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ソードアート・オンラインーツインズ・リブートー

作者:相宮心
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SAO:tr4―裏ボスの存在―

 
前書き
ちょっと前の投稿から遅れてしまいましたが、なんとかめちゃくちゃ空かずに投稿できる自分のサボり癖に抗うことができました。 

 
 五十ニ層『フリーダムズ』
 電気街のようなアルゲードやお嬢様の花園のセルムブルグと比べると、『フリーダムズ』はどこまでも続く果てしない大草原である。
 アインクラッドでも比較的に人が少ないフロアで面積もそれなりに広く、主街区も小さな村の規模。
 風を感じる時と晴天の時はものすごく気持ち良いけど、はっきり言えば地味な場所だった印象がある。
 他に印象があるとすれば、フィールドにモンスターは出現しないがその分、迷宮区に出てくるモンスターがとにかく多かったぐらいだ。フロアボスもあっさりと倒せたので、五十層のボスと比べるとどうしても霞んでしまいがち。
 私個人としての印象はそんなところだ。

「ドウセツって物好きよね……景色としての草原は嫌いじゃないけど、何もないじゃない」
「何もないところがいいのよ。貴女みたいな動いているだけのバカにはわからなくて当然よ」
「動いているバカってどういうことだよ」
「そのまんまの意味」
「……それ、バカじゃん」
「そう、バカよ」
「バカバカ言うな」
 
 転移門から真っ直ぐ歩いていくと、小型で飾りつけのないシンプルな一階建てのホワイトハウスが見えてきた。
 建物が少ないから、遠くからでもすぐに見つけられるのは良いところなのかな? 本当になにもないから見つけやすい。

「ドウセツの家に到着」
「早く入りなさい」
「あ、うん」

 ドウセツの家におじゃまする。
 アスナの家ほど女子力が高い部屋ではなかったが、それでも私よりかは充実していた。広いリビング兼ダイニング、必要以上置いてないが、白と黒を統一した飾りつけのないシンプルな部屋が、高級感かつ清潔感が良さそうな雰囲気を漂わせている。必要以上の物はおかず、最低限の家具でオシャレをするのはドウセツらしいと思える部屋だった。

「お茶は飲んで来たからいらないよね?」
「あ、うん。いらない」

 私は流れる様にモノクロなソファーに座り込んだ。

「とりあえず、そうね……くたばってなくて何よりだわ」
「それは心配して言っているの?」
「違うわ、褒め言葉。ありがたいと思いなさい」

 どうせなら言うのだった、もっと褒め言葉らしい褒め言葉がほしかったです。そんな淡々と言われても、嬉しいとは思えませんってば。

「貴女の場合、死なれては困るのよ」

 こ、これは……美しい容姿をお持ちながらも恐怖の象徴ともいえる鬼からの最高のデレ、だと!?

「戦力が下がるのはいろいろと勿体ないから、せめて百層までは生き残りなさい」 

 淡々と言い、デレの微塵も感じさせられないドウセツに、逆の意味で惚れそうです。
 常に一緒っていうわけではないんだけど、時々ドウセツと行動していて、一番ドウセツと関わっている私からすればそろそろデレていい頃合いだと思うんだけどなぁ……まだまだドウセツの攻略が足りないのかな。
 まあ、見せてくれないけどドウセツが優しいのは知っているから、無理にデレさせ様とは思わないけどね。でもたまには破壊力抜群の最高なデレを期待している私は、ドウセツの言う通りバカかもしれない。
 さて、他愛のない話はいつでもできるから、そろそろ本題に入らせてもらいましょうかね。

「んで、ドウセツ。私を招待した理由をそろそろ話してくれない?」

 彼女が優しい人だから私がドウセツの家に行くことを受け入れたのは嬉しいことだ。でもドウセツの場合、優しさもあるけど別の理由もあったから仕方なく招いたと思うと推測した。
 その推測は見事的中し、ドウセツは「そうね……」と前置きのように呟いてから私の問いを返した。

「さて、問題。“ここから”クリアするにはどうすればいいのかしら?」
「え、問題?」
「聞こえないの? 貴女も鈍感主人公だと叩かれやすい難聴バカ?」
「そういうことで聞き返したわけじゃないって……つか、ドウセツもアニメ見るんだね」
「見て悪い?」
「いや、なんか親近感と意外性が沸いた」
「あっそう」

