遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~
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ターン77 鉄砲水と五行の竜魂
前書き
タイトル付け終わってからふと気になって五行についてきちんと調べました。
……FGDの5属性全く関係なかったのね。うろ覚えでしか知らなかったよコンチクショウ。
前回のあらすじ:真紅眼の架空デュエルは毎回考えるの楽しいけど疲れる。舐めプに見えないようにしつつ殺意を抑えるのは大変難しいので、今後二次創作を作る人は注意しておきましょう。
「元々僕と亮、そして藤原優介の3人は友人だった。いや、このことはもう君達も知っているか。そして彼は、間違いなく才能があった。僕や亮も今ではキングやカイザーだなんて大げさな名前で呼ばれているが、彼の才能は僕らをはるかに上回っていたんだ」
ゆっくりと、吹雪さんの声が廃寮に響く。やはりどこか、昔を懐かしむような調子で。記録を調べるだけでは決して知ることのできない、僕らの知らない当時の記憶が当事者により語られていく。
「ただいつからか、彼の情熱はその方向を少しずつ変えていった。それがダークネスの研究だ。僕がようやく彼の研究に気づいた時、そしてそれがどこまで進んでいたのかを知った時には、もう手遅れだった」
そこで一度言葉を区切り、足元に落ちていたままのダークネスの仮面を拾い上げる。その仮面を、険しい目でじっと見つめた。
「彼はやがて、この仮面を作り出してしまった。闇の世界のさらに先、ダークネスの力を直接引き出すための道具を。だが彼はその代償として、自分の魂を捧げてしまったんだ。僕はそれを止めることができず、最後に彼からもう不要になったというこの仮面を渡された。それから僕はテストデュエルの最中に別の次元に飛ばされ行方不明になり、そこで生き残るためにこの仮面をつけた。その後のことは、君達の知る通りさ。ダークネスに気を許したつもりはなかったが、仮面をかぶり続けるうちにダークネスに意識を飲み込まれ、記憶も自我も録にないままセブンスターズとして立ちはだかってしまった」
「じゃあ吹雪さん、代償に魂を捧げたってことは、藤原は……」
つい口を挟んだ僕の言葉に、悲痛な面持ちで小さく頷く吹雪さん。もし吹雪さんの話通りなら、藤原はダークネスに自ら進んで心を開け放ったことになる。となると、その結末は碌な物じゃないだろう。だが、今の説明には決定的にかけているものがある。なるほど、確かにダークネスの仮面が現にこうしてある以上、まったくのでたらめというわけではないだろう。何より、吹雪さんにはここで嘘をつく理由がない。
なら、だ。万丈目たちと共に不良品のカードを回収していたあの藤原は、誰なんだ。
「ああ。恐らく……藤原は、ダークネスに取り込まれ、死んだ……」
「嘘だ!」
懸命に無い頭をフル回転させていると突然、力強い声が響いた。その声に含まれた強い怒気に、反射的に全員の視線がその場所に集中する。その顔を見た時、吹雪さんが小さく息を呑んだのが分かった。それはそうだろう、むしろその程度の反応で済んだことが不思議なぐらいだ。僕らはついさっきも彼に会っているのだからまだしも、吹雪さんにとって彼はもうすでに故人のはずなのだから。
「藤原……!」
その『藤原』が、怒りの表情もあらわに吹雪さんへと詰め寄る。そのままその襟元を掴みあげ、信じられないという呆然とした表情のまま抵抗もせずにいる吹雪さんを片腕で持ち上げる。
「ぐ……」
「よくも、マスターを見殺しに……!」
「やめろ!」
誰よりも早く我に返り、というよりも、まるでこうなることが最初からわかっていたかのように十代がその間に割り込む。無理やり『藤原』の手を放させたところで、チャクチャルさんがポツリと呟いた。
『マスター?……なるほど、精霊か。変化だけならまだしもこの世界で実体化までしてくるとは、大した根性だ』
「精霊?あの藤原が?」
「ああ、そうだ。こいつの真の姿はデュエルモンスターズの精霊、オネスト。藤原が行方不明になる前に持っていたカードのな」
「なんで十代がそんなこと……あーいや、ごめん。聞くだけ野暮だったわ」
