Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~
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Lv48 死闘の行方
[Ⅰ]
《……ヴィゴールよ……そなたに命ずる。この者共を全て始末せよ。生かして返すな……確実に始末せよ……》
【ハッ、アシュレイア様の仰せのままに……。必ずや仕留めて御覧に入れましょう……】
何者か知らないが、地の底から響くような声の主は、俺達を始末するよう、ヴィゴールに指示を出した。
そしてヴィゴールはというと、声の主に頭を垂れ、恭しい所作で敬意を表しながら、それを承諾したのである。
俺はこれに少し違和感を覚えた。
(え? ……どういう事だ、一体)
ヴィゴールの低い声が聞こえてくる。
【ククク……さて、ではお前達を確実に始末する為に、もう1つ手を打っておくとしよう……】
するとヴィゴールは、棍棒を振り回しながら、俺達にゆっくりと近づいてきたのである。
俺達は奴の動きに合わせて、ジリジリと後退してゆく。
程なくして俺達は、空洞の壁際へと追い込まれた。
と、ここで、アヴェル王子の大きな声が響き渡る。
「皆、奥に伸びている空洞へ下がれッ。奴と距離を取るんだッ!」
王子の声に従い、俺達は奥の空洞へと下がった。
するとそこは通路のような感じで、幅10mに高さ10mは優にありそうな空間であった。
それが奥に延々と続いているのだが……この空洞は俺の記憶にない所であった。恐らく、初めて足を踏み入れる場所なのだろう。
(この空洞は、今朝見せてもらった見取り図だと、どの辺りなんだろうか。俺達がさっきいた林の位置とかを考えると、多分、大空洞に入ってすぐ左にある通路状の空洞だと思うが……まぁ何れにせよ、俺の行っていない所だ。となると、この先に魔物がいる可能性も0ではない……。はぁ……悪い方にばっか転がるな。ついてない。ン?)
と、その時であった。
ヴィゴールは、俺達が今潜った空洞入口に差し掛かったところで、突然、立ち止まったのである。
そこでヴィゴールは天井を見上げた。
(なんだ一体? 何をするつもり……ま、まさかッ!?)
暫し天井を眺めたところで、ヴィゴールはボソリと呟いた。
【フム……この辺りが良いか。後ろの空洞ほど広くはないが、ここでも十分、我の力は発揮できよう。フンッ!】
と、その直後、ヴィゴールは真上に跳躍し、空洞入口付近の天井に、重い棍棒の一撃を見舞ったのである。
―― ドゴォン! ――
洞窟内に大きな激震が走る。
破壊音と共に、奴の背後にある天井がゴトゴトと音を立てて崩れ始めた。
ヴィゴールは更に何発か、天井に向かって棍棒を振るう。
俺達の頭上にある天井からも、パラパラと小さな破片や土埃が雨のように降り注いだ。
そして瞬く間に、奴の背後にある空洞入口は、降り積もった瓦礫で埋め尽くされてしまったのである。
そう……なんと奴は、通路の入口を塞いでしまったのだ。
(やはり、そうかッ。クソッ……奴の狙いは地上との接点を絶つ事だったのか……これじゃ、外の者達が、こちらに来れない。ヤ、ヤバいぞ……)
と、ここで、ヴィゴールの愉快そうな声が響き渡った。
【ククク、悪いな。お前達の策を利用させてもらったぞ。さて、これで援軍も、退路もなくなった。貴様等の奥に道は続いているが、その先は行き止まりよ。つまり……お前達はもう死への道しかないという事だ。クククッ、どうだ? 希望の道を閉ざされた気分は?】
俺は思わず、後ろを振り返った。
(この先は行き止まりかよ……さ、最悪じゃないか……。でも……この奥からわずかだが、空気の流れを感じる。どういう事だ……。この状況で、奴も嘘を言うとは思えないが……って、今はそんな事を考えてる場合じゃない)
他の皆も流石にヤバいと感じたのか、全員、青褪めた表情をしていた。
無理もない。奴の言ってる事が事実ならば、俺達の選択肢はないからである。
【いいぞ、その表情。ククククッ、その恐怖と絶望に満ちた表情が、何よりも心地よい。これから貴様等に更なる絶望を与えてやろう。我にここまでの傷をつけたのだ。その償いはしてもらうぞ。ジワリジワリと、なぶり殺しにしてくれるわッ!】
ヴィゴールは馬鹿でかい棍棒を片手に、巨体を前進させた。
奴が歩く度に、ドスンドスンという重い足音が洞窟内に響く。
そして、俺達は奴の迫力に気圧されて、ジリジリと後退したのである。
【どこまで下がるのかな……クククッ。まぁいい、下がりたいだけ下がるがいい。どの道、お前達には絶望しかないのだからな。クハハハハ】
もう完全に勝った気でいるようだ。が、とはいえ、奴に勝てる要素が見つからない。
(どうやら、『相手が勝ち誇った時、そいつは既に敗北している』という、ジ○ジョの名言みたいにはいかないようだ……現実は甘くない。はぁ、どうしよ……ン?)