 素っ気ないなぁ……。ずっと思っていたんだけど素っ気なくされるとある意味罵倒されるよりも冷たい。

「で、問題のことだけどさ……忘れられるわけないでしょ、百層のボスを倒すこと、裏ボスを探し出して倒すことの二つ」
「……なんだ、ちゃんと答えられたのね」
「バカにしていたでしょ?」
「回答次第ではバカにしていたわ」

 全く失礼な人だな。あの大規模な誘拐みたいな大事件を忘れるわけがないでしょ。
 あの時、茅場晶彦から現実世界へ脱出する条件を二つ出してきた。
 一つは百層にいるボスを倒したらゲームクリアとなり、ゲームのエンディングとして私達は現実世界に帰れるはずだ。だから、自ら進んでゲームクリアを目指す攻略組はフィールに出るモンスターやフロアボス達の戦いを繰り返し、一層ずつ攻略していき百層へ目指してきた。地道で一層ずつ、何日もかけて攻略をかけることになっていても、ソロや複数、ギルド、攻略組のサポートをする人達の皆で力を合わせて約二年間で七十四層まで登って来られた。
 そしてもう一つの条件が裏ボスを倒すこと。
 でもそれに関して言えば……。

「今の攻略組に裏ボスを探そうとしている人はいるのかな?」
「いたとしても少数しかいないわね。裏ボスの情報を集めようとしてもその情報を探すことで困難しているわ。砂漠の中で一本の針を探すようなら、百層目指した方がまだ単純で楽だわ」
「それもそうだよね……」

 茅場晶彦に出したもう一つの条件は非常にわかりづらい。更に言えば裏ボスに巡り合うための情報やフラグの出し方など誰もわからない。その結果、もう一つの条件である裏ボスを倒すプレイヤーはほぼいなくなった。いたとしても十人、いや五人未満だと見ていいだろう。
 そもそも裏ボスって基本的に二週目からだとか、本編を一度クリアしたから出てくるのが多い裏ボスを、一週しか出来ないかつ初見プレイで裏ボスを探すのは無理があると思う。

「そう、隠れボスの存在よ。貴女も思ったことあって、無理だとわかり、忘れようとしていたでしょ?」
「……確かに、隠しボスのことを気にしていたほとんどのプレイヤーは、隠れボスは『ダンジョンの裏ルート』とか『ボス倒した後にいるとか』ありがちなことを思って探ったりはした。でも、それを全て裏切るように隠れボスはいなかったし、隠れルートも存在しなかった……ドウセツもそんな感じで探して諦めたの?」
「探しているわ」

 私はドウセツの即答に思わず新喜劇ばりにずっこけそうになった。
 いや、ドウセツが探していないなんて一言も言っていないのかもしれないが、話の流れ的にドウセツも探していないって思うじゃんか。

「別にお笑いのリアクションは求めていないのだけど」

 私が呆れていると、ドウセツは冷静に私が新喜劇ばりのずっこけを指摘してきた。いや、求めていないんだったら私は探しているって最初に一言だけでも言ったら良かったんじゃないですかね?

「探していないのなら貴女にクリアする方法なんて訊くわけがないでしょ?」

 ドウセツが私の心を読んだかのように言ってくる。そりゃどうも、私の察しがわるうございました。

「……で、ドウセツは裏ボスの見当とかついているの?」
「おおよそ。確証はないけど」

 それでもおおよそはついているのか。これは無理だと悟っちゃったから諦めたんだよね。

「貴女は考えたことあるかしら?」
「いや、裏ボスのことは考えていたこともあったけど……どの情報が裏ボスに繋がるかなんてわかんないから考えるのをやめた感じだよ」
「そういうことを聞いたのではないのだけど」
「今の流れだと裏ボスのことを考えたことあるって感じで聞いてきたじゃん!」

 これは悪くない。私は悪くない。勘違いさせるような発言をしたドウセツが悪いんですー。なので、私をバカにする権利とかありませんー。
 なんて思っていたらなんか露骨にため息を吐いていた。