そもそも、藤原について最初に調べていたのは十代とオブライエンだ。たまたま僕の周りにやたら集まってくるから時々忘れそうになるが、精霊のカードは本来とんでもなく珍しい。そんな貴重な代物を藤原が持っていたのなら、それが捜査の過程で浮かび上がってきてもおかしくはない。
それより今は、オネストだ。さすがに正体を明かされるとは思っていなかったのか、虚を突かれたように抵抗を緩める。その姿が光り輝いたかと思うと、数多のデュエリストの逆転の切り札に、そしてとどめの一撃に貢献してきた羽の生えた天使型モンスターへと変化した。
「ぼくのこともお見通しという訳か。確かにこれが、ぼくの本当の姿さ」
「オネスト、お前がいくら吹雪さんを責めたって、それで藤原は戻ってくるわけじゃない。自棄になるのはやめるんだ」
「黙れ!マスターさえいれば、今デュエルモンスターズ界に起きている異変だって止めてくれたはずだ。だが、お前たち人間はそのマスターを見殺しにした!」
そう言って再び暴れ出すオネストの肩に、十代が真剣な顔で手を掛ける。瞬間、見ているこっちが叫びそうになった。十代の瞳の色が、普段の黒から緑とオレンジのオッドアイに……そしてあの全身から立ち上る黒いオーラ、あれには嫌というほどの見覚えと、同じくらい大きな苦い思い出がある。
「ユベル……!」
「そうだ、清明。お前にはいつか教えるつもりだったんだけどな、隠していたのは悪かった。とにかく、オネスト。見ての通り、俺の魂は今ユベルと一体化している。俺の中のユベルの魂が、俺に力を与えている。影丸や斎王は、お前の言うその異変の原因が俺にあると言っていた。なら、俺がその異変に片を付ける!だから俺を信じてくれ、オネスト!」
「……いいだろう」
これもまたユベルの力の賜物か、決意を秘めた顔でゆっくりと頷くオネスト。にしても十代め、今さらっと言ってた言葉、『俺が』片を付ける、ね。あくまで自分1人で終わらせるつもり、ということだろう。本っ当に頑固な親友だ、あと何回説得すれば気が済むんだか。そこは『俺』じゃなくて『俺ら』でしょうが。
『あ、そっちなのか』
「(何があったかは知らないけどね。まあユベルもあれだけラブコール送ってたんだから願ったり叶ったりだろうし、十代がいいならそれでいいんじゃない?)」
『それで済ませるとは、何ともマスターらしい割り切り方だな』
褒めてる……んだよね?ともあれ落ち着いた、というよりむしろ観念したらしいオネストが、彼の知るかぎりの異変について話しはじめた。それによると、今僕らの世界で起きている不良品のカード事件は、進行しつつある異変のほんの一角でしかないらしい。
そもそもデュエルモンスターズのカードは、精霊界と僕らの世界を繋ぐ扉の役割をしている。これに関しては、少なくとも僕はすんなり理解できた。覇王の世界で壊獣が来てくれた時に、ペガサス会長から貰った白紙のカードがまさに扉となってその魂を呼び寄せたのを思い出す。カードの書き換えまでやってのけたあれはさすがに極端な例としても、大まかな原理はあれと同じだろう。だがそれとは別に、精霊界とは別の場所に繋がってしまうカードもまた存在する。それが闇の力に汚染されたカード、僕らが不良品だと思っていたあれのことだ。あのカードたちをそのままにしておくと、やがて闇の住人がこちらの世界に侵食してきてしまう。それを止めるために、オネストは自らのマスターである藤原へと実体化してまで危機を伝えに来たわけだ。
伝えたかったことを伝えた安心感からか、ほんのわずかにオネストの表情が緩む。そのごくごく小さな隙を、奴らは見逃さなかった。何もない空間から突然暗黒の球体が浮かび上がり音もなく飛来してオネストの体に直撃、そのまま吹き飛ばした。
「何!?」
「情報共有は終わったかね?オネスト、君が遊城十代か、できることなら遊野清明の始末をして欲しかったのだが……どうやらそれも期待できなさそうだ。やはり、我々が手を下すしかないのだろう」
「ミスターT!まーたお前か!」
「ミスターT……トゥルーマンか!油断するな、そいつこそがダークネスの使者……うっ!」
全身から煙を出しながら辛うじて攻撃の飛んできた方を向いたオネストが、相変わらず神出鬼没に表れたミスターTの顔を見て声を絞り出す。しかしボロボロの体で無理に叫んだのがよくなかったのか、そこで力尽きてその場に倒れこんでしまった。
「十代はオネストを、明日香達は吹雪さんをお願い!こいつは僕が相手する!」
