魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第4章:日常と非日常
第113話「修学旅行」
前書き
日常回……に近い非日常回。
普通ではない修学旅行です。
=優輝side=
「おお、ここが沖縄……暖かいな」
「そりゃあ、僕らがいた場所より平均気温は高いからな。冬でも、大して厚着する必要もないしな」
僕らは今、修学旅行で沖縄に来ている。
二泊三日で、民泊という事で班が決められていたりする。
僕がいる班は、司、聡、東郷と佐藤さんの計五人だ。
なお、結局なのはは怪我の治療のために学校をしばらく休むことになったそうだ。
僕らの言った事がちゃんと伝わったらしく、まずはしっかり体を癒すらしい。
少々…いや、かなりきつい言い方だったけど、伝わってくれて良かった。
ただ、なのはが怪我した影響は結構大きかったらしく、フェイトが執務官試験に落ちてしまったらしい。…まぁ、親友の入院はショックだっただろうしな。
「まずは…クラスごとに壕や慰霊碑などの見学か。その後、民泊の人と合流らしい」
「民泊…どんな人だろうね」
「とりあえず、またしばらくバス移動だな」
前世での中学生や高校生時代を思い出す。
何気に、中高と修学旅行場所が沖縄で被ったからな。
本島と宮古島という違いはあったけど。
「優輝君がいてくれて助かるよ」
「しっかりしてるし、班長に向いてるもんね」
「半ば聡に押し付けられただけなんだけどな…」
「体育祭での仕返しだこの野郎」
やっぱりこの軽いノリは前世を思いだす。
司も同じようで、終始ニコニコしていた。
「(ま、僕も楽しみにしてたし、今回は子供らしく満喫するか)」
何せ、何百キロと離れた場所への旅行だ。
そういう機会が前世含めて修学旅行以外でなかったから、楽しみにもなる。
「…守り人……?」
「前世じゃ聞いた事なかったよね…?」
しばらくして、慰霊碑の見学の際や、案内人の説明に聞きなれない単語があった。
“守り人”と呼ばれる存在…前世ではそんなのはいなかったはず…。
「沖縄本島の山奥とかで迷った際に、偶に助けてくれる……か」
「第二次世界大戦の時にも存在していたらしいね」
守り人と言われる所以は、外敵などから人を守っていたというありきたりなものだった。
一族として今もいると言われているらしく、もしかしたら会えるとの事。
「まぁ、あまり気にしないでおこう」
「そうだね」
正体は不明だが、そこまで気にする事でもない。
ふと、転生者の可能性がよぎったが、大人しくしているなら干渉する必要もない。
「何話してんだ?」
「ん?いや、守り人って言うのについてちょっとな」
「守り人?」
僕らみたいに前知識がある訳でもない聡は、守り人の単語を気にしていなかった。
まぁ、普通小学生の時点で単語の一つを気にする事なんて某名探偵でもないのにありえないだろう。…と、言う訳で簡単に説明しておく。
「……ふーん。そんなのがいるのか」
「ま、会えたら嬉しい程度だろう」
「そうだな。…って、うん?」
“がさり”と言う音と共に聡が声を上げる。
「今、そっちに誰かいたような…」
「…気のせいだろ?」
「いや、確かに…!」
「あ、おいちょっと!」
確かに誰かがいたのは気配で感じた。
けど、敵意どころかこっちを伺うものですらなかったので、通りすがりだろう。
しかし、聡は気になって茂みの方へ入って行ってしまった。
「ああもう。司、東郷、佐藤さん、先生が来たら説明頼む!」
「りょ、了解!」
僕も聡を追いかけて茂みに入る。
あいつの気配は分かるから、僕が迷う事はないだろうけど…。
って、あいつ結構速い…!というかなんで奥まで入っていくんだ!
