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Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~

作者:読名斉
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Lv26 そして報告へ……

   [Ⅰ]


 坑道の外に出た瞬間、いつにも増して眩しい日の光が、俺の目に射し込んできた。その為、俺は太陽に手をかざして光を遮り、暫し目が慣れるのを待つ事にした。他の皆も同様であった。まぁ時間にして3時間程は入っていたので、こうなるのも無理はないだろう。目が慣れるまで、少し時間が掛かりそうである。
 まぁそれはさておき、俺は手をかざしながら周囲を見回した。
 すると、張り詰めた表情で、周囲の警戒に当たる冒険者達の姿が視界に入ってきた。
 勿論そこには、カディスさん達の姿もあり、今は武器を手に身構え、ヴァイロン達の奇襲に備えているところであった。
(予想通り、坑道入口付近は物々しい雰囲気になってるな……ン?)
 と、ここで、カディスさんが俺達に気付き、駆け寄ってきた。
「おお、戻られましたか。皆さん、御無事なようで何よりです。それはそうとリジャールさん、奥で何かわかりましたか?」
「うむ。まぁ色々との……。ところで、ヴァイロン達兄妹はあれからどうじゃな? 姿を現してはおらぬかの?」
「ええ、今のところは。ですが、暫くは警戒をし続けた方がいいでしょう。それと、坑道側に配置する冒険者の数を増やした方がいいかもしれません」
 カディスさんはそう言って、周囲の冒険者達に目を向けた。
「ああ、その方が良いじゃろう。奴等は、また来る可能が十分にあるからの。まぁそういうわけですまぬが、カディスよ、引き続き、警戒に当たってくれぬじゃろうか? 敵はこの先どう出るか分からぬからの」
「勿論そのつもりですが、その前に、少しご報告したい事があるのです」
「報告?」
 カディスさんは頷くと、入口の脇に鬱蒼と広がる森を指さした。
「我々が戻る少し前の事らしいのですが、ここを警備していた者達の話によりますと、エンドゥラス2名が先程突然、入口手前に出現したそうです。そして現れるや否や、こちらの森の中へ走り去ったらしいのです。恐らくそのエンドゥラスは、状況から考えて、ヴァイロン達と見て間違いないでしょう。ですので、逃げたのは村の方角ではありませんが、万が一という事も考え、村の警備を厳重にするよう、冒険者の1人を伝令に向かわせました」
「うむ。手回しが早くて助かるわい。さて……」
 リジャールさんはそこで言葉を切ると、俺に視線を向けた。
「コータローよ、お主はどう思う? ヴァイロン達はすぐに来ると思うかの?」
 正直、返答に困ったが、とりあえず、俺は思った事を話しておいた。
「そうですね……勿論、すぐにやって来る事も考えられますので、警備は厳重にしておいた方がいいと思います。ただ、何となくなのですが、ヴァイロン達はすぐには来ない……いや、来れないような気もするんですよね」
「なぜそう思うのじゃ?」
「2つ理由があるのですが、まず1つは、今が日中なので、夜と違って魔の瘴気が薄いという事ですかね」
「ふむ、魔の瘴気か……」
「これは俺の想像ですが、ヴァイロンが水晶球を割った行動は、魔物を操るには距離以外にも必要なモノがあるという事を、暗に示している気がするんですよ。そして、その必要なモノとは、それなりに濃い魔の瘴気だと思うんです。そう考えますと、今まで日中に魔物が外に現れなかったという事や、ヴァイロンが芝居を打った時に、用済みの魔物をすぐ坑道内に退き返させた事も、全て納得がいくんです」
「なるほどの……。で、もう1つは何じゃ?」
「もう1つは坑道の入り口側に、毒を持つ腐った死体を配置していた事です。腐った死体を入り口側に配置したのは、毒という心理的な壁を外部の者に与え、坑道の奥へ近づけさせない為だと思うのですが、逆に考えると、予備の魔物がいないので、腐った死体を坑道の手前側に集中させ、奥の魔物を守っていたとも考えられるんです。手勢のある内に、彼等も早く終わらせてしまいたかったでしょうからね。リジャールさんも新たな魔物の出入りはないような事を、出発前に言ってましたし。で、ここが重要なんですが、ヴァイロン達がわざわざ冒険者に化けてまで潜り込んだのは、これが1番の理由だと思うんです。なぜなら、ヴァイロン達の能力を考えた場合、監視しながら目的を達成するには、この方法が最も危険の少ない方法なんです。それを裏付ける事として、ヴァイロンとリュシアが一緒に警備する事があまりなかった、というのもありますしね。ですから、彼等は今、攻め手を欠いているように思うんですよ。まぁ、これが理由ですかね」
 俺の話を聞いたリジャールさんは、顎に手をやり、ボソリと呟いた。
「言われてみると、確かにそうじゃな。という事は……今のところ、夜が一番危険という事か」
「でも、これは確証がある事ではないので、何れにせよ、警備は厳重にしておいた方がいいと思いますよ」 
「ふむ……まぁとりあえず、考えるのは後にするかの。さて……」
 リジャールさんはカディスさんに視線を向けた。
「ではカディスよ、儂等は今から、中で見たことを村長に報告しにいく。じゃから、お主達の指揮の元、坑道の警備を引き続き行ってもらいたいのじゃが、良いかな?」
「ええ、わかっております。何かありましたら、すぐに伝令の者を走らせますので、安心して向かってください」
「じゃあ、すまぬが、宜しく頼む」――

