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ランブリング!!

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【RB1】
  【RB第六話】

 RB養成学校校庭――そこは見渡す限りの滑走路。

 所々にかまぼこ型の屋根を持つ倉庫が点在し、周囲には破壊されて集められたであろうスクラップ置き場もあった。

 昼食を食べ終えたクルスはいつまでも言い争いを続ける幼なじみと妹を食堂に残し、先に校庭に来ていた。


「……しかし、無駄に広いな」


 まだ誰も居ない校庭で一人ごちるクルス――と。


「なんだ、早いじゃないか有川来栖。時間はまだあるのだから休憩するといい」

「あん? ……何だ先生か」

「フッ……随分な言い種だな。まあいいさ、暇ならRB訓練機の用意を手伝ってくれないか?」

「……チッ。気乗りしねぇが、手伝うよ」

「フフッ、ありがとう。向こうの倉庫のコンテナにあるのでね。RBで牽引して此方まで運ぶ」


 歩き出す佐久間弥恵に着いていくクルス――わりと直ぐ側にある倉庫だった。

 剥き出しに置かれていた二脚型RB四機と大型コンテナ多数、それらは牽引しやすいように車輪が付いていた。


「ここだ。このコンテナをさっき居た所まで牽引する」

「OK。さっさと始めようぜ」

「フフッ、頼もしいな。手前のRBを使え。操縦は難しくない。コンソールの類いを使うわけではないからな」


 そう言い、佐久間弥恵は階段を上り、軽やかにRBへと乗り移りクルスの反対側のRBに乗り込む。

 クルスも同様に備え付けられた階段を上り、手前のRBのハッチを開けて乗り込む。

 中は球体コアで、コア中央に立つクルス。

 コア内部に明かりが点くと機械音声が聞こえてきた。


『搭乗者ヲ確認。フィッティングヲ開始シマス』


 RBを操作しやすくコア内部が搭乗者の身体に合わせるように固定されていく。

 狭所恐怖症の人間ならまず堪えられないだろう、球体コアがどんどん迫ってくるのだから。

 球体コアが人の形に最適化され、視界が広がる。

 見える範囲は一八〇度が限界だ、これはRB自身のカメラで映し出される映像だからだ。

 とはいえ、ボディモジュールに拡張出来るだけの容量があれば周囲三六〇度全方位見ることも可能になる。

 映し出されるディスプレイと表示されたレーダーでRBの位置などが確認出来る。


『有川来栖、聞こえているな?』

『聞こえてる』

『ふむ。操作方法だが――』

『分かるぜ?』


 そう言ってコア内で手を動かすと同時にRBのアームモジュールも追従するように動く。

 球体コアが搭乗者にフィッティング――ダイレクト・モーション・システム――通称DMSによって自由な動きを再現できる。

 二脚なら搭乗者が歩けばその通り歩き、走ればRBも走る。

 だが車輪型は独特で、コア内部で足にフットペダルが形成され、車のアクセルやブレーキの様に扱える。

 走破性は高いが車輪型は跳躍が出来ない上に、瓦礫があるとその機動力も半減する。

 無限軌道型も車輪同様の操作だが、此方は瓦礫だろうと一定の速度で走破出来るのだ。

 車輪型の利点は、脚部型とは違って体力の消費が少ない点だろう。

 脚部型はコア内部で歩き、走り、跳躍したりと基礎体力がものを言うのだから。

 だが最近は脚部スラスターが増設された物もあり、以前ほど体力を使わなくなったものもある。


『うむ。DMSのお陰でそれほど難しくないからな。とはいえ、この状態でバトルをするとなればまた勝手が違う。とはいえ今はこれを校庭まで牽引して運ぼう』

『わかった』


 短く返事をしたクルス、コンテナを牽引し、倉庫を出る――いつも見る景色とは違った高さから見る景色はクルスにとって新鮮だった。

 やることは至って単純だが佐久間弥恵と協力し、校庭にコンテナを並べていく。

 片側がガルウィングの様に開くコンテナの中には火影・壱式が並んでいた。

 機体色は工業的な灰色で、各機体に番号が割り振られている。

 全コンテナを出し終わる頃には昼からの授業の為にライダーズの生徒が集まり始めていた。


『よし、クルス。今使ってる機体をさっきの倉庫まで戻すぞ。この機体はあくまでも牽引用だからな』

『わかった』


 素直に従い、佐久間弥恵が乗るRBに着いてさっきの倉庫に戻る。

 規定位置に立ち止まると球体コアのフィッティングを解除、人型に固定されたコアは球体へと戻っていきRBのハッチが開いた。

 其処から出てハッチを閉めるクルス――と、反対側の佐久間弥恵が声を掛けてきた。


「クルス、乗ってみた感想はどうだ?」

「……どうって事はねぇよ。けど……いつもと違う景色だなって思った」

「成る程。ではそろそろ戻ろう。直に始業開始のメロディが――」


 言ってる側から校内に鳴り響くメロディ、人工島全体に聴こえる穏やかなメロディはあまり授業開始の音としては適正ではない気がした。


「戻るぞ、クルス」

「あ、あぁ」


 途中から佐久間弥恵に下の名前で呼ばれ始めたクルス。

 妙に落ち着かない気持ちになるが平静を装って校庭へと戻った。


「諸君、これから午後の授業を始める。君達にとっては待ち兼ねた筈だ。ライダーズとして……RBに乗る瞬間を!」


 そう言って大きく薙ぎ払う様に右手を振るう佐久間弥恵、コンテナから既に無数の火影・壱式が羅列していた。


「ライダーズ全生徒の訓練機だ。機体には番号が割り振られているのでA組から搭乗してもらおう」

 早速乗れると嬉しそうに騒ぐライダーズの生徒だが、佐久間弥恵は毅然とした態度で言った。


「浮かれる気持ちはわからなくはないが、浮かれすぎは怪我の