と、ここで、アヴェル王子とウォーレンさんが俺の隣にやって来た。
「コータローさん……勝算はありますか?」とアヴェル王子。
俺は頭を振った。
「残念ながら、今のところは……」
2人は溜息を吐いた。
「だろうな……この化け物相手に、この面子じゃ厳しい……」
ウォーレンさんはそう言って、ここにいる者達に目を向けた。
今ここにいるのは、アヴェル王子、ウォーレンさん、ミロン君、それからラッセルさん達4人とバルジさんのパーティ5人、それに加えて俺とラティとボルズを含めた、計15名の者達だ。
地上にいた時は300名近い戦力だったので、それを考えると、今はその1割にも満たない状況である。奴の強靭さを考えると、かなり厳しいと言わざるを得ないだろう。溜め息しか出てこない展開である。
アヴェル王子は話を続ける。
「そうですか。……では、それを踏まえて、貴方に訊きたい事があるんです」
「何でしょう?」
「貴方ならこんな状況の時、どういう対応をされるのかを教えてほしいのです」
「え?」
俺は思わず、眉根を寄せた。
意外な事を訊いてきたからだ。
「僅かな間でしたが、俺はコータローさんと行動を共にして良くわかりました。貴方が鋭い洞察力と冷静な判断力を合わせ持つ、有能な魔法使いだという事を……。この場を切り抜けるには、貴方の機転や策がどうしても必要です。それに貴方は以前、コイツとよく似た魔物を倒したと言っておりました。俺やウォーレンよりも、こういった魔物に対する経験があるので、是非、貴方にお訊きしたいのです」
少し買い被りすぎな気もしたが、とりあえず、俺は自分の意見を話すことにした。
「……わかりました。では、お話ししましょう。ですが、奴に魔法が通じない以上、対応は限られます。こちらがとれる手段は……重装備の前衛戦力をスカラとピオリムで強化して、奴に挑むくらいです。ですが……その際、奴の現状を考慮する必要があります」
「現状?」
「はい。奴は今、俺の攻撃によって、左側の身体的機能がかなり欠落している状態です。おまけに、傷があのままという事は、回復魔法の類は使えないのかもしれません。なので、ここに付け入る隙があると思います。つまり、我々の攻撃は、こちら側から見て右側から行なうのが、今出来る最善の手段ではないでしょうか」
「なるほど、右側からの攻撃ですか……」
「はい。ですが、それを行うに当たり、理解しておかないといけない事があります」
「それは一体……」
「今の我々は、秘宝の恩恵が得られないという事です。よって、相当な手数が必要となりますので、そこは覚悟しておいて下さい。それからこの空洞の広さだと、奴の魔法から逃れるのは、恐らく無理だと思われます。逃げ道がありません。ですので、何れにせよ、こちらが圧倒的に不利なのは変わりません。言いづらいですが、地の利は奴にあります……。ここから活路を見出すのは、かなり難しいでしょう」
話を聞き終えたアヴェル王子は、非常に険しい表情を浮かべていた。が、覚悟を決めたのか、目を細め、すぐに意を決した表情になったのである。
「ありがとうございます……コータローさん。貴方の意見を聞いて、ようやく覚悟が決まりました。アレを使いましょう。正体がバレますが、そんな事を言っている場合ではないようですから」
多分、デインを使う覚悟を決めたのだろう。
「ハ、ハルミア殿、アレとは一体……」
「決まっているだろう、ウォーレン。王位継承者としての証を使うという事だ。もはや、四の五の言っている場合ではない。出来る事はやっておく」
「もしや、あの魔法を? しかし……奴に通じるかどうかわかりませぬぞ。地上での奴を見る限り、あれだけの魔法攻撃を受けても無傷でしたからな」
「それは承知の上だ。それに、コータローさんはさっき、アレに耐性を持つ魔物は少ないとも言っていた。だから、これに賭けてみるつもりだ」
ウォーレンさんは俺に視線を向ける。
「コータロー、今の話は本当か?」
「奴に訊くかどうかは、やってみないと分かりません。ですが、そういう話を以前どこかで聞いた事があったので、アヴェル王子に話しておいたのです」
「まぁそういうわけだ、ウォーレン。だからこれに賭けてみようと思う」
「ならば、これ以上は何も言いますまい」
「決まりだな。では、行くぞ。何もせずに死ぬのは御免だからな」
俺達3人は互いに頷く。
そしてアヴェル王子は、大きな声で皆に告げたのであった。
【ここにいる者達全員に告げる! 重装備をしている者は前衛に、軽装備の者は後衛に回るんだッ!】
ラッセルさんやバルジさん達は今の指示を聞き、顔を見合わせた。
王宮の騎士とはいえ、見ず知らずの人に指示されたので、多分、戸惑っているのだろう。
仕方ない、俺からも言っておこう。
「皆さんッ、ハルミア殿の言うとおりにしてください。今は全員が1つにならないと、奴に立ち向かうのは不可能ですッ」
ラッセルさんとバルジさんは頷いてくれた。
「わかりました、コータローさん」
「わかった。この場は貴方達に従おう」
ラッセルさんは皆に指示を出した。
「リタとボルズは前に来るんだッ! シーマとマチルダは後方から援護を頼むッ!」
