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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第九十二話 各々「天王山」奪取に向けて準備します。

時系列はやや前後するが、帝都オーディンではラインハルトの自由惑星同盟軍撃退の勝報を聞いたベルンシュタイン中将らが軍務尚書の下を訪れていた。今回はベルンシュタイン中将のみならず、フレーゲル男爵らも来ている。
「あの孺子はいつ頃到着する予定ですかな?」
フレーゲル男爵が尋ねた。
「約3週間後となる旨言ってきておる。凱旋の旅だ。急ぐ行程でもあるまいからな。」
軍務尚書の言葉には皮肉が満載されていた。
「あの孺子が帝都に帰還した暁にはさらなる恩賞をもって報いることでしょう。ですが奴は今元帥。今後さらなる高みを目指すのであれば、ミュッケンベルガー主席元帥の後釜となるか、あるいは爵位を上げて帝室に名実ともに連なるようにするほかありません。」
ベルンシュタイン中将が発言した。万座は彼の発言に嘲笑をもって報いることはしなかった。すでに「彼は自由惑星同盟の襲来を撃退するでしょう。」という彼の予測は的中しつつあり、その結果ラインハルトの台頭がいよいよ目に見えるところにまで迫ってきたからである。
「となると、如何いたせばよろしいか、ご一同。」
ブラウンシュヴァイク公爵一門の貴族が新たな話題への口火を切る。
「決まっているではないか、彼奴をひっとらえ、帝室に反逆する者として罪をかぶせ、処断すればよい。」
フレーゲル男爵が言う。
「強引すぎはせぬか、そのような証拠など今我々には一欠片もないのだぞ。」
軍務尚書が苦い顔をする。ところが、フレーゲル男爵はうっすらと笑みを浮かべた。
「実はそのことに関して吉報がございます。これを・・・・。」
ベルンシュタイン中将が入手し、それをフレーゲル男爵に渡したものであったが、彼はさも自分が手に入れたがごとくエーレンベルク元帥にそれを渡した。数通の書簡であったが、それに目を走らせる元帥の顔色は変わった。
「これは・・・まさか、そんな馬鹿な・・・・!!」
「事実は小説よりも奇なりと申します。そこに書かれていることがまさしく真実の物であることは、このベルンシュタイン中将の手によって調査済みです。」
「これは見過ごすことはできぬ。すぐに宮内尚書に話すことといたそう。」
軍務尚書は慌ただしく部下を呼ぶと、直ちに宮内尚書に至急話したいことがある旨を連絡させ、すぐに他の2長官と連絡を取るために部屋を出た。その間、フレーゲル男爵は醜悪とすら呼べる笑みを浮かべて一門、列席者を見た。
「彼奴が潔白であろうが黒であろうが、このようなものが見つかったのであれば処断されることは明らかだ。これまでというわけだな。」
「無論その通りです。しかしながら今の彼奴は大軍を擁する身。ここは帝都に帰還するまでは何事もなかったかのように振る舞うのが上策かと思いますが。」
ベルンシュタイン中将の意見にフレーゲル男爵はうなずき、列席者たちを見まわした。
「その通りだ。このことに関しては硬く秘しておかねばならぬ。」
ベルンシュタイン中将も同様だったが、念には念を入れなくてはならない。集会が終わるや否や、彼は万が一あの金髪の孺子と戦闘に突入した際に最も頼りになるであろう人物の元に向かった。


しばらくして――。


 ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ提督は上級大将となり、男爵となった現在も暮らしぶりは謹直であり、その家庭も静かなものだった。息子はいなかったが、二人の娘は健やかに成長している。長女ブリギッテは今年18歳、次女クレメンティーネは今年15歳、いずれも父親ではなく母親に似たため、親族一同の間では冗談めかしてメルカッツ提督の血筋を引いていないのではないか、などと取りざたされている。
「あなた、パディントン中将とおっしゃられる方がお見えになりましたが。」
メルカッツ夫人が書斎で書見をしている夫に声をかけた。メルカッツ提督は来訪者の姓を聞いて一瞬記憶の糸を辿る表情を見せたが、すぐにいきついたらしく、
「客間にお通ししておきなさい。すぐに行く。」
と、夫人に言った。
「それが・・あなた、何でも急用でいらっしゃるという事なのですが。」
「急用?」
メルカッツ提督の瞳が、当惑したように立ち尽くす夫人の背後にいるバーバラをとらえた。彼の無言の問いかけに、彼女は上級将官に対する敬意をもって直立不動の姿勢をもって応えた。
「非礼を承知でこのように尋ねてしまいました。申し訳ありません。ですが事態は急を要するのです。」
顔色が悪く、今にも切迫した勢いだったので、メルカッツ提督もただ事ではないのだろうと判断した。
「では、ここで話を聞こうか。」
メルカッツ提督は妻に下がるように合図をしようとしたが、バーバラはそれを遮った。
「いえ、私の要件は提督のみならず、ご家族にも関係があることなのです。ですから、奥様にもいてもらった方がよろしいかと思います。ご息女方にも。」
メルカッツ提督の射る様な視線が彼女の言葉に応えた。