「でも、清明……!」
「なにぐだぐだ言ってんの!このオネストのことを一番よく知ってるのは十代なんだから、そこに十代が行かないでどうすんのさ!」
「う……気をつけろよ、清明!」
みんながそれぞれの怪我人を抱えて部屋の隅に散る中、僕1人が中央に陣取ってミスターTと睨み合う格好になる。これで最悪、稲石さんがいざとなれば皆をこの廃寮から逃がしてくれるだろう。
「いいだろう、今回の相手は君1人か」
「そーいうことになるんじゃない?またまた返り討ちにしてあげるから、楽しいデュエルと洒落込もうよ」
相変わらずのグラサンのせいで表情が読めないその顔に向けてニヤリと笑いかけ、クイックイッと指を曲げて挑発する。だいぶダメージを受けたらしいオネストのことも心配だけど、だったらなおさらここで負けるわけにはいかない。これまでのミスターTは連敗続き、そろそろ敵も本腰を入れてくる頃だろう。
「「デュエル!」」
「私の先攻だ。魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動。手札を1枚捨て、デッキから攻撃力3000以上かつ守備力2500以下のドラゴン族を2体まで手札に加える。私が加えるのはこのカード、混沌帝龍-終焉の使者-2体。そして魔法カード、調和の宝札を発動。手札から攻撃力1000以下のドラゴン族チューナー、亡龍の戦慄-デストルドーを捨て、カードを2枚ドローする」
あの開闢の使者と対となる、フィールドのみならず互いの手札までもを全て墓地送りにする壮大なリセット能力を持つ超大型ドラゴン、終焉の使者。その特殊召喚には開闢の使者と同様、墓地に光属性と闇属性の2体存在しなければいけないけれど……すでに墓地には闇属性のデストルドー、そして目覚めの旋律で捨てられた手札コストが1枚。
正直とても嫌な、予感がする。
「墓地の光属性モンスター、星間竜パーセクと闇属性モンスター、デストルドーをゲームから除外することで、このカードは特殊召喚できる。出でよ、混沌帝龍-終焉の使者よ」
「やっぱり……!」
混沌帝龍-終焉の使者- 攻3000
案の定、1ターン目から出てくる最上級モンスター。ただ幸いなのは、このターンがまだ先攻1ターン目だということだ。こちらのターンに何かする効果を持っていないのなら、なんとでも処理できる。
「魔法カード、黄金の封印櫃を発動。デッキからカード1枚を除外し、2ターン後のスタンバイフェイズに手札に加える……だがあいにく、そこまで待つつもりはなくてね。魔法カード、原初の種を発動。私の場に開闢の使者か終焉の使者が存在するとき、除外されたカード2枚を選択して手札に加える。先ほど除外したパーセクと、今除外した未来融合-フューチャー・フュージョンを回収し、そのまま発動。次のターンのスタンバイフェイズにこのカードが残っていれば融合素材をデッキから墓地に送り、さらに次のターンでも残っているならばその融合モンスターを融合召喚する」
黄金の封印櫃と原初の種のコンボにより、パーセクを手札に戻しつつデッキに眠っていた未来融合を即座に加えるミスターT。なんとも嫌らしい一手だ、なんとしてでもあの未来融合は次の僕のターンのうちに破壊しなければ。今回のミスターTのデッキはドラゴン族メイン、となると恐らくあれが来る。
「最後にカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
これでミスターTの手札は残り2枚、しかしその中身はさっきサーチしたもう1体の終焉の使者にパーセクだとわかっている。少なくとも、手札誘発に関しては警戒しなくてもよさそうだ。
「僕のターン!」
ドローカードは……よし、氷帝メビウス!そして手札には特殊召喚可能なカイザー・シースネークもある、とにかくこれで未来融合だけでも破壊するしかない。破壊しなくちゃいけないから破壊する、あまりにも単調な一手ではあるけれど、これしか僕に打つ手はない。これが通れば儲けものだ。
「相手フィールドにのみモンスターが存在するときこのカードは攻守を0、レベルを4にして特殊召喚できる。来い、カイザー・シースネーク!」
巨大な海蛇型のモンスターが、長い体をくねらせてフィールドに特殊召喚される……と、突然その姿が爆発した。
