放題のように分離した蕾は、それぞれ粘土状に変異して、MS状の形をかたどりだした。その姿と、戦闘姿勢はまさにモビルファイターであった。
「な、なんだ! こいつ等!?」
しかし、擬似のファイターは素早い身のこなしで、その格闘スタイルで次々に生徒たちを苦しめた。
「うわぁ!」
背後から蹴りを受けるゼータガンダム。
「くっそぉ!!」
隙を見せぬ猛攻に苦しむダブルゼータ。
「俺たちの攻撃が通用しないのかよ!?」
「手も足も出せない……!」
牽制の逆転に該と隼人はそれぞれのMSが大破寸前であった。
『みんな! しっかりして!?』
ファの通信が届くも、彼女の声は誰にも届いてはいない。
『一時撤退を……!』
しかし、リィナの決断は遅すぎた。
「これ……まずいんじゃない!?」
エルのマークⅡも右肩を負傷している。
「相当まずいわね……!」
背のウィングを捥ぎ取られたゼータプラスのルーも、浮上状態が困難になる。
「このぉ……負けて、たまるかぁ!!」
一夏は、ユニコーンの装甲を展開させ、デストロイドモードへ変形すると、両手にビームサーベルを引き抜き、擬似ファイターの猛攻を突破し、切り裂き、蹴散らしながら一直線に本体へ突っ込んでいく。
「本体さえ叩けば……!」
ユニコーンのビームサーベルが一直線に本体のデビルガンダムへ襲い掛かるも、そのサーベルの先は本体にまで届くまでとは及ばず、本体は花弁を即座に帰還させると、再び蕾に戻り、サーベルの刃が花弁にとの間に挟まって動けなくなった。
「くそぉ! あと少しなのに……」
そして、デビルガンダムことデビルガンダムの幼少体「デビルガンダムJr」はボディーから巨大なエネルギーを放出させた。
*
「ここは……?」
気づけば、見覚えのある公園の一角だった。小さいころ、よくアムロと一緒に遊んだ思い出で印象の強い場所だった。今ではそこはもう壊されて駐車場になっている。
「あの時の公園?」
「う、うぅ……」
「……?」
どこからか、子供の鳴き声が聞こえた。いたいけな少年の鳴き声である。その声の方へ、少年の元へ歩み寄る明沙であるが、その足はふと立ち止まった。目の前でうずくまって泣いている少年、それは紛れもなく彼女の幼馴染であった。
「アムロ……?」
「……どうして?」
「……?」
「どうして……みんな、僕をいじめるの?」
「……」
少年は、ただひたすら傷つく自分に嘆いていた。
「僕は何も悪くないのに……何で僕から大切なもの取るの?」
「アムロ……」
「嫌い……みんな、大嫌い!」
「……!」
途端に、彼女は泣きじゃくる少年の姿から、嘗ての自分の記憶が頭の中を過った。
そう、この光景は自分が幼いころに経験したものだ。
いつも虐めっ子に泣かされて公園で泣いている彼、それを毎度のように彼女が慰め、抱きしめる。だが、虐めが酷くなるにつれて彼女がどれほど慰めようとも、アムロの顔は変わらないままであった。
それを、またいつものこと、いつものことと、適当に、他人事のように反面受け止めている彼女がそこにいたからだ。そして、アムロの側についている彼女もまたいじめを受けるようになった。そして、ある日、公園でいつものように泣いてるアムロを前に、明沙は背を向けて逃げ出した。それ以降、彼女は二度とアムロのいる公園に来ることもなく、しばらくはアムロから距離を置いてしまった。
――あの時、本当に自分が、心から親身になって彼と接していたら……
――単なるお姉ちゃん気取りになって接していなければ……
――自分にもっと勇気があれば……
きっと、アムロは私と一緒に立ち直れたのかもしれないのに……
私は、これまでも単なる幼馴染という立場で、ただ彼女のふりをして、本当は「形」だけで、アムロと接していたのかもしれない。父が死んだことで、悲しむ私は、偶然アムロも母を亡くしたことに付け込んで、悲しみを分かち合えばいくらか楽になるかもそれないと、彼に泣きついていただけなのかもしれない。
あれ以来、今でも、私の本当の気持ちは心の奥底にしまい込んだままなのなら……
「ごめんね……」
と、彼女は両手を広げて少年の小さな体を包み込むように、しかし思い切り抱きしめた。
「ごめんね……アムロ?」
「私……あのとき、ただチヤホヤされたいだけで、アムロにお姉ちゃん気取りして、アムロのことを本気で考えなくて……お父さんが死んだときも、ただ気持ちを分かってくれる人がいれば楽になれるって……そうおもってアムロにまた調子よく近づいて、本当に、ごめんね? だから、せめてもの償いをさせて? あなたに、私の『生命』をアムロにあげる……」
「くそっ! なんて野郎だ!!」
MSの生徒たちは、どうにか戦闘区域を離脱することができ、近くの浜辺へとたどり着いた。
「みんな、大丈夫か?」
カミーユが周囲の状況を確認する。幸い大した怪我人はいなかった。
「俺たちはともかく、俺たちの機体はもう限界だ……」
と、ジュドー。彼の言う通り、周囲のMSは大方大破し、修復にも時間を要する。再び出撃することは不可能であろう。
「もう一度出撃することができないのか……!」一夏
「けど、あと少しでシャッフル同盟が来るはずらしい。あの人たちさえくれば……」隼人
「本当か? ぼやぼやしてっとマズいぜ?」該
そのとき、周囲の中でエルはある機影を肉眼で確認した。
「ね、ねぇ! あれ見て!?」
「どうしたの! エル?」
ルーがエルの指した指を咆哮を見た。それは、もう一基のガンダムタイプが轟音と共にデビルガンダムJrの潜む空域に向かって彼らの頭上を通過したのだ。
そして、あの機体が誰なのかも知っていた。
「あ、アムロ!? あれって、アムロのパーフェクトガンダムじゃないのか!?」
「本当だ……あの機体は紛れもなく、アイツのガンダムだよ!?」
「けど……あれって、アムロしか扱えないよな!?」
「じゃあ、いったい誰が!?」
一夏は、上空を滑空するパーフェクトガンダムを睨んだ。パーフェクトガンダムは躊躇う様子もなく、ただ戦いに終止符を打つべくデビルガンダムJrの元へ戦いを挑みに飛び去っていった。
後書き
最終回
「人の光」
↓ISのEDパロ
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