「まずいな。魔力も持ってないから気配だけでは分からなくなるぞ」
僕は恭也さん達と違って、生身での気配はそこまで感じ取れない。
いつも魔力を基にして気配を探ってたからな……今は霊力もあるけど。
けど、聡は魔力はないし、霊力も一般人。普通の気配だけでは茂みの中は厳しい。
「うわっ!?」
「そっちか!」
聡の声が聞こえ、茂みの中を駆ける。
突然の事に何か驚いた声なので、おそらく足を踏み外しでもしたのだろう。
「(…ん?霊力…?)」
声の下へ向かう時、そこに見知らぬ霊力の持ち主がいるのが感じられた。
「聡!」
「ゆ、優輝!?」
「こんな所にいたか……それで…」
辿り着くと、そこには聡と…その聡を抱えた、一人の女性がいた。
赤いショートカットの髪で、黒と紫を基調としたシャツに赤茶色のズボンを履いていた。
それと、背中に布で包まれた棒状のものを担いでいる。
「貴女は…」
「いやぁ、この子が少し大きな段差で足を滑らしてね。危ないからつい助けたが……あんたの友達かい?」
「はい。まぁ、彼を連れ戻しにって感じですね」
明るい雰囲気を感じさせる口調の女性。
一見姉御肌な感じの女性かと思えるが……霊力を確かに持っている。
それに……。
「(耳と、尻尾…か)」
赤い耳と尻尾が僕には“視えた”。認識阻害の術だろう。
と、いう事はこの女性は人間ではなく、おまけに霊力による術なども使えるようだ。
「あんた達、今日沖縄に来た子達だろう?ついでだから送ってやるよ」
「へ?あ、そういえば…ここ、どこだ?」
「今更かよ聡…。一応、道は分かるんですけど…頼みます」
とりあえず聡を降ろしてもらい、案内してもらう。
「ほら、あそこだろう?」
「ありがとうございます!」
すぐに司達が見える場所まで辿り着き、聡はお礼を言って先に行ってしまった。
「あんたも行きな」
「ありがとうございました。…では……」
「っ……!」
彼女にも感じ取れるであろう程度の霊力を出し、一つの御札を取り出す。
それに反応するかの如く、彼女は背中の棒…槍を構えた。
「今夜、日を跨ぐ頃にもう一度この茂みの前で会いましょう。これを渡しておきます」
「あんた、一体……」
「正体が気になるのは、お互い様ですよ」
そういって、僕も司達の所へ戻る。
「優輝君…」
「…感じ取ってしまったか?」
「……」
今の霊力は司にも感じられたらしく、僕を見て頷いた。
「僕の推測じゃ、悪い人ではないさ」
「優輝君がそういうならいいけど…」
ふと見れば、どうやら先生に見つかる前に戻っていたらしい。
だけど、時間が来たらしく、僕らは碌に見学する暇もなく移動する事になった。
「…あれ?さっきまでそこにいたのに…」
「さっきの人なら用事があったらしくすぐどこか行ったぞ。」
聡が先程の女性を見失っていたので、そういっておく。
まぁ、実際に僕が戻るとすぐどこかに行ったからな。
「それじゃあ、電気消すぞー」
しばらく経ち、今日が終わる。
民泊の人達は普通にいい人で、初日でそれなりに交流できただろう。
明日はさとうきびで黒糖を作るらしい。他のいくつかの班と共同との事。
……で、今は就寝の時間だ。
「いや、もうちょっと起きてようぜ?」
「けど、俺結構眠いんだが…」
「私も…」
聡がもう少し起きてようとするが、東郷と佐藤さんは眠そうだった。
司も眠くなってる訳ではないが、寝る事に賛成のようだ。
「…との事だが?」
「…俺も寝るわ」
「よろしい」
改めて電気を消し、全員が布団に入る。
「…よし、寝てるな」
深夜、0時になる前。僕は布団から体を起こす。
そう。今から見学の時に会った女性に会いに行くのだ。
「ん……優輝君…?」
「0時だ司。…行くぞ」
「分かったよ」
司も身を起こす。ここまでに司にも少し説明した所、司もついてくる事にしたらしい。
「念のため身代わりを……っと」
「よし、行こうよ」
創造魔法で普通に寝てる僕と司を作り出しておく。