「だったら、どういう意味で聞いたのか教えてくれませんかね?」
「言葉が足りなかった私の全責任だわ」
「そこまで露骨に責任を感じていると逆にバカにしている気がするのですが」
「貴女は裏ボスがどういう存在なのか考えたことあるかしら?」

 …………いや、その問いかけだと結局私がさっき言ったことが答えるになる、よね。
 ん? いや、違うな。私が言ったのは裏ボスを探す方法を考えていたことであって、裏ボスという存在については答えていないわね。
 あ、でもそれはそれで特に考えたことないんだよなぁ……。裏ボスが禍々しい悪魔的なモンスターだとかドラゴンの姿をしていようが関係ないと思うんだよね。

「考えていない」
「そうでしょうね」

 ドウセツがやっぱりかと、どこか呆れていながらも納得している様子だった。

「悪かったね考えていなくて、そういうドウセツは裏ボスがどういう存在かおおよそ見当ついている様だけど、どんな存在なのかしら」
「茅場晶彦」
「……ん?」

 ドウセツはまるで他愛のない日常会話をする様な感じで、さらっと重要な発言をした。

「聞こえなかったかしら? そんな難聴でバカな貴女にもう一度わかりやすく言ってあげなくてもいいけど?」
「いや、一回で良いし普通に聞こえてきたから。というか、なんでそこで茅場晶彦が出てくるの!? それだと裏ボスが茅場晶彦だって言っている様なものじゃない」
「言っているわよ。と言っても、確証なんてないけどね」

 ドウセツは一息ついてから裏ボスが茅場晶彦の可能性があることを話し始めた。

「茅場晶彦が私達を含めた一万人ほどのプレイヤーをSAOに閉じ込めた理由も覚えているかしら」
「SAOの世界を創り、私達を閉じ込め、SAOの世界で生きる私達の日々を鑑賞させること」
「以外と記憶力あるのね」
「むしろ私を記憶力ないバカだと思っていたのが不服なんですけど!? つか、忘れたいのなら忘れたいわよ……」
「その気持ちは同意するわね」

 自分の願望で巻き込まれた身としてのあの絶望感は忘れることもできない。未だに現実世界へ帰れないことと本当に死んでしまうと悟ってしまった絶望感は残っている。

「あの発言から見て、茅場晶彦の本質はおそらく無類のゲーム好き。そして漫画やゲームの主人公になってみたい想いがある様に、茅場晶彦は漫画やゲームに出てくるラスボスもしくは同等以上の裏ボスになってみたい想いがあって、それを実行した」
「んー……そうかな?」
「本当はどうかなんて知らないけど……少なくとも私はそう見ている。茅場晶彦はSAOを創って、その世界を鑑賞したいと、自分の創った世界で鑑賞したいってことは世界を救う勇者ではなく、主人公に立ちはだかる悪的な存在になりたい気持ちの方が強い気がするわ。無駄にかっこよく、そして恐ろしい形をしたボスよりも、ラスボスまたは裏ボスが茅場晶彦だったら主人公サイドである私達はこれまで抱えていた茅場に対する怒りや恨みなどぶつけるに決まっているわ。GMとしたらそっちの方が面白いことになるんじゃないかしら」

 ……確かに、私達をSAOに閉じ込めた黒幕である茅場がSAOのラスボスもしくは裏ボスだった方がゲームの演出としてはめっちゃ強そうなボスモンスターよりかは盛り上がるだろうし、鑑賞している側である茅場もそっちの方が面白いと思っているのならそうするはずだ。
 ドウセツの推測が当たっていたら、裏ボスを探すということは茅場晶彦を探すことになる。
 
「茅場がどこにいるかも見当ついているの?」
「おおざっぱには見当ついている」
「アイングラッド内は駄目だからね」
「そんな貴女みたいに小学生レベルの答えを出すわけないじゃない」
「私の思考が小学生レベルって言うのかよ!」
「そうよ」
「そうなのかよ! ……じゃあ、どこまで見当ついているっていうの」
「攻略組の誰か」
「は?」
「また難聴系?」
「またってなによ! 難聴系になった覚えは一度もない! 反応に遅れたのは茅場が攻略組にいるってことについて……だよ……」