 村へと戻った俺達は、リジャールさんと共に村長に会う事となった。
 ガルテナの村長は60代くらいの初老の男性で、穏やかな表情をした方であった。
 体型はやや小太りな体型で、頭はサ○エさんに出てくる波平のように、頭頂部に毛を1本だけ残すというヘアスタイルをしていた。あえて1本残すところに、こだわりを感じさせる髪型である。
 まぁそれはさておき、報告した内容だが、当然、無垢なる力の結晶の事やリジャールさんの事情などは伏せた説明となった。
 今の時点でこんな事を話すと混乱を招く上に、余計なトラブルが起きる可能性が大だからだ。
 その為、今回報告したのは、騒動の元凶はヴァイロン達兄妹であるという事と、あの兄妹が魔物を操って坑道の奥を掘っていたという事に加え、魔物はすべて倒したという事、そして、ヴァイロン達がまたやってくるかも知れないという事などに留めておいたのである。
 ちなみにだが、俺達の報告を聞いた村長は、驚くと共に少し怯えてもいた。
 特に、ヴァイロン達が魔の種族・エンドゥラスだったという事実に、ショックを隠せないような感じであった。
 そして、またやって来るのではないかと戦々恐々としながら、村の行く末を案じていたのである。
 実際問題、それが一番の懸念事項なので、こうなるのも仕方のないところだろう。
 だがしかし……嘆いていても事態は変わらない。
 というわけで俺達は、今後の対策などを一通り説明してから、村長宅を後にしたのであった。


   [Ⅱ]