「カウンタートラップ、昇天の剛角笛を発動。相手の特殊召喚を無効にして破壊し、そのメインフェイズを強制的に終了させる。ただし、相手はその見返りにカードを1枚ドローできるがね」
「メインフェイズが……!?クソッ、ドロー!」
やられた。壊獣、グレイドル……僕のデッキのメインギミックは一見型破りな特性を持つテーマだが、基本的には他の大抵のデッキと同じくメインフェイズ1を経由しなければ下準備してもその後の攻撃が次のターンまでできずにワンテンポ遅れてしまう。まんまとしてやられた……なら、次だ。このターンのうちに終焉の使者も未来融合も除去できなかったのはかなり痛いが、今のドローでこちらにもまだ可能性は繋がれた。
「バトルフェイズを何もせずにメイン2に移行、これなら文句はないんだよね?僕もカードをセットして、ハリマンボウを攻撃表示で召喚。ターンエンド」
ハリマンボウ 攻1500
「ほう……」
そう、ハリマンボウはあえて攻撃表示で出させてもらった。このターンであやがついた以上、無理に氷帝の召喚を狙うのはやめた方がいいだろう。さあ、攻撃するならしてくればいいさ。
ミスターT LP4000 手札:2
モンスター:混沌帝龍-終焉の使者-(攻)
魔法・罠:未来融合-フューチャー・フュージョン(0)
清明 LP4000 手札:4
モンスター:ハリマンボウ(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
「私のターン。このスタンバイフェイズ、未来融合の効果の半分が発動する。エクストラデッキのF・G・Dを選択することで、その素材となるドラゴン族モンスター5体をデッキから墓地に送る。私が素材とするのはエクリプス・ワイバーン3枚と霊廟の守護者、トライホーン・ドラゴンだ」
「やっぱりそのカードか……」
ドラゴン族で未来融合といえばデュエリスト誰もが真っ先に名前を挙げるであろうカード、F・G・D。ドラゴン族5体という驚異の素材の緩さは、未来融合と組み合わせることでデッキから任意のドラゴン族5体を墓地に送ったうえであわよくば融合までできるというおろかな埋葬5枚分プラスアルファという豪快なコンボを可能とする。
どうも今回のデュエルは先ほどの剛角笛といいミスターTの理想的な初手といい、今一つ流れがよろしくない。ここらでなんでもいい、何か勝負の流れを引き寄せに行かないと。
『いや。今奴が選んだカード……残念だがそれだけでは済まないぞ、マスター』
「さらに私は、墓地に送られたエクリプス・ワイバーン3枚の効果を同時に発動。このカードが墓地に送られた時、デッキから光または闇属性でレベル7以上のドラゴン族モンスター1体を除外することができる。これによりそれぞれ古聖戴サウラヴィス2体、そしてオッドアイズ・セイバー・ドラゴンを除外する」
「また除外……?」
『当然、ただで済むわけがないな』
チャクチャルさんの不吉な言葉に応えるかのごとく、ミスターTが次の手を示す。
「魔法カード、龍の鏡を発動。私の墓地から今落とした5体のモンスターを除外することで、ドラゴン族限定の融合召喚を行う」
「なっ……!そのモンスターが出てくるのは、次のターンじゃ……!」
「言っただろう?あいにくそこまで待つ気はない、と。融合召喚、出でよF・G・D!」
予想よりもさらに1ターン早く、地が弾けた。水が爆ぜた。炎が舞った。風が荒んだ。そして闇が、その力全てを統合した。デュエルモンスターズに存在する、神を除いた6つの属性……そのうち光以外の5つの力を掌握する、それぞれの属性ごとに分かれた5つの首を持つ恐るべきドラゴン。僕も何度か見たことはあるが、こうして実物を相手にするのは初めてだ。その力は小難しい効果など一切ないシンプルなものだが、それゆえにその身に秘められた破壊力はまさしく超大型モンスターの名に相応しい。
F・G・D 攻5000
もしあの攻撃力からの一撃をまともに受けたりしたら、一体どれほどの苦痛を浴びることになるだろう。これまでの闇のデュエルでは、受けるダメージは2000台、多くて3000台までだった。それだというのにあの火力馬鹿なモンスターは、1回の攻撃だけでその倍近い5000ダメージを叩きだす。命はおろか魂まで懸かった闇のデュエルにアドレナリンが駆け巡る僕の脳内を、それでも隠しきれない死の気配と冷たい予感がほんの少しだけ掠めていく。
