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ソードアート・オンライン 結城家の次男は両手剣使いで恋人は黒の剣士

作者:改造人間
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流星を見ながらの予期せぬ再開

 
前書き
今回はめちゃめちゃ長いです!
多分今までで最長かもしれないです。
どうぞお読みください! 

 
3つ目の街を出た俺達は、野営をしながらボス攻略会議があると言われた最後の街〈トールバーナ〉を目指し、今はキリトと共にルインコボルド・トルーパーが大量にいると聞いた薄暗いダンジョンを進んでいる。

のだが、


「なあ、キリト・・・・・・」

「なにかなラグナ?」

俺は歩を進めながらも、隣を一緒に歩いているキリトに声を掛け聞く。


「・・・・なんでルインコボルド・トルーパーが1匹もいないんだ?」

「さあ・・・・なんでだろうね~?」

キリトに聞くも、キリト自身も分からないと、歩きながら可愛らしく首をこてんと傾げた。



そう、そうなのだ。このダンジョンに入ったのまでは良かったのだが、何故かルインコボルド・トルーパーが1匹どころか影も形も無かったのだ。まるでダンジョンに爆撃機でも突入して殲滅させたかのように。

ルインコボルド・トルーパーがいないため、俺達は警戒はしているものの、装備しているアニールブレードを鞘から抜かないままダンジョンを歩いていると、キリトが口を開いた。

「それにしても本当になんでいないんだろうルインコボルド・トルーパー。どこかに隠れてるのかな?」

「・・・・・・・・流石にそれはないだろ?考えられるとすれば俺達の前にプレイヤーがやって来て倒したんだろ」

キリトの考えに、つい俺はズッコケそうになるも、それに耐えて考えられる可能性を口にした。

「まあそうだよね・・・・そうなると可能性は2つに絞られるから、1つはプレイヤーがパーティを組んでルインコボルド・トルーパーを殲滅させたのか?もしくは・・・・・・・・・」

キリトは1つの可能性を口にして、もう1つの可能性を言おうとしたが黙った。それを読んで変わりに俺が言うことにした。

「もう1つの可能性は、たった1人のプレイヤーがルインコボルド・トルーパーを全滅させたか、だな」

第一に半分以上のプレイヤーが、まだ〈はじまりの街に〉残っているし、鼠のアルゴからはそんな大規模パーティが出来たという連絡もないため、後者の可能性が高いだろう。

キリトから聞かされたが、このルインコボルド・トルーパーが大量に出てくるダンジョンでは、パーティで通れば楽々と抜けられるが、ソロプレイでも充分に抜けられるらしい。ただしそうなると、連続の戦闘をしながらも休憩を挟まなければならない。そうしなければ、注意力が散漫になり死んでしまうからだ。

「・・・・でもよぉ。初っぱなからそんなプレイヤーなんざいてほしくねえぞ、戦闘じゃ頼りになるだろうが、毎度毎度そんなバーサーカー行為なんてしてほしくねえよ」

「あはははは・・・・・・・・・・・」

俺の言葉にキリトは苦笑いをするが、だってそうだろ。

一層からそんな戦闘狂がいるなんて勘弁願いたい、ボス戦じゃ頼りになりまくるが、そんな行為をフィールドやダンジョンでされちゃ傍迷惑も良いところだ。

因みに俺は戦闘狂ではない真の平和主義者だ。まあリトルネペント戦では狩り尽くしたが、あれは仕方ないはずだ。ああしなければキリトは死んでいたかもしれないんだ。だから俺は戦闘狂ではない。

そんなことを考えていると、1度の戦闘もなく俺達は、ダンジョンの最後の扉に到着した。



「これが最後の扉か・・・・キリト、お前のβテスターでの記憶によれば、確かこの扉の奥が」

鉄の扉の前で止まれば、俺は鉄の扉に触れながらキリトに顔を向けて聞けば、キリトは頷いて扉の奥の事を喋り出した。

「うん、βテスター通りなら、この奥には今までの非じゃないくらい沢山のルインコボルド・トルーパーがいるの、でもソロプレイだったら休憩を挟みながら進めば安全だし、フィールドを抜ければそこには安全地帯(セーフティーポイント)があるからね」