これで仮に聡たちが目を覚ましても怪しまれる事はない。
「司、掴まって。転移するよ」
「うん」
手を取り、霊術で転移する。
ちなみに、この転移術は魔法の転移を霊術用に改良しただけで、元から陰陽術などで存在していた転移術ではない。(椿曰く、また別に存在してるとの事)
「…っと」
「いつの間に術式を…」
「いや、これはな…」
転移するには、魔法の時と違って何かしらの目印が必要だった。
で、今回使用した目印が…。
「…まさか、転移してくるとは…」
「昼ぶりですね」
「この人が…」
昼にも会った女性が同じ格好でそこにいた。
そう。この女性に渡しておいた御札が目印だったのだ。
「そこの子がついて来ているという事は……同類か」
「まぁ、そういう事ですね」
どうやら、だいぶ警戒されているようだ。
いつでも槍を振るえる体勢だし、霊力も巡らせているようだ。
……まぁ、あんな怪しい事したらな…。
「とりあえず、一つ聞きたいんですけど……貴女、“式姫”ですか?」
「えっ、それって……」
「っ……!?」
椿や葵、そして蓮さんと同じ式姫。
それがこの女性に対し、僕が抱いた印象だった。
……そして、どうやら図星らしい。
「なぜ、それを…!」
「…かやのひめ、薔薇姫、小烏丸……知ってますよね?」
「…会ったのか?」
式姫としての椿たちの名前を言うと、少し警戒が緩む。
「会った…と言うか、内二人は一緒に暮らしてます。……それで、その返答からするに貴女も式姫の一人みたいですね…。通りで、霊力を感じれた訳か…」
「…ああ。オレはシーサー。…かつての名前は山茶花だ」
「だから沖縄に…。もしかして、“守り人”って言うのは…」
「オレの事だろうな」
なるほど。式姫ならあまり記録に残されないのもわかる。
結局、一族ではなく彼女一人だった訳だが。
「……それにしても、オレ以外にも生きている式姫がいたとは…」
「生きている式姫は、大体隠居しているか、今の世の中に馴染んでいる感じですね。椿と葵...かやのひめと薔薇姫も行動を共にしながら山を転々としていましたし、蓮さん……小烏丸さんも剣を極めながら日本中を旅してます」
「そうか…」
椿たちの事を少し話すと、シーサーさんはどこか遠い目をした。
「……実はな。この沖縄にはもう一人式姫がいたんだ」
「もう一人…」
「狛犬と言う奴だ。馬鹿みたいに真っすぐ…いや、実際アホだったんだが。そんな奴だったが……第二次世界大戦の時に…な」
「………」
霊力の不足による消滅ではなく、人間同士の争いによる戦死…。
幽世に戻されただけだとしても、何か思う事があるのだろう。
「……悪い、空気を悪くしちまったな」
「いえ…」
「それで、オレに態々会いに来た理由はなんなんだ?ただ式姫って確かめに来ただけじゃないんだろう?」
確かに、シーサーさんの言う通り、式姫だと確かめるだけに来た訳じゃない。
……と言っても、そこまで大した目的でもないけどな。
「半分程は式姫なのか、もしくはなぜ霊力を持つか尋ねるため。……もう一つは、連絡を取り合うための繋がりを持とうと思ったので」
「繋がり……なるほど、な」
連絡を取り合えたら、何かがあった時に駆け付けやすい。
沖縄に留まり続けるシーサーさんでも、連絡手段はあった方が得だろう。
「いいだろう。さすがに契約する程でもないが、連絡手段は欲しい所だ」
「そうですか。なら、これを…」
「御札か…昼のとはまた別のようだな」
「はい。昼のは転移の座標指定に使えるだけのもので、これは霊力を込める事で念話を行う事ができます。こっちの御札は転移の術式が込められていて、いざと言う時は僕の家に飛べるようになっています」
ただし、転移の方は術式が脆いため、数回使えば使えなくなる。
その時はまた補充すればいいだけだけど。
「…便利なものだな。まぁ、貰っとくよ」
「機会があれば来てください。椿と葵ならいつでもいますので」