 村長の家を出た俺達は、リジャールさんの家へとやってきた。
 リジャールさんは、玄関の手前に来たところで俺達に振り返る。
「すまぬが、暫し、ここで待っていてもらえるじゃろうか? 儂が呼んだら家の中に入ってもらいたい」
「わかりました」
 そして、リジャールさんは家の中へ入っていった。
 それから5分程経過したところで、リジャールさんは俺達を呼びに来た。
「もうよいぞ。さ、中に入ってくれ」
「ではお邪魔します」
 俺達は昨日通された部屋へと案内された。 
 するとそこには、昨日は無かった木製の丸テーブルと、それを囲うように7脚の椅子が置かれていたのである。
 どうやらリジャールさんは、俺達を迎え入れる準備をしていたみたいだ。
「さ、立ち話もなんじゃから、椅子にでも掛けてくれ」
「はい、では」
 俺達が椅子に腰掛けたところで、リジャールさんも椅子に腰を下ろした。
「さて、まずは礼を言おう。当初の予定通り、坑道内で何が起きていたのかを確認することが出来たので、今日は非常に助かった。それもこれも全て、お主等のお蔭じゃ。ありがとう」
「でも、ヴァイロン達には逃げられてしまいましたからね。そんな風にお礼を言われると、なんだか複雑な気分です」
 これは正直なところであった。
「いや、それでもじゃ。お主達には感謝しておるよ。まぁそういうわけで、これからお主達に報酬を渡そうと思うのじゃが、まずはそちらのラミリアンの剣士にこれを進呈しよう」
 リジャールさんはそう言って、オレンジ色の宝石が埋め込まれた銀色の腕輪をレイスさんとシェーラさんに差し出したのである。
「この銀色の腕輪は、どういった物なのですか?」と、レイスさん。
「それはの、儂が古代文献を参考に錬成して作った腕輪でな、装備者の力を増幅する魔導器の一種じゃ。名を付けるならば、剛力の腕輪といったじゃろうかの。剣士であるお主達の助けになる筈じゃから、遠慮せんと貰ってくれ」
(剛力の腕輪……はて、ドラクエにそんな腕輪なんて出てきただろうか。力の指輪や力のルビーなら覚えているが……)
 などと考えていると、シェーラさんの驚く声が聞こえてきた。
「でも、そんな貴重な物を頂いても、良いのですか? 装備者に力を与える魔導器は、かなり高価なものだと思うのですが」
「ああ、構わん。気にせんと貰ってくれ。それはある意味では失敗作みたいなものじゃしの」
 意味がわからんので、俺は訊ねた。
「あの……失敗作って、どういう事ですか?」
「実を言うと、その腕輪はな、豪傑の腕輪という魔導器について書かれた古代の文献を参考に、儂が実験的に作った物なのじゃよ。じゃがの、錬成素材が代用品ばかりじゃったから、早い話が紛い物なのじゃ。だがそうはいっても、力を増幅させる効果は得られたので、魔導器としては成功と言える。じゃから、安心して使うてくれ」
 豪傑の腕輪なら俺も知っている。勿論ゲーム上での話だが。
 まぁそれはさておき、どうやらこの剛力の腕輪というのはリジャールさんオリジナルの魔導器のようだ。
 代用品で作ったと言っていたので、豪傑の腕輪ほどの力は得られないが、そこそこステータス補正をしてくれるに違いない。
 次にリジャールさんは、サナちゃんに視線を向ける。
 そして、澄んだ空のような青い鞘に収められた白い柄の美しい短剣をサナちゃんに差し出したのである。
「ではそっちのお嬢ちゃんには、これを進呈しようかの」
「あの……これは短剣でしょうか?」
「うむ。まぁ短剣といえば短剣じゃが、それも儂が作った魔導器でな、名を風切の刃という。ちなみにこの短剣は、錬成の段階でバギマの発動式を組み込んであるから、柄に微量の魔力を籠めればバギマを発動させることが出来るわい。お嬢ちゃんは攻撃魔法が使えないそうじゃから、これを護身用に持っておくとよい」
 サナちゃんはそれを聞き、申し訳なさそうに深々と頭を下げた。
「こ、こんな貴重な物をありがとうございます」
 ゲームでは出てこなかった気がするアイテムだが、あると便利な道具である。
 特に、攻撃魔法を修得していないサナちゃんにはピッタリの武器だ。
「よいよい、気にせず貰ってくれ。さて、それでは次にコータロー達にじゃが、まずはそちらのお嬢ちゃんに、この指輪を渡そう」
 リジャールさんはそう言うと、赤いメタリックな感じの指輪をアーシャさんに差し出した。
「……あの、この指輪からは、魔力の波動が感じられるのですが、これはどういった物なのでしょうか?」
「それは魔力の指輪といってな、装備者の魔力圧を上げる指輪じゃ。攻撃魔法の使い手ならば、更に魔法の強さが増し、回復魔法の使い手ならば、更に強い回復力を得られるじゃろう。まぁとはいっても、そんなにビックリするほど上がるわけではないがの」
「そうなのですか。あ、ありがとうございます。大事に使わせて頂きますわ」
 アーシャさんは礼を言うと、指輪を嵌め、ニコニコと微笑んだ。
 この様子を見る限り、どうやら気に入ったようだ。
「さて、では最後になるが、コータローにはこれを渡そうかの」
 そしてリジャールさんは、幾つかの丸い紋章が彫りこまれた、紺色の腕輪を俺に差し出したのである。
「えっと、この腕輪はどういったモノなのですか?」
「これは『魔導の手』といってな、並みの魔法使いでは扱いの難しい魔導器なのじゃが、お主ならば扱えるはずじゃ」
「ま、魔導の手ですって!?」
 アーシャさんはそう言うや否や、目を大きくしながら俺の手にある腕輪を覗き込んできたのである。
 この様子を見る限り、相当珍しい物なのかもしれない。
 とりあえず、訊いてみよう。
「魔導の手……今、俺ならば扱えると仰いましたが、それはどういう意味ですか?」
 するとリジャールさんは、俺の腰にある魔光の剣を指さした。
「お主、坑道内で魔光の剣を使っておったじゃろ。この腕輪はな、アレと原理は同じだからじゃよ」
「えッ? リジャールさん、魔光の剣を知っているんですか?」
「ああ、知っておるぞ。魔光の剣は、儂の弟子であるグレミオが考案した物じゃからな」
「そうなのですか、それは初めて知りました。俺も誰が作ったのかまでは、知らなかったんですよ。これを手に入れたのはマルディラントの1等区域にある武器屋なんですが、そこでは試作品の魔導器と聞いただけなので」
「あ奴はマルディラントで魔導器制作をしておるからの。当然、その近辺の武器屋とも取引があるじゃろうから、そういう事もあるじゃろうな」
 ここでシェーラさんとレイスさんが話に入ってきた。
「でもその武器って、凄い切断力よね。私達が使っている鋼の剣なんか、目じゃないくらいの切れ味だわ」
「ああ、シェーラの言うとおりだ。これ程の切れ味をもつ武器は、私も見た事がない」
 2人は感心していたが、重要な事を忘れているので、それを指摘しておいた。
「確かに切断力は凄いんですが、それを得る為には魔力消費も半端じゃないんですよ。特に鉄や石のような固いものならば、尚更です。何の考えもなしに乱用すると、あっという間に魔力が枯渇しますからね。これは見た目以上に扱いの難しい武器ですよ」
 これは本音だ。魔光の剣は、使いどころが難しいのである。
 魔物と戦う場合は、普通に魔法を使った方が戦果も大きい上に、魔力消費も少なくて済むからだ。