「ふぅ~ん。そりゃ助かるな」

βテスター時代での経験を話すキリトに、俺は鉄の扉に触れたまま聞きながらも軽く返答して、また口を開く。

「ま、俺達はまだ1度も戦闘はしてないんだ。武器は大丈夫だし休憩はいらねえだろ、それにもしかしたらこの奥のルインコボルド・トルーパーも殲滅されてるかもしれないし、居たとしても俺達なら簡単に抜けられるだろ」

俺がそう笑みを称えながら言うと、キリトは右手人差し指を出し、下からの目線だが俺に怒ったような目で俺に言う。

「油断は禁物だよラグナ、そういう考え方でやられちゃうプレイヤーを私は何回も見たんだから、本当に油断は禁物だよ!」

そう強く言うキリトの言い方はまるで、幼馴染みを叱る女子か生徒を叱る新任の女教師のように見えて、俺はつい「ククッ」と笑い声を出してしまった。

「な、なんで笑うのラグナ!?私は真剣な話をしてるのに!」

笑い声が聞こえてしまっていたらしく、キリトは少し顔を赤くして俺に抗議の目と声を掛ける。


「いや、悪い悪い・・・・そうだよな、例え余裕があったとしても、それは油断に変わるからな。油断せずに進むか!」

「・・・・・・うん!油断せずに行こう!」

俺の言葉にキリトは一瞬ポカンとした顔になったが、すぐに笑顔になって強く頷いた


キリトの頷きに俺も無言で頷き返し、俺は鉄の扉に触れてキリトにもう一度顔を向ける。

「・・・・行くぜ」

「いつでも良いよ」

俺がそう言うと、キリトも鞘からアニールブレードを引き抜き、強い瞳と笑顔で返したため、俺は鉄の扉のヒンヤリとした冷たさに少し緊張するも、力一杯鉄の扉を押し開けた。


「「!?!!?」」

鉄の扉を押し開け、そこで俺達が目にしたものは・・・・



「なあキリト・・・・・・・・・俺は前にもこんな場面を見た気がするんだが気のせいか?まさかこれがデジャビュってやつか?」

「あはははは・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

俺の言葉にキリトは苦笑いを出すしかなかった。何故なら俺達が見たものは、フード付きのローブを纏い細剣・レイピアを持ったプレイヤーが、大量のルインコボルド・トルーパーに囲まれていたのであった。

それを見た俺はアニールブレードを構え、キリトに声を掛ける。

「キリト、助けるぞ!俺は前方のやつをやる。お前は後方を頼む!」

「任せて!」

キリトの返答で俺達は同時に駆け出す。



「行くぜぇ!!」

俺は決め台詞を叫んで飛び上がり、細剣使い(フェンサー)を殺そうとしているルインコボルド・トルーパーを狙って、全方位ソードスキル〈ホリゾンタル〉をぶち咬ました。

「うおりぃやあぁぁっ!!!」

何とか回りにいたルインコボルド・トルーパーを消すことができ、何とかフェンサーにもソードスキルが当たらずに済んだようで、俺は少しホッとするもすぐにフェンサーに声を掛ける。

「おい・・・・大丈夫か?」

声を掛けてもフェンサーから返ってくるのは「ハァハァ」という、息切れの声しか返ってこなかった。どうやらこのフェンサー休憩無しでダンジョンを進んだせいで、こんな状況に陥ったのだろう。

(ちと数が多すぎるが、しゃあねえぇ)

周りを見ながら心の中で決意した俺は、フェンサーの後方にいるルインコボルド・トルーパーと戦っているキリトに大声を出す。

「キリトッ!ここにいるルインコボルド・トルーパーを全部倒すが行けるか!!」

「うん!大丈夫だよ!」

キリトは頼りになる返答をしてくれたため、俺は無言で頷いて笑い、前方方面にいるルインコボルド・トルーパーの相手に集中することにした。



すると1匹のルインコボルド・トルーパーが俺ではなくフェンサーを狙い動き出した。レベル6亜人型モンスターのルインコボルド・トルーパーがフェンサー目掛けて手斧を振るが、フェンサーは少し体力が戻ったのか何とかルインコボルド・トルーパーの攻撃を避けた。