【わかったわ】
女性陣はハッキリと返事をしたが、ボルズは意気消沈していた。
「お、俺もか……」
「当たり前だろッ、早くしろッ!」
ボルズはオドオドしながら前に出てきた。
かなり不安な要素だが、この際、もうそんな事を言っている暇はない。
続いてバルジさんも指示を出す。
「コッズは前に来るんだ! アニーとクレアとノーラは後方に回れ!」
【了解】
【わかったわ】
と、ここで、ラティが俺に訊いてきた。
「なぁ……ワイは何するとエエやろ。ワイがいると、足手まといな気がするけど」
「ラティは念の為、この空洞の奥を偵察してきてくれるか。他に魔物がいる可能性があるからな」
「おう、わかったで。ほな、ちょっと見てくるわ」
「ああ、頼む」
そして俺達は臨戦態勢に入ったのである。
[Ⅱ]
俺達は前衛と後衛に分かれる。
人数的な事を言うと、前衛6名に後衛8名といった感じだ。
バランスは取れてるが、奴の強大な力に対抗するにはショボイ戦力なのは言うまでもない。
(後衛の魔法使いは、俺を含めて6名か……。となると、盗賊系のシーマさんやマチルダさんはホイミくらいしか魔法を使えないから、出来る事は限られてくる。仕方ない……このアイテムを彼女達に渡しておくか。2人には回復役に回ってもらおう)
俺は彼女達に近寄り、今持っている回復アイテムを手渡した。
「シーマさんにマチルダさん、貴方達は動きが素早いですから、この祝福の杖と薬草を使って皆の回復をお願いします」
「わかったわ」
「任せて、コータローさん」
と、ここで、アヴェル王子の大きな声が洞窟内に木霊した。
「前衛は奴の攻撃に備えよッ! 後衛にいる魔法を扱える者は、まず、前衛の守備力強化と素早さの強化を施してくれ!」
それを合図に後衛の魔法使いは前衛のステータス強化を始めた。
【スカラ】
【ピオリム】
俺もそれに続く。
魔力を分散させ、俺はまず、ラッセルさんとリタさんにスカラを唱えた。
それから、俺とボルズ、シーマさんとマチルダさんといった順で、守備力の強化を施したのである。
全員に補助魔法が行き渡ったところで、アヴェル王子は前衛の者達に指示を始めた。
「……いいか、皆。奴は左目と左手を負傷している。つまり、俺達から見て右側が奴の死角だ。そこから攻めるぞ」
前衛4名は無言で頷いた。が、ボルズは怯えた表情でシュンとしながら、ただ突っ立っているだけだったのである。
(あんの馬鹿……何考えてんだ。死ぬぞ。……仕方ない、少し焚き付けておくか)
俺はボルズの背後から耳打ちをした。
「おい、アンタ、戦う気があんのか? こんな時にボケッと突っ立ってたら、即行で死ぬぞ」
「あ、あたりめぇよ。た、たたた、戦うにきまってんだろ。なな、何を言ってんだよ」
明らかに虚勢を張ってる感じだ。
「なら、ちゃんと相手を見据えろよ。これだけデカい図体してんだから、アンタも結構強い筈だ。オドオドしてないで、覚悟を決めろ。どの道、この戦いに負けたら、俺達は終わりなんだ。あの化け物に意地を見せてやれ」
「んな事わかってるよ。やや、やってやるよ!」
ボルズは少しいきり立った。
(少々不安ではあるが、こんなのでも今は貴重な前衛戦力だから、こうして発破をかけておかないとな……)
と、ここで、アヴェル王子の声が聞こえてきた。
「まず俺が奴に魔法攻撃を加える。それが戦いの合図だ。行くぞ、皆」
全員が意を決した表情で、その言葉に頷く。
そしてアヴェル王子は、ヴィゴールに右手を突きだし、呪文を唱えたのであった。
【デイン!】
その刹那、アヴェル王子の右手から青白い稲妻の迸りが放たれ、ヴィゴールに襲い掛かった。
ヴィゴールの苦悶の声が聞こえてくる。
【ウグゥゥゥ! こ、この魔法は!? き、貴様、この国の王族かッ!】
アヴェル王子はそこで付け髭とヅラを取り、正体を晒した。
「ああ、そうとも! 我が名はアヴェル・ラインヴェルス・アレイス・オウン・イシュマリア! この国をお前達の思い通りにはさせんぞッ!」
ここで他の皆からも声が上がった。
「なッ!?」
「ええッ!?」
「う、嘘……王子だったの」
無理もない。これは驚愕の事実というやつだし。
それはさておき、デインを放ったアヴェル王子は、そこで剣を抜き、大きな声を上げた。
「皆、俺に続け!」
その直後、アヴェル王子は刃に炎を纏わせ、ヴィゴールへと駆け出したのである。
「仲間に魔物がいて、今度は王子様か……今日は驚く事ばかりだ。色々と考えさせられることばかりだが、それはこの戦いが終わって生き延びた後だ。行くぞッ、皆!」と、バルジさん。
そして、戦いの火蓋が切って落とされたのである。
前衛戦力6名の物理攻撃がヴィゴールに襲い掛かる。
「セヤァァァ」
「フン!」
「ハァァ」
しかし、ヴィゴールは微動だにしない。
地上の時と同じで、かすり傷程度のダメージしか与えれてないのは明白であった。
おまけに魔法剣はアヴェル王子のみなので、他の者達の攻撃は効果があるのかどうかすら怪しい感じだ。
(俺はさっき、物理攻撃が最善の手段と王子に言ったが……コイツに対しては多分、焼け石に水だろう。不味い……何か、他に手はないのか、クソッ……ン?)
