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提督はBarにいる。

作者:ごません
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秋ナスがダメなら夏にナスを食べるのです!・その2

「やっぱこういうシンプルな奴が美味いねんな~、ナスは」

 美味そうにガーリックソテーを頬張りながら、喉を鳴らしてハイボールを飲む電。なんともまぁ堂に入った姿で、普段のおどおどした姿からはあまり想像できんな、目の前の光景は。

「なんやの?さっきから人の顔ジロジロ見てからに」

「いや?別に」

 ムスッとした顔でナスをかじり、ハイボールを飲む電。俺はと言えば黙ってフライパンを洗ったり、グラスを磨いたりしている。何とも気まずい沈黙が流れていく……と、何杯目かのハイボールを飲み干した電が口を開いた。

「あんな?」

「うん?」

「よく、ウチ言うてるやろ?『沈んだ敵も出来れば助けたい~』って」

「そういやそんな事言ってたっけな」

 その言葉や考え方はよく知っている。俺がこの電という艦娘と知り合ってからこっち、常々口にしていた言葉だからだ。自分が沈むのも仲間が沈むのも怖い。しかし敵が沈むのも放ってはおけない。博愛主義と言えば聞こえはいいが、過ぎた優しさは全てを殺す……少なくとも俺はそう考え、教えてきたつもりだ。

「でもな、やっぱりウチ諦めきれへんねん。相手やって生きる為に必死こいて戦っとるのかも知れへんし」

 それは深海棲艦と開戦した当初から言われ続けている事だ。奴等の目的は一体何なのか?それが解れば講話の道筋も見えてくる、というのがハト派……海軍穏健派の言い分だ。それは解る。ただ、俺はハト派寄りの中立であるからしてその立場から言わせてもらえば、交渉のテーブルに着く気がない相手とは講話もクソもねぇだろうが、というのが持論だったりする。意志疎通が可能な個体が深海棲艦に居るのは確認されているし、高度な知能も持ち合わせてはいるんだろう。だが、それだけだ。主義や主張、互いの求める戦果によって折り合いを付けるのが講話の為の交渉だ。相手方の求める物を腹ぁ割って話してもらわにゃこっちも条件の整えようがない。現段階では『講話は可能かもしれない、だが今はその時ではない』としか言えない。

「そりゃお前、相手方の話を聞いた事がねぇから何とも言えんが……それなりの事情があって戦ってるハズだ」

「なら、ウチらと仲良う出来るかも知れへんやないか!」

「だから今はその時じゃねぇ。前にも話してこりゃ決着が着いた話だろうが」





 以前にも素面の状態の電と同じような話でやり合った事がある。その時は電はポロポロと涙を溢しながら必死に語っていたのだ。

『電は弱いから、誰も救えないのです……!』

 と。敵を沈めるにしろ投降させるにしろ、それをするには生殺与奪の権利をもぎ取る他ない。そして戦争という特殊な状況下ではそれを行えるのは圧倒的実力差を持った強者のみだ。投降させるには、自分が生き残る必要がある。尚且つ、敵の戦意と戦闘力を奪うには均衡した強さではダメだ。相手を圧倒しつつ殺さずに無力化出来る……それだけの力を持つ者が生かすも殺すも権利を持つ事が許される。ならば答えは至極シンプルな物だ。だから俺は泣きじゃくる電に言ってやった。

「自分が弱いと嘆く暇があるなら強くなれ、電。自分も仲間も敵も、全ての命を背負い込めるだけの力を持て。お前が語ってる理想ってのは、そういう修羅の道だ」

 端から見れば薄情にすら見えるかも知れない。だが、その日から電は確実に変わった。砲撃や雷撃よりも格闘戦を重視した立ち回りになり、俺も何度も格闘技の指南をした。これは電なりに考え抜いた結果であり、砲撃や雷撃ならば殺してしまいそうな相手でも、徒手格闘や武器術ならば自分の匙加減で殺さずに峰打ちで仕留める事も可能だ。小柄で小回りの利く体躯だった事もあり、メキメキとその実力を伸ばしていった電は、今では新人研修の格闘技専任教官を任せられるまでになった。笑顔でハードメニューをごり押ししてくる姿は、俺とは違う意味でドSだと恐れられている。

 そして戦闘に於いても意識改革があったらしい。以前の電ならば敵対した敵の全てに攻撃するのを躊躇うような仕草があったらしいが、今では相手を見極めて砲雷撃でトドメを刺す者と格闘戦で殺さずに無力化する者を取捨選択するようになった、との報告を受けている。自分の実力を弁えて助けられる者と相容れない者とで分けるようになったらしい。実際、電に沈められずに救われた深海棲艦は戦闘中から嫌々戦っているようなそぶりを見せていた者が大半らしく、戦闘終了後は何処へなりと逃げていくそうだ。