 言い終わった後、頭の中の靄が晴れる様に浮かんでしまった。
 茅場晶彦が攻略組に紛れている可能性はないと何故言い切れる?
言い切れるわけがないとしたら、可能性は普通にあることを意味している。私はその可能性は十分にあると見てしまったのだ。
 このアインクラッドという世界での茅場晶彦は私達にとっては神様でありGMであり黒幕、ドウセツの推測通りならラスボス裏ボスの可能性もある。
 だけど現実世界の茅場晶彦は私達と同じ人間。
 でもSAOというゲームを作った人であり、そのゲームにフルダイブを可能にしたナーウギアの開発者でもある。
私達の違いはたったそれだけだ。
 どこかで、私を含めたSAOを購入した約一万人のプレイヤーは全員が茅場晶彦の被害者だと思っていた。茅場は今頃私達のもう一つの現実で日常を送ることにどう思っているのかと、茅場は観察しているものだと思い込んでいた。
 でも、茅場がゲーム外で観察しているって誰が決めた? 茅場晶彦自身が私達と同じ茅場の被害者だと偽装して紛れることの可能性はありえるんだ。
 仮に紛れ込んでいるとして、未だに茅場を発見できないのは簡単な話だ。茅場だけがアバター姿で自分の顔を隠しているから誰一人、バレることがないんだ。特にSAOを作った人なら、自分だけそうすることだってできる。

「……可能だ」
「理解できた様ね」

 ドウセツは淡々としながらも話を再開させた。

「茅場晶彦、もしくはその仲間や部下が一万人のプレイヤーに紛れ込んでいる可能性はあると見た方がいいわ」
「仲間いるの!?」
「単独でやっているのかはなんて知ることできないけど、仲間がいないとは言い切れないんじゃない?」
「それもそうか……ということは、目的とかあるよね。ゲームの世界で生きている人のデータを取るみたいなこととか」
「そんな感じかしらね」

 確かに皆を『はじまりの街』に集め、茅場自ら恐ろしいチュートリアルを伝えてきたから、黒幕は茅場だと思い込んでいたけど、仲間がいないわけではなさそうだし、そもそも茅場自身の目的の発言が嘘であることもありえる。
 そんなこと言ったら切りがないけど……そもそも可能性や推測の話だし、これといった証拠なんてない。
 ただ、ドウセツの推測のおかげで肝に銘じることはできた。
 敵は身近だけど遠くにいる可能性はある。今後はプレイヤーに目を光らせるのも大切かもしれない。

「ドウセツが言ったことはわかったよ」
「本当? 貴女アホだから三十回ぐらい言わないとわからないでしょ?」
「一回で十分です!」

 ドウセツにあっかんべーをすると、ため息をつかされた。

「……今回貴女と行動しようと思った理由は二つ。一つは二番目に交流が多いから変に知らない人と組むよりかは良いかなという気まぐれよ」
「そこは一番じゃないの!?」
「一番はアスナよ」

 そ、そうだった。忘れがちだけど、一匹狼のドウセツは元血盟騎士団だったんだ。私よりも関わっているのは確かだ。
 でもそれを含めてなんか悔しいな。私がドウセツのことわかっているはずなのに……っ!。

「二つ目の理由は裏ボスを探す手伝いをしろってこと?」
「そうよ。単純な攻撃力は兄に劣るけど生存率の高さなら妹の貴女が優秀。そしてバカだから騙されたり見捨てたりしないから楽なのよ」
「ねぇ、褒めているのにバカ言う必要あった?」
「事実じゃない」
「事実じゃねぇよ!」
「なら、私を騙したり見捨てたりする?」
「そんなことできるわけないじゃん!」
「そういうことよ」

 ……なんか腑に落ちないな。それに褒めるんだったら心を込めて欲しいんですけど。なんなの、棒読みではないけど淡々と説明を伝えるあの感じ、受け取り方によっては嫌味にも聞こえそうだよ。
 まあ、いいけどさ。どんな理由であれ、ドウセツが私と行動したいと言ってくれるのは嬉しいことだ。
 何よりも私はドウセツに協力したい気持ちがあるんだよね……。
 ドウセツは私の恩人だから……ちょっとでもいいから、役に立ちたい。
 
