Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~
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Lv7 イデア遺跡群
[Ⅰ]
朝日が昇り始める早朝。
俺は馬車の車窓から、流れゆく景色を眺めていた。
そこから見えるのは、どこまでも広がる草原と遠くに見える山だけで、他に目につくモノは何もない。しいて言うならば、俺達が進んでいるこの砂利道くらいだろうか。とりあえず、そのくらいのものである。
だがしかし……今、俺の目の前にある光景は、日頃の嫌な事も忘れる事が出来そうなくらいに、神秘的なものとなっていた。
なぜなら、辺り一面に広がる草原は、草葉についた露に朝日が反射して、宝石を散りばめた様な輝きを放っていたからである。
それはまるで、光の楽園を思わせるような、眩く美しい光景であった。
この世界に来てから、今ほど癒される光景を俺は見た事がない。その為、俺は少し得した気分になっていたのである。
早起きは三文の得という諺があるが、これもそういった事の一つなのかもしれない。
とまぁそんな事はさておき、俺は今、馬車に乗って何をしているのかというと……イデア遺跡群へ向かう為に移動をしているところであった。
ちなみにだが、俺が乗っているのは、マルディラント守護隊の所有している馬車である。
で、この馬車に乗った感想だが……ヴァロムさんの荷馬車と違い、屋根付きの上に座席もあるので、すごく快適であった。
しかも、乗車定員は10人という事で中も結構広い上に、2頭の馬で引くタイプの馬車なので、それなりに安定感もあるのだ。
以上の事から、俺は、つくづく思ったのである。
やっぱ馬車移動はこういうタイプの馬車でしょ、と。
話は変わるが、今、この馬車に乗っているのは、ティレスさんとアーシャさんにヴァロムさんと俺、それと守護隊の者が務める御者を含めた5人だけである。
だが、今回の人員はこれだけではない。
外にはこの馬車を守るように、守護隊の者達20人が馬に跨って並走しているのだ。
つまり俺達は、護送船団のような陣形を取りながら、総勢25名の者達でイデア遺跡群へと向かっているのであった。
ティレスさんとヴァロムさんが話し合った結果、この移動方法になったのだ。
また、ティレスさんの話だと、連れてきた20名の者達は、守護隊でもかなりの腕利きらしく、しかも全員が、守護隊仕様の魔法の鎧や、魔力が付加された武具を装備しているという凄い武装なのだ。もはやショボイ魔物では相手にすらならないに違いない。
この面子ならば、俺が戦闘するという事はなさそうなので、頼もしい事この上ないのである。
というわけで話を戻そう。
俺は外を眺めながら大きく欠伸をした。
「ふわぁぁ」
景色は確かに美しいが、同じような景色が続くから、少し眠たくもなってくるのだ。
これは仕方ないところである。まぁ眠いのは、別の理由もあったりするのだが……。
まぁそれはさておき、俺は欠伸で出た涙を手で拭った。
と、そこで、俺の正面に座るアーシャさんが、ややムスッとしながら口を開いたのである。
「コータローさん……もう少し、シャキッとなさったらどうですか? 貴方は出発してから緊張感が無さすぎますわ」
「も、申し訳ありません、アーシャ様。実は昨晩、あまり眠れなかったものですから、その影響が出ているみたいです」
これは事実である。
確かに寝不足なのだ。
「それは言い訳にはなりませんわ。今日出発すると分かっていたのですから、ちゃんと睡眠をとらない貴方がいけないのです。たるんでいる証拠ですわ」
俺は深く頭を下げた。
「仰る通りでございます。申し訳ありません。私の不徳と致すところでございます」
「分かればよろしい」
そしてアーシャさんは、勝ち誇ったように微笑むのであった。
(はぁ……俺、この子、ちょっと苦手かも……つか、何か気に障るような事でもしたのだろうか、俺……)