 同じころ、アレーナ・フォン・ランディールはリヒテンラーデ侯爵の元を訪れていた。リヒテンラーデ自身は侯爵令嬢とは面識はないものの、マインホフ元帥と良い茶飲み友達なのであり、この一風変わった息女の事はよく知っていたのである。
 彼女とリヒテンラーデ侯爵は一時間にわたって綿密に話をつづけた。いくつかの書簡が話の合間に出たほか、アレーナが持参した録音データがリヒテンラーデ侯爵の眼を奪った。
 彼はアレーナの提案に賛同する意思を示した。老獪と評されるリヒテンラーデ侯爵にしては珍しいほどの即決ぶりであった。


 中将に昇進したばかりのウルリッヒ・ケスラーは科学技術部門総括としてローエングラム元帥府に勤務していたが、同時に彼は秘密裏に特命を受けていた。すなわちいざともなれば影の憲兵隊総監として行動せよ、平素は憲兵隊とは別に情報収集に当たれ、というのである。その彼のもとにラインハルトから指令が飛んだ。かねてよりの策にしたがって、ある人物に接触せよ、という物だった。
 そういうわけで、彼は「ある人物」の公邸を訪れたのである。彼の地上車が門前に到着すると、ちょうど門扉が開くところだった。黒塗りの公用地上車が門扉を窮屈そうに通り抜けようとしている。ケスラーが近づいていくと、門扉を守る兵士たちが一斉に銃を彼に向けた。
「お待ちください。私はローエングラム元帥府所属、ウルリッヒ・ケスラー中将。司令長官閣下に緊急の要件があるのです。」
なおも制止しようとする兵士たちに向かい、ケスラーは身分証とローエングラム元帥からの書簡を提示した。ウィンドウが開き、ミュッケンベルガー元帥の不機嫌そうな顔がケスラーの視界に入った。
「私は忙しい身なのだ。高々一中将の申し出にかかわりあっている暇などないのだが。」
彼の苦言にかまわず、ケスラーは窓に近寄ると、二言、三言ミュッケンベルガー主席元帥に話しかけた。元帥の苦み走った顔が一層苦々しくなったが、
「予定が変わった。邸に車を戻させよ。そちらの客人を居間に通しておけ。」
と、180度違う言葉を発したので、幕僚たちも兵士たちもびっくり仰天した。だが、仮にも宇宙艦隊司令長官が冗談で物事を言うはずもない。ましてや謹厳さで名の知れたミュッケンベルガー元帥であればなおさらだ。兵士たちはただちに車を戻させ、元帥はケスラーを伴って邸内に入っていった。
 わずか5分後に、二人は実質一本槍であるが、調度の良い居間の応接セット越しに向かい合っていた。ケスラーは包み隠さず、腹蔵なくローエングラム陣営の立場、そして敵側の目論見を話した後、
「ローエングラム元帥閣下にお味方していただきたい、とは申しません。ですが、これから先に待っているのは明らかに内乱です。閣下は賊に加担し、その内乱を拡大させるおつもりですか?」
「私は帝国軍人として元帥杖を預かり、幾百万の兵を指揮する身である。軽々しくは進退はせぬ。ましてや一介の私情で加担することなどは軍人として恥ずべき行為だ。そうではないか?」
「質問に答えていただけますでしょうか?」
社交界で有れば忌避、忌み嫌われた問いかけに対してミュッケンベルガー主席元帥は明らかな不快さと明確さをもって答えた。
「私はブラウンシュヴァイク公爵に加担することも、ローエングラム元帥に加担することもない。」
「そのお言葉だけで結構です。」