 とはいうものの、ジェダイのような戦闘方法に憧れる俺は、それを克服すべく、ベルナ峡谷で日々特訓をしていたわけではあるが……。
 まぁそれはさておき、話を進めよう。
「ところでリジャールさん、この魔導の手ですが、これは一体どういう魔導器なんですか?」
「説明するよりも、実際に使ってみた方が早いじゃろう。とりあえず、利き腕じゃない方の腕に装備してみよ」
「利き腕では駄目なんですか?」
「駄目ではないが、お主の場合は魔光の剣を使うからの。利き腕はそちらに回した方がいいと思っただけじゃよ」
「ああ、なるほど。では、そうします」
 というわけで、俺は左手に腕輪を装備した。
「よし、では次にじゃが、腕輪に魔力を強く籠めてみよ」
 俺は左腕に魔力の流れを作り、腕輪に魔力を強く籠めた。
 すると、腕輪に彫りこまれた紋章が、ボワッと淡く光り始めたのである。
 リジャールさんの声が聞こえてくる。
「うむ、この輝きならば大丈夫じゃな。さて、ではコータローよ……あそこに置かれた木箱に向かって左手を掲げ、見えない手を伸ばして箱を持ち上げるよう思い浮かべてみるんじゃ。さぁやってみい」
 リジャールさんはそこで、この部屋の片隅にある50cm角くらいの木箱を指さした。
 俺は指示通り、その木箱に左手を掲げ、見えない手を伸ばして箱を持ち上げるようイメージする。
 するとその直後、なんと、木箱がフワリと浮き上がったのである。
「おお、こ、これは……魔導の手ってこういう意味か」
 見えない手の意味を理解した俺は、次に箱を上下左右に動くようイメージしてみる。
 すると、俺の意思通りに箱は動いてくれたのだ。
 俺は人知れず脳内で叫んだ。
(フォ、フォースや! フォースやんかこれ! ヒャッホー! 見えない力が俺をジェダ○マスターへと誘ってる! やるか、やらぬかだ、試しはいらん! つーわけで、もうジェダイ目指すしかないっしょ。乗るしかない、このビッグウェーブに!)
 静かにハイテンションになっていると、アーシャさんの驚く声が聞こえてきた。
「こ、これが噂に聞く魔導の手……」
「その名の通り、魔力で導かれる手というやつじゃな。まぁそれはともかく、やはり、コータローならば扱えると思ったわい。コータローが坑道内で使っていた魔法や、魔光の剣を見ておったら、魔力圧の強い魔法使いじゃというのは、よくわかったからの」
「魔力圧が強い?」
 俺は首を傾げた。
 リジャールさんは頷くと続ける。
「うむ。この魔導の手はな、魔力消費はそこまでではないのじゃが、魔力圧が相当強くないと、上手くその効果を発揮できぬのじゃよ。じゃから、これを扱える魔法使いは少ない。儂の知っておる限りでも、使っておるのは、オヴェリウスにいる第1級宮廷魔導師や、イシュマリア魔導騎士団の上層部くらいじゃからな」
「へぇ、そうなんですか」
 どうやら、この魔導の手を操るには、魔力圧というのが重要みたいである。
 圧というくらいだから、魔力を押す力の事を言っているのだろう。
 と、そこで、サナちゃんとシェーラさんの声が聞こえてきた。
「コータローさん、ラミナスでもそうでしたよ。魔導の手を使えるのは、上級の魔法使いでしたから。つまり、コータローさんは優秀な魔法使いという事です」
「私やレイスの魔力では、ホイミやメラ程度しか使えないから、その腕輪を使えないのよね。羨ましいわ」
 と、そこで、アーシャさんがリジャールさんに訊ねた。
「あ、あのリジャールさん。私では使えないのでしょうか?」
「お嬢ちゃんにか? うむぅ……難しいと思うがの。コータローの腕輪で、一度試してみたらどうじゃ?」
「はい、一度やってみます。コータローさん、貸して頂けますか?」
 俺は頷くと腕輪を外し、アーシャさんに手渡した。
「どうぞ」
「では早速」
 アーシャさんは腕輪を装備し、魔力を籠めた。
 その直後、腕輪の紋章が弱々しい光を放つ。だがとはいうものの、俺の時よりも弱い光なのは目に見えて明らかであった。
 これは恐らく、魔力圧が足りないという事なのだろう。
 まぁそれはさておき、腕輪の紋章が光ったところで、アーシャさんは先程の俺と同じく、持ち上げた木箱に掌を向ける。が、しかし……木箱はカタカタと少し揺れ、ほんの少し浮き上がる程度だったのだ。
 アーシャさんは何とか上の方へ浮かせようと必死に魔力を籠め続けたが、結果は同じであった。それ以上は持ち上がらないのである。
 暫くするとアーシャさんは大きく溜め息を吐き、ションボリとしながら腕輪を外した。
「これ、コータローさんにお返ししますわ。私にはまだ無理なようです。……残念ですわ」
「まぁそう気を落とすでない。お嬢ちゃんは若いから、まだまだ伸びる筈じゃ。じゃから、その時にまた試してみるがよかろう」
「ええ、希望を捨てずに頑張りますわ」
「うむ。その意気じゃ。さて、それでは、儂からの報酬は以上じゃが、もう一度改めて礼を言わせてもらおう。今日は本当に助かった。目的を達することが出来たのはお主達の力添えのお蔭じゃ。また、この村に立ち寄る事があったならば、遠慮せず、儂を訊ねて欲しい。お主等ならば、大歓迎じゃからの」
 俺達は深く頭を下げ、礼を言った。
「リジャールさん、そんなに気を使わないで下さい」
「そうだ、御仁、そこまで気にされるな。我々も貴重な品々を頂いたので、逆に悪いと思っているくらいなのだ」
「そうですよ。それに、これも何かの縁だと思いますから」
 リジャールさんは頭を振る。
「そういうわけにはいかんわい。お主等の大事な旅に水を差してしまったんじゃからの」
「もうそれについては良いですよ。ね、アーシャさん?」
 俺はそう言って、アーシャさんに視線を向けた。
 すると、思い詰めたような表情をしたアーシャさんが、俺の視界に入ってきたのである。
「どうかしたの、アーシャさん……」
 アーシャさんはそこで、リジャールさんに視線を向けた。
「あの、リジャールさん……先程、マルディラントへもう一度、陳情に行くと仰ってましたが、急がないといけないんじゃないですか?」
「うむ。まぁ確かにそうじゃが、陳情には色々と必要な物もあるのでな。今すぐ儂だけが行くわけにもいかぬのじゃよ」
「じゃあ、もし、ですわ……仮に……今すぐにでもマルディラントに行って、アレサンドラ家に陳情する方法があったならば、リジャールさんはどうされますか?」
 どうやらアーシャさんは、ここにいる者達に風の帽子の事どころか、自分の身分まで打ち明けるつもりなのかもしれない。やはり、アーシャさんもアレサンドラ家の者だから、流石にこの現状を見てしまうと色々と不安なのだろう。
「もし今すぐに行けたらか……。そりゃ行けるならば、すぐにでも行きたいところじゃが、そんな事は、古代の文献に出てくるキメラの翼でもないかぎり無理な事じゃ。じゃから、地道にいくしかないじゃろう」
「ではキメラの翼のような物があったならば、すぐに陳情に向かうと、受け取ってよろしいのですね?」
「ああ、そんなものがあるのならばの」
 アーシャさんはそこで席を立つ。
「コータローさん、ちょっとお話がありますわ。外に来てもらえますか?」
「……はい、わかりました」
 返事をしたところで、俺も席を立つ。
 そして俺とアーシャさんは、この部屋から退出し、家の外へと向かったのである。