だが、少し気になる事があった。
なぜなら、奴がまるで反撃をするような気配を見せなかったからである。
そう……ヴィゴールはただ攻撃を受けているだけなのだ。
(なぜだ……なぜ、反撃しない)
ヴィゴールはただ黙って攻撃を受け続けていた。
程なくしてヴィゴールは、ボソリと言葉を発した。
【アシュレイア様……アヴェル王子は如何しましょう?】
あの声が、俺達の少し後ろの方から聞こえてきた。
《……殺せ……代わりは他にもいる……》
(え?)
俺は思わず背後を振り返った。が、しかし、そこには誰もいなかった。
(どういう事だ……)
首を傾げつつ、俺はヴィゴールに視線を戻した。
するとヴィゴールは、俺達の背後に向かって恭しく頭を垂れたのである。
【アシュレイア様の仰せのままに……】
ヴィゴールは俺達に視線を向け、声高に告げた。
【さて……では、そろそろ蛆虫の駆除をするとしよう。さぁ、嘆け、喚け、そして恐怖するがよい! シャァァァ!】
その直後、ヴィゴールの棍棒が、右から左に向かって振るわれたのである。
前衛6名は、長い棍棒に巻き込まれるかのように吹っ飛ばされ、洞窟の壁に叩きつけられた。
「ぐふッ」
「グァァ」
「キャァァ」
6名はよろけながらも立ち上がる。
見た感じだと、まだ戦えそうな雰囲気であった。多分、力の入りにくい左側への攻撃だったからだろう。
とはいえ、結構なダメージを受けているのには違いない。
アヴェル王子はそこで右手を奴に向けた。
「デイン!」
王子の手から稲妻が放たれる。
【グッ……】
ヴィゴールは顔を顰めた。
これを見る限り、効果があるみたいだが、それ程のダメージは期待できそうもない。
理由は言わずもがなだ。数値で例えるならば、精々、30~40ポイント程度だからである。
(デインは効果があるみたいだが……まだまだ威力が足りない。……場合によっては、俺もライデインを使うしかないか……。とはいえ、俺も魔力がそれほどない上に、皆の回復もしなきゃいけない……使えて2発だ……これじゃ奴は倒せない。他に何か良い方法はないか……クソッ)
アヴェル王子のデインを皮切りに、前衛の者達は攻撃を再開する。
それと同時に後衛の回復魔法と、祝福の杖の癒しが彼等に降り注いだ。
【ベホイミ】
【ホイミ】
【ピオリム】
急造のチームだが、後衛と前衛の連携はうまく機能しているようだ。
流石に高位の冒険者だけあって、状況判断が的確である。
(俺も、皆の更なる守備力強化をしておくとしよう……そして、何か他の打開策を考えなければ……)――
こんな感じで、暫しの間、奴との戦闘が続いた。
傍目から見ると、俺達は奴と互角に戦っているようにも見えた。が、しかし……そんな戦闘を少し繰り返したところで、ヴィゴールは突如、攻撃の手を止めたのである。
ヴィゴールは不敵に微笑んだ。
【クククッ、なるほど……我の視野が狭い事を利用して、左側からの攻撃に徹しているという事か。まぁいい。では我も戦い方を変えるとしよう】
するとヴィゴールは、そう告げるや否や、左右の手を胸元で合わせたのである。
左手首がないので何をするつもりなのか一瞬わからなかったが、合わせた所に魔力が集まっていくのを感じた為、俺はそこですぐに察した。
(こ、この動作は……ベギラゴン!)
