憑依先が朱菜ちゃんだった件
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第3話 改訂版(2019/04/30)
前書き
こんにちは、沙羅双樹です。
本作の朱菜はNARUTOの六道仙人と封神演義(フジリュー版)の妖怪仙人をベースとした存在です。
それに伴い、本作での仙人の定義も封神演義(フジリュー版)をベースにすることになりました。
つまり、仙人=肉体が滅んでも、魂魄が健在なら再生する不老者ということです。
そんな訳で、本作ではルべリオスに所属する七曜の老師も設定が原作とは異なるか、原作通りの仙人(偽)という存在になる可能性があるので、その点をご了承下さい。
【視点:リムル】
中年&青年大鬼族の頭を地面に叩き付けた朱菜と呼ばれる桃髪美少女巫女(?)は、地面に頭が減り込んだままの2人を無視して、俺の方にゆっくりと近付いて来た。
もしかして、この娘とも戦うことになるのか?と、少しばかり身構えていると朱菜は急に立ち止まり、俺に向かって頭を下げてきた。
「この度はお父様とお兄様、同胞の皆がご迷惑をお掛けしました。深く謝罪申し上げます」
「「「!?」」」
「「「「「姫!!?」」」」」
攻撃を仕掛けてきた側の関係者に謝罪されるとは思っていなかった俺とリグル、ゴブタは絶句し、中年&青年大鬼族が地面に叩き付けられたことでフリーズしていた他の大鬼族達も朱菜の行動が予想外だった様で驚きの声を上げた。
「姫!何故、その様な魔人に頭を垂れるのです!?その魔人は里を蹂躙した――――」
朱菜の俺に対する行動に物申す老大鬼族。それに対して朱菜は―――
「黙りなさい、爺」
波紋模様に巴紋が浮かんだ万華鏡の様に煌めくワインレッドの眼を向けながらそう告げ、老大鬼族を黙らせた。っていうか、さっき他の大鬼族も言ってたけど、この朱菜って娘は大鬼族の姫なの?
俺、さっきから心の内でバリバリ呼び捨てにしてんだけど、実際に名前を口にする時は様付けで呼んだ方がいいのか?
「身内が勘違いで豚頭族とは無関係の方々を攻撃したのです。謝罪するのは当然でしょう」
「勘違い、だと?」
「「「「「若!!」」」」」
おおっ!生きていたか、赤髪青年!!この場にいる大鬼族達も赤髪青年の復活を喜んでいる。っていうか、下手したら死んだんじゃね?とか俺は思ってたんだけど、こいつらも赤髪青年のことを死んだと思ってたのか?喜び様が半端無い。
そんな周囲の反応を無視して、赤髪青年は朱菜との会話を続ける。結構シリアスな雰囲気を出そうとしてるんだけど、地面に叩き付けられた拍子に強打したのか、2本の角の間に瘤が出来ていてシリアス度が半減だ。
「御袋が感知した以上、そいつが魔人級の力を持った生物であることに間違いはない!魔人級の生物である以上、俺達の里を豚頭族に襲わせた魔人と繋がりが―――」
「魔人級の力を持つ者全てが魔人ゲルミュッドと繋がっていると申されるのですか?ならば、魔人以上の力を持つとされている私はどうなるのですか?