「よし、ドウセツ! 私達で明日から裏ボスを探そうね」
「しないわよ」
「え?」
「もうすぐ次の層に攻略できるから裏ボスを探すのは暇な時にやる」
「それいつも通りじゃん!?」
「なら、貴女は私の話を聞いて裏ボスが誰なのか見当はついているの?」
「……ついていません」

 わかっていたはずなのに、もしかしたらドウセツの言う通り頭の方もバカなのかもしれない。これでも赤点は取ったことないんだけどなぁ……。

「もう寝るけど、風呂とかシャワーは?」

 ドウセツは窓際まで近づいて訊ねてくる。

「いや、今日はそこまで疲れていないから遠慮しとくよ」

 ゲーム内では風呂入ったりシャワー浴びたり着替えたりする必要ない。風呂に入ったりシャワーを浴びたりしなくても臭くならない様になっている。と言うかゲーム内では風呂そのままを再現するには至っていないようで、違和感を残してしまう。今はもう慣れたけど、風呂に入った時の解放感に違和感があるのはあんまり好きじゃない。だから私はもう駄目、帰ったら風呂に入るみたいな時しか入らない様にしている。
 そんなことよりもだ。
 視線をやや左寄りに移すと、白のシングルベッドが一つだけあるじゃない。
 これはもしかしてもしかすると……。

「ど、ドウセツ。あのー……わ、私の寝るところは床ですかね」
「一緒に寝ればいいでしょ?」
「やっぱりそう……ええっ!?」

 さらっと冷静に私の願望通りの答えを言ってくれたことに驚きを隠せなかった。
 普通ならば、女の子同士で一つのベッドに入ることは仲が良い女の子しかやらないだろう。私とドウセツの関係性は仲良いお友達の一人、いや友達の中では一番の友達だと思っているけど、ドウセツの方は私のことは性格的に考えて、友達と思っていないだろう。
 そんなドウセツが私を誘って来ている…………こんなことされてしまえば、期待しないわけにいかないじゃない。
 美少女と一緒のベッドで一緒に寝る。こんな男が羨ましい現象を味わえるだなんて、最高の他ならない。
 ここは頑張って我欲を抑え、おとなしめに接して行こう。
 ここで嬉しい気持ちを全力でぶつけたら、うざがられて無かったことにしそうだしね。

「い、いいのかな? 私でもいいのかな!?」
「だったら床で寝る? 別に骨を痛めることはないんだし」

 私も知ったのだが、椅子で寝ていても背骨を痛めることはないのだけど……。

「すみませんでした! めちゃくちゃドウセツと一緒に寝たいです! 土下座でもしますから一緒に寝させてください!」
「嫌」
「ええぇっ!?」

 本音を隠していたのが駄目みたいだったから、本音を言ったら一言かつ即答で断られた事実に私は驚愕するしかなかった。

「さ、さっき一緒に寝ればいいじゃないって言ったよね!?」
「気持ち悪いから取り消しにする」
「だ、だってドウセツが床で寝たらとか言うから、正直に話しただけじゃない! ねードウセツ、お願いだから私と一緒に寝てーよ」
「わかったから抱き着いて来ないで。それ以上やったら追い出すから」

 必死に抵抗でドウセツに抱きしめ様としたら一緒に寝てくれることになったのだけど、それと同時に警告されたので私はゆっくりとドウセツとの距離を置くように後ろへ下がった。
 その時の目が背筋を凍らせる様な冷たい目をしていた。あのまま勢い良く抱きしめて行ったら追い出すだけで済まされなさそう。
 そしてもう寝るというので、ドウセツは壁に触れ、部屋の操作メニューを出して照明用のランタンを全て消した。その間に私は素早くシンプルな白色の寝巻きに着替え、結んだサイドテールを下ろした。

「んじゃ、お邪魔しま~す」
「…………」
「ん? どしたの? 急に黙っちゃって」
「…………別に。喋っても残念系だと思っただけだよ」
「それどういう意味だよ!」

 なんか悪口言われた気がするが、嫌悪感はなかったのでそこまで怒ることはなかかった。
 ただ腹いせに勢い良く私は布団に潜り込んだ。
 ちなみに部屋が暗くなったので、索敵スキル補正が自動的に適用され、視界が暗視モードに切り替わった。