理由は分からないが、さっきから俺に突っかかってくるのである。
と、そこで、アーシャさんの隣にいるティレスさんが、苦笑いを浮かべ、話に入ってきた。
「すまないな、コータロー君。アーシャは、念願の遺跡調査が出来るものだから、気分が高ぶっているんだよ」
「お兄様。そういう事じゃありませんわ。気の緩みが不測の事態を招くかもしれないから、私は言っているのです」
アーシャさんは即座に言い返した。
続いてヴァロムさんも。
「確かに、アーシャ様の言う通りじゃ。コータローよ。もう少し気を引き締めよ」
「はい、わかりました」
まぁ確かに、俺がたるんでいるのは事実だから仕方ない。気を引き締めるとしよう。
で、寝不足な理由だが……実は昨日、武器屋で買ったライトセーバーモドキを発動させて、何回も試し振りをしてたのが原因なのである。
例えるならば、子供が念願の玩具を手に入れた時と同じようなものだろうか。もう嬉しさのあまりというやつだ。
思わず、あのヴォンヴォンいう効果音を口で言ってしまいそうに……というか、既に言ってるし。
以上の事から、昨日の俺は、『最高にハイってやつだ』的な感じになっていたので、今が寝不足気味というわけなのである。
要は、アホな事してた俺が悪いのだ。
ちなみにだが、ヴァロムさんは、俺のそんな行動を見て少し呆れ顔であった。多分、理解できないのだろう。
というか、スターウ○ーズを知らないのだから、この反応は当然である。
だがしかし!
例え呆れられても、こればかりはどうしようもないのだ。
だって、ニヤニヤしちゃう……ライトセーバーは俺の……いや、男のロマンなんだもん。
話がだいぶそれたが、つまり、これが理由なのである。
[Ⅱ]
イデア遺跡群へと移動を始めてから、1時間程経過した。
周囲の景色は相も変わらずだが、風が吹き始めたこともあり、辺り一面に広がる草原は、海の波のように靡いていた。
俺はその光景を眺めながら、遺跡まであとどのくらいなのだろうかと考える。
そんな中、ティレスさんの声が聞こえてきた。
「ところでオルドラン様。コータロー君は、どのくらいの魔法が使えるのですか?」
「ふむ。こ奴はまだ駆け出しじゃから、それほどの魔法は使えぬ。ほぼ入門したてと思ってもらって結構じゃ」
「へぇ、ではコータローさん。その魔導士の杖が似合うように、もう少し精進しなければなりませんわね」と、アーシャさん。
「はい、そう思って努力しているところです」
俺はそう言って、右手に持つ魔導士の杖に目を向けた。
そう……実は昨日、魔導士の杖も買ってもらったのだ。
というわけで、俺は今、ライトセーバーもとい正式名称・魔光の剣と、魔導士の杖という二つの武器を装備しているのである。
何故、二つも買う事になったのか?
これには勿論理由がある。いや、正確には、両方買うというよりもセット販売と言った方が正しいだろうか。
実は昨日、武器屋で魔光の剣に感動していた時、ボルタックとかいう店主は、俺達に向かってこんな事を言ったのである――
「お客様、そちらの品は魔光の剣と申しますが、まだ試作品な為、私共の店では正式に売り出す商品ではございません。ですので、魔導士の杖を買うなら、タダでお付けましょう」と。
それから、こうも言ったのだ。
「そして出来れば、魔光の剣を使った使用感や改善点などを、私共に教えて頂けるとありがたいのです。今後の為にも、それらの有益な情報は、魔導器の製作家に伝えねばなりませんから」――
とまぁそういった理由から、魔導士の杖まで買うハメになったのであった。
ちなみにだが、購入したのは武器だけではない。勿論、防具もだ。
今の俺の装備はこんな感じである。
武 ……魔導士の杖と魔光の剣
盾 ……無し
兜 ……無し
鎧 ……みかわしの服
足 ……皮のブーツ
腕 ……皮の篭手
ア ……金のブレスレット
はっきり言って、武器と鎧以外はあまり大した装備ではない。が、こんな装備でも、購入金額は3500ゴールド以上だったのである。