「…かつての名と同じなんだな。あの二人は」
「偶然、同じ名前を付けたようで…」
それから、少しの間椿や葵について話した。
「…優輝君、そろそろ…」
「っと、そうだった」
「ん?もう帰るのか…って、そうか。お前たちは修学旅行で沖縄に来たんだったな」
「はい。では、そういう訳で…」
「ああ。またな」
そう言って、僕らはシーサーさんと別れて民泊の家に戻った。
「約三時間……まぁ、多い方かな」
「優輝!まずはどこ行くんだ?」
あれから、僕らは普通に沖縄での体験を楽しんだ。
黒糖作りで、玲菜がいる班と共同になったからか、聡とで一悶着あったけど。
そして、今は修学旅行最終日で、国際通りでおみやげを買ったりする自由行動だ。
「とりあえず、一通りぐるっと回るぐらいの時間はあるな」
「要所要所でいいなって思う土産物とかを買っていけばいいんじゃないかな?」
「昼食も途中で食べるからな。せっかくだから沖縄名物を食べようか」
事前に入手しておいたパンフレットを見ながら、国際通りを練り歩く。
今の時刻は11時。少ししたら昼食も食べないといけないだろう。
「ひとまず色々見て回らない?」
「それもそうだね」
「優輝君、それでいいかい?」
「ん?構わないぞ。というか、僕自身手探りで見て回ろうと思ってた所だし」
「よーし、それじゃあ早速行くぞー!」
ずんずんと聡が先に進んでいく。
「……ん…?」
「どうしたの?」
ふと、感じた予感に首を傾げる。
司はそんな僕が気になったのか、尋ねてきた。
「…ちょっと、嫌な予感がして…ね」
「そっか……」
僕の言葉に、司も少し気を引き締める。
…僕の嫌な予感は、それこそ嫌なぐらい当たってしまうからな。
「…………」
修学旅行に来ているのは、聖祥大附属小学校だけじゃない。
どこかの高校も来ているらしく、それっぽい集団が所々に見られた。
…そして、その一部がとても気になった。
「………」
「……れ、玲菜?」
散策開始から約一時間後。
昼食を食べ終えた僕らは、ちょうど会った玲菜のいるグループと行動を共にしていた。
……していたんだが…玲菜と聡の間の空気が…。
「(…昨日、散々アピールしたのに全部スルーされたからなぁ…)」
「(…皆、どうすればいいか悩んでるね…)」
玲菜は、今回の修学旅行で何とか聡に自分の気持ちに気づかせたいと思っていた。
それで昨日は色々アピールしてたんだが…聡はそれを悉くスルー。
どこかの鈍感系主人公かと言わんばかりに玲菜のアピールに気づかなかった。
「お、おい、玲菜?」
「ふん……」
ぷいっとそっぽを向くように、玲菜は聡から顔を背ける。
…これは、完全に拗ねてるなぁ…。
「ちょっ、玲菜!?」
「来ないでよ!」
気まずそうにそれを追いかける聡と、それから逃げる玲菜。
一応人に迷惑を掛けないように、路地裏の方へと進路を変えていく。
本人たちは真剣だが、僕らからすれば微笑ましいもので、少し成り行きを見ていた。
―――……などと、油断していたからだろうか。
―――彼女を狙う“悪意”に気づけなかったのは。
「きゃっ……!?」
「っ、玲菜…!?」
路地裏の入り組んだ道を曲がった玲菜が、短い悲鳴を上げる。
それを訝しんだ聡は、急いで何があったか確認しに行った。
僕と司もおかしいと思い、すぐに追いつく。
「玲菜!?」
「聡!何が起きた!」
僕らが追いついた時には、既に誰もいなくなっていた。
聡は僕の問いに答える事もなく、すぐに駆けていく。
「おい!」
「優輝君、これって…」
「…状況から考えて、拉致か…。くそっ、なんでこんな時に…!」
聡の姿も既に見えない所まで行っていた。
…悠長にもたついている時間はない、か。
「東郷達は急いで大通りに戻って先生に玲菜が拉致られたと連絡!大通りに出るまで固まって移動しろ!」
「拉致って…マジか!?」
「マジだ!急げ!」
「優輝君達は…」
「聡が先走ったから追いかける!」
