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魔弾の王と戦姫~獅子と黒竜の輪廻曲~

作者:gomachan
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第19話『剣の時代が終わる時~ナヴァール騎士団全滅!?』【アヴァン】

『彼』――ロランはただ、時代と共に生きて行きたいだけだった。

騎士達を束ねる『団長』として、部下を見捨てるような、無様な『敗北』……ディナントの戦いで醜態をさらした、ザイアン卿のように自分だけ逃げるなど。

民を守ることを至高とする『彼』には、見捨てることなど、絶対に許せないことだった。

あの時、陛下に忠誠を誓った日――――

いかなる時代であろうとも、使命を課せられた騎士達は、気高き精神を己が『剣』とし――穢れなき不屈の魂を我が『盾』となりて、力無き者たちを守り抜いてきた。

だが――国という得体のしれない組織の中で、『目に映るすべてを救う』ことはできない。

彼らは王の承認にのみ動ける。故に 、王の言葉でしか動くことができない。

守りたくても――

助けたくても――

命令がなければ――

命令さえあれば――

騎士団とはいえ、所詮は駒にすぎない。戦場という盤上に、王を守る為だけに動く――

分かっていた。騎士の洗礼を受けた時からずっと――

それでも、騎士も生きた人間だ。迷い、戸惑う『心』を持っている。
ロランが……騎士達が時代に求めるものは、この胸に宿した『星』という命を燃やせる戦いの場。
戦いに明け暮れ、戦いのみ知る。
『民を守るために』育て上げた部下たち……己が仕込んだ聖剣技の使い手たち。

こいつらと共に……ブリューヌを削り取っていくネズミ共から、郷地を守っていける。
それで十分だと思って いた。

陛下の敵を殲滅する――
一兵たりとも残さず斬り捨てる――

それらの信念が、陛下と民を守ることにつながると信じて、ロランは|不敗の剣≪デュランダル≫を振るい続けてきた。

民を守るという、同じ正義を辿る『ティグルヴルムド=ヴォルン』と相対するまでは――

脳裏によみがえるは、テナルディエ公爵とガヌロン公爵の言葉。

――売国奴ティグルヴルムド=ヴォルンを反逆者として討伐せよ――
――そして、国内を蹂躙するジスタートを一掃してほしい――

いかなる理由であれ、陛下の許し無く他国の人間がいる以上、足を踏み入れることなどさせない。
……しかし、反逆者とはいえ、民を守るために戦う弓使いの少年を討つことが、本当に正しい命令なのか?
ヴォルン伯爵の義に応え、兵と力を貸し与えたジスタートを殲滅することが、果たして行うべき命令なのか?
命令の是非を問うことは、自分の役目ではない。自分は陛下の敵を殲滅する騎士の一人だ。
分かっていても、迷いは振り切れない。『銀閃』と『光華』の二つの『呪術の嵐』を抜けた先の、たった一本の『矢』。

魔弾と不敗~二人は互いに心へ問う。

心をさらけ出した宝剣の輝きと、魔弾の一念。

ヴォルン伯爵の放つ、大気の中を(はし)らせた『魔弾』が、その目にありありと浮かんだ『正義の矢』がロランの胸を差し、静かに問いかける。――ロラン。お前の信じる正義は、何なのかと。

天上を見守る神々は何を思って、俺とヴォルン伯爵を 戦わせた?
民を守るために、宝剣を授かった。
その授かった剣で、俺の本当に斬り伏せるべきものは何なのだ?
俺は今……何を斬り捨てようとしているのだ?

――守るために!!!!――

ロランは衝動に突き動かされるように、『不敗』を以って『魔弾』をねじ伏せた。

結果――ロランの肉体は降伏を宣言した。腕が上がらんと。

迷いを捨てきれなかった結果がこれか。

だが、心のどこかで、迷いの晴れたかすかに、晴れたものさえも感じていた。

強すぎる信念は、己が心を『盲目』にしてしまう。異なる正義を持つものを、殲滅するまで戦いをやめはしないのだから。

迷いは、己にも同志にも『死』を容易にもたらしてしまう。しかし、迷うからこそ、いくつもの未来の 可能性へ気づくことだってできる。

そう――ヴォルン伯爵を反逆者にしたのは誰なのか……を――

初めての敗北という、このような結末に辿り着いたこと……裁定に無慈悲な女性、断罪の女神(デュランダル)の下した審判なのか?

『デュランダル』――既に正義を疑いつつある自分にとって、この宝剣の名はあまりにも矛盾している。

結局、自分は何をしてきたのだろうか?

奸計な敵の言葉に耳を傾けず、ただ一刀のもとに斬り伏せる。宝剣の輝きに目が曇り、幻実ともに盲目となっていたのだろうか?

