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提督はBarにいる。

作者:ごません
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提督の抜き打ち業務チェック~明石酒保編・後編~

「で、この全裸写真はどういう事か。説明して貰おうか淫乱ピンク」

「えぇと……黙秘権、なんて物はあったりなんかするんでしょうか?」

「当然在る。だが……素直に喋って貰えないというのならお前の身柄を憲兵隊に引き渡す用意がある」

 俺の突き放すような冷酷な一言に、明石が一瞬にして青褪める。それも当然、憲兵隊に引き渡すという事は鎮守府の風紀を著しく乱した者に対する極刑に近い扱いとされている。憲兵隊はその権利によって情報を強制的に引き出す事も許されているし、場合によってはその『処理』さえも暗黙の内ながら許可されている。

「俺も辛いんだがな……流石にここまで話が及んで来ると見逃せんよ」

 普通に考えてこれは盗撮……明らかな犯罪行為だ。そしてそれを知りつつ景品にした明石にも、それなりの責任という物がある。撮影した犯人は何となく察してはいるが、まずは明石にしっかりと責任を取らせないとな。

「す、すすす……すいませんでしたぁ~!」

 ゴン!と床に何かを打ち付ける音が伴った明石の土下座である。恐らくは額を床に思いっきり打ち付けたのだろうが、今の明石に痛がっている余裕もへったくれも無いだろう。

「……反省したか?なぁオイ」

「悪ノリが過ぎましたぁ!処分は如何様にも、如何様にもぉ~!だから憲兵さんだけはぁ!」

 まぁ、今回の事は初犯だし、明石には散々迷惑をかけている自覚が無い訳ではない。俺の裸の写真くらいで売り上げが伸びるのなら、ちゃんと頼まれていれば吝かでも無かったのだ。

「まぁ今回は初犯だからな、厳重注意で勘弁してやる。……但し、次はねぇぞ?」

「は、はひいいぃぃぃぃ!寛大なご処置、ありがとうございますぅ!」

 明石は許すとして……いい加減どうすっかな、あのパパラッチ。





 青葉への沙汰は後で決めるとして、まずは酒保の問題点を徹底的に洗い出すのが先決だ。

「明石よぉ……俺に隠してる事、他に無いよなぁ?」

「な、無いですよ~……?」

 はいダウト。俺と1ミリも目線を合わせようとしない。しかもさっきからチラチラと店の奥の方にあるノレン?っぽい物の向こうに視線が向いている。怪しすぎるな。

「じゃああのノレンの向こうにあるコーナーも覗いても大丈夫だな?」

「えっちょっ、まぁ、はい……」

 遠慮なくズカズカと踏み込んで行くと、そこにあったのは……大量のエロ関連グッズだった。

「明石……見て何となく理解はしたが、説明して貰ってもいいか?」

「え、どう見たってエログッズですよ。大人のおもちゃとか、媚薬とか、表に置いておけないエグい内容の薄い本とか、AVとか」

 最早諦めの境地に達したのか、何言ってるんですか?みたいなテンションで説明してくる明石。

「うわぁ……何というか、うわぁ」

「そりゃ私達艦娘も人の身体ですからね、溜まるんですよ」

 ウチの鎮守府の不文律として、俺に手を出す、または俺が手を出していいのはケッコン艦……つまりは嫁艦からというルールがある。これは俺のLOVE勢が多いのと、設立当初から鎮守府の巨大化が予想された為に金剛以外の艦とジュウコンする際に定められたルールだ。俺とそういう関係になりたい奴はケッコンを励みに人一倍頑張るし、若干ヤンデレっぽくなる割合が増えてはいるが、特に大きな問題点はなくこのルールは受け入れられている。

 しかし、俺に相手をしてもらえなくとも性欲は溜まる物だ。どこかで発散しないと重大な問題を引き起こす可能性があり、『兵士の性欲の発散』というのは古今東西重要視されてきた部分だったりする。