ルインコボルド・トルーパーの手斧攻撃を連続して紙一重で避けきったフェンサーは、体勢を大きく崩したルインコボルド・トルーパーに細剣の初期ソードスキル《リニアー》を放つ。

攻撃は剣を胸の前に持っていき、捻りを加えながら突く、というシンプルなものだが、速度が凄まじかった。

それはまるで流星と見間違う程に。


俺は本物の流れ星を見たことがない、1度家族と一緒にプラネタリウムを見に行って流れ星を含む色んな星を見たが、俺にとっては詰まらないものだった。
俺は映像で流される星は好きではない、俺は夜空に浮かぶ満天の星空が好きで、いずれは本物の流れ星を見たいとも思っている。

(あんな感じなのかね・・・・・・流れ星が放つ輝きの速さは)


そんなことを思いながら、その後の戦いはもはやパターン化したコボルドの斧を三連続で避けて、リニアーを叩き込む、という作業だ。

最後に、明らかにオーバーキルなリニアーをコボルドに叩き込んで、コボルドはポリゴン片に変わった。
しかし、無傷でヒットポイントは最大でも、SAOの戦いは精神を削る。

フェンサーはよろめきながら、そのまま迷宮区の壁に背中を預け、ずるずると座り込み、荒い呼吸を繰り返している。

一方、隣のキリトは声を掛けるか悩んでいた。

(あのフェンサーの剣技は凄まじいな。恐らく、ゲームクリアに欠かせない存在になるはず)

そんな考えが出てきたため、俺はキリトの変わりにフェンサーに少しだけ近付き、声を掛けることにした。

「おいお前!さっきのはオーバーキル過ぎるぞ!」

俺がそう言うと、壁に背中を預けているフェンサーの細い肩が小さく動き、フードがほんの少し持ち上がり、顔立ちは分からないが、その奥から俺や姉貴と同じ榛色の瞳が鋭く俺を射る。

(・・・・俺や姉貴と同じ色の瞳・・・・・・・へぇ、久々に珍しいものが見れたな)

そんなことを思いながらも、今のレイピア使いの瞳はまるで先程のソードスキルのリニアーを彷彿させるが、数秒間俺はその鋭い瞳を風で流すように流す。

射殺すような瞳が無くなれば、フェンサーは極僅か頭を右に傾けた。

(この仕草・・・・大方意味が分からないって反応だな)

心の中で思いながら、フェンサーではなく後ろにいるキリトに顔を向ければ、キリトも分かったらしく苦笑するがすぐにオーバーキルの意味を教えに俺の隣まで歩いてきた。


(こいつ・・・・・・・ソードスキル発動と敵との対処の仕方しか分からない、完全なトウシロウだな)

俺が心の中で溜め息を付くと、キリトが俺の変わりにオーバーキルについて分かりやすく説明を始めた。


「オーバーキルっていうのは、モンスターの残りHPに対して、与えるダメージが過剰って意味。さっきのルインコボルド・トルーパーは2発目のリニアーでもう瀕死だったの、HPゲージは2~3ドットぐらいだったから、とどめはソードスキルじゃなくても、軽い通常攻撃で充分だったわけ」

俺は下を巻きそうになる。相変わらずキリトの説明は分かりやすいのじゃない、こんな長い台詞をよく噛まず息継ぎなしで言えるもんだ。俺だったら途中で噛んで失敗しそうだし、息継ぎしなきゃ全部言えないぐらいだ。


キリトが全部言い切ると、レイピア使いは無反応だったが、10秒以上経つと、目深に下ろされたフードの奥から小さな声が溢れた。

「・・・・・・・過剰で、何か、問題があるの?」

その瞬間、フェンサーの声を聞いて俺とキリトは驚愕した。目の前で疲弊しているフェンサーは、この世界ではレアドロップアイテムくらい珍しい、キリトと同じ女性プレイヤーだったのだ。