結構、大きな出費だと思ったので俺は悪い気がしたが、ヴァロムさんは顔色変えず支払っていたのを考えると、さほど苦ではないのだろう。流石に貴族なだけあって、お金は持っているようだ。
まぁそんなわけで、俺も見た目だけは、ドラクエ世界の住人らしくなったようである。
つーわけで、話を戻そう。
それから更に時間が経過した。
周囲の景色は草原に変わりないが、平坦な地形から若干の起伏がある波打った地形へと変化し始めていた。
そして暫くすると、御者の大きな声が、こちらに聞こえてきたのである。
【ティレス様ッ、前方に、イデア遺跡群が見えてまいりましたッ】
それを聞き、ティレスさんは周囲を並走する守護隊の者達に、大声で指示を出した。
【これより先は、魔物の数が今まで以上に増えてくる。馬車や馬には魔除けが施されているが、魔物の数が増えれば、今までのように魔物も避けてはくれないだろう。各自、すぐに戦闘できるように態勢を整えよ。気を引き締めるのだッ】
【ハッ】
それを皮切りに、緊張感のある雰囲気へと、この馬車の中も変化していった。
(どうやら、イデア遺跡群の近くに来ているようだ。いよいよだな……さて、どんなモノが待ち受けているのやら……)
俺は知らず知らずのうちに、魔導士の杖をギュッと握り絞めていた。
そして、恐る恐る前方に視線を向けると、蜃気楼のように歪んで見える不気味な建造物群が、俺の視界に入ってきたのであった。
[Ⅲ]
イデア遺跡群……。
それはマルディラントの北西にある、数々の古代建造物群の総称である。
勿論、人などは住んでおらず、今は魔物が闊歩する廃墟だそうだ。
誰が建てたのか。いつからあったのか。何の為に建てたのか。どんな人たちが住んでいたのか。……それは今もって大きな謎に包まれている遺跡のようである。
また、この遺跡群に付けられているイデアという名は、古代の言葉だそうで、意味は【真実】との事である。
ヴァロムさんの話によると、遺跡群の中に一際大きな建造物があり、そこの壁面にイデアという古代文字が大きく刻まれていた事から、後世の者達がここをイデア遺跡群という呼び名にしたそうである。
だが、このイデアという言葉……実を言うと俺は、ここではない別の場所で聞いたことがあるのだ。
それは、大学時代に聞いた哲学の講義の時であった。
確かその講義の内容は『プラトン哲学におけるイデア論について』だっただろうか。
そして、その時、講壇に立った教授が、こんな事を話していたのである。
――人間は洞窟の中にいて、後ろを振り向く事が出来ない。
――入り口からは太陽が差し込んでおり、イデアを照らし、洞窟の壁に影を作り出す。
――後ろに真の実体があることを知らない人間は、その影こそを実体だと思いこむ……。
これは、古代ギリシャの哲学者プラトンが、イデア論の説明をする為に考えたと云われる洞窟の比喩というやつだ。
また、教授は更にこうも言っていた。
イデアとは物の本質、真理、全ての中で真なる実在であり、我々が肉体的に知覚している対象や世界というのは、あくまでイデアの似像にすぎない、と。
俺は適当にとった講義だったのと、あまりに宗教臭い内容なので、それほど真面目に聞いてなかったが、要は物事の真贋についての話である。
だが、このイデア論……今の現状を考えると、非常に興味深い話なのであった。
なぜならば、このイデア論におけるイデアとは『真実』という考え方だからである。
その為、俺はこのイデア論を思い出すと同時に、ある考えが脳裏に過ぎったのだ。
これから導き出されるモノといえば、もうこれしかないだろう。
そう……真実を映すと云われるラーの鏡である。
そこで俺は考える。
ラーの鏡とダーマ神殿について書かれた書物がイデア遺跡から見つかった事と、今のイデア論の内容……これは果たして偶然なのだろうかと。
だが、これはあくまでも、この地のイデアとプラトンのイデア論が同じような意味合いだった場合の話である。なので、現時点でそう決めるのはまだ早いのだ。
