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真田十勇士

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巻ノ九十四 前田慶次その八

「思いきりのう」
「前田殿らしいですな」
「ははは、叔父御とは歳も近くてな」
「それで、ですな」
「若い頃から喧嘩も多くてな」
「その時もですか」
「前田家を出ておったが」
 これまた悪戯で前田を水風呂に入れてそのうえで出たのだ、しかし前田家を出ても絆はあったのだ。
「それでも太閤様への無礼でな」
「前田殿に殴られ」
「これが随分と痛かった」
「前田殿の拳は」
「かなりな、しかしじゃ」
「それでもですか」
「ああなるとわかっておったからあえてしたやんちゃじゃ」
 慶次の笑みは変わらない。
「それだけのことじゃ」
「小さなことだと」
「そうじゃ、結局わしは大きな傾きはしておらぬ」
「天下の向こうを回す様な」
「うむ、しかし貴殿達は違う」
 幸村達はというのだ。
「若しかすると天下を回すやも知れぬからな」
「前田殿以上の傾きをすると」
「そうじゃ、傾奇者じゃ」
 その慶次の言葉だ。
「わしなぞ足元にも及ばぬ天下無双のな」
「ううむ、そうなのですか」
「傾き続けたわしが言うから嘘ではない」
「それがし達は天下一の傾奇者ですか」
「最後の最後まで傾いてみるか」
「はい、それならば」
 確かな声でだ、幸村はここで慶次に答えた。
「最後まで志を貫き」
「傾くか」
「そうしてみます、約束しましたし」
「約束とな」
「ある方に」
「それもあってか」
「幕府を向こうに回しても」
 それでもというのだった。
「それがし達は傾きます」
「ではな」
「はい、それを傾きというのなら」
「そうされよ、ではその心を見た」
 幸村達のそれをというのだ。
「では御主達にな」
「はい、これよりですな」
「わしの術を授けようぞ」
「拙僧に」
 伊佐が応えた。
「そうして頂けますか」
「ではな」
「はい、それでは」
「これよりな」
 こう話してだ、そのうえでだった。
 慶次は幸村と伊佐を連れてだった、茶の後でだった。自身の屋敷に連れて行った。そうしてその屋敷にある道場においてだった。
 早速稽古をはじめた、慶次はかなり巨大な棒を出して伊佐に言った。
「これよりはじめるが」
「前田殿の術はですな」
「言葉で話すものではない」
「じかにですな」
「手合わせをして覚えてもらう」
「そうしたものですか」
「そもそもわしは言葉は苦手じゃ」
 慶次は笑ってこうも言った。 
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