世界初のVRMMORPG《ソードアート・オンライン》が正式サービスを開始してから既に1ヶ月が経過しようとしていた。
何故ならソードアート・オンライン。通称SAOは今やゲームであってゲームではなく、ある種の《牢獄》と化した。自発的なログアウトは不可能となり、俺達が操っているこのアバターがやられれば、それは即ち(すなわち)生身の俺達が死んでしまうことを意味する。
そんな最悪な状況の中で、危険極まるモンスターやトラップが(うご)めくダンジョンに潜ろうという勇気を持った奴がそうそう要るはずがない。
それに、ゲームマスター《茅場晶彦》の手によって、俺達プレイヤーが使っていたアバターの性別が強制的に暴かれてしまったこの世界じゃ、女性は圧倒的に少ない。
ほぼ全員は、1ヶ月経つ現在でも《はじまりの街》に留まっているはずだし、事実このダンジョン第一層迷宮区で女性プレイヤーを見かけたのは片手で数えられる程度。しかも全て少数パーティのメンバーだった。

後キリトな。


そのため、ダンジョンの未マッピングエリアで偶然遭遇した単独行のフェンサーが、女とは思いもしなかった。



女の言葉で数分間ダンジョンの空気が停止し、俺は後頭部を触りながら思う。

(・・・・・この状況で謝るのも変な感じだしな)

女の声に驚いたせいで変な空気が流れているため、どうにもなんと言えば良いのか分からず悩む、女の方が冷たい態度を取れば落に去れると思った矢先、助かったことに隣のキリトがフェンサーに喋り掛けてくれた。

「・・・・・・・オーバーキルしても、システム的なデメリットやペナルティはないけど、効率が悪いよ。ソードスキルは集中力を要求するから、連発しすぎると精神的な消耗が早くなるし帰り道だってあるんだから、なるべく疲れない戦い方をした方が良いよ」

「・・・・・・・・・・・帰り道?」

キリトの解説に、深く被ったフードの奥から再び疑問付きの声が響いた。疲労満単の疲れて酷い掠れた声で、抑揚も薄いが、それでも女の声はかなり綺麗な声に聞こえた。

(まあ、そんなこと口が裂けても言えないが、なんでだろうな・・・・今の声どことなく聞き覚えがあるような気がするが気のせいか?)

そんなことを思いながらも、今度は俺がキリトの代わりに解説を始めることにした。


「この辺りからはダンジョンを出るだけでも1時間近く掛かるんだよ、だから最寄りの町までは急いでも30分だったよな?」

キリトに顔を向けながら言うと、キリトの頷きを見て俺は続けて言う。

「疲れ切ってたらミスも増える。見たとこお前はソロだし1人だとどんな小さなミスも命取りになるぞ!」

俺がこんなに一生懸命喋っているのは理由があるが、今はそんなことを説明する気はない、女だから話っているってわけでもないしな、それとなんでか隣のキリトから半目で冷たい視線を向けられているんだが。

もし立場が逆で、偉そうにグチグチ言う奴に俺も売り言葉に買い言葉を言って喧嘩になるだろうな。
すると、無言だったフェンサーが反応した。

「・・・・・・それなら問題ないわ。・・・・私、帰らないから」

「・・・・は?」
「え?・・・・」

俺の素っ頓狂な声の後に、キリトの動揺する声が来た。
そのため、キリトが動揺をしながらもフェンサーに聞き始めた。


「か、帰らないって、町に?だって!ポーションの補給とか装備の修理とか、睡眠とかは!?」

慌てながらキリトは問い返すと、フェンサーは小さく肩を上下させた。


「ダメージを受けなければ薬は入らないし、剣は同じのを5本買ったし・・・・休憩は近くの安全地帯で取ってるから」

掠れ切ったその呟きに、俺達2人は絶句してしまう。



(小休止程度しか使えない安全地帯(セーフティポイント)で休んでるって・・・・・・宿屋じゃねえんだから、下手すりゃ自殺行為になるぞ)

絶句しながらも俺は、フェンサーの行動と言葉に心の中で呆れて頭を抱えそうになった。
そのため、俺はフェンサーにそれとなく聞くことにした。

「・・・・・・・・・・・・何時間続けてるんだよ?」

それとなく聞いた俺に、フェンサーは、長い呼気に乗せて答えた。

「3日・・・・か。4日・・・・もういい?そろそろこの辺の怪物が復活するかもしれないから、私、行くわ」

薄手のレザーグローブに包まれた華奢な左手を壁に当て、ふらふらと立ち上がった。
右手に持っている細剣を、まるで重量のある剣を持っているかのようにぶら下げながら、俺達に背中を向けた。