私は魔人ゲルミュッドの配下ですか?それとも魔人ゲルミュッドに里を襲う指示を出した首魁?どちらにせよ、私は里と同胞を滅ぼそうとした裏切り者になりますね」
「――――ッ!!だ、誰もそんなことは―――」
「言っています。お兄様の言い分ではそういうことになるのです」
「だ、だが、そいつはあの魔人と同じ仮面を―――」
「この方と魔人ゲルミュッドの仮面は形状も含めて全くの別物です。魔人ゲルミュッドの仮面は鷲鼻の付いた布製のただの仮面でした。対してこの方の仮面は抗魔の力が付与された魔鋼製です。
それに私は輪廻転生写輪眼で豚頭族を引き連れて来たと思しき魔人を確認しましたが、その者がしていた仮面は怒った道化師を模した物であった上、抗魔の力は付与されておりませんでした」
おいおい。妹に言い負かされてるぞ、お兄さん。朱菜が逆論破されるのも困るが、このまま兄貴としての威厳も見せずに終了されるのも何か悲しい。
俺がそんなことを考えていると、今度は赤髪中年が地面から頭を引っこ抜いて立ち上がり、口を開いた。
「……その者が里を襲った魔人と無関係というのは本当か、朱菜?」
「親父!」
「……お父様。私達の会話を聞いておられたのですか?」
「ああ、息子が起き上がった時には意識を取り戻していたのだが、地面に叩き付けられた衝撃で体が中々動かせずにいた。私も歳だということだ。そんなことより―――」
「この方が魔人ゲルミュッド及び豚頭族を引き連れた魔人と無関係なのは事実です。まだ疑っておられるなら、自分の眼でこの方の持っている仮面を確認されれば宜しいかと」
「ふむ。では、仮面を改める前に1つ問わせて貰おう。お前は何者なのだ?多種多様な魔物の技能を体得している種族など聞いたことが無い」
警戒しつつも先程までの敵意を向けずにそう尋ねてくる赤髪中年。それに対して俺は包み隠すことなく真実のみを口にする。
「俺はスライムだよ。まぁ、ただのスライムじゃなくて、この姫さんと同じ名有りのスライムだけどな。ちなみに名前はリムルだ」
「俺達を馬鹿にしているのか?貴様がスライムなどと信じられる訳―――」
俺が正直に答えたにも拘らず、赤髪青年が信じようとしなかったので、俺は嵐牙狼族のランガに乗ると人間の擬態を解き、通常形態であるスライムへと戻った。
「ま、真にスライムなのだな」
「この状況で自分の種族を偽って何の利点がある?あと、俺の持ってる仮面はある女性の形見で、手元に戻って来たのも今朝方だ」
ある意味予想通りだけど、この場にいた殆どの大鬼族が俺の基本形態を見て驚いている。赤髪青年など顎が外れんばかり口を開き、呆ける始末だ。
そんな中、1人だけ俺の基本形態を見て驚いていない者がいた。それは俺と大鬼族達の中間地点に立っている朱菜だ。どうやら彼女は普通の大鬼族ではない様だ。
……取り敢えず、身の潔白を証明する為にも朱菜の言っていた様に仮面を改めて貰うことにしよう。
「お前らの里を豚頭族に襲わせた魔人のと同種の仮面か改めてくれ。あっ、形見だから汚すのは勘弁な」
俺がそう言いながら仮面を差し出すと、一番近くにいた中立の立場をとっている朱菜が受け取った。
「申し訳ありませんが、少しばかりお預かりさせて頂きます」
「うむ」
……自分で言っといてなんだが、「うむ」って何様だ?普通に考えて他種族の姫に対する態度じゃないよな?けど、そんな俺に対して朱菜はツッコミや嫌悪といった反応も見せず、受け取った仮面を大鬼族達の所へと持って行く。
リグルド達にやった校長ネタでもそうだったけど、して欲しい時にツッコミを貰えないっていうのは何か悲しいな。と、こんなことを考えている内に仮面が大鬼族達の手に渡った。
「言われてみれば、里に現れた魔人のとは異なる様な。形状も道化師には全く見えぬ……」
「朱菜の言う通り、この仮面には抗魔の力が備わっている様です」
「では、あの魔人の仮面とは別物になりますな。あの魔人は妖気を隠してはおりませんでした」
「ということは……」
仮面の改めを終えた赤髪中年&赤髪青年、白髪巫女お姉さん、居合爺さん、他多数の大鬼族が一斉に俺に視線を向けて来る。
そんな中、朱菜は俺の仮面を赤髪中年の手から抜き取ると、俺のいる所までやって来て仮面を差し出してきた。
「リムル様、改めて謝罪させて頂きます。お父様やお兄様を含め里の者が大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
「こちらの勘違いで攻撃を仕掛けてしまい、申し訳ない。虫のいい話と思うかもしれぬが、どうか謝罪を受け入れてくれぬか?」
立ったまま深々と頭を下げる朱菜と片膝立ちで首を垂れる赤髪中年。その後ろには同じ様に他の大鬼族達が頭を下げている。そんな集団で謝罪なんてされたら、俺調子に乗っちゃうじゃん。
「うむ、苦しゅうない。ところで、そっちの名有りの御嬢さん――朱菜さんだっけ?朱菜さんは本当に大鬼族なのか?他の大鬼族達と違って角がないみたいだけど」
うん。我ながらうざいくらいに調子に乗った。「苦しゅうない」って、何処の殿様だよ。あっ、調子に乗ったついで(?)に気になっていたことを聞いてみた。
ぶっちゃけ、この朱菜って娘は普通の大鬼族とは思えないんだよね。他の大鬼族と違って角が無いし、あの不思議な眼も気になる――って、あれ?瞳孔と虹彩の形が変わってる?