素早く指示を出し、まずは僕ら以外を大通りに戻す。
人通りが多ければ二の舞にはならないはずだ。
「司!」
「分かってる!…皆、先生への連絡は任せたよ!」
「志導君!?司ちゃん!?」
皆からすれば、追いかけるのは危険だと思うだろう。
けど、その制止を振り切って、僕と司は聡の後を追いかけた。
「都会程じゃないとはいえ、入り組んでいる…!」
「聡君の気配は…?」
「何とか捉えている!でも、急がないと……!」
「うん…!」
普段は制限している身体能力を開放しておく。
犯人が誰か、嫌な予感も兼ねて考えれば大体は分かるが…。
どの道、ちょっとした戦闘は避けられないだろう。
=out side=
「玲菜ぁああっ!!」
聡は駆けていた。幼馴染の玲菜が攫われたのを見てしまったから。
玲菜の想いに気づいていないとはいえ、聡にとっても玲菜は大切な幼馴染。
そんな彼女が危機に面したとすれば、居ても立ってもいられなかったのだ。
……もしくは、彼自身気づいていない“想い”に突き動かされていたのかもしれない。
「見つけた!!」
「さ、聡……」
辿り着いたのは、人気のない廃屋。
そこに、複数の男に囚われるように囲まれた玲菜がいた。
「お?なんだぁ?彼氏か?」
「てめぇら、なんなんだよ!玲菜を離せ!」
体格において、全員が聡を上回っている相手に、果敢に言葉を放つ。
そして、聡も自分に向けられた言葉で相手が如何に下種な類の人物か悟っていた。
「聡っ、逃げて…!」
「玲菜、待ってろ!今助けに……っ!」
「おらよっ!」
「がっ…!?」
運動神経が良いとはいえ、聡は未だ小学生。
高校生である男には、一人相手でも敵わない程だった。
「助けにだってよ。正義の味方気取りかぁ?」
「「「ははははは!」」」
「ぐっ……!」
殴られ、笑われ、聡は自分が何と惨めなのか、思い知らされる。
「っ……」
…だが、それでも。
知っている人…それも、幼馴染が怯えているのを見て、黙っている程……。
……聡は、馬鹿じゃない。
「うるせぇよ…!このくそ野郎共がぁあ!!」
「あ?」
油断している所へ、渾身の一撃を放つ。
跳躍し、放った一撃は見事に顔へとヒットしたが…。
「てめっ!調子に乗るなガキが!!」
倒すには至らず、むしろ逆上させてしまった。
どこかで買ったのか、男は木刀を聡に向けて振るおうとして……。
「っづ!?」
「え……?」
その顔…しかも、直前で瞑ったとは言え、目に向けて石が飛んできた。
「よし、我ながらナイスコントロール」
「二人共、無事!?」
飛んできた方を見れば、そこには優輝と司が立っていた。
「優輝…?聖奈さん……?」
「あーあ、殴られちまって…。相手ぐらいちゃんと見ろよ。聡」
「…全員、木刀を持ってるよ。見た所、高校生ぐらいだけど…」
「国際通りにいた連中と同じ高校だろう。…ったく、見るからにガラが悪いな」
驚く聡と玲菜の言葉を無視し、優輝と司は聡と並び立つ。
「他の奴に先生を呼びに行かせた。相手は高校生、引き下がるのも手だが…」
「ふざけんな!玲菜が捕まってるのに逃げれるかよ!」
「言うと思った…。…じゃあ、助けるのはお前がやれ。」
そういって、優輝と司がさらに前に出る。
「他は僕らが片づける。…司、やれるか?」
「誰に護身術習ったと思ってるの?…大丈夫だよ」
「上等…!」
瞬間、二人は動く。
「このっ…ガキどもが!!」
小石を目に当てられそうになり、逆上していた男が優輝に対して木刀を振るう。
だが、その程度では優輝には傷一つ付けられない。
「そらよっと」
「がっ…!?」
「聡君!」
「えっ、っとと…!」
勢いを利用して地面に叩きつける。その際に手放した木刀を、司は聡に投げ渡す。
「なんだこいつら!?」
「小学生だからって…」
「甘く見ないでね!」
小学生にあっさりと一人やられ、男たちに動揺が走る。
その隙を二人が見逃すはずもなく、すぐに玲菜を抑えている男のサイド二人に接近。