それにただの偶然という可能性も、勿論、否定できない。
その為、これについては暫く様子を見ることにし、今は記憶の片隅に留めておこうと、俺は考えたのであった。
[Ⅳ]
イデア遺跡群に入った俺達は、馬車のスピードを緩めず、中心にある一際大きな建造物へと進んで行った。
遺跡群の中は、イネ科と思われる背の高い雑草が至る所に茂みを作っていたが、中心にある大きな建造物まで伸びる道には、草を踏みつぶしたような二本の轍がずっと続いていた。
轍の跡はどうやら馬車のようだ。しかも、結構新しい感じであった。
これを見る限りだと、ここ最近、この地に出入りする者がいたという事なのだろう。
ソレス殿下は人の出入りを封鎖したと言っていたが、完全にはやはり難しかったに違いない。
(盗掘する者が結構いるんだろうな……まぁこんな世界だし、しゃあないか……)
俺は次に、周囲の建物へと視線を向ける。
この地にある建物は、マルディラントと同様、古代ローマや古代ギリシャを思わせる様式の建造物群であった。が、しかし、それはあくまでも様式が似ているというだけで、建物自体は風化してボロボロになっている物が殆どである。
しかも、中には原型を留めていないくらいに朽ち果てた建物もある上に、周囲に生える背の高い雑草や蔓に覆い隠されてしまっている建物もあるのだ。
その為、どこから見ても廃墟といった感じの光景であり、人の営みなどというものは微塵も感じられない所なのであった。
だがそれでも、中心にある巨大な建造物だけは別格の存在感を放っていた。
それは古代ギリシャのパルテノン神殿のような感じの四角い建造物で、周囲に立ち並ぶ大きな丸い柱が、その堅牢さを見る者に訴えかけているようであった。
また、その建造物は小高い丘の様な所に建っており、そこへと続く長い石階段が、俺達を待ち受けるかのようにまっすぐ伸びているのである。
(さて……ここで俺達に、いったい何が待ち受けているんだろう……そして、何を得られるのだろうか……。探検は嫌いじゃないが、こんな世界だし何があるかわからない……自分の身は自分で守れるよう、用心しとこう……)
などと考えていた、その時、守護隊員の大きな声が聞こえてきたのであった。
【ティレス様! 前方と上空に魔物がおります。こちらに向かってきておりますので、御注意くださいッ】
俺はこの言葉にビクッと体を震わせた。
そして、恐る恐る前方へと視線を向けたのである。
するとそこには、緑色をした巨大な芋虫みたいな魔物と、巨大な蜂を思わせる魔物が何体もいたのであった。
俺の記憶が確かならば、芋虫はキャタピラーという名で、蜂の方はさそり蜂という名の魔物だった気がする。
どちらも序盤の方の敵なので、それほど怖くないのかもしれないが、数が多いのと戦闘が初めてなのとで、俺は少しブルっていた。
しかし、それもすぐに終わりを迎える。
馬に跨る守護隊の方々が、容赦なく魔物達を切り捨てたので、あっという間に終わってしまったのだ。
そして、俺はそれを見て、ホッと胸を撫で下ろしたのである。
今の戦闘を見たヴァロムさんは、ティレスさんに賛辞の言葉を贈った。
「ふむ。流石はマルディラント守護隊の者達じゃな。この程度の魔物など、物の数では無いようだ」
「この地の魔物については、前もってある程度調べてはあります。ですので、今の様な敵ならば、オルドラン様の手を煩わせる事も有りませぬでしょう。それに父からは、アーシャの事もあって、精鋭を連れてゆくようにと言われてもおりますのでね」
「うむ。そのようじゃな。ティレス殿に来て頂いたのは正解じゃったわい」
ヴァロムさんは頷くと微笑んだ。
俺も同感であった。
やはり、ここまでの手練れの方々がいると、危険度はグンと下がるのである。
その後も俺達は、襲い掛かってくる魔物達を蹴散らしていく。
そうやって何回か戦闘繰り返して進んでゆく内に、いつしか俺達は、巨大建造物が建つ丘の前へと辿り着いていたのであった。