ゆっくりと遠ざかるも、フェンサーが着ているローブは各所がボロボロに解れていた。隣のキリトは少しオロオロするかのようになんと言えば良いのか迷っていた。俺はフェンサーの態度にイラッときていていっそのこと見捨ててやろうかと思ったが・・・・・・・・・・・・

(さすがに目の前で死にかけそうな奴が居るんじゃ、ほっとくわけにはいかねえからな・・・・)

そして、俺は意を決してフェンサーに言葉を投げ掛けた。

「お前、そんな戦い方してたら・・・・死ぬぞ」

俺がそう強く言うと、フェンサーはピタリと歩みを止めて右の壁に肩を預け、ゆっくりと振り向けば、フードの奥で見えていた榛色の瞳が、気のせいか薄赤く光ながら俺だけを睨んでいた。



「・・・・・・・・・・どうせみんな死ぬのよ」

しやがれ、ひび割れた声が静かな迷宮区に強く響いた。


「たった1ヶ月で、2000人も死んだわ!でもまだ、最初のフロアすら突破されてない。このゲームはクリア不可能なのよ!!どこでどんな風に死のうと、早いか・・・・遅いかだけの、違い・・・・・・・・」

最も長く感情の籠った言葉が、途中で揺らぎ途切れた。

「!? おいっ!」

反射的に走り出した俺の眼前で、フェンサーは麻痺攻撃を受けたかのように緩やかに地面へと崩れ落ちた。



崩れ落ちたフェンサーに駆け寄る俺とキリト、見ればフェンサーは蓄積していた疲労が爆発でもしたのか、気絶でもしているかのように小さな寝息をたてていた。
それを見た俺は、フェンサーを見ながら髪を掻いて口にする。

「ったく、いきなり倒れたから駆け寄ってみれば、疲労困憊で倒れんなよな」

「どうするの、ラグナ?」

俺がそう言うとキリトは、俺とフェンサーを交互に見ながらも、特にフェンサーを心配する目で見ている。その目に俺はまた髪を掻いて言う。

「どうするって、こんなところで捨て置くわけにもいかないだろ。モンスターがPOPしたら簡単に殺されちまう。ほっといて死なれちゃ目覚めに悪いし気分も悪いからな、途中にあるセーフティポイントで休ませるぞ」

「了解・・・・・・やっぱり、ラグナは優しいよね」

キリトの了承を得るも、後半に何を言っているのか聞き取れなかったが、今はそんなことを聞いてる場合じゃないため俺はフェンサーをおぶり運ぶことにした。

「えっ、ラグナ何してるの!?」

「何してるって、おぶって運ぶんだよ。他に運ぶ方法なんてないからな、言いたいことは後にしてくれ、なんなら俺をハラスメントコードで俺を飛ばしてくれても良いぜ、まあ本当は勘弁してほしいんだが」

「いや、別にそんなことはしないけど」

(こういう状況じゃ何を言い訳しても無駄なんだがな、長年女子と付き合っている俺の経験談だ)

そんなことを思いながらも、俺達はこの場を去ることになった。



あの場所を出ればすぐにセーフティポイントだったため、俺はフェンサーをおぶったまま右手を出してメニューウィンドウを開き、野営用の引き布団と掛け布団、枕を出してそこにフェンサーを寝かした。

「さてと・・・・こんなところでいいか。キリト、頼みたいことがあるんだが聞いてくれないか?」

「ん?なにを頼みたいのラグナ?」

フェンサーを野営用の布団に寝かした俺は、立ち上がりキリトに顔を向けて話し掛ける。


「俺はこれから奥にいるルインコボルド・トルーパーの大群を倒してくる。キリトはこのフェンサーを見てといてくれないか」

「えっ・・・・どうして!?」

俺の言葉にキリトは驚きの声を上げた。まあ、驚きの声を上げたくなるのもしょうがない。パーティを組んでいる奴がいきなり別行動をすると言い出したんだ。俺でも驚きながら焦るだろうしな。