 家の玄関を潜り、外に出たところでアーシャさんは口を開いた。
「コータローさん……皆さんに、私の素性と風の帽子の事を話そうと思いますの。貴方の意見を聞かせてください」
「その辺は、アーシャさんの判断にお任せします。俺からは何も言えません。ですが、今後の事もあるので、他言無用とだけは言っておいた方がいいですよ。それと、ヴァロムさんの事とかは内密にお願いしますね。ヴァロムさんからも口止めされているので」
「それは、勿論わかってますわ。話すのは素性と風の帽子についてだけですから」
 しかし、別の問題があるので、俺はそれを訊ねる事にした。
「でもどうするんです? これだけの面子でゾロゾロと行けば、ティレスさんも流石に疑うと思いますよ。それと、アーシャさんがお忍びで旅をしているのを皆に前もって言っておかないと、後が面倒な事になります」
「それについては考えがありますわ。でも、私だけじゃ不安なので、コータローさんも考えてほしいのです」
「まぁそれは構いませんが、とりあえず、アーシャさんの考えを聞かせてもらえますか? 俺もそれを参考に考えてみますから」
 アーシャさんは頷くと話し始めた。
「では、私の考えですが……」――

 打ち合わせを終えた俺とアーシャさんは、皆の所へ戻ると、まず、風の帽子の事とアーシャさんの素性を順に話していった。
 といっても、殆ど、俺が説明したわけだが……。
 アーシャさん曰く、俺の方が上手く話してくれそう、という事らしい。
 そんなわけで仕方なく、説明しているわけだが、4人は俺の話を聞き、目を大きくしながら驚いていた。
 予想通りというやつだ。唐突にこんな話をすれば、普通こうなるだろう。
「――というわけなんです。今まで黙っていてすいませんでした。でも、この事は他言無用でお願いしますね。あまり、公にしたくない事なんで……」
 一通り説明したところで、リジャールさんが慌てて訊いてきた。
「か、風の帽子というのはともかくじゃ。そちらのお嬢ちゃんが、太守の娘じゃというのは、本当か!?」
「ええ、本当です」
「本当ですわ」
「なんとのぅ……うむぅ」
 リジャールさんは腕を組んで唸っていた。
 予想外だったろうから、これは仕方ない事である。
 と、そこでサナちゃんが話しかけてきた。
「あ、あの、アーシャさんがマルディラント太守のご息女というのはわかりましたが、その前に言っておられた風の帽子というのは、本当に持っておられるんですか?」
「うん、あるよ。アーシャさん、見せてあげたらどう?」
「ええ」
 アーシャさんは自分の道具入れから、風の帽子を取り出し、皆に見せた。
「これですわ。それで、どうしますか? 向かわれるのでしたら、私はいつでも構いませんわよ。そして、お兄様とリジャールさんが直接お話できるよう、私が執り成しますわ」
「すぐに向かえる上に直談判できるのであれば、それは願ってもいない事じゃ。しかし、お嬢ちゃんはお忍びでここに来ておるのじゃろう? 代理を務めるティレス殿には、どうやってそれを説明するつもりなのじゃ」
「勿論、それについても考えてありますわ。ではコータローさん、皆さんに説明をお願いします」
 やっぱり、これも俺が説明するのか……仕方ない。
「じゃあ、俺から説明しましょう。ですが、これは皆にも協力してもらわないといけない方法なので、それだけは前もって言っておきますね」
「協力? まぁよい。で、その方法というのはなんじゃ?」
「実はですね」――


   [Ⅲ]


