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魔弾の王と戦姫~獅子と黒竜の輪廻曲~

作者:gomachan
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第19話『剣の時代が終わる時~ナヴァール騎士団全滅!?』【Bパート 】

 
前書き
合間見て加筆修正します。
魔弾の新刊を一足先に池袋まで買いに行って拝読したのですが、やっぱりガヌロンと凱兄ちゃんは相似しまくってるなあと。人と人以外を区別するものは『心』という凱兄ちゃんのセリフは意味深いと改めて感じます。ではどうぞ。
 

 
オリビエの対応策は、全てロランの為だった。
一見無謀に見える、突貫能力に秀でた『槍』の陣形。しかし相手の『銀の逆星軍』は層の薄い『三日月』の陣形。
戦列を整え、『ジュウ』の大隊を横から切断して『壁』を突き破る。そのまま乱戦に突入。『槍』の陣形たる本陣の『矛』へ駆け抜ける。

「我が友よ!今こそ『竜巻(トロンべ)』と成りて駆け抜けるとき!」
「承知!!」

一騎当千のロランと、百戦錬磨のオリビエ――

不敗のデュランダルと無敗のオートクレール。二つの『戦刃』から生まれる『風』が合わさりとき、『嵐』となる。
そして、自然災害の『姿』たる竜の嵐――『竜巻』と化して逆星どもにくらいかかる!
彼らが狙うはただ一つ……指揮系統の寸断だ。

――魔王を倒せるのは、生きた伝説の一太刀のみ――

「どけ!雑兵ども!我の望む首はテナルディエ公ただ一つ!!『槍』を正義の陣形として『魔王(テナルディエ)』を穿たん!!」

故に彼らは戦う。ブリューヌの民を救うために。ティグルの正義を立証するために。陛下のために。
何より、『時代は俺たちを必要としている』という、拠り所を示すために――











◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇










――果敢に突撃する姿は当然、銀の逆星軍にも確認されていた。
斥候の報告がグレアストに届く。

「右翼から敵の突撃!分断を目的とした進撃かと!」

スティードは静かに警告する。このままでは層の薄い『三日月』では瓦解するのは目に見えている。

「グレアスト卿――これは分が悪いのでは?」
「まさか?ここまでは想定の範囲内ですよ、スティード卿」

ナヴァール騎士団の陣形が『二又の槍』となって左右挟撃するのも織り込み済みだ。迎撃部隊には既に射撃準備を命じてある。
それからグレアストは爬虫類を思わせるねっとりとした声で告げる。

「『ジュウ』の威力と物量の差を思い知らせて差し上げる」

獅子をも殺す何万何千の『閃光蜂』の地獄が、彼の黒騎士を殺すだろうと予言するグレアスト。
鉄の鉛弾を打ち出す人員の正体は、かつてテナルディエ派に降伏してきたガヌロン派の貴族諸侯だった。それは彼自身が『首をはねるにも手間がかかる』と一瞥した人々だ。
だが、ガヌロンの腹心であるグレアストは、その『手間のかかる連中』を配下に加えた。
(タマ)はいらん。代わりに(タマ)をもらう』と付け加えて――
そう――彼らは『飽和殲滅(フルバースト)』を目的に編成された部隊なのだ。

「迫りくるナヴァールの騎兵共を、ことごとく屠れ――『時代遅れ』の連中を震撼させ、ビルクレーヌの包囲網を解け」

すぐ脇にたたずむテナルディエ本人の言葉。間を置かずして下されるはグレアストの命令。

「―――――――――斉射!!!!」

残虐非道の貴公子は口をつむいだ。
その瞬間――阿鼻叫喚の壮絶な光景が展開された。
猛々しい騎士達の『轟声』。それさえも瞬時にしてかき消してします『銃声』――
騎士達の『轟声』は狂気渦巻く戦場の中で自我を保つべく、いわば心の鎧と盾のような役目をするはず……なのだが、相対する『銀の逆星軍』の『銃声』によってすぐさまに聴覚を焼かれてしまう。
目に見えない被害は人間である騎士にとどまらなかった。
突如、馬が暴れだしたのである。
耳につんざく音――銃声。それこそが、軍馬の乗りてである騎士を振り落とそうとする。
前代未聞の轟音が大草原のビルクレーヌに木霊する。
無論、ナヴァール騎士団というのは騎兵だけでなく歩兵も組配されているのだが、中核をなすのは当然騎兵だ。

騎士の突撃命令(コマンド)
『槍』陣形の生命線。それがまったく機能しなくなる――

(敵は初めからこちらを『狙い撃つ』ことを想定していなかった――)