ケスラーは頭を下げた。ミュッケンベルガー元帥の金髪の孺子嫌いについてはよく聞かされていたため、あまりに執拗な説得は逆効果になると言われていたし、彼自身もそう思っていた。
「だが、一言言っておこう。仮に卿等のいずれかが皇帝陛下を弑しようとするのであれば、私は躊躇なく動くこととなる。ローエングラムの孺子にはそう伝えておけ。」
ミュッケンベルガー主席元帥がそう言った時、ドアがノックされたので、幸いケスラーはこれに対する返答をせずにすんだ。幸い、と言ったのはこの明白な立場の宣言にどう回答してよいか、考慮するのに数秒の時を要したからである。
「入れ。」
入ってきたのは幕僚の一人だった。
「軍務尚書からの御伝言です。内容は――。」
「わかっておる。一刻も早く軍務省に来いというのであろう。」
「はっ。さようであります。」
「下がってよい。返答は私自身が行うと伝えよ。」
よほど軍務尚書から念を押されているのだろう、なおも幕僚が退出せず何かを言い出しかねていると、ミュッケンベルガー主席元帥は横柄な身振りで、下がるように指示した。幕僚は一抹の不安を浮かべながら敬礼し、退出した。
「私の権限で統御できるのはあくまで艦隊とその司令部のみであって、軍務省及び軍政各部署には宇宙艦隊司令長官の指令は届かぬ。卿等には既に承知していることだとは思うが、念のために申し伝えておく。」
「承知しております。閣下におかれましてはご自身の直卒艦隊及び麾下司令部に対して令を発していただければ十分でございます。ですが、お一人だけ閣下のお言葉に少なからず耳を傾ける人物がおりましょう。」
む?とミュッケンベルガー主席元帥は眉を眉間によせたが、
「なるほど、あの御仁がおったか。暗愚な人物ではないが、私の忠告を聞くとも思えぬ。」
「閣下御自らがわざわざ出向かれる必要はございますまい。いずれ先方が閣下に使者を遣わすこととなりましょう。」
会見は短かった。ケスラーは早々にミュッケンベルガー主席元帥のもとを辞去した。そこから先はミュッケンベルガー主席元帥と当人次第である。口には出さなかったがケスラーはそう思っていた。ミュッケンベルガー主席元帥が敵側に加担しないことを明言した、そのことで今回の訪問の目的は達成されたのである。
彼は邸を辞去し、地上車に乗る前に虚空を見上げた。青い空には恒星ソールの眩い光が輝いている。いずれあの恒星の光を消す勢いで無数の艦艇がやってくるだろう。ローエングラム元帥麾下の艦隊が。だが、おそらくこの空を見ているであろう人々のうちいったい幾人がそのような事を予測できるというのだろうか。
 いや、とケスラーは思う。ローエングラム陣営に属しているからこそ、時代の改革者の一員として時勢を動かす立場にあるのだ。大半の帝国人民は受身一方、物事を動かすことそれ自体を想像すらできないに違いない。彼らにとって重要なのは官憲ににらまれないように保身をすることなのだから。誰がそれを責めることなどできよう。それができるのは物事を超越してみることのできる大神オーディンだけではないだろうか。そしてそれは他ならぬ自分たちの行く末についても言えることだろう・・・・。
 ケスラーはかぶりを振り、地上車に乗り込んだ。車は長居は無用とばかりに直ぐに発進する。後部座席にもたれながらケスラーは考えていた。いつの間にか想像の翼を広げすぎていたようだ。無限の未来よりも今はこれから起こりつつある近い将来に思いを傾注しなくては。