「提督に相手して貰えないなら外に彼氏を作るか、そういうお店に行くしか無いですからね。ほとんどの娘は自己処理ですよ」

「なんというか……すまん」

「別に提督が謝るような事じゃないですよ。私達も納得の上でケッコン艦に関するルールは受け入れてるんですから」 

「それにしたって……すげぇ種類と数だな」

「ウチは300人越えてますからねぇ、在籍数。それだけ需要があるという事です」

「それにしたってなぁ……ん?なんだこのコーナー」





 そこにはデカデカと『特選!提督コーナー』と書かれた看板が掲げられていた。何というか、かなりカオスなラインナップだ。

「提督が好きで堪らないけど、ケッコンに至ってない娘達が主な客層ですね」

「そこに何で俺のサイズの制服やらワイシャツやら歯ブラシやらが置いてあるんだ?」

「え~っとホラ、よく寒かったらこれ羽織っとけなんてシチュエーションに憧れて買ってくんじゃないですかね?それに提督と同じ物を使いたいって娘、結構多いんですよ?」

「だからってワイシャツや制服やらを俺のサイズにする必要性はないだろうが」

 明石が説明に一瞬詰まった。何となく怪しい……と思っていた矢先、このエログッズスペースにやってくる人の気配。どうやら2人居て、言い争いをしているらしい。

「ちょっと、何でアンタもここに買いに来てるのよ!」

「残念でした~、私はもうすぐ秘書艦なんですぅ。だから新しいコレクションの為に新品を……補充…」

 怒鳴り合っていた2人の視線が俺を捉え、硬直した。この部屋に入ってきたのは霞と満潮だった。普段からあまり口の良い方ではない2人だが、一体何をしにここへ来たのか。

「ようお前ら、一体ここに何しにーー」

「あっといけないわー、自主練しようとしてたのに道を間違えたわー」

 俺がここへ来た理由を尋ねようとしたら、霞が物凄い棒読みで何かを言い出した。

「あら霞も?実は私もなのよねー」

「お互い仕事のしすぎで疲れてるんじゃないかしらー」

「そうねー気を付けないとねー」

「「戻ろう」」

 ぎこちない動作で回れ右をした2人は、そそくさと店から出ていってしまった。

「オイ明石」

「知りません私はなにも知りません見逃して下さい許して下さい」

 ちょっと壊れかけた明石は放っておくとして、さっき霞が言っていた事を思い出してみる。確か『コレクション』がどうのとか『新品を補充』とか言ってたな。思い出してみれば、時々ではあるが俺が席を外して帰ってくると、制服が真新しい物に変わっていたり、歯ブラシが替えてもいないのに新品になっている事があった。まさかな……流石にそこまで行くと『変態』とか『ストーカー』の領域だぞ。考えすぎるのはよしておこう。





「後は俺のプリントされた抱き枕に……化粧品?」

「あー、抱き枕は中々の人気商品ですよ?リピーター続出です」

「リピーター?何で抱き枕にリピーターが発生すんだよ」

「皆さん愛が深すぎて、ギュ~っと抱き締めすぎて首の部分がもげちゃったりするらしいんですよ」

「愛が深すぎる上に重すぎて怖ぇよ。んで、何でこの化粧品はこの部屋に置いてあるんだ?表にもあったろ確か」

「あぁそれですか?それ私が開発した奴なんですよ。表のは市販の化粧品メーカーの奴です」

 皆さん潮風と直射日光に晒される所で働いてますからねー、スキンケアとか気にしてるんですよーという明石の尤もらしい説明に適当に相槌を打ちつつ、何気なく成分表示を眺める。

「オイコラ淫乱ピンク」

「何でしょうか提督、というかそのあだ名は確定なんですか……」

「この成分表示に書いてある、『提督エキス~%配合』について答えて貰おうか?」

 瞬間、石化したように固まる明石。

「どうした?答えないと憲兵さんだぞ?」

「うぅ……わかりましたよぉ。提督が入った後のお風呂のお湯を煮詰めてエキスにしたんです」

「……は?」

「だから、提督の入った残り湯を濃縮した物が『提督エキス』の正体です」

「えぇ……」

 聞き間違いかと思った……というよりも聞き間違いであって欲しかった。もはや変態どころの話じゃねぇぞコレ。ほっといたらヤベェ奴だ。

「明石?」

「ハイ」

「この部屋の商品……いや、化粧品関連だけでいい。全部廃棄しろ」

「えぇ!?これだけ揃えるのにどれだけ掛かったと」

「文句は……ねぇよな?」

 拳をゴキゴキと鳴らして脅かしてみせる。

「……ハイ」

「これからも俺に関するグッズを作るなとは言わんが、俺に許可を取ってからにしろ。もし次見つかったら……解るよな?」

「ハイ」

 明石は涙目になっていたが、この対応は常識の範囲内だろう。これで解決してくれれば良いんだが。それに、俺ももう少し考えて嫁艦以外の連中ともスキンシップを図っていかないとな。


 
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