「……ねぇ」
「うん?」
「狭いからやっぱり床で寝て」
「えーもう遅い」
「大丈夫よ。私がちゃんと足で起こしてあげるから」
「何一つ大丈夫な要素がないんですけど!?」
「貴女好きでしょ?」
「好きじゃないわよ。優しくてもらう方が良い」
「図々しいわね」
「これぐらいで図々しいんだったら、私贅沢できないじゃないか」

 思っていたほどベッドの面積はなく、積めないと一緒に入ることは難しかった。この狭さだと、ドウセツが振り返ったら唇が当たりそうだなぁ……ちょっと試すか。

「ねぇ、こっち向い」
「黙って寝なさい」
「はい、すみません……」

 一日を終え、明日の日差しが来るまで瞳を閉じ眠りについた。
 わけでもなかった。

「…………」

 単純に眠れないのである。寝返りすれば寝られるかなと思いつつも、ドウセツもいるし狭いし……本当にキスとかしちゃっためっちゃ気まずいし、ドウセツは怒るからできない。
 いつもなら気づいたら眠れるんだけどなぁ…………。

「…………ドウセツ?」
「…………」
「起きてる?」
「……寝ている」

 その返事は「話しかけるな」と言う意味合いだろうか。けど、返事できたってことはドウセツも起きているよね。

「ドウセツも眠れないの?」
「誰かさんのせいで」
「迷惑だった?」
「わりと」
「それはごめん。あーあ……ボタン一つで寝られる機能とかないんだろうね」
「そしたら悪質に使う輩が出てくるわよ。無駄なこと考えないでもう寝なさい」
「ま、待ってよ。ほら夜はガールズトーク」
「くだらないし、興味ない」

 そんなにバッサリ斬り捨てなくても……。学校行っていないけどこっちはJKになったんだから、他愛のない話とかしてみたいんだよー。

「おやすみ」
「あ、待ってよ。初めてのガールズトークを」
「おやすみ」

 拒絶。ドウセツはその一言を貫いて眠りにつこうとしていた。

「……おやすみ」

 ドウセツが拒絶の一方通行なので、諦めておとなしく寝ることにした。目を閉じて心を無にすれば寝られるはず。
 そう言えば誰かと一緒にベッドで眠るのは久々な気がする。二人で寝るとなんか気恥ずかしさとかドキドキを感じることがあるけど、それを上回って安心して心地よい。
 ……だからこそ、この温もりを奪われることに私は恐れている。安心という温もりが冷めてしまった感覚は正直言って嫌いだ。
 だから……ドウセツが簡単に死んでしまうような状況にならない様に、頑張ろう。
 もう、あの時の様に…………怯えたりしない。
 
「……ありがとう」

 私はドウセツにお礼を言って眠ることにした。



 起き始めると、ドウセツはすでにキッチンで料理をしていた。
 朝飯はスクランブルエッグとトースト。アスナより熟年度はないとは言っていたけど、ふわふわとしていて甘さもあったスクランブルエッグは美味しく、最高の朝食の幸福を味わった。もちろんお世辞でも何でもない。素直な感想を言ったら、うざいと言われた。酷い。
 朝食を終えて、さっそく七十四層攻略しに行こうと思った矢先だった。

「…………」
「ドウセツ?」

 ドウセツは窓の向こう側を睨むように見つめていた。
 気になったので私も窓の向こう側に視線を向ける。そこから見えるのは、純白のマントに赤の紋章、まさしく血盟騎士団のユニフォーム。私はその人を知っている。
 名前は確かストロングス。武士道を感じさせられる細身の青年であるが、キレた時の表情が顔が爆発しそうなくらいで一周して変顔になっているあの表情を忘れるわけがなかった。

「なんであの人、ここにいるの?」
「知りたくもないわね」

 窓越しからストロングスを見たドウセツは、落ち着いた態度で外に飛び出した。それに私は続いて外に出る。
 外に出ると、ストロングスはこちらに気づき、昨日とは打って変わって、涼しげな表情で口を開いて話かけてきた。