 皆と細かい打ち合わせをした後、俺達はリジャールさんの家の裏手に行き、風の帽子の力でマルディラントへと向かった。
 白い光に包まれ、上空へと飛び上がった俺達は、程なくして、マルディラント城の屋上へと到着した。
 と、その直後、皆の驚く声が聞こえてくる。
「う、嘘……」
「こんな凄い物があったとは……」
「私も文献でキメラの翼について書かれていたのを見た事がありますが、まさか、本当だったなんて……」
「こりゃたまげたわい……」
 キメラの翼が古代文明の遺産と云われているので、皆がこうなるのも無理はないだろう。
 まぁそれはさておき、今はティレスさんに会うのが先決だ。
 つーわけで、俺は皆に言った。
「では皆、打ち合わせの通りにお願いしますね」
「ああ、わかっておる」
 リジャールさんの言葉と共に、サナちゃん達も首を縦に振る。
 俺はそこでアーシャさんに視線を向けた。
「それじゃアーシャさん、後はお任せしますよ」
 アーシャさんは頷く。
「では皆さん、ここからは私の後について来てください」
 というわけで、アーシャさんに案内される形で、俺達は移動を開始したのである。

 城内に入った俺達はアーシャさんの後に続いて、赤いカーペットが敷かれた煌びやかな通路を進んで行く。
 その途中、数名の兵士やメイドさん達と出会ったが、皆、恭しくアーシャさんに頭を下げ、道をあけてくれた。
 アーシャさんはこの城のお姫様なので当たり前と言えば当たり前だが、これを見て俺は、改めてそれに気づかされた気分であった。
 多分、今まで城の外でばかり会っていたので、そういう部分を少し忘れていたのだろう。
 というか、アーシャさん自身がお淑やかじゃないので、余計にそう見えるのかもしれない。
 まぁそれはさておき、俺達は城内の階段を幾つか降り、2階へとやって来た。そして、その先に伸びる通路を暫く進んだところで、アーシャさんは立ち止ったのである。
 そこは壁面に茶色い扉が設けられている所であった。
 アーシャさんはノックをすると、おもむろに扉を開き、中を確認した。
 そこは10畳程度の部屋で、大きなテーブルと幾つかの椅子がある以外、目立った特徴がなく、パッと見は小さな会議室といった感じの所であった。ちなみに、今は無人のようだ。
 室内を確認したところで、アーシャさんはこちらに振り返る。
「では、サナさんとレイスさんにシェーラさんは、ここで暫く待っていてもらえますか。私達が事情を説明してきますので、それからまた御呼び致しますわ」
「わかりました。ではレイスにシェーラ、私達は中に入って待っていましょう」
 レイスさんとシェーラさんは頷く。
 そして、サナちゃん達3人は、部屋の中へと入って行ったのである。
 扉が閉まったところで、アーシャさんは通路の先を指さした。
「兄は今の時間帯ですと、この先にある謁見の間か、執務室にいると思いますわ。では、行きましょう」
「ええ」
「うむ」
 俺達3人は、アーシャさんを先頭に移動を再開した。
 程なくして前方に、女神イシュラナの絵が彫りこまれた白く大きな扉が見えてきた。
 ちなみにその扉の両脇には、槍を装備した2人の若い衛兵が、無表情で立っていた。恐らくここが、謁見の間なのだろう。
 真っ直ぐとした姿勢の良い立ち方なので、パッと見、彫像でも置かれているかと思うほどだ。相当訓練されているに違いない。
 俺達が扉に近づいたところで、衛兵の1人がアーシャさんに頭を下げ、恭しく話しかけてきた。
「これはこれはアーシャ様、ご機嫌麗しゅうございます。もしや、ティレス様に御用がおありでございますか?」
「ええ、そうですわ」
「そうでしたか。ですが、ティレス様は今こちらにおられません。恐らく、執務室の方かと思います」
「あらそうですの。わかりましたわ。ではお勤め頑張ってくださいませ」
「はッ」
 衛兵は背筋をピンと伸ばした。
 というわけで、俺達は執務室の方へと向かったのである。