そしてそんな浮き足立っていた僕を諌めてくれたのは、やはりチャクチャルさんだった。
『惑わされるな、マスター。確かにF・G・Dの正面突破力はかなりのものだ……だが、マスターもそれは未来融合を発動された時点で覚悟の上だったはずだ。実物を目の前にして臆するのは勝手だが、まず次に打つべき手を考える。違うか?そもそもマスター、ついさっき自分でも言ったばかりだろう。最上級モンスターだろうと、マスターのターンに何かする効果を持っていなければいくらでもどうにかできる。もっと我々のフィールドコントロール能力を信じてくれ』
「うん……」
そうだ。確かに高い攻撃力はそれだけダメージも出すが、ただそれだけだ。それはつまり寄生のいいカモ、リリースにもってこいの弾ということと同義になる。そうするためにも、まずはこのターンを耐えきることだ。
『あ、いや、1つだけ言っておくとすれば、今回グレイドルは少々分が悪いかもしれないな。対抗するなら壊獣を軸に据えるといいだろう。あと私もいるぞ』
「……?」
「除外されたエクリプス・ワイバーン3体の効果を発動。このカードが除外された時、自身の効果で除外したドラゴン族モンスターを再び手札に加える。そして星間竜パーセクはレベル8だが、自身の効果により私の場にレベル8の混沌帝龍が存在することでリリースなしで召喚できる」
星間竜パーセク 攻800
「攻撃力800……?」
『本命はそっちじゃないな。来るぞ!』
「私の場の光属性モンスター1体をリリースし、さらにデッキからオッドアイズ・ドラゴン1体を墓地に送る。これにより、手札のオッドアイズ・セイバー・ドラゴンは特殊召喚できる」
オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻2800
パーセクの細い体が即座に消え、全身に光輝く白銀の鎧をまとった2色の眼を持つ龍がかわりに現れる。だがそれだけじゃない、今の動きで墓地には光属性のパーセクと闇属性のオッドアイズ・ドラゴンが送られた、ということは……。
「手札の混沌帝龍の効果……を使うと思ったかね?それもいいが、ここは伏せカードを用心させてもらおう。バトルだ、混沌帝龍で攻撃!」
オーバーキルになるほどの展開を避け、あえて混沌帝龍の1体を手札で温存したままバトルに入るミスターT。ここでF・G・Dから攻撃されたら目も当てられないことになっていたが、ありがたいことに攻撃力がそれより低い終焉の使者から攻撃してきてくれた。なら、このカードで迎え撃てる!
「攻撃宣言時に手札から、水精鱗-ネレイアビスの効果を発動!このカードを捨てて手札の水属性モンスター、氷帝メビウスを破壊することで、場の水属性モンスターであるハリマンボウのステータスは破壊されたメビウスの分だけアップする!」
メビウスは攻撃力2400、守備力1000の上級モンスター。その力が丸々ハリマンボウに加算されたことで、終焉の使者をも返り討ちにするだけのパワーを得た。
ハリマンボウ 攻1500→3900 守100→1100
混沌帝龍-終焉の使者- 攻3000(破壊)→ハリマンボウ 攻3900
ミスターT LP4000→3100
「最初のダメージは貰ってくよ、ミスターT」
「この程度、ほんのわずかな延命に過ぎない。F・G・Dでもう1度攻撃!」
5本の首からそれぞれ属性の異なるブレスが飛び、それが空中で混じり合って1本の破壊光線となる。いくらメビウスの力を得たハリマンボウでも素のスペックが違いすぎる、正面からぶつかり合っては勝てるわけがない。
F・G・D 攻5000→ハリマンボウ 攻3900(破壊)
清明 LP4000→2900
「ぐうっ……!でもこの瞬間、墓地に送られたハリマンボウの効果発動!相手モンスター1体を選んで、その攻撃力を500ポイントダウンさせる!当然この対象は、オッドアイズ!」
「ここまで攻撃しても伏せカードは使わずか。ならば手札のサウラヴィスの効果を発動、このカードを手札から捨てることで、私のモンスターに対象を取る相手の効果を無効とする。オッドアイズ・セイバー・ドラゴンでダイレクトアタックだ」
無数の針が飛んでいくも、空中で不可視の壁に遮られてオッドアイズに届かない。サウラディスにそんな効果があるなら、チャクチャルさんが対象を取るカードばかりのグレイドルで攻め立てることに渋い顔だったのも納得だ。しかも、そのサウラディスがもう1枚手札にある状態……でも、ハリマンボウを躱された以上ここでこのカードを使うしかない。