「ドウセツ」
「張り込みとかキモいわよ、変態駄犬」
「貴様!!」

 と思いきや、早速ドウセツから罵られたストロングスは冷静という感情を投げ捨てるかの様に、血管が破裂しそうなくらい、表情に力み出して発した。

「俺はやはり貴様を許すわけにはいかない! 血盟騎士団の期待を捨てた裏切り者! その代償、今すぐここで払え!」
「昨日言った事を理解できないとはね……そんなんだから貴方は駄犬で成長が止まっているのよ」
「なんだど!」
「このストーカー、変態、性格、外見、武器、全てが中途半端。血盟騎士団に酔っていて自分の存在が汚していることに気づきもしない愚か者。今すぐ消えて、貴方に語る言葉なんか一つもないわ」

 うわぁ……容赦ないねぇ……。毒舌っていう言葉があるけど、ドウセツは言葉という毒をおもいっきりぶっ刺すような罵詈雑言だった。

「……って」

 突然、ドウセツは右指を私に向けた。

「キリカが言っていたわ」

 …………。
 …………は?
 さっきの罵詈雑言はドウセツの思ったことではなく、私が思っていることを代わりにドウセツが言ってくれた?
 …………。
 いや、いやいやいや!? どうしてそうなるの!?
 
「そんな風に思っていたのね」
「思ってねぇよ! ちょっ、はぁ!? なんでドウセツは得をしない嘘をつくのかな!? バカ!? さてはバカでしょ!?」
「貴女に言われたくない」
「それもこれもこっちの台詞だって!!」

 まるで自分は心優しき少女みたいな雰囲気出していないのにとぼけやがって……おまけにクールなのは殻が立つ。何故、ストロングスの怒りの矛先を関係ない私に向けさせるんですかね。
 いや、そうは言っても、こんな嘘で騙されるなんているわけが……。

「ざけるなぁ!!」
「信じているのかよ!」

 憎悪を向ける視線はドウセツの思惑通り、私へ向けることに成功してしまった。そんな元凶である隣の猛毒プレイヤーは清々しいほど冷静だった。

「もっとオブラートに包まないと駄目でしょ?」
「あんたが言うなよ! あんたが! オブラートの欠片もない人が言われると腹が立つし、何よりも私に押しつけやがって……っ!」
「実際そう思っているでしょ?」
「思ってないって!」
「貴様ァ!!」
「なんで、あんたは憎き相手の言葉を信じるのよ!」
「黙れ! 貴様のような雑魚プレイヤーが」
御託(ごたく)はいいわよ、雑魚……って、キリカが言っているわ」
「ごらぁドウセツ!!」

 止まらないドウセツの酷い擦り付け。私はどうにか自分が無実であることを証明しようと焦りながらも模索しようよしたら、目の前に半透明のシステムメッセージが出現していた。

『ストロングスから1VS1デュエルを申し込まれました。受諾(じゅだく)しますか?』

 無表情に発光する文字の下に、Yes/Noのボタンといくつかのオプション。

「頑張りなさい」

 せめて言ってくれるのなら笑顔の一つ欲しかったよ。
 
「クールな表情で淡々な声色で励まされてもなぁ…………覚えておきなさいよ」
「考えておく」
「忘れる前提で言うな」

 ストロングスは激情に任せて私にデュエルを挑むということは、もうこれ以上話し合いで誤解を解くことは無理だろうと悟ってしまった私は、仕方なしにドウセツの変わりに受けさせることにした。
 Yesボタンに触れ、オプションの中から『初撃決着モード』を選択。するとメッセージは『ストロングスとの1VS1デュエルを受諾しました』と変化、その下で六十秒のカウントダウンが開始される。ゼロになった瞬間、私とストロングスの間では街区でのHP保護が消滅し、勝敗が決するまで打ち合うことになる。
 私はまず、ドウセツの家から離れて、五メートルほどの距離を取って向き合った。
『初撃決着モード』は最初に強攻撃をヒットさせるか、相手のHPを半減させたほうが勝率する。
 ストロングスの武器は短剣……なんか個人的に血盟騎士団に短剣装備って似合わない気もするが、そんなのは実力と結びつかないでしょうね。
 キレやすいけど、攻略組最強ギルドの一人だ。油断はできない。
 ただ、戦術はもう決まっているけどね。
 戦術を決めた後は、カウントがゼロになるまで待機。そしてその数秒後、カウントは一桁となり、5…4…3…2…1……。
 私達の間の空間に、紫色の閃光を伴い『DUEL』の文字が弾く。
 その瞬時、私はストロングスに向かって地面を蹴り上げ、駆け寄る。
 そして薙刀の射程内に入ったら薙刀のリーチを最大限に生かしてして斬りかかるものの。