 そして何より、電の姉達が驚いていたのだ。『電が泣かなくなった』と。着任当初は毎晩隠れて涙を溢していたらしいが、人前でなくても泣かなくなったと暁達が驚いて俺に相談しに来たのをよく覚えている。俺も何となく事情は察していたので、精神的に成長したんだろうから、その成長を姉として喜んでやれと言っておいたのだが……どうやら、その発散方法が解らずに溜め込んでいたせいで今回のような事になってしまったらしい。




「……なぁ提督、ウチは強くなれたんやろか?」

 俺に縋るような視線を送ってくる電。しかしその答えは俺も持ち合わせてはいない。

「さてな。強さの定義は人それぞれだからな、電の求める強さは俺には解らんよ」

 俺の求める強さは、家族を護る事が出来る『力』だ。それは単純な武力であり、策謀を巡らせる政治力であり、それを貫徹する精神力であると俺は考えている。どう考えても電の理想とする強さとはかけ離れており、俺がそれを電に押し付けるのは得策ではない。

「せやろな、ウチと提督じゃ立場から何から違うもんな。……変な質問してすまんな」

「いいさ、これでも食って気分転換しな」

 そう言って俺はグラタン皿から切り分けたとある料理を皿に取り分けて電に出してやる。

「これは?」

「『夏野菜のパルミジャーナ』。ナスとかの夏野菜とトマトソース、チーズを重ねて焼き上げたイタリアンだ」




《美味しさ重ねて!夏野菜のパルミジャーナ》

・にんにく:1片

・カットトマト缶:1缶(400g)

・オレガノ:少々

・玉ねぎ:1/2個

・ナス:150g

・ズッキーニ:150g

・モッツァレラチーズ:150g

・パルミジャーノチーズ:50g

・塩:適量

・オリーブオイル:大さじ1~2




 さぁ、作っていこう。まずは野菜の下拵えから。にんにくと玉ねぎはトマトソースに使うのでみじん切りに、ナスとズッキーニは縦半分に割って厚さ1cm位の半月切りにしておく。

 仕上げにオーブンで焼くので、200℃に余熱しておく。オーブンが無ければオーブントースターでもOKだ。それも無いなら最終手段、電子レンジでチーズをとろけさせてもいいぞ……カリカリの焦げ目は出来ねぇけどな。

 トマトソースを作っていくぞ。鍋にオリーブオイルを引いて熱し、にんにくと玉ねぎを炒めていく。火加減は弱火~中火で玉ねぎに色を付けない程度の火加減で。玉ねぎが透き通ってきたらカットトマト缶とオレガノ、塩少々を加えて弱火でコトコトと15分位煮込んでいく。実はこのカットトマト缶というのが密かなポイントだったりする。

 前にもチラッと話したと思うが、ホールトマト缶とカットトマト缶だと使われているトマトの種類が違う。ホールトマトは煮込むと旨味とコクが出やすい種類で、カットトマト缶は酸味が強く加熱にはあまり向かない種類だ。しかし今回は夏野菜とチーズがメインの料理だ。トマトソースはそれらを際立たせる為に酸味の強いソースにしたい。だからあえてのカットトマト缶だ。焦がさないようにかき混ぜつつ、15分位煮込んだらトマトソースは完成だ。

 ナスとズッキーニを焼いていくぞ。グリルパンを火にかけて半月切りにしたナスとズッキーニを並べて焼いていく。本場の作り方だと素揚げにするんだが、ナスもズッキーニも油を吸っちまうからくどくなるんだよな、個人的には。だから俺は油を引かずに焼くようにしてる。あぁ、焼いている最中でも焼く前でもいいから軽く塩をするのを忘れずにな。

 ナスとズッキーニが焼けたら仕上げに入っていくぞ。グラタン皿にトマトソースを敷き詰め、焼いたナスを隙間なく敷き詰める。その上にまたトマトソースを敷き、1cmの厚さの輪切りにしたモッツァレラチーズと、パルミジャーノチーズを削って敷き詰める。再びトマトソースを敷いたら今度は焼いたズッキーニを敷き詰める。そうやって交互に層を作ったら、仕上げにトマトソースで蓋をしてその上からパルミジャーノチーズを削ってかける。無ければピザ用チーズで代用してもいいぞ。後は余熱しておいたオーブンで25分、じっくりと焼き上げる。中のモッツァレラチーズが溶けた方が美味いから、表面が焦げそうだったら途中でアルミ箔を被せるといいだろう。 
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