『少々勿体ないが、やむを得ないか。マスター、今だ』
「わかってる!永続トラップ発動、グレイドル・パラサイト!このカードは相手のダイレクトアタック宣言時に僕のフィールドにモンスターがいない場合、デッキから攻撃表示でグレイドル1体を特殊召喚することができる。グレイドル・イーグル!」
オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻2800→グレイドル・イーグル 攻1500(破壊)
清明 LP2900→1600
「戦闘破壊されたイーグルの効果で、F・G・Dを対象に寄生能力を発動する……けど……」
「当然手札から、2枚目のサウラディスの効果を発動。再びその発動を無効にする」
「この……!」
黄色い鷹がその羽を目いっぱいに広げ、終焉の使者の放つ炎から僕を守る盾となってくれる。ドロドロに溶けたイーグルは銀色の液状となってミスターTのドラゴンに近づこうとするも、再び張られた不可視の壁にその動きが遮られてしまう。
危なかった、もしミスターTがもう1体の混沌帝龍を特殊召喚することを選んでいたら防ぎきれなかった。しかもあの場面ではグレイドル・パラサイトがあるなんて相手にわかるわけなかったのだから、一概に温存もミスターTのプレミとは言い切れない。
今生きているのは本当に、たまたま僕の運が良かっただけだ。あるいはミスターTの運が悪かった、ともいえる。
「いいだろう、私はこれでターンエンドだ」
「僕のターン!」
ぼやぼやしていると次のターンには未来融合の効果が完遂してあのF・G・Dがもう1体追加される、とはいえ僕のライフは既に残りわずかで、グレイドルの効果を能動的に使うための最も簡単な手段である自爆特攻はもうできそうにない。
とにかく、カードを引いてから考えよう。これで手札が3枚になり……この手札なら、行けるか?もうサウラヴィスは使い切られ、奴の場には伏せカードもない。攻め込める隙があるとしたら、それは間違いなく今だ。
「グレイドル・スライムJrを守備表示で召喚。そしてJrは召喚成功時、墓地のグレイドルを特殊召喚することができる。このカードでイーグルを蘇生!」
グレイドル・スライムJr 守2000
グレイドル・イーグル 攻1500
「さらにグレイドル・スライムの効果を発動!場のグレイドルを2枚破壊することでこのカードを特殊召喚、そして墓地のグレイドルを守備表示で蘇生できる。僕が選ぶのはJrとイーグル、蘇生させるのはJr!」
グレイドル・スライム 守2000
グレイドル・スライムJr 守2000
「モンスターを交換したところで……いや、そういうことか」
ここまで来てようやくミスターTも気が付いたようだが、今更気が付いても遅い。破壊されたイーグルが再び銀色の水たまりとなり、今度こそ遮られることなくF・G・Dの足元から浸透してその5つの頭へと同時に乗っ取りを仕掛ける。
「モンスター効果で破壊されたグレイドル・イーグルは、相手モンスターに寄生できる!さあ、今度こそそのデカブツは貰ってくよ」
ドラゴンの中での孤独な戦いは、いつも通りイーグルの勝利で収まった。5つの首が一斉に雄叫びを上げ、さっきまでの主人にその牙をむく。
「ついでにこいつも持ってきな、混沌帝龍をリリース!多次元壊獣ラディアンを、お前の場に攻撃表示で特殊召喚!」
多次元壊獣ラディアン 攻2800
ここまでやっても、まだミスターTのライフを削りきるにはあとわずかに足りない。それは気にいらないが、ここでライフをここまで減らしておけば発動にライフコスト1000が必要となる終焉の使者の効果はギリギリ使えない。ミスターTが戦力を温存して正気を逃す様を見ていたのだから、僕の方は出し惜しみせずに総力戦で挑むとしよう。
「バトルだ、F・G・D!ラディアンに攻撃!」
F・G・D 攻5000→多次元壊獣ラディアン 攻2800(破壊)
ミスターT LP3100→900
「どうだ……ったって、どうせ効いてやしないんだよね。ターンエンド」
埃っぽい室内で爆発が起きたせいで、もうもうと煙が立ち上り一時的に視界が効かなくなる。ややあって少し空気が落ち着いてきたとき、案の定ぴんぴんした状態のミスターTが煙の向こうに立っているのが見えた。