血と肉と脂が飛び舞う光景で、オリビエはかつてない戦慄を全身で味わっていた。

(なんてことだ!こんなにも……『戦術』にも『戦力』にも差があるとは)

確かに銃の威力は驚異的だ。しかし、それを使用するのは、彼らテナルディエ等にとって消耗品に過ぎない民草の連中。命中率が高いはずなどない。
オリビエはそれを好機と見た。だからこそロランの提案である槍陣形をそのまま受け入れた。
『ジュウ』といえど、強力な『弩―アーバレスト』に過ぎないものだ。抵抗的な期待をしていなかった。

――ただ、期待していなかったのは、銀の逆星軍も同様だった――

命中率。
ただ一発にこだわらず、敵のほうへ向けて放つ。
当然狙いなどない。
命中率も悪い。
たったそれだけ――それだけなのに。
ムオジネルの如き人海物量で行われると、予測できる未来は一つしかない。

―――――――――『全滅』

だが、忌むべきその未来を否定する者がいた。

――まだだ!まだ我が闘志は尽きていない!

ロラン、怒涛の奮戦!
翻る不敗の宝剣。輝きを戦場へ示さんがために。
撤退の隙をついた銀の逆星軍の追い打ちに、二又のもう一つの『矛』であるロランが、側面から奴らのハラワタを食い破る!

「我らナヴァール騎士団はブリューヌ最強の『槍』にして『盾』なり!逆賊フェリックス=アーロン=テナルディエ!『逆星』を殲滅する者なり!」

腹の底から轟くような怒号。『獅子』の如き咆哮は、平民上がりの銃兵を恐怖させるに十二分だった。
しかし、そのような雄々しき騎士の足掻きを、冷酷な魔王は一蹴する!

「最強だと……?」

テナルディエはほくそ笑む。
火薬が生み出す煉獄を目の当たりにしても、まだそのような戯言を申すか。
黒騎士よ。剣の時代の亡霊よ。眩しき貴様の妄想など飽いた。そろそろ眠ってもらおうか。

「下らん幻想を抱いて死ね――ロランをティル=ナファ=の元へ案内せよ」
「「―――御意」」

スティード、グレアスト両名は、魔王の拝命を謹んで受け取った。
テナルディエの片腕であるスティードは、その堅実で隙の無い銃の運用で、最凶攻撃力を発揮する『密集態勢』を展開し――
ガヌロンの片腕であるグレアストは、その鬼謀にて銃の最適射程と殺傷力を演算し、最恐殲滅力を発揮する『連段運用』を展開する――
『銃』は――『片腕』では持てない。『両腕』があってこそ、初めて運用可能なのだ。
だから連れて参ったのだ。二大公爵――それぞれの誇る『片腕』を『両腕』に揃えて。

―――――続く魔王の号令に、再び『蜂の大軍』が訪れる!

赤白い『蜂の地獄』がロランを見舞う!
『弾』の速度は『矢』の比ではない!ほぼロランの視界と空間に糸状の熱針が、騎士の誇り高き肉体をそぎ落としていく。

「時の歩みを止めし『騎士』どもを駆逐せよ。摂理に対し変われぬ『愚者』どもを、根絶やしにせよ」

鬼謀の主たるグレアストは、さらなる苛烈な命令を下す。「奴らを無駄死にさせよ」と――

















◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆









もはや『│正義の槍≪ナヴァール≫』は敵を貫くどころではなかった。
戦が始まってから半日もたっていないのに……大量の血を吸った大地は赤黒く染まっている。

それは、『魔物』が夢見た理想世界とは異なる世界。

一人、心を鉄の意志で固めた騎士が『慣性』に任せて、突き進んでいた。
『逆星』の砲火を浴びた配下の騎士が、潜血を噴き出して後方へ流れていくのが見える。すれ違い様に騎士が落馬し、戦場の凄惨さを物語る束の間の『流星』となる。
それを見たロラン、オリビエは目を伏せた。

――俺たち騎士は……

――私たち騎士は……

――本当なら……剣をとることはなかった存在。

いかなる策を用いようと、幾千、幾万の生命が銃火の蔓延する虚空へ散っていく。
彼らは問いかける。――時代は、天は我らを見放したのかと。
『三日月』――その名が示すように、我らが星が、欠けた月のように砕かれていく。
『槍』――既に次世代の『火槍』が我らの正義の槍をへし折っていく。
一つでも多くの生命を守るために、一つでも多くの生命を散らせ、散らされていく矛盾。終わりのない『輪廻(アンコ-ル)』にまどろみ、目を覚ますことのない闇に自ら取り込まれていく。

――何のために守る?この果てにある未来は?