 通路を更に進んで行くと、行き止まりとなった壁に白い扉があるのが見えてきた。 
 そして、その扉の両脇には、先程と同様、衛兵が2人立っているのである。
 この物々しさを考えると、どうやら、あの扉の向こうが執務室のようだ。
 俺達が扉の前に来たところで、衛兵の1人が話しかけてきた。
「これはアーシャ様、ティレス様に御用でございますか?」
「ええ、お兄様は中に?」
 すると衛兵は、困った表情を浮かべたのである。
「アーシャ様……実は今、ティレス様は来客中でして……」
 と、その時であった。
 ガチャリと執務室の扉が開き、中から、眼鏡を掛けた痩せ顔の男が現れたのだ。
 男は扉を開いたところで、中に向かって一礼をした。
「それではティレス様、工房の稼働率を上げて量産体制に入りますので、今しばらく辛抱を願います。では、これで」
「ああ、よろしく頼む」
 男は別れの挨拶を終えると、俺達のいる方向へと向き直る。
 だがその瞬間、男は俺達を見るなり、驚きの表情を浮かべたのであった。
「リ、リジャール様」
「グレミオか、久しぶりじゃな」
(どうやらリジャールさんの知り合いのよう……っていうか、グレミオって、確か魔光の剣を作った人の名前だった気が……)
 などと思いつつ、俺は男に目を向けた。
 やや短くカットした茶色い頭髪の男で、口元には無精髭を生やしていた。その所為か、少しワイルドな感じにも見える。
 歳は40代くらい……いや、もう少し若いのかもしれないが、無精髭の影響もあって、俺にはそのくらいに見えた。
 首から下に目を向けると、フードが付いた灰色のローブと右手に杖という格好であり、パッと見は魔法使いという印象を与える姿であった。
 というか、それなりの魔力を感じるので、魔法は使えるとみて間違いないだろう。
 まぁ全体的な雰囲気としては、中年の魔法使いといった感じの男だ。
 俺がそんな事を考えていると、グレミオと呼ばれた男は、リジャールさんに会釈した。
「ええ、お久しぶりでございます。驚きましたよ。まさか、こんな所でお会いするとは思いませんでしたから。ところで、今日はどうされたのですか?」
「うん、まぁちょっと、色々との……」
「そうですか。積もる話もありますが、今は色々とお忙しいようなので、私はこれにて失礼します。もしよろしければ、帰りにでも、私の工房へ立ち寄ってください。では」
 男はそれだけ告げると、この場を後にした。
 と、そこで、執務室の扉が開き、ソレス殿下のような出で立ちをしたティレスさんが、姿を現したのである。
 やはり、代理というだけあって、格好はちゃんとしないといけないのようだ。
「ン、どうしたのだ、グレミオ殿。誰かそこにいるのか……って、なんだアーシャか。それとコータロー君まで。一体どうしたのだ?」
「お兄様、少しお話があるのです。今、お時間よろしいでしょうか?」
「まぁそれは構わんが……。とりあえず、中に入るがいい」――

 執務室は30畳ほどの広さがある細長い感じの部屋で、カーテンが開かれた幾つかの窓からは、暖かな日の光がこの部屋に射し込んでいた。
 床に目を向けると、青く分厚い絨毯が全面に敷かれており、壁際にはフルアーマーの西洋風甲冑や本棚、そして絵画などの美術品が飾られていた。
 天井に目を向けると、宝石をちりばめたかの様なシャンデリアがあり、外から射す日の光がキラキラと乱反射して、ゴージャスに光り輝いている。
 部屋の一番奥には、光沢のある執務机があり、その手前には応接用と思われる、これまた西洋アンティーク風の煌びやかなテーブルとソファーが置かれていた。
 そして、俺達が入ってきた入口の付近には、秘書と思われる白いローブ纏う女性が4人おり、今は机に向かって書類関係の仕事をしている最中であった。
 ちなみにだが、机に向かい、てきぱきと書類に筆を走らせるその女性達の姿は、いかにも仕事が出来そうな雰囲気を醸し出していた。歳は20代後半から30代後半くらいだろうか。まぁその辺はわからないが、当たらずとも遠からずといったところだろう。しかも、全員、綺麗な方々であったので、ティレスさんを羨ましく思ったのは言うまでもない話である。
 まぁそれはさておき、執務室の様相は大体こんな感じだ。
 要するに一言で言うと、『ブルジョワ階級の仕事部屋』というわけである。

 執務室に足を踏み入れた俺達は、ティレスさんにソファーの所へと案内され、そこに座るよう促された。
 俺達が腰掛けたところで、ティレスさんも向かいのソファーに腰を下ろす。
 と、そこで、アーシャさんはチラッと秘書らしき女性達に視線を向けた。
「あの、お兄様……できれば私達だけでお話をしたいのですが」
「やっぱり、面倒な話か……まぁいい」
 ティレスさんは秘書らしき女性達に言った。
「すまないが、少し席を外してもらえるか?」
「はい、仰せのままに」
 女性達はすぐさま席を立ち、幾つかの書類を持って退出する。
 そして、俺達だけになったところで、ティレスさんは話を切り出したのである。
「で、何事だ? 人に聞かせたくないという事は、厄介そうな話のようだが……」
「ええ、お兄様。実は先程、このリジャールさんという方から、厄介な話を聞いたのです」
 ティレスさんはリジャールさんに視線を向けた。
「ほう。で、そちらの方は?」
「こちらはオルドラン様の古いご友人で、魔法銀の錬成技師でもあるリジャールさんという方ですわ。その昔、イシュマリア城で錬成技師をなさっていた方だそうです」
「何、オルドラン様の!?」
 リジャールさんは、そこで一礼し、まず自己紹介をした。
「お初、お目にかかります、ティレス様。今、妹君であるアーシャ様からご紹介がありましたが、私は以前、王都で魔法銀の錬成技師をしていたリジャール・エル・クレムナンと申しまして、今はガルテナで隠居生活を送る者でございます」
 だがそれを聞いた瞬間、ティレスさんは目を大きくしたのである。
「え!? 今、クレムナンと仰いましたが、もしや、名器と呼ばれる数々の武具や魔導器を生み出した、あのクレムナン家の方でございますか?」
「はは、そうでございます。ですが、もう隠居の身なので、そちらの方面からは足を洗いましたがな」
 リジャールさんはそう言って頭をかいた。
「は、初耳ですわよッ。リジャールさんは、クレムナン家の方なのですの!?」
 アーシャさんも寝耳に水だったのか、これには驚いたようである。
 どうやらリジャールさんは、ヴァロムさんと同様、凄い出自の持ち主のようだ。
「すいません、話の腰を折ってしまい。まぁそれはともかく、それで、今日は一体、どのようなご用件で参られたのですかな」
「今回、アーシャ様に話し合いの場を設けて頂きましたのは、私の住むガルテナで厄介な事が起きておるので、その報告とお願いに参った次第なのです」
「それで厄介な事とは?」
「実はですな、こちらにいるコータローさんが村を訪れた際にそれが発覚したのですが……」――