足を払い、バランスを崩した所で地面に叩きつける。
「聡!行け!!」
「っ、おおおっ!!」
木刀を奪い、優輝と司は他の男に牽制する。
男たちの人数は合計で6人。内3人はすぐに動けず、残りの内2人も優輝と司によって抑えられ、聡は一対一で残りの一人と相対する。
「くそっ、このガキがどうなっても……ぐっ!?」
「卑怯な手は使わせないってな」
「しまっ……!」
「喰らえやこのくそ野郎ぉおお!!」
小学生にしてやられた事で、残りの一人が玲菜を人質に取ろうとする。
しかし、そこへ優輝が投げた木刀が飛んできた事で、一手遅れる。
…そして、聡の渾身の一撃が叩き込まれた。
「が、ぁ……!?」
小学生とはいえ、木刀の一撃。
その絶妙なバランスが、男をちょうど戦闘不能にさせた。
「ごふっ……!?」
「よし、片付いたな」
「こっちも完了だよ」
素手になったが、あっさりとカウンターをした事で男を伸した優輝。
司もある程度ダメージを負わせたのか、男は全員片付いていた。
「……さと、し……」
「玲菜、大丈夫か?」
「っ……!」
助けられた玲菜は、聡に思わず抱き着く。
「怖かった……!怖かったよぉ……!」
「玲菜……」
その体が震えている事に気づき、聡は彼女をそっとしておいてあげた。
「ううっ……聡………」
「(…あぁ、そうか。俺…気づいてなかったんだな…)」
助けられたという事実による安堵。
それによって、聡は自分でも気づいていなかった“想い”に気づく。
「(…俺、玲菜の事……)」
「ね、優輝君、あれ…」
「しっ、良い雰囲気だから邪魔しないように…」
「あ、うん。」
誰かが来るまでの間、男たちが復活しないように男たちが持っていた縄などで手を縛っていた優輝と司は、二人の雰囲気を見て邪魔をしないようにする。
「それにしても、この人達の目的って…」
「雰囲気や態度を見た限り、愉快犯が一番妥当かな。…少なくとも、碌な奴ではないのは確かだな」
「小学生を拉致する時点で…確かにね…」
“良くて停学だろうな”と割とどうでもいい事を考えながら、二人は先生を待った。
=優輝side=
「…それで、付き合う事になったの?」
「そうみたいだよ」
帰りの飛行機の中で、司と佐藤さんがそんな会話をしている。
僕と東郷も、後ろの方の先生の近くに座っている聡と玲菜の方を見ていた。
「どっちから告白したのかな?」
「聡らしいぞ。何でも、もしかしたらずっと好きだったのかもとの事だ。」
「わぁ…恋愛モノみたい…」
「それでトラブルがあったのにあんな状態なのか…」
聡と玲菜は互いに恥ずかしそうにしているが、それでもピッタリとくっついていた。
…あ、隣の先生が胸焼け起こしてる…。
「ま、ようやく想いが通じ合ったって所だな」
「そうだねー」
「…ところで、その高校生はどうなったんだ?」
東郷がふと気になったのか、僕に聞いてくる。
「聞いた話だと、有名な不良校らしくて、同じように修学旅行に来ていた僕らから金でも盗るついでに性的暴行を加えるつもりだったらしいよ。当然、退学処分。まぁ、後の就職とかは…僕らの知った事じゃないな」
「…絵に描いたような悪い奴らだったんだな…」
「ま、過ぎた事だ」
想定外の事や、トラブルはあったけど、それ以外は楽しかった。
…頭に残しておくのはそれでいいだろう。
後書き
主人公たちそっちのけでラブコメしている二人。
今回の話だけ主人公とそのヒロインみたいになっています。
…あれ?どうしてこうなった…?
この話で後に繋がるのは沖縄に住む式姫との繋がりを持つ事です。
無理矢理サブキャラに見せ場を与えたら何故かこうなりました。
魅せ場を与えすぎるとサブでは済まないし、かといって控えめにするとなぜ描写したとなる…サブキャラの扱いって難しい…。
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