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彼願白書

作者:熾火 燐
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元提督は本題を切り出す。

 
前書き
前回の要約

『ジャークチキンは南米の料理なんだよ!』『ちなみに現地のジャークチキンはカラッカラでそこまで美味しくないよ!』『現地のジャークチキンはホントにジャーク(燻製の干物)になるまで焼いてあるんだよ!保存食なんだよ!』 

 
「時に君は、複数の艦娘とジュウコンしていると聞いたが?」

酒が少し回ってきたところで、そろそろ本題を切り出してみようと思う。
ある程度の資料は海軍(というより三笠)から受け取って、リサーチ済みだ。

「あぁ、事実だよ。えぇと……指輪渡してあんのは19人だったかな?」

「昨日大和さんにも渡しましたから……20人ですよ、店長。」

資料より更に増えていたが、予想していた範囲だ。
資料にはケッコン艦娘のみならず、間近に迫っているだろう艦娘もリストアップしていた。
まぁ、それでも資料の鮮度が追い付いてないのはいただけないな、と壬生森は思う。

「あぁそうか、どうにも正確な人数の把握ってのがねぇ……」

最も、本人がうろ覚え気味なのは苦笑するが。

「アナタ、仮にもケッコンしてる相手の人数を把握して無いの!?それって司令官としてどうなのよ!」

「手厳しいねぇ、ウチの連中は錬度頼りの戦闘力じゃねぇからなぁ。ケッコン艦を特別扱いしたりはしてねぇしな。」

こういう管理関係の話は叢雲が噛み付くだろうなぁ、と壬生森は思った。
昔は資材管理にも煩かったのを思い出す。今も書類関係の把握で煩いが。

それに報告に上がっている通り、この鎮守府は艦隊運用とケッコンはまた別物、という感じがある。
戦力として必ずしもケッコンカッコカリを重く見ているわけではないのは、戦歴からも見て取れる。
では、ケッコンカッコカリとは彼にとって、なんなのだろうか。

「ふむ……とは言え、確か君は艦娘とカッコカリではない結婚をしていると報告を受けているが?」

彼は正式にケッコンではない結婚をしている身の上なのだ。

「あぁ、それも事実さ。一応金剛が本妻って事にはなってるがな。」

「でも、それだけの女性を相手にするのは大変じゃない?」

「それこそ男の甲斐性の魅せ所、って奴さ。その辺の若いニィちゃんよりは、体力も経済力も劣るとは思ってねぇしな。」

まぁ、ここの金剛がそこら辺の首根っこをキッチリ掴んでいるのだろう。
そもそも、どっちにしても一夫多妻は考えなければならない案件なのだ。

艦娘を今の人口比に加えると、その男女比は女性過多に一気に傾く。
海辺や軍事の仕事に男が多かった、というだけでも理由はまるわかりだろう。
単純に、男が戦場で死にまくったのだ。
そして、女も艦娘として死にまくった。
あとから第二世代の艦娘が生まれ、女は増えたが、男は増えなかった。
一夫多妻を早急かつ大真面目に考えねば、男がほんとに足りないのだ。
戦争が終わったあとでは遅いのだが、まずは艦娘の人権をキッチリと浸透させねばならぬと、先伸ばしになっている議題だ。
先伸ばしになっている要因のひとつが、修羅場の末に鮮血の結末に至るブラッド鎮守府だ。

ジュウコン関係でひどいことになった鎮守府の後始末は、明確に違法なブラック鎮守府を潰すよりもある意味で面倒な時がある。
人も艦娘も感情の生き物だ。
ケッコンカッコカリというシステムも、そこに依る部分が多い。
だからこそ、外すとヤバい部分のタガに触れてしまっている。
今のプレーンリングになってから、リスクはかなり減ったものの、それでもやはり定期的にブラッド鎮守府の後始末があるんだから、まだまだケッコンカッコカリには多大なリスクがある。
そもそもシステムの内容を明かすとだいぶ黒いものが出てくるシロモノで、だからこそ壬生森は隣の叢雲にも指輪を渡してはいない。
過去に一人だけ、どうしようもなく渡したが、それで起きたことを壬生森は今も思い出したくない。
一人でもこうなるのに、それを二人、三人、なんて到底無理だと思う。