さっきまで波紋模様に巴紋が浮かんだ万華鏡の様に煌めくワインレッドの眼だったのに、今は普通(?)の赤紫色の眼だ。
「リムル様。私のことは朱菜と呼び捨てでお呼び下さい。そして、先の質問にお答えするなら、私は大鬼族ではありません」
「……大鬼族じゃないのか?」
大鬼族じゃないのに、大鬼族で姫として扱われてるの?俺がそんなことを考えていると、朱菜は俺の疑問に答えてくれるように話を続けてくれた。
「私は大鬼族の父と母の間に生まれた突然変異の上位種―――仙鬼と呼ばれる種族なのです」
「仙鬼?」
「リムル様は仙人というものをご存知ですか?」
「えっと、仙人ってあれか?不老不死で不思議な力を使う人間のあれか?」
「まぁ、概ね間違ってはおりません。正確には不老ではなく、18歳以降の老化速度が極端に遅くなるだけなんですが……。あと、不死というのも正確ではありませんね。
老化などで体が朽ちることはありませんが、外的損傷で体を滅することはできます。ただ、仙人となった者は魂魄生命体なので、体を失っても魂魄が健在なら時間を掛けることで肉体を再生させられます。
あと、仙術と呼ばれる魔法とも妖術とも異なる力を使える。仙人とはそういう存在です。
そして、仙鬼とは鬼族――子鬼族や人鬼族、大鬼族等から仙人へと至った種族なのです。
仙鬼へと至った者は自身の力を制御することで人間と同じ姿へと変化できる様になり、戦闘時に晒すのも人間と魔物の両方の特性を有する半妖態という姿で、生まれながらの本来の姿を晒すのは人化も半妖態も維持できない弱っている時か、力を制御できなくなっている時くらいなのです」
「……えっと、つまり君は現在力を制御できる状態だから角の無い人間の様な姿に変化してるってことか?」
「そういうことになります」
「……仙鬼ってことは、仙術ってのが使えるのか?」
「はい。お見せしましょうか?」
俺が何となしに仙術を見てみたい的なことを言うと、朱菜は特に戸惑う様な素振りも見せず、そう返してきた。
「え?いいの?」
「見られて減るものではないので、構いません。ただ仙術は攻性術式の方が多いので、見せるとなると村落などが無い方向に向かって放つしかないのですが……」
「……リグル、ここら辺って俺達の村落以外は未開拓領域だよな?」
「と、東方に子鬼族の村落が点在してますが、南方なら山なので問題ないかと」
「じゃあ、南に向かって放ってみてくれないか?」
「えっと、それでは使わせて頂きます」
朱菜はそういうや否や、瞳を波紋模様に巴紋が浮かんだ万華鏡の様に煌めくワインレッドの眼へと変化させ、更に全身をオレンジ色に光らせ始めた。
このオレンジの光は身体の内から外に漏れ出した魔素か?それとも仙人特有の何か特別な妖気ならぬ仙気か?
俺がそんなことを考えていると、朱菜はその手に手裏剣の様な風の刃(?)を取り付けたソフトボール大の球体を作り出していた。
その球体は、キィーンと甲高い音を上げながら、最終的にバスケットボール位の大きさとなった。それを見ていた俺は本能でヤバい術だと理解した。
「ちょ、待っ―――」
「では、いきます。仙法風遁・螺旋手裏剣!!」
そして、俺が止めるより早く朱菜はその術――仙法風遁・螺旋手裏剣(?)を投げてしまい、投擲先の木々をズパズパ斬っていったかと思えば、途中で術が弾けた様でその衝撃余波が俺達を襲った。
衝撃余波が治まり、顔を覆っていた腕を退けると大鬼族一行を含めた俺達は唖然とした。何故なら仙法風遁・螺旋手裏剣(?)の弾けた地点が禿山どころかクレーターになっていたからだ。
………よし。この先どんなことがあっても朱菜とだけは敵対しないことにしよう。っていうか、大鬼族の奴らも朱菜の仙術を知らなかったのか、男性陣は顎が外れんばかりの大口を開いてるぞ。
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