ミスターT LP900 手札:1
モンスター:なし
魔法・罠:未来融合-フューチャー・フュージョン(1)
清明 LP1400 手札:0
モンスター:F・G・D(攻・イーグル)
グレイドル・スライム(守)
グレイドル・スライムJr(守)
魔法・罠:グレイドル・パラサイト
グレイドル・イーグル(F・G・D)
「私のターン。このスタンバイフェイズに、未来融合の効果が再び発動する。出でよ、F・G・D!」
結局2ターンの間に止められなかったことで再び融合効果が発動され、2体目のF・G・Dが融合召喚される。まあ、どうにかあれが2体並び立つことだけは防げたということでよしとしよう。
F・G・D 攻5000
「あえて200のダメージを上乗せすることで、私のライフを1000未満に下げる……悪くない戦略だが、少々浅かったな。バトル、私のF・G・DでそちらのF・G・Dに攻撃。そしてこのバトルステップ、手札からジュラゲドの効果を発動。このカードを特殊召喚し、私のライフを1000回復する」
「回復……でもF・G・Dは、地水炎風闇属性モンスターとの戦闘では破壊されない!」
「もちろん知っているとも、だからこそ狙わせてもらったのだ。そして私のF・G・Dもまた、同様の耐性により破壊されない」
「え……?」
「ターンエンドだ。最後のな」
ジュラゲド 攻1700
ミスターT LP900→1900
F・G・D 攻5000→F・G・D 攻5000
2本の破壊光線がぶつかり合い、またもや爆発が巻き起こる。爆風から身を守りながら、今のミスターTの言葉の意味を考えていた。ジュラゲドが出したいだけならグレイドル・スライムを狙ってそのまま戦闘破壊することもできたのに、なぜミスターTはそれをしなかったばかりか、よりにもよって戦闘破壊できずダメージも通らないF・G・Dを攻撃対象としたのか。何か、僕のモンスターを減らしたくないわけがあった?
そこまで考えたところで、ミスターTが片手に持つ最後の手札1枚が目に飛び込んできた。そうか、そういうことか。終焉の使者はプレイヤーのライフ1000をコストに互いのフィールドと手札全てを墓地に送り、さらに相手の墓地にその効果で送り込んだカード1枚につき300のダメージを与える効果を持つ。僕のフィールドには今スライム、Jr、パラサイト、そして装備状態のイーグルの計4枚のカードがあり、次のドローによってはそれがさらに増えて5枚になる。そして僕のライフは現在、1400。終焉の使者の効果1発で僕を仕留める圏内に持っていくためには、ここでイーグルが装備カードとなっていることが必要不可欠だったのだ。ジュラゲドのもう1つの効果を使って無理にダメージを通す方法もあったが、次の僕のターンを確実に凌ぐためモンスターの頭数を残しておく手を選んだのだろう。
こうなると、この勝負は僕のドロー次第。上級モンスターや最上級モンスターを引ければ、アドバンス召喚でこちらのカードの合計数を減らすことができるだろう。だが下級モンスターや永続魔法、罠なんかを引いてしまった場合、消費することができずにダメージが増やされて終わる。
「く……!」
どちらを引けるか、可能性は五分五分といったところ……いや、違うか。腹の底から笑いがこみあげてきて、堪えきれずに口の端が歪む。
「失敗したね、ミスターT」
「ほう?それはどういう意味かね?」
「よりにもよってこの僕に向かって、そんなデッキトップ次第の勝負を仕掛けるなんてさ。それを引いたら勝てるってんなら、この場で今すぐ引いて見せるさ!僕のターン、ドロー!」
そうだ、僕のデッキはいつだって、僕が願えば応えてくれる。だからこそ僕はこれまでも、自分よりはるかに強いような相手とも戦ってこれたんだ。それはこれまでも変わらないし、これからだってずっと一緒だ。デッキトップにそっと指を掛けると、不思議と心が落ち着くのを感じた。
もう大丈夫だ。このドローで、全部終わらせよう。決意を込めてそのカードを引き、そっと表に向けて確認する。ほら、引けた。
「これで終わりだ、ミスターT!ジュラゲドをリリースして、粘糸壊獣クモグスを攻撃表示でそっちのフィールドに特殊召喚!」
「このタイミングで……2枚目の壊獣カードを……!」
粘糸壊獣クモグス 攻2400