「甘い!!」

 ストロングスは私の横振りをしゃがむようにかわして、勢い良く私の懐に潜り込んだ。

「もらった!」
 
 勝利の確信をしたストロングス。薙刀はリーチが長所であるものの、そのリーチが長い故に懐に入ってしまうと対処に時間がかかってしまう。おまけに短剣は使い勝手が良く、攻撃間隔が短い。
 懐に潜り込んでしまった私の失策、ストロングスは確実に私を当ててくる。
 …………だけど。
 それが私にとって“ピンチ”であり“チャンス”でもあった。
 普通だったら私の敗北する状況を凌駕する様に、私はストロングスの攻撃をタイミング良く回避する。
 短剣の剣先をギリギリ当たらない様な回避。でもその回避は絶対に私を当てることができない回避でもある。

「なっ――――」

 心なしか、相手の動きがスローモーションの様に遅くなっている気がする。
 ストロングスからしてみれば勝てると思っていたのが、逆に大きな隙を作ってしまいピンチになっている。私はその隙を確実に捉え、薙刀を大きく振ってストロングスに上から下す様に斬りつけた。
 チャンスがピンチになったストロングスは先ほど私がやった回避することができず、後方へと傾き地面に倒れた。
 その直後、開始の時と同じ位置にデュエル終了と勝者の名を告げる紫色の文字列がフラッシュした。

「バ、バカな……な、何だ、あの動き……!」

 ストロングスは驚愕……いや、驚きよりも状況が上手く飲み込めていない様に見えた。
 そしてそれが余程のことなのか、彼は立ち上がることなく、プルプルと震え同じことを繰り返す様に呟いていた。
 悪いね、ストロングス。私としては恨みとか、別に敵視しているわけでもないんだけどさ、勝負は勝負。確実に私が勝てる策を使わせてもらったよ。
 最初の一振りはフェイク。ストロングスがチャンスを掴んだ時には私の勝ちは八割だったんだよね。

「さ、行きましょう。負け犬なんか放っておきましょう」
「えっ、ちょっと!」

 唯一の観客であったドウセツはひと足早くここから立ち去ろうとしていたので、慌ててついて行った。

「見事ね。貴女の回避は相変わらず異常に強い。一体どうしたらあんな風に避けられるのかしら?」
「いじわるな人には教えませんよーだ」

 きっかけはあるにはある。
 私自身が生き抜く為には、筋力を鍛えることも敏捷力を鍛えることでも、情報量を多くすることでもない。
 どんな攻撃も無力化する回避力。私の唯一無二の得意な戦法を身に着けることができた。総合力は兄や血盟騎士団の最強二人には劣るかもしれないけど、回避だけに関しては自分でも一番だと思っている。
 でも、それはけして望んで鍛えた物ではない。絶望から始まり、唯一無二の武器、回避力を大幅に強化できたのはただ運が良すぎたんだ。普通だったら、一歩間違えた時点で終わっていたと思うし……ライフがゼロになったら現実世界でも死ぬようになってからだと尚更だよね。

「なら、“あれ”をやりましょうか」
「えっ!? あ、“あれ”……できればやりたくないんですけど……」
「それだと貴女と組んだ意味がないわよ」
「そんなこと」
「あるわ」

 ドウセツはその話は決定事項としたことにしてどんどんと歩く速度を上げ始めた。
 “あれ”…………私の回避を上手く利用した、私とそれを容赦なく実行するドウセツだからできる連携技。ぶっちゃけ回避は得意だとしても、何度もやるようなものじゃないと思うんだよね。でもドウセツはクールだけどやる気満々な気がする。

「まじか……」

 天気は薄曇り、暦は今、秋の深まる『トリネコの月』
 10月下旬の、爽やかな風があたりながらドウセツの“あれ”に複雑な想いを抱え、これからの大変さを予知するかのように私はため息をついた。 
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