[Ⅴ]
巨大建造物のある丘の手前で馬車を降りた俺達は、早速、建物へと続く石階段へ向かい歩を進めた。
だがその際、馬車と馬の見張りをする為、ティレスさんは10人の者達に、この場に留まるよう指示を出したのだ。
それから残った15名の者達で、丘の上を目指すことにしたのである。
建物に伸びる階段は結構長かったが、それでも3分あれば頂上まで登りきれる程度なので、さほど苦ではなかった。
そして、丘の上に辿り着いた俺達は、そのまま速度を緩めず、前方に聳え立つ建造物へと歩を進めたのである。
程なくして、俺達は建造物の前へと到着した。
近くに来て分かったが、この建造物は本当に馬鹿でかかった。
高さは見たところ30mくらいあり、正面の幅は50m以上は優にありそうであった。おまけに入口もデカい。形はアーチ状で、幅が約10m、高さが10mくらいはありそうだ。
全て石造りで、所々に色褪せた部分や風化している箇所もあったが、まだまだ堅牢さは衰えておらず、しっかりとした佇まいをしていた。これならば中に入っても、脆くて崩壊するなんて事はないだろう。
守護隊員達が周囲の安全を確認し終えたところで、俺達は巨大建造部の中へと足を踏み入れた。
俺はそこで周囲をぐるりと見回す。
すると中は、吹き抜けの天井になっており、入って10m程度のところまでで行き止まりとなっていた。
この空間を囲う石灰岩のような白い石壁には、凶悪な魔物達と戦う人々の様子が彫刻されており、それらは壮大なストーリーを感じさせる絵巻のようになっている。
また、入って正面の壁には大きな石の扉のような物があり、その中心には、青く透き通る水晶球が埋め込まれているのである。
その他にも、扉みたいなモノには文字のようなものが彫り込まれていた。ちなみに、なんて書いてあるのかは、勿論、俺にはわからない。
というわけで、一応、目につくのはそういった物だけのようだ。他には何もない。
だが正面にある石の扉らしきものは、その大きさが異様であった。
なぜならば、高さと幅が10mはありそうな感じなのである。
こんな馬鹿でかい扉を俺は未だ嘗て見た事はない。
その為、これは本当に扉なのかどうかすら、疑わしいレベルなのであった。
とはいえ、他に目につくモノもないので、俺はヴァロムさんに訊いてみた。
「見たところ何もないみたいですけど、ここに何かあるんですかね?」
「ふむ……とりあえず、正面にある扉らしき所へ行ってみようかの」
「はい」
俺は気のない返事をすると、ヴァロムさんの後に続いて移動を開始した。
ティレスさんとアーシャさんも俺達に続く。
程なくして扉らしきモノの前に来たところで、俺達は一旦立ち止まり、暫しそれを眺めた。
するとヴァロムさんは何かを見つけたのか、更に扉らしきモノへと近づく。
そして、扉らしきモノに彫りこまれた文字を指でなぞり、ヴァロムさんはそれを口に出して読んだのである。
「……ここに古代リュビスト文字で何か書かれておるな。ええっと、なになに……真実を……求めし者よ……青き石に触れて魔力を籠めよ。そして解錠の言霊を紡ぐがよい……。解読するとこんな内容じゃな」
アーシャさんは首を傾げる。
「解錠の言霊? 何らかの呪文を唱えろという意味なのかしら」
「ふむ……さてのぅ。じゃが、そう考えるのが自然じゃろうの」
「オルドラン様。この遺跡に、その手掛かりがあるのでしょうか?」と、ティレスさん。
「それはわからぬが、とりあえず、まずはこの中を調べてみるとするかの」
というわけで、俺達は手掛かりを探す為に、暫しの間、この建造物の内外を調べる事になったのである。
――それから1時間後――
俺達はまたさっきの扉の前に集まった。
皆の表情を見る限り、何も見つからなかったのは明白であった。
まずアーシャさんが口を開いた。