そもそも、壬生森は人権や婚姻等の法整備を整えた今、そもそもカッコカリ自体が冒涜だとも思っている。

ケッコンカッコカリ、ジュウコン、結婚、一夫多妻、様々な問題をどの方面にも抱えるこれを、果たしてどう取るか。
壬生森は少しだけ意地悪な質問をしてみることにした。

「私はケッコンカッコカリという制度自体、艦娘を馬鹿にしているというスタンスなのだが、それについてはどう思うね?」

壬生森が余多の提督に聞き、余多の提督が頭を抱えた問題だ。
壬生森はこれを今まで、様々な提督にぶつけてきた。
金城も、少し考え込んでいる。
実態を知るほど判断が難しい話だ。
そんな難しい空気の中、口を開いたのは早霜だった。

「あの……私なりの意見を述べても良いでしょうか?」






「現役の艦娘の貴重な意見だ、是非聞かせてくれ」

そう言えば最近の艦娘から聞いたことはあまりないと思う。
艦娘のいる現場から遠退いていたのだから当たり前だが。

「では……私としては、ケッコンはある種の『ご褒美』だと捉えています。」

「ほぅ?」

「私達第二世代の艦娘には、明確な『親』と呼べる存在が居ません。その為身近にいる艦娘ではない人……提督にどの様な形であれ本能的に繋がりを求めているのだと思うんです。」

壬生森はそうか、と気付く。
艦娘も第一世代と第二世代でそもそも生い立ちが違うのだ。
隣の叢雲は第一世代の艦娘。
いちおう、帰る家はある。
墓参りをする、墓もある。
当人は帰りたがらないが、それでも帰ろうと思えば帰れる。
だが、第二世代の艦娘にはそれがない。
帰りたくても、帰る場所はない。
あるとしたら、それは鎮守府なのだろう。

「だからこそ、提督を『父親』であり『友人』であり、『恋人』や『夫』……果ては『家族』のように振る舞って欲しいと思うのだと思います、私を含め。」

金城が早霜の頭を撫でる。
家族、か。
思い当たるフシはある。
きっと、私はそれが出来なかったのだ。
上司と部下として、それ以上に踏み込めなかった。
だから、今も歪な関係でいるのだ。

「そんな相手に褒めてもらいたい……そう思うのは不自然でしょうか?少なくとも私は、提督に褒めて頂きたいと日々の業務に励んでいます。その結果が錬度であり、その終着点こそケッコンカッコカリと思っています。」

「成る程……ケッコンはあくまでも結果であり、目的ではないか……貴重な意見だ。どうも、ありがとう。」

艦娘自身から見た提督観、か。
ケッコンカッコカリの価値は艦娘も決めていくこと。
それは考えから、すっかり抜け落ちていたことかもしれない。
それに気付かされた壬生森は早霜に礼を言いたくなったのだ。


そのあと、壬生森は金城といろんな話をした。
ケッコン艦娘達の中で決めているらしいこと。
いろんな艦娘がいて、それぞれのこと。
悲しかったこと、苦しかったこと、笑い話、未来の話。
いろいろと話している間に朝が来て、帰る時間はすぐだった。



「朝か。長かったハズなのに、あっという間に夜が明けたな。」

朝になって、壬生森達が鎮守府を出て船に戻る最中。
少し、足元に力がちゃんと入らないが、まっすぐ歩けている。

「夜明け、か。懐かしいわね……白く染まった海も。」

「現場に、戻りたい?」

「アンタがいるところが、私の戦場よ。何十年、アンタの秘書艦やってると思ってるのよ。」

叢雲が珍しく、壬生森の腕に絡む。
いつ以来だろうか、と壬生森は振り返る。
相当に前だとは思ったが、すぐに思い当たらないくらい遠い前だった。

「叢雲。今更になって結婚しよう、って言ったらどうする?」

「ケッコンカッコカリは現役の提督と艦娘でしか出来ないわよ。」

壬生森の言葉に、叢雲は呆れたように答える。
壬生森はそんな叢雲に苦笑して誤魔化す。

「……そうだったな。」

朝焼けの中、壬生森達は自分の戦場へと戻る。
次はどこへ行こうか。
この二人は、艦娘のいるところに行く。
次はもしかしたら、貴方の鎮守府かもしれない。 
 

 
後書き
最後のまとめ

「結婚する?」「やだ、ありえない。」「知ってた。」 
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