* * * * *
ベルンシュタイン中将は地下の暗所である人物とあっていた。先ほどからかたくなに話を拒む相手を訪れるのはこれが初めてではない。もう10度にもなろうというのだった。
「我が陣営にはあなたの力が必要なのです。閣下。」
「・・・・・・・。」
「何度も申し上げていますが、すでにブリュッヘル伯爵は承知されました。閣下もこの度の戦いで武勲をおたてになれば名誉は回復し、速やかなる領地・爵位の回復もあるでしょう。良いですか?あなたを表向きは流刑に処しながら、裏ではこうして帝都に留め置かれたのはブラウンシュヴァイク公爵の温情なのです。」
「正確には帝都の『地下』だがな。もう幾十日も恒星ソールの顔を拝んでいない。これが温情と表現できるものなのかな?」
皮肉満載の相手に対して全くたじろがずにベルンシュタイン中将は話を続ける。
「あなたが首を縦に振ればすぐにでも恒星ソールの姿を見ることができましょう。」
「俺は既にリッテンハイム侯爵派として戦った身だ。いまさらその志をひるがえしてブラウンシュヴァイクなどにつけるか。何度も言わせるな。」
憔悴しているが張りのある声が暗所に響く。その声の主の姿は闇に隠れてよく見えないがベルンシュタイン中将は正確にこの主の正体を知悉している。
「バイエルン候エーバルト様、あなたのそのお志には感嘆の念を禁じえませんが、しかしあなた個人の為に他人を不幸に陥れることになればそれは公明正大なものだとは言いますまい。」
「どういうことだ?!」
キッ、と相手が顔を持ち上げる気配が暗所であった。
「あなたの従妹君は今ブラウンシュヴァイク公爵の庇護下にあります。」
「貴様!!エミーリアを!!どうした!?」
囚人がベルンシュタイン中将に襲い掛かろうとしたが、足に縛り付けられている鎖が無慈悲に彼を引きずり戻した。闇の中で激しく息を弾ませている相手にベルンシュタイン中将は余裕すら見せる微笑を浮かべながら、
「誤解しないでいただきたい。従妹君は丁重にブラウンシュヴァイク公爵の別邸でもてなしてございます。ですが・・・お相手がフレーゲル男爵閣下でして、仮に閣下の態度が男爵閣下に伝われば、従妹君が少々嫌な思いをなさるかもしれません。なにしろ男爵閣下は多少嗜虐的な嗜好の持ち主ですからね。」
卑怯者ッ!!という叫びがベルンシュタイン中将の耳を貫いたが、彼は平然としていた。復讐のためならばどんな手段にも出ると決めていたからだ。
「貴様、そのような事をしてみろ!!」
「どうなさるのです?私を殺そうというのですか?それはご無理なご判断。ご覧の通り私には部下たちがついていますし、閣下の足には鎖がついてございます。それに閣下は丸腰で私どもには武器があるのですからね。」
応えはなかったが、何とも言えない咆哮のような吐息が吐き出された。
「閣下、我々に協力なされば今申し上げたことは、ひとえに私の『失言』として処理されます。それどころか閣下ご自身の名誉も回復されるのです。」
「・・・・・・・・。」
「どうなさいますか?ご返答がなければ、我々は二度とここには戻りません。そろそろ我々にも、いえ、ブラウンシュヴァイク公爵閣下にも忍耐という物がありますので。」
「よくもぬけぬけと・・・・。」
バイエルン候エーバルトは一声うめいたが、やがて力なくうなずいた。
「・・・・わかった。卿等に力を貸そう。そのかわり――。」
「ええ。」
ベルンシュタイン中将はこらえきれないような笑みを浮かべながらうなずいた。
「結構です。閣下、あなたと従妹君の安全は保証いたしましょう。むろん、閣下が我々にお力を貸し続けていただけるのならば、という前置詞が付きますが。」
そう言うと、彼は部下たちに囚人の鎖を解くように指令した。


 地下を出てきたベルンシュタイン中将を待ち構えていたのは、フレーゲル男爵だった。
「どうだ?奴は了承したか?」
ベルンシュタイン中将は無言で頭を下げた。先ほどバイエルン候エーバルトと対話した時が嘘のような寡黙さである。
「それでいい。叔父上に逆らう愚か者はどうなるか、思い知っただろう。では、いよいよ策に取り掛かる時期が来たという事だな。」
フレーゲル男爵が傲慢と言ってもいい表情を見せる。
「はい。閣下、それについてですが――。」
そこにベルンシュタイン中将の部下がやってきた。慌ただしい様子なのは、おそらく新たな情報が入ったからに相違ない。
「ローエングラム陣営が動き出しました。」
詳細を受け取ったベルンシュタイン中将はすぐさまフレーゲル男爵に紙片を渡した。フレーゲル男爵の顔色は一変する。
「これは・・・彼奴等は本気なのか?!」
「本気でしょう。でなければこのようなことをするはずがない。これは想定とは異なる事態です。こちらもすぐに準備にかからなくては。至急ブラウンシュヴァイク公爵に目通りさせていただきたい。その後すぐさま軍務尚書、統帥本部総長、宇宙艦隊司令長官に会わなくてはなりません。」
フレーゲル男爵に伴われてブラウンシュヴァイク公爵のもとに急ぎながら、ベルンシュタイン中将は思った。敵も本気である。この戦いこそがあるいは「正念場」となりうるか、と。

 
 

 
後書き
 少し更新速度を落とすかもしれません。 
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