 リジャールさんは、フレイさんの事や、無垢なる力の結晶の事、そして魔の種族エンドゥラスが一連の騒動に関わっていた事等を説明していった。
 時折、俺にも話を振られる事があったので、その都度、意見を述べておいた。
 そして俺達の話を聞くうちに、ティレスさんの表情も次第に険しくなっていったのである。
 特に、エンドゥラスの事を話した時が一番嫌な顔をしていた。恐らく、ティレスさんも良く知っている種族なのだろう。

「――これが今までの経緯でございます。眠っているかも知れない幻の素材も然ることながら、性質の悪い敵が狙っておりますので、何か対策を考えないと非常に不味い気がするのです。その為、是非ともティレス様のお力を借りしたく、今日はご報告も兼ねて参った次第なのであります」
 ティレスさんは眉間に皺を寄せた。
「むぅ、弱ったな……まさかそんな事になっているとは……しかも、エンドゥラスまで絡んでいるのか。リジャールさん、今、冒険者が派遣されていると仰いましたが、何名くらいいるのですか?」
「こちらに派遣されている冒険者は50名程です」
「50名か……確かに少ないな。わかりました、何とかしましょう。しかし、こちらも最近魔物が増えているので、守護隊の者をあまり沢山は派遣出来ません。ですから、指揮を執る守護隊の者を十数名と、アレサンドラ家の名で、ルイーダの酒場に冒険者の増員を依頼しましょう。冒険者を増員する分の費用に関しては、こちらで何とかするつもりです」
 リジャールさんは深く頭を下げ、礼を述べた。
「ありがとうございます、ティレス様」
「ところでリジャールさん。今言った無垢なる力の結晶だが、これは貴方の調査結果の通りになる可能性が高いのですね?」
「私はそう思っております」
「……そうですか。となると、この事は伏せておいた方がよさそうですね。ちなみに、この事を知っているのは、私達とそのエンドゥラスだけと見ていいんですか?」
 俺が答えておいた。
「こちら側で知っているのは、私達と仲間のラミリアン3名だけですが、フレイさんに宛てた書簡が見つかっていないので、向こうはエンドゥラス以外にもいるかも知れませんね」
「そうか……。まぁともかくだ。これは私達だけの話という事にしておきましょう。今は余計な厄介事はこれ以上は避けたいからね」
「ええ」――

 この後も俺達は、ガルテナでの事だけでなく、ヴァロムさんの事等についても話し合いを続けた。
 勿論、俺がヴァロムさんから言付かった内容や魔法の鍵については黙っていたので、打ち解けた話し合いではなかったが、それでも色々と新しく得られた情報もあったので、有意義なひとときであった。
 だがあまり長話をしていると、ティレスさんの公務に差支えると思った為、区切りの良いところで、俺は話を切り上げる事にしたのである。

「――ではティレス様、貴重なお時間どうもありがとうございました。これ以上は、御公務の妨げになりますので、私達はこの辺で失礼させて頂こうと思います」
「すまないな、気を遣わせてしまい。もう少し話をしたかったのだが……そうだ、コータロー君達は今晩、街の宿屋に部屋をとってあるのか?」
「いえ、宿の方はまだですが」
「そうか。ならば、今晩はここに泊まってゆくといい。長旅で疲れただろうからね」
「え、良いのですか?」
 これは予想外の申し出であった。
 ティレスさんは頷く。
「ああ、構わない。それに……君と少し話したい事もあるんだよ」
 と、ここでリジャールさんが話に入ってきた。
「ティレス様のお心遣い、痛み入ります。ですが、私は村の者を街に待たせてあります故、これにて失礼させて頂いてもよろしいでしょうか?」
 リジャールさんがこんな事を言うのは、恐らく、村にいる冒険者や村民が探す可能性があるからに違いない。
 何も言わずにこちらに来てしまったので、これは仕方ないところであった。
「そうですか……。リジャールさんとも少し話したかったが、そういう事なら仕方ないですな。ところで、コータロー君やラミリアンの方達は大丈夫だね?」
「多分、大丈夫だと思います」
 サナちゃん達がどう言うか分からないが、こちらに泊まった方が安全なので納得してくれるだろう。
「そうか。では配下の者に言って部屋を用意するから、それまで城内か、街でも見回ってゆっくりしていってくれ」
「ええ、そうさせて頂きます。ではティレス様、後でまたお会いしましょう」
「ああ、また後で」―― 
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