俺は叫んだ。
「皆、防御態勢に入って下さいッ! 奴の強力な爆炎魔法が来ますッ! 急いでッ!」
アヴェル王子とウォーレンさんが俺に振り向く。
「何ッ」
「何だって!?」
「時間がありません、急いでッ」
アヴェル王子は慌てて、皆に指示した。
「全員、奴の魔法に供えろッ!」
王子の言葉に従い、全員が身の守りを固めた。
(これしか、今のところ、この呪文に対抗する手段はない……ゲームでもそうだったが、防御に集中すれば、魔法ダメージもかなり軽減できる筈だ。ジリ貧だが、今はこれでやり過ごし、後で回復するしかない……)
その直後、奴の魔法は完成を迎えたのである。
ヴィゴールは赤い光のアーチを造り、呪文を唱えた。
【ベギラゴン!】
次の瞬間、物凄い爆炎が放たれた。
バーナーで炙られたかのような熱気と強烈な爆風が、前方から俺達に襲い掛かる。
俺達は手で眼前を覆い、下半身に力を入れ、その爆炎を只管耐え続けた。
(クッ……なんて魔法だ。ベギラゴンがこれ程強力だなんて……賢者の衣がある程度魔法ダメージを軽減してくれているとは思うが、それでも強烈だ……クッ)
同じくして、皆の悲鳴にも似た声が聞こえてくる。
「グッ」
「キャァ」
「ぐぉぉ」
「なんて魔法だ!」
「な、何よ、この魔法……」
「グッ……な、何という魔法だ……。これだけ防御に徹しても、ベギラマ以上に強力だとは……」
ゲームだとベギラゴンは、100ポイント前後のダメージを与える強力な魔法だから、この反応は当然だろう。
炎が消え去ったところで、ウォーレンさんはすぐに指示を出した。
「弱っている者から順に回復を急ぐんだッ! 早くしないと、奴の次の攻撃が来るぞッ」
【は、はい】
後衛の者達は指示に従い、回復魔法を唱え始めた。
俺も同じく、回復魔法を前衛に唱えた。が、しかし、今のベギラゴンは全員が結構なダメージを受けているので、手数が足りないのは明白であった。回復できない者が、どうしても生れてしまうのである。
(ベホイミクラスの回復を行えるのは、俺とウォーレンさん、そしてバルジさんのパーティの1人と祝福の杖を持つシーマさんの計4名。後はどうやら、ホイミしか使えないようだ。……手が足りない。はぁ……こんな時にベホマラーとか使えるといいんだが……)
【ほう……全員が防御に徹し、我がベギラゴンを耐えたか。良い判断だ。これで半分くらいは殺せたと思ったが、この期に及んで、中々にやりおるわ。クククッ……だが、それも僅かばかり命が伸びたにすぎん。次で終わりだ】
ヴィゴールはまたも左右の手を合わせる。
と、その時であった。
「そうはさせん! 俺が編み出した秘剣を受けるがいいッ!」
なんとアヴェル王子は、光の剣に雷を纏わせ、奴に突進したのである。
そして、魔法動作でガラ空きになっているヴィゴールの左脇腹を斬り裂いたのであった。
奴の脇腹から、黒い血が噴き出す。が、致命の一撃にはならなかった。
王子の踏み込みが浅かった為、剣を深く斬りつけられなかったからだ。
【グァァァ、き、貴様ァァ】
するとその直後、ヴィゴールは斬りつけたアヴェル王子を、左肘で吹っ飛ばしたのである。
「グアァァ」
アヴェル王子は壁に叩きつけられ、そのまま力無く地に伏せた。
今の攻撃で、かなりダメージを負ったのは間違いないだろう。
ウォーレンさんの慌てる声が洞窟内に響く。
「ア、アヴェル王子! 大丈夫でございますかッ! 今、回復を……ベホイミ!」
王子の身体にベホイミの癒しの光が降り注ぐ。
程なくして、アヴェル王子はヨロヨロと立ち上がった。
「す、すまない、ウォーレン……大丈夫だ。まだ戦える。クッ……」
とはいえ、かなり辛そうなのは明白であった。
(木をへし折るような奴の一撃だ。スカラで守備力強化してるとはいえ、無事なわけがない……)
俺はそこで周囲の様子を確認した。
(皆、かなり弱った表情をしている……もう、体力的にもかなりキツイに違いない。加えて、奴の打たれ強さと強力な攻撃に、精神的にも参っているのだろう。片や、ヴィゴールは脇腹をやられたとはいえ、まだまだ戦える感じだ。今のアヴェル王子の一撃でそれなりのダメージは負っただろうが、あの傷口を見る限り、まだまだ火力が足らない。……クッ、何か良い手はないか……)
俺は必死になって思考を巡らせた。
だが何も策は思い浮かばない。
浮かぶのは『全滅』の2文字であった。
と、ここで、ヴィゴールの嘲笑う声が聞こえてきた。
【ククククッ、アヴェル王子……今のデインを使った魔法剣……中々の威力だったぞ。流石、アレイスの末裔といったところか……だが、それでも我を倒す事はできん。あの程度の攻撃、何百回と受けたところで問題ないわ。死ぬのが少し伸びただけの事よ。クククッ、さて、では戦いを再開するとしようか】
ヴィゴールはニタニタと笑いながら、疲れの見え始めた前衛を棍棒で薙ぎ払った。
離れた所にいるボルズ以外の前衛5名は、苦悶の声と共に勢いよく壁に叩きつけられる。
「グアァァ」
「ゴフッ」
「キャァァ」
「ウワァァ」
「オエッ」
今の攻撃を受け、起き上がってきたのは3人だけであった。
それも剣を杖代わりにしながら、ヨロヨロとである。
リタさんとコッズという人は微動だにしなかった。
一応、呼吸はしているので、気を失っているだけだと思うが、あの様子だともう戦えないだろう。