「これでジュラゲドの効果はもう使えない、バトルだ!F・G・Dで、クモグスに攻撃する!」
5つの首がまたしても動き、螺旋状に絡み合い1本の極太光線と化したブレスが闇を切り裂いて飛んでいく。
F・G・D 攻5000→粘糸壊獣クモグス 攻2400(破壊)
ミスターT LP1900→0
「さあミスターT、どうせまた生きてるんでしょ?今度こそ洗いざらい、知ってること全部吐いてもらおうか!」
「ふっ、今君の目の前にいる我々も、そして君が知っていることも。全てはまだ、真実の断片に過ぎない。いずれまた会おう」
「あ、コラ待て!」
今回も捕まえようとはしたものの、またしても時すでに遅く。捨て台詞と共に煙のように消えていくミスターTを睨みつけるも、結局そのまま見送ることしかできなかった。
『放っておけ。どうせまた向こうから来るだろう』
「専守防衛はあんま好きじゃないんだけどね。まあいいや、逃がしちゃったもんは。十代、そっちはどう?」
言いながら振り返るとそこにオネストの姿はなく、十代が1人で1枚のカードを手にしたままうつむいていた。僕の質問に、ゆっくりと首を振る。
……そうか、助からなかったのか。
『そもそも精霊がこちら側の世界で実体化すること自体、たまにいる私のように特殊な例を除くと莫大な体力を消費するからな。むしろあれだけ動き回っていた上で致命傷を受けたのだから、ここまで持っただけでも大したものだ』
「オネストの魂は、俺が受け継いだ。せめて俺にできる事は、それぐらいだったからな。見てくれ、清明」
そう言いつつ、十代が握っていたカードをこちらに向ける。そこには見慣れた通常のイラストとは違い、天使の羽根を生やして飛翔するネオスの姿がくっきりと描かれていた。
「E・HERO オネスティ・ネオス……オネストの魂を受け継いで生まれた、ネオスの新たな姿だ。この力を使って必ず、俺があいつの願いを叶えてやる」
「十代……違うでしょ?」
「え?」
「さっきも思ったけど、そこは『俺が』じゃない、『俺たちが』さ。オネストの魂を十代が受け継いだってんなら、一緒にいた僕たちだってその思いは受け継いださ。この世界も精霊界も、ダークネスなんかに売り渡したりできるもんか。それにほら、きっとみんなだって思うところは同じはずだよ」
広間の入り口の方を指さすと、ちょうどオブライエンを先頭に夢想、万丈目、翔、剣山のおなじみのメンツが走ってはいってくるところだった。僕らのことを認識したオブライエンが、仏頂面で不平を漏らす。
「……まったく。何かやるなら、せめて行先ぐらいは伝えて欲しいものだな。お前たちの足跡を見つけるまで、随分手間取ったぞ」
「そうだぞ清明、それに十代も。この名探偵サンダーを差し置いて、謎が解けるわけが無かろう」
「アニキ達、今度は何してたんスか?急にいなくなったってオブライエンから聞いて、心配してたんスよ」
「ようやく見つけたドン。こんな気味悪い廃寮、早く出るザウルス」
「みんな……!」
「んじゃ、もう帰ろっか。もういい加減眠いし」
気が付けば、窓の向こうからに見える空は既にほのかに白くなってきていた。いつの間にか夜が明けて、今日もアカデミアに朝が来たんだ。
と、ここでお開きにできればよかったのだが。それはそれは重い、じっとりとした視線を背中に感じて恐る恐る振り向くと、満面の天使のような笑顔と目が合った。あ、まずい。顔は笑ってるのに、目が全然笑ってない。
「清明、汗と埃でだいぶ汚れてるよ、ってさ。一晩中何をしたらそうなっちゃうのか、いっぺん教えて欲しいなあ、ってさ」
「う。ですからですねえーと、その点につきましてはですね、えーと……」
「あーきーら?」
「……はい」
「また清明がいなくなったって聞いて……すっごく、すっごく心配したんだよ?って」
そんな風に言われると、僕も弱い。その時になって初めて気づいたが、よく見ると彼女の澄んだ瞳には涙が溜まって今にも零れ落ちそうになっている。
ああもう、どうやら僕も覚悟を決めて全部打ち明けるしかなさそうだ。一体、どこから話せばいいだろう?いずれにせよ、長い夜……いや、長い朝になりそうだ。
後書き
今週は間に合いましたが、次回はお休みします。
……やっぱ隔週更新タグ付けっぱなしじゃ駄目なやつですな、これは。
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