「別に今からパーティ解除するって訳じゃない!?ただ、こんなところにこいつ1人を残すわけにもいかないだろ。だからそれまでキリトが見といてくれないか、もちろん俺が戻ってくる前にこいつが起きたら野営用の道具はあげてくれて構わない、コルはたっぷりとあるから次の町のトールバーナで買えばいいしな」

最強の片手剣・アニールブレードを手に入れたため俺達は、モンスターを狩りながらも素材は武器の強化にやるだけだから、ほとんどの素材は入らないほど余るため売ってしまったので、コルはたっぷりとあるのだ。
野営用の道具ぐらいじゃ、コルに響くことはない。

「もし俺が戻ってくるまでにフェンサーが目覚めてなかったら俺もフェンサーが目覚めるまで見てるからよ。とにかくフェンサーを見といてくれ・・・・頼むキリト」

俺が最後にそう優しく言うと、キリトは満面な笑顔で「うん!任せて!ラグナも無茶しないでね!」と強く言った。
キリトの返事に俺は不適に笑い、サムズアップを向けて足を進める。






???side


今私は夢を見ていた。その夢は、私の帰りたい日常であり私にとって今一番会いたい人との過去の夢だった。


『ちょっと一真こんなところで何してるの!また女の子に手を出したの!』

『んあ?・・・・なんだよ姉貴かよ。別に手なんか出してねえよ!ただこいつが不良に絡まれてたから助けたんだよ』


『一真!またこんなところで遊んで恥ずかしくないの!早く帰って勉強するわよ!!』

『嫌だね!?毎日毎日、予習復習の勉強してもな、そういうのに限って大事な問題のところで、とんでもねえポカを咬まして点数落とすんだよ、だからこれはそうならないための息抜きなんだよ!』


『偶然ね一真。せっかくだから一緒に帰りましょ』

『・・・・なあ姉貴。最近俺と帰るの多くねえか?まさかとは思わないけど、俺の帰り道で待ち伏せなんてしてないよな?』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなわけないでしょ』

『なんだよ、今の長い間は』


彼との日常は大変だけど、不思議と楽しく感じられるものである。
故に私は、小さく呟く。

「一真。会いたいよ・・・・・・一真」

その呟きとともに私は静かに瞳を開けた。


瞳を開けてみれば私の目に映ったのは、迷宮の固い石畳の暗い天井だった。しかし不思議なことに背中を押し返す感触はゴツゴツとした石の感触ではなく、柔らかいけど薄いものがあった。

それだけではなく、私の体に薄い布団が私に掛けられていた。そして周りを見回せば、その隣ではやや大ぶりな剣を両腕で抱え、壁に頭を預けているが長めの黒髪に隠れて顔は見えないが装備や体格からして迷宮で私に声を掛けてきた可愛らしい声の女の子が私を見ていた。
この人と一緒にいた口の悪い男は、どこにもいなかった。

因みにその子の黒髪は私が見惚れるほど、まるで艶のある濡羽色(ぬればいろ)の黒髪であった。

しかし、見惚れるのも束の間、歯を食い縛り歯の間から私、結城明日奈は低く掠れた声を押し出した。

「余計な・・・・ことを!」

結城明日奈side out





キリトside

ラグナが奥にいるルインコボルド・トルーパーを倒しに行って数分が経つ、私は寝ているフェンサーを横に素振りをしていたが、素振りを終われば腰を下ろして右足を伸ばし左足を曲げヌアニールブレードを大事に持って壁に頭を預ける。
天井を見ているが、たまにフェンサーさんが起きないかどうかを見る。

見たところまだフェンサーは起きる様子がない、だけどちゃんと正常な寝息をたてていた。

「そういえばこの人、ラグナにおんぶされてたんだよね」

その後私は、何故か無意識にこんなことを口に出していた。


「良いなぁ~。私もラグナにおんぶされたいな」

次の瞬間私は少し顔を赤くして、ブンブンと横に振って「わ、私ってば何言ってるんだろう!?」と慌てながら言った。
するとそのとき、寝ていたフェンサーさんが「・・・・うぅ」と小さな呻き声を出した。フェンサーさんの呻き声を聞いた私は、フェンサーさんに切ない顔を向けて言う。