不敗の剣――デュランダル。
民を守る名を持つ聖剣の刀匠は知らない。
知っているのは――『銃』は人が産出した悪だということ。
そして、人の手で作り出した兵器が、同胞である人に向けて放たれている。
一兵たりとも残さず塵芥に返す。それを実行するのは可能かもしれない。
何を馬鹿な?
そんな非現実的な妄想などあってたまるか。
彼らは逆星は知っているのだろうか?
いまだ罪を知らぬもの。そして罪を既に犯したもの。罪を自覚せぬもの。

―――人こそが、罪そのものなのだろうか?

鉄剣を取る『手』が悪なのか?
弓弦を引く『爪』が悪なのか?
それとも引金を引く『指』が?







『断罪の女神――デュランダル』







無知なる今の時代が犯した愚行に対し……我ら幼子に贖罪の機会を与えたまえ――
許されるなら、『断罪の剛剣』と成りて剣の時代の最後を飾らんことを――

「殲滅する!『逆星』を!」

ロランの正義に悲しみが充たされ、瞳に涙があふれだす。
騎士の誇り高き『流星』――
戦友ともいえる甲冑から、デュランダルから光がこぼたれて――
――『不敗』。その言葉が偽りと化すとき、守ろうとした大切な者を守れなくなる。
故に――彼らは負けることを許されない。絶対に負けられない。誰にも。
不思議なことに、『金色の髪をなびかせる女神』の光景が、ロランの頭をよぎった。
その女神は、古の時代にて『接触禁止の女王』とも『デュランダル=オブ=アンリミテッド』とも呼ばれていたそうな。

ナヴァール騎士団最後の陣形――その名は『流星』

ストライクと呼ばれる突撃戦法。
儚くも雄々しい一条の『星』に、テナルディエ全軍は目を奪われた。
瞬く間に銀の逆星軍の表面を食い破り、心臓部たる魔王へ一直線に突き進む。
しかし、そのような騎士の時代最後の『奇跡』に対し、姑息なグレアストが割って入る。

「この瞬間を待っていた!!」

一条の槍たる陣形――『流星』を砕く咎人が愉悦を浮かべる。
黒い光 を放つ、重厚感のみを追求した機械仕掛けの、開戦前にオリビエが口にしたあの『乳母車』――














その名は――――回転式蜂巣砲(フレローリカ)――――












『ジュウ』と比較にならぬほどの……『蜂の雲梯』が解き放たれる!

一列に横並びされた『蜂巣砲』が――騎士団の脇腹を食らいつく!

最悪だ。ロランの脳裏によぎった、たった一言――
奴がそこまでとは思わず、兵器に頼る小物と見なした己が手落ちだ。
あの時、『三日月』というオリビエの進言を聞き入れていれば――
だが、どれほど後悔しようと時すでに遅し。
足を撃ち抜く鉛玉に、止まるロランは無念の死を覚悟する――





しかし――黒騎士の将をかばいだてようとする『部下達』が、『盾』となっていた。





何故……お前たちが?





何故だ?





もはや動けぬロランの前に、次々と仁王立ちする配下の騎士達。





間断なく放たれる鉛玉に、その若き生命を散らしていく――





声をか けたかった。でも、轟く『銃声』の中ではその『声』さえも届かないだろう。





俺が守りたかったもの。陛下と民と同じくらいに大切に守りたかった、共に時代を生きたいと願ったお前達が





――――何故!愚策を施した俺などを守って死んでいく!?――――





俺はブリューヌの騎士だ。





民を護り、陛下の敵を殲滅し、騎士の時代を導く『先導者‐アンリミテッド』だ。





俺は護る側の人間だ。なのに――





どうして、俺は護られているんだ!?





どれだけの無念に伏しようと、お前達の『勇星』は消えた――流星のように。

――騎士たちは魔王に挑み……死んだ――

――そして、自分の運命をロランに託した……希望の星を守り抜いた――

この瞬間、ブリューヌは煉獄の経過を、ジスタートは猛火の予兆を感じ取る。
ブリューヌ・ジスタート転覆計画――その前哨戦に過ぎなかった。

 
 

 
後書き
次回は『奪われた流星の丘アルサス~再戦のドナルベイン』です。
(予告通りにできなかった反省点を踏まえつつ、更新作業頑張ります~) 
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