本来であれば宝剣の輝きは、守るべきものをほのかに照らす『晶光』でなければならないはずだ。はずなのに――

守るべき何かが見えていなかったのだろうか?

敵の甲冑を、盾を 、剛剣を砕くデュランダルを以てしても、『目に映らない』ものを斬り捨てることはできない。
なおのこと、オリビエから聞きした『勇者』の存在に、別種の尊敬さえ抱いてしまう。

――シシオウ……ガイ――

政敵ガヌロンと敵国ジスタートをけん制する目的で、アルサスを焦土とせしがたん為に動くテナルディエ軍三千を、たった一人でを迎え撃った勇気ある青年の名前。

打算がないから、益を求めることもなく――

情に深いから、理由で動くことができる。ただ「助けて」という、難しい理由などいらない声で――

騎士として完璧なのだ。その男は。

その男……ガイと同じように、気高い精神の元で、『民を守る』為に戦いたいと願った。
戦いを望まずとも、騎士の本懐を遂げ るその時は必ず来る。

待った甲斐あり――訪れたのは、ムオジネルの『飢狼』共。

ヴォルン伯爵を取り計う為に、陛下に謁見するのを狙ったかのように飛び込んだ、火急の知らせ。
ガヌロンの思惑はどうだか知らないが、公爵はこう告げた。

――陛下の心を病ませ、民を苦しめるムオジネルの飢狼どもを一掃してほしい――

西の『末端』に防衛拠点を敷く彼らにも聞こえ、全くもって不愉快極まりなかった。
民を奴隷とし、それも『薪』程度の認識しか持ち合わせておらぬ外道の連中に、屈するわけにはいかない。
アスヴァール、ザクスタンの守りを放棄してまで、ロランを向かわせるガヌロンの意図は読めない。
だが、今こうしてムオジネルにブリューヌの大地を蹂躙し ようとしている現実がある限り、戦わねばならない。
誇りと意地と精神のワルツが、己が律動が理性を許さない。

――すまない。オリビエよ――

情勢を見極めるに長けたお前の瞳からすれば、愚かな選択かもしれんな。
だが――

その衝動に従ったのは正しき選択だった。

くすんだ赤髪の弓使いの少年の姿――その背中を守るのは、青髪の槍を振るう少女の姿。
ロランの魂は熱く震えた。
オーランジェ平原でのヴォルン伯爵の言葉。
――ブリューヌの民を守るために、あなたの言う『侵略者』と戦おう――
一騎打ちの直前に告げた言葉に、嘘偽りなど無かったのだから。
とはいえ――
戦況の旗色がかなり悪い。
兵力の物量に適ったムオジネルの戦術が 、援軍として駆け付けた『流星の騎士団』を圧壊しようと攻め立てる。
彼らはよく戦っているが、兵力を向こうに回して、いずれ追い込まれるのは目に見えている。

――――ヴォルン伯爵

貴殿は何を想い、その弓弦を引き続け、戦い続ける?
叛逆者である貴殿が……?
目前ではめまぐるしく入れ替わる敵と味方――自分が討つべき敵はもはや明白だ。
この日、後に『オルメア会戦』と呼ばれる戦いの中で、互いの信念を認め合った。そして確信した。

――そうだ。ともに戦う『勇者』たちがいれば、どのような敵がこようとも、決して負けることはない――
――この『仲間』たちさえいれば……――

辛くも勝利して、再び西方へ帰還する我らは、再び『時代の動乱』の渦 に巻き込まれていく。
渦に巻かれ、風と共に舞い込んできたのは、凶報の要件。
テナルディエ、ガヌロンの両家は反逆決起(クーデター)を宣言。
銀の逆星軍(シルヴリーティオ)の樹立を宣言し、その証としてヴォルン伯爵率いる銀の流星軍(シルヴミーティオ)を打ち破ったと。
正式に下されるボードワン宰相からの命令――逆賊テナルディエ、ガヌロンを討て。
そう……我々『ナヴァール騎士団』に勅命を下した。

分かりやすい正義。
分かりやすい敵。

そして何よりも、果たさねばならないヴォルン伯爵との大義。
彼が朽ち果てたとは思っていない。

ただすべきことは、ヴォルン伯爵の正義を認めた証として、この宝剣の正義の在り処を示すだけだ。

これより始まる『不敗』と『逆星』の戦い。

ナヴァール騎士団……剣に生き、剣と共に生きてきた時代の終焉を告げる『銃声』が、今、鳴り響こうとしていた。







Aパートへ続く。 
 

 
後書き
次回、ロラン率いる『ナヴァール騎士団』の騎士と、グレアスト率いる『銀の逆星軍』の銃士が衝突します。 
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