「恐いよね・・・・こんなことになっちゃったんだもん。現実世界でやりたいことたくさんあるもんね、私だってあるし」

私がそう言っていると、フェンサーさんは誰かの名前を口にした。



「一真。会いたいよ・・・・・・一真」

フェンサーさんの言葉に、私は切ない顔から口元まで手を持っていきくすりと笑ってしまう。。

「ふふっ、眠りながら人の名前を言うなんて、その一真って人は眠ってても余程あなたにとって大切な人なんだね。想い人なのか・・・・それとも恋人か?」

私は気になるような瞳をフェンサーに向けていると、眠っていたフェンサーさんが目を覚ました。フェンサーさんは目を覚ますと周りを見回し、隣にいた私に気付くと3分ぐらい私を見終えれば、歯を食い縛り低く掠れた声でこう言った。

「余計な・・・・ことを!」

フェンサーさんのその言葉に私は少しカチンと来て、顔をムッとさせながら言い返させてもらうことにした。

「あなたを助けたのは私じゃないよ」

「・・・・じゃあ、誰が助けたの?」

「あなたを助けたのは私と一緒にいた相棒だよ」

「・・・・・・・・・!?!!?」

私の言葉にフェンサーさんは、ものすごい驚きようの反応を見せた。フェンサーさんの驚きに、私は気付かれないようクスクスと笑いながらさらに続けて言うことにした。

「驚きだよね・・・・結構口が悪いくせに、他人の為なら自分の危険も顧みず助けに行こうとするんだから、でもそこが私の相棒の良いところなんだよね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「それに私としてもあなたが持ってるマップデータ消えてしまうのが勿体なかったの。4日間も未踏破エリアをかなりマッピングしたんだから、それとあなたがどこで有終の美を飾ろうと自殺をしようとあなたの勝手だけど、私の相棒は絶対にそれを止めるよ。たった数ヶ月の付き合いだけど分かるの・・・・あの人は命が奪われそうになる人や命を捨てる人を全力で救うから、多分何を言おうとあなたを救おうとするよ」

私の言葉にフェンサーさんは言葉を詰まらせてしまうが、必死に返す言葉を探して、私に言い返した。


「ッ・・・・・・・・じゃあ、あなたはなんでここにいるの?ここでその相棒に捨てられたの?」

「まさか・・・・あなたを見ててくれって彼に頼まれたの。いくらここが安全地帯でも危険があるからね。そのために彼は私にあなたを見ててくれって頼んだの」

「じゃあその彼はどこへ行ったの?」

「この奥にいるルインコボルド・トルーパーを片付けに行ったの、危険だと思うけど、彼はあなたよりモンスターの対処方法を良く知ってるから大丈夫だと思うよ。無茶しないでって言っといたから」

「そうなの・・・・・・・・・」

そう言うと、フェンサーさんはどうでもいいかのように、冷たく返した。



私は今度は怒りそうになったが、ラグナの強さを知っている私ならここで言い返せば、ラグナの強さを否定してしまうためなにも言わなかった。

すると、いきなりフェンサーさんが口を開いた。

「そんなことよりも、そのマップデータならあげるわ。持っていけば」

低く呟いてメインウィンドウを開く、最近ようやく慣れてきた動きを見せながらタブを切り替えマップデータにアクセスすると、全てを纏めて羊皮紙アイテムにコピー。オブジェクト化された小さなスクロールを取り上げると、私の足下に放り投げた。

「・・・・あなたの目的と彼への指示は達成したでしょう?彼の後を追えば」

こんなことを言っているけど、多分この人は体調はまだ回復してないはず、でも予備のレイピアが3本もあるから、最後の1本の耐久度が半分になるまでここへは出ないんだろうね。

(それでもこのフェンサーさんの剣技はボス攻略戦には必要になりそうだけど、後はこの人の考え次第だから一応教えてあげよっか)