(今のはモロだ。回復魔法を受けていたアヴェル王子とバルジさんとラッセルさんはまだ戦えそうだが、他の2人は気を失っている状態……不味い、不味いぞ、これは……)
と、その時であった。
【ヒィィィ! も、もう嫌だッ! こ、こんな所で死にたくねぇよ!】
なんとボルズが、涙目になって、奥へと逃げだしたのである。
ヴィゴールはボルズに視線を向けた。
【この期に及んで逃げるとはな。見苦しいモノを見た。まずは貴様から始末してやろう】
ヴィゴールはその辺の瓦礫を拾い、ボルズに投げつけた。
「グァ」
ボルズは足に瓦礫が当たって転倒する。
そしてヴィゴールは悠々とした足取りで、ボルズへと詰め寄ったのである。
ボルズは背後を振り返り、慌てて後ずさった。
「はわわわ、く、くく、来るなァァァ」
だが、悲しいかな、ボルズはもう行き場のない状況となっていた。
なぜなら、ボルズの背後は洞窟の壁だったからだ。
そう……もう後がない状況なのである。
【見苦しい蛆虫よ……貴様を見ていると、虫唾が走る。まだ、我に抗おうとするだけ、こ奴等の方が好感が持てるわッ。目障りだ! 死ねッ!】
ヴィゴールは棍棒を振りかぶる。
ボルズは亀のように身体を縮こませた。
「ヒィィィィィィィ!」
と、その時である。
「させるかァァ!」
なんとバルジさんが、ボルズとヴィゴールの間に入り、奴に向かって突進したのである。
バルジさんの剣はヴィゴールに腹部に喰いこむ。が、しかし……奴はその攻撃を受けるや否や、棍棒から手を離し、バルジさんを鷲掴みにしたのである。
【フン】
ヴィゴールは手に力を籠めた。
ボキボキと何かが折れる音が聞こえてくると共に、バルジさんの絶叫が洞窟内に響き渡る。
「グアァァァァァァァァァァ!」
【ククククッ、馬鹿な男よ。こんな蛆虫のような弟なんぞ、放っておけばよいモノを……クククッ。そういえば、貴様には礼をしとかねばならぬな。王都一の冒険者という称号を得る為に、貴様はよく働いてくれた。お蔭で我も暗躍しやすくなったぞ。ククククッ、せめてもの礼だ。そんなに死にたいなら、まずはお前から始末してやろう。死ね!】
と、その直後、ヴィゴールはフルスイングでバルジさんを洞窟の壁に投げつけたのである。
「ガァッ!」
恐ろしいほどの勢いで壁に直撃したバルジさんは、グッタリとボルズの脇に転がった。
額や鎧の隙間からジワッと血がこぼれ落ちてくる。
それはもう一目でわかるくらい、瀕死に近い状態であった。
ボルズやラッセルさん、そしてバルジさんの仲間達の声が洞窟内に響く。
「兄貴ッ!」
「バ、バルジ!」
「大丈夫か、バルジッ!」
バルジさんは吐血しながらも口を開いた。
「ゴフッ……どうやら、ここまでか……まさか、お前を庇って死ぬことになるとはな……ゴフッ。いつもそうだ……お前は肝心なところで逃げ出す。だから俺は、お前を冒険者として捨てた。早死にするのは目に見えてたからな」
ボルズはバルジさんの身体を起こす。
「なんで助けたんだ、なんで! 俺の事なんか放っておきゃいいのにッ」
「さぁ……なんでだろうな、俺もわからん。やはり、血を分けた家族だからか……ウッ、ゴフッ」
「死ぬな、兄貴ッ!」
「フフフ……皮肉なもんだな……お前を助けたところで生きながらえる可能性なんてないのに……」
「しっかりしろ、兄貴ッ」
「ボルズ……お前も一度は冒険者を目指したのなら、最後くらい足掻いてみせろ。じゃなきゃ……お前は……一生……弱虫のま……ま……」
その言葉を最後に、バルジさんの身体は事切れたかのように、ガクッと力が抜けたのである。
ボルズは悲痛な叫び声を上げた。
「ウワァァァァ、あ、兄貴ィィィィィィ!」
【ククククッ、仲睦まじい兄弟愛というやつか。面白いモノを見せて貰った。さて、ではお前もバルジと共にあの世へ行くがいい】
ヴィゴールは棍棒を振り上げた。が、しかし、予想外の事が起きたのである。
「この糞野郎ッ! よくも兄貴をッ! ウワァァァ!」
なんとボルズが剣を抜き、奴に飛び掛ったのだ。
ボルズは怒りで我を忘れていた。
そして次の瞬間、俺が斬り落とした左手首の断面に、ボルズの刃が食い込んだのである。
【グッ……おのれ、この蛆虫がぁぁ!】
ヴィゴールは顔を顰めつつ、ボルズを棍棒で薙ぎ払った。
「ガァァ」
ボルズは壁に叩きつけられる。が、すぐに立ち上がり、ボルズは攻撃を再開したのである。
「テメェはぶっ殺す!」
今のボルズは怒りでバーサク状態であった。
(バルジさんの犠牲によって、ボルズのリミッターが外れたようだな。まぁそれはともかくだ。今の内に、とりあえず、バルジさんの容体を見ておこう……。ボルズは死んだと思っているようだが、まだそうと決まったわけではない)
というわけで俺は、ヴィゴールがボルズに気を取られている今の内に、バルジさんの元へと向かう事にした。
その際、俺はキレたボルズとヴィゴールの戦闘をチラ見する。
すると思いのほか、ボルズは善戦していたのである。
ボルズはヴィゴールの棍棒を掻い潜り、奴に斬りつけていたのだ。
オドオドとしていたさっきのボルズからは、考えられない光景であった。