「やはり、何も手掛かりなしですわね。考えてみれば、この遺跡はイシュマリア誕生以前のモノである上に、今まで多くの者達が頭を悩ませてきた所です。こんな簡単に、手掛かりが見つかるわけありませんわね」
「ふむ。そのようじゃな……」
ヴァロムさんはそう言って、長い顎鬚を撫で始めた。
「オルドラン様、この建造物以外にも、ここには沢山の遺跡があります。まずそのあたりを地道に調べていった方が良いんじゃでしょうか?」と、ティレスさん。
それを聞き、ヴァロムさんは渋い表情をしていた。
アーシャさんが反論する。
「お兄様、それでは時間が掛かりすぎてしまいますわ。もう少し効率の良い方法を考えるべきです」
とまぁこんな感じで、3人は難しい表情を浮かべながら、今後のミーティングを始めたのである。
蚊帳の外である俺は、手持無沙汰の為、石の扉に埋め込まれている青い水晶球を見る事にした。
なんで水晶球を見に来たかというと、ただ単に綺麗だったからだ。それ以外に理由はない。
俺は水晶球の前に来ると、マジマジと眺めた。
大きさはサッカーボールくらいありそうで、一点の曇もない、透き通るような青さを持つ水晶球であった。
何の為にこんな所に埋め込んだのか知らないが、もったいないなぁと俺は思ってしまうのだ。
やっぱこういう綺麗な物は、もっと品の良いところに飾っておいた方が、美しく見えるからである。
とりあえず、こんな廃墟に似つかわしくない、美しい水晶球であった。
まぁそれはさておき、俺は水晶球を眺めながら、さっきのヴァロムさんの言葉を思い返してみた。
あの時ヴァロムさんは、確かこう言っていたのである。
真実を求めるものよ。青き石に触れて魔力を籠めよ。そして解錠の言霊を紡げというような事を……。
解錠の言霊というのが分からんが、多分、何か呪文のようなモノを唱えろって事なんだろう。
(ゲームではあまり気にならんかったけど、こういうイベントを実際にやられると、かなり面倒やなぁ……手掛かりを探すのが大変やわ)
俺は少しゲンナリしていた。
と、その時である。
解錠という言葉を聞いて、ふとあの呪文の事が俺の脳裏に過ぎったのだ。
(そういや、あの呪文て、解錠呪文だったよな……まさかな)
俺は半分冗談のつもりで、青い水晶球に右手で触れると、魔力を籠め、あの呪文を唱えてみた。
「アバカム……なんちゃって」
すると次の瞬間、青い水晶が、突然、眩く輝き始めたのである。
あまりにも眩しかったので、俺は思わず右腕を眼前にかざした。
「あわわ、なんだよ、これ……」
俺はこの突然の変化にたじろいでいた。
と、そこで、ヴァロムさんの慌てたような声が聞こえてきた。
「コ、コータローッ、一体何をしたッ!?」
「な、何をしたといわれましても」
ティレスさんの声も聞こえてくる。
「何だこの光は!」
水晶から放たれる光は、更に強さを増した気がした。
だがそれだけではない。
この光と連動するかのように、建物全体がゴゴゴゴと揺れ始めたのである。
俺はこの異変に恐怖して、生唾をゴクリと飲み込んだ。
アーシャさんの慌てる声も聞こえてくる。
「な、なんですの。これは地震? い、いったい、何が起きてるんですの……」
いや、アーシャさんだけではない。
他の守護隊の人達も同様であった。
【いったい何が起きたというのだ……地震か】
地響きは治まる気配を見せない。
だが時間が経過するにつれて、水晶の光が弱まり始めてきたので、俺は右腕を降ろし、瞼をゆっくりと開いた。
と、その直後、眼前に広がる異変を目の当たりにし、俺は驚愕したのであった。
なぜなら、目の前にある巨大な石の扉が、ゆっくりと横にスライドしていたからである。
「う、嘘だろ……マ、マジかよ!」
自分でやっておいてアレだが、半ば冗談でやった事なので、やった本人が一番驚いていた。
そして、俺はこの予想外の展開についていけない為、呆然と立ち尽くし、この異変をただただ眺めるだけなのであった。
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