「フェンサーさん」

「・・・・・・・・・・・・・なに?」

心の中で思いボス攻略戦のことを伝えようと声を掛ければ、フェンサーさんは人を射殺せるような瞳を私に向けた。

でも、私はそんな瞳など無視して言う。


「あなたも基本的にこのゲームをクリアするために頑張ってるんでしょ?迷宮のダンジョンで死ぬためじゃなく。なら、“会議”には顔を出してみてもいいんじゃない?」

「・・・・・・・・・・・・・・会議」

フェンサーさんは呟いて、私の方に顔を向けた。


「そっ、今日の夕方、迷宮区最寄りの《トールバーナ》の町で、一回目の《第一層フロアボス攻略会議》が開かれるらしいの」

フェンサーさんはただ無言で私の話を聞いている。

「私と私の相棒は攻略会議に参加しようとしてるの。行くかどうかはあなた次第だけどね」

そう言い切ると、私の後ろからラグナの声が聞こえてきたのであった。

『おーいキリトォー!!この奥にいたルインコボルド・トルーパー全部片付けたから迷宮区を簡単に出れるぜぇ!!!』

「ラグナッ!!分かった、それじゃあ行こっか!」

ラグナの声に私は喜びの声を出しながら、大きな声で返すと、ラグナはフェンサーさんのことを聞いてきた。

『行くって、フェンサーの奴は目が覚めたのか?』

「うん!目が覚めたから大丈夫だよ!」

『分かった!そんじゃあトールバーナに行くか!!』

「うん!行こう行こう!!」

返事をして私はラグナの元まで走り出そうとするも、「あ、そうだった」と一度足を止めてフェンサーさんに振り向く、フェンサーさんは「・・・・なに」と不機嫌な声を出して私を見る。

私はそんなフェンサーさんに、こう言う。



「私はもう行くけど、そのシーツと布団はあなたが持ってても良いよ。ラグナがあなたが持ってても良いって言ってたから、なんならトールバーナに着いたらラグナに返してもいいから、そういうこと、じゃあね!」

そう言って、私はフェンサーさんに手を降りながらラグナの元まで走り出す。

キリトside out



明日菜side


「私はもう行くけど、そのシーツと布団はあなたが持ってても良いよ。ラグナがあなたが持ってても良いって言ってたから、なんならトールバーナに着いたらラグナに返してもいいから、そういうこと、じゃあね!」

そう言って濡羽色の髪を持った女の子は去っていった。

「・・・・・・・・私を助けた人ってラグナって言うんだ。なんか、一真に似たタイプだな・・・・・・・・あの女の子も羨ましいな・・・・私もあんな風に誰かと触れ合ってみたいな・・・・・・」

自然とそんなことを口にした私は、数秒後にハッとさせ首をブンブンと振った。

そんな中私はふと思った。

(それにしても・・・・・・・・)

明日菜side out



キリトを呑気に待っていると、一本道の奥からキリトの掛け声が聞こえてきた。

「ラグナァー!」

「おっ、来たかキリト」

後ろを振り向けば、キリトが手を振りながら俺の元までやって来た。

「ご、ごめんねラグナ、待たせちゃって」

「いや、そんな謝ることじゃねえよ、別に待ってたってほどでもねえし、それより謝んのは俺の方だよ。悪かったなキリト、あのフェンサーのこと任せちまって」

などと言いながら、まるで俺達は恋人同士の待ち合わせみたいなことをした。まあ、そんなこと言ってキリト「キモいよラグナ」と言われたら、めちゃめちゃ傷つくため心の中で言うことだけにするが。


「それよりも、フェンサーの救助に時間掛けちまったな。攻略会議までまだ時間はあるが、早めにトールバーナに着いといた方がいいから行こうぜ」

「うん!そうだね!」

俺達は頷き合い、迷宮区を出るために歩を進める。

(そういや・・・・・・・)


そして迷宮区にいる2人は、

「あの女の声、どこかで聞いたことがあるような?」
「あの男の声・・・なんか聞き覚えがあるような?」

お互い聞こえないのに偶然その言葉が重なったのであった。
そして偶然にもお互いは気付かぬままである。

「?????」

そして隣を歩くキリトは、ラグナを見ながら不思議そうな顔で首をこてんと横にしたのであった。 
 

 
後書き
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