(中々やるじゃないか……。ここにきて、アイツは壁を越えたのかもしれない。ま、それはさておき、今はバルジさんだ。奴がボルズへと意識が向いてる内に、治療ができるならしておかないと……)
程なくしてバルジさんの元へとやって来た俺は、まず口元に耳をやり、呼吸音を確認した。
しかし、呼吸音は聞こえなかった。
(息はしてないな……。次は鼓動だが、今は鎧を脱がすわけにはいかない。手首と首筋から脈を確認しよう)
俺は手首と首筋に手をやり、触診した。
すると、トクトクと脈打つ振動が伝わってきたのである。
(やはり、まだ死んでない。今なら多分、間に合うはずだ……。とりあえず、ベホイミ2発いっとこう)
俺は魔力を両手に分散させ、バルジさんにベホイミを唱えた。
と、その直後……。
「ゴフッ、ゴフッ……ハァハァ」
バルジさんは血を吐きだすと共に、息を吹き返したのである。
出血も止まったので、傷もかなり回復したんだろう。
とはいえ、出血量が多いので重傷には違いないが……。
と、ここで、バルジさんの仲間の1人がこちらにやって来た。
それは若く美しい魔法使いの女性であった。
悲痛な面持ちで、女性はバルジさんに呼びかける。
「バルジッ、しっかりして! ねぇバルジ!」
俺はそこで口元に人差し指をやり、シーというジェスチャーをした。
「静かに……大丈夫です。バルジさんは死んではいません。ですが、出血が酷いので、今は絶対安静です」
と、ここで、バルジさんが口を開いた。
「ゴホッ……こ、ここは?」
「気が付きましたか、バルジさん」
バルジさんは眼球だけを動かし、俺を見た。
「貴方はコータローさん……ハッ!? そうだ、ゴランは! ゴホッ、ゴホッ」
「駄目よ、バルジ……今は安静にしてないと」
女性はそう言って、咳き込むバルジさんを優しく介抱した。
「クレア……ゴランに化けていた魔物はどうなった?」
女性は困った表情で俺に目を向ける。
仕方ないので、俺は正直に言っておいた。
「バルジさん……残念ですが、まだ戦いは終わっておりません。奴と戦っている真っ最中です。貴方の弟であるボルズもね」
「ボルズが?」
「俺も驚いてるところです。貴方が身を挺して庇ったのが効いたみたいですね。どうやら、アイツの中で迷いが無くなったんでしょう」
そこで俺はボルズに目を向けた。
ボルズは今、ヴィゴールの攻撃を掻い潜りながら、剣を振るっているところであった。アヴェル王子やラッセルさんと共に……。
その様子は正に戦士といった感じであった。
バルジさんは、ヴィゴールと戦うボルズを見ながらボソリと呟いた。
「そうか……アイツもようやく一皮むけたか……しかし、少し遅かったかな……」
バルジさんは残念そうに目を閉じた。
「遅い? なぜですか?」
「コータローさん……貴方ほど、頭のキレる方ならば、今がどういう状況かわかる筈だ。あの化け物には、どうやっても勝てない。恐らく、王都の冒険者……いや、魔導騎士団でも歯が立たないに違いない。だからですよ。奴には……俺達の剣や魔法は効かないんだ……」
まぁそう思いたくなるのも仕方ない。
実際、ボルズは剣で斬りつけてはいるが、ヴィゴールにダメージを与えれていないのは、明白だったからだ。
「まぁ確かに、そう思われるのも無理はないでしょう。ですが……先程のボルズの攻撃のお蔭で、俺はようやく希望が見えてきましたよ」
「希望? 何を言うかと思えば……。あの化け物は、ボルズ1人の力でどうこうできる相手ではない。貴方ほどの人ならわかる筈だ」
「ははは、そういう意味で言ったのではないですよ」
「こんな時によく笑えるな……ところで、今のはどういう……」
「……後にしましょう。それはともかく、貴方達にお願いがあります」
2人は互いに顔を見合わせる。
「お願いとは?」
「この戦いが終わるまでの間、バルジさんは死んだことにしておいてほしいのです」
「え、なぜ?」と、クレアさん。
「ボルズは今、バルジさんが死んだと思って戦っているからですよ。彼は今、貴重な前衛戦力になりました。もう直接戦えるのは、あの3人しかいません。これ以上減ると、奴の気を逸らせそうにないですからね……」
俺はそう言ってヴィゴールに目を向けた。
「コータローさん……貴方は一体何を……いや、訊くのはやめておこう。何をするつもりなのか知らないが、死んだフリをすればいいんだな?」
「ええ」
「わかった。では、俺は暫くの間、死んだフリをするとしよう。クレアもそういう事にしておいてくれ」
「わかったわ、バルジ」
「じゃあ、よろしくお願いしますね。ではクレアさん、貴方も持ち場に戻ってください」
「で、でも……」
クレアさんはバルジさんに心配そうな眼差しを送る。
恐らくこの人は、バルジさんとゴニョゴニョの仲なのだろう。
(チッ……妬かせるじゃねェッか、チクショー)
まぁそれはさておき、言う事は言っておかねば……。
「クレアさん、奴はバルジさんの事を死んだと思ってますから、これ以上、危害は加えないと思います。ですから、ここに俺達がいる方が、かえって危険なんです。だから、今は持ち場に戻ってください」
「今はコータローさんの言うとおりにしておけ」
「わかったわ、バルジ。でも安静にしてなきゃダメよ」
「ああ、わかっている。お前も気をつけろよ」
「ええ……」
2人は見詰め合う。
(だぁぁ……こんな所でラブロマンスするなぁぁぁ!)
つーわけで、俺はそんな2人に向かい、この言葉を贈ったのである。
「乳繰り合うのは、後にしてください!」と――
[Ⅲ]
戦列に戻った俺は、前衛に回復魔法をかけたところで、ウォーレンさんに耳打ちをした。
「ウォーレンさん……お話があります」
「何か気づいた事でもあったのか?」
「はい。ですが、それを確かめる為に少しお力を借りたいのです」
「……言ってみろ」
「今から俺は、奴にイオラを使います。それと同時に、ウォーレンさんも奴に向かってバギマを放ってほしいんです」
するとウォーレンさんは眉根を寄せた。
「なぜ今更、攻撃魔法なんだ? 奴に魔法は効果がないぞ」
「どうしても確認したい事があるんです」
「確認したい事……まぁいい。お前の事だ。何か考えがあるんだろう。それはともかく、お前に続いてバギマを放てばいいんだな?」
「ええ、お願いします」
俺はそこで、隣にいるミロン君にもお願いする事にした。
「それとミロン君……君は確か、ヒャダルコが使えると言ってたよね?」
「ええ、使えますが……」
「じゃあ、ミロン君も奴にヒャダルコを放ってくれるかい」
「え? でも、地上での戦闘を見る限り、あの魔物にヒャダルコは効かないと思いますが……」
「それでも構わない。お願いできるかな」
「はぁ……わかりました」
ミロン君は返事しつつも、首を傾げていた。
効かない魔法を使えと言ってるのだから、そりゃ首を傾げたくもなるだろう。
(2人には悪いが、今は説明している時間がない。とりあえず、まずは奴に魔法をぶつけてみよう。中級の範囲攻撃魔法を3発も放てば、何かがわかる筈だ)
というわけで、俺は奴に左手を向け、早速、呪文を唱えたのである。
「イオラ」
続いてウォーレンさんとミロン君も呪文を唱える。
「バギマ」
「ヒャダルコ」
その直後、俺達の魔法は奴に襲い掛かった。
するとヴィゴールは、右足を一歩前に出して半身になり、俺達の攻撃魔法を受けたのである。
奴の笑い声が、洞窟内に響き渡る。
【クハハハ、地上での俺の言葉を聞いてなかったのか。貴様等程度の魔法なんぞは効かんのだ。ククククッ】
ウォーレンさんは、苦虫を噛み潰したような表情になった。
「クッ……コータロー、やはり奴に魔法は効かない。一体、これで何を確認したかったんだ?」
「コータローさん、やっぱり駄目ですよ。あの魔物に魔法は効かないです」
俺はニヤッと笑いながら、2人に礼を述べた。
「ありがとうございます。予想以上の成果でしたよ。お蔭で色々とわかりました……」
「何!? 今のはどういう……」
「ちょっと待ってください。今、少し整理しますから」
俺は顎に手をやり、思考を巡らせた。
(今、ヴィゴールがとった行動を見る限り、奴の弱点は恐らく……。だが、そこに攻撃を加えるのは至難の業だ。どうやってやればいい……北斗○拳みたいに内部からの破壊ができれば解決できるが、そんな事できる筈……へ? 内部からの破壊!?)
ここで俺の脳裏にある事が閃いた。
またそれと共に、そこに至るまでの道筋も見えたのである。テーレッテーってなもんだ。
「ウォーレンさん、ようやく見えましたよ」
「は? 見えたって何がだ?」
「勿論、この戦いに勝つ為の道です」
2人は目を大きく見開いた。
「何だと!?」
「ほ、本当ですかッ、コータローさんッ!?」
「ええ、本当です」
「で、どうするんだ?」
「その為にはどうしても前衛の力を借りなきゃなりません。つーわけで、俺も前衛に行ってきます。後衛の方はウォーレンさん達にお任せしますね」
「は? ちょっ、ちょっと待て、どういう事だ」
ウォーレンさんとミロン君は、わけが分からないといった表情であった。
まぁこうなるのも無理はないだろう。
だが、説明している時間がないので、俺は一言だけ告げ、前に出たのである。
「まぁとりあえず、見ていてください。奴の鉄壁の防御に、大きな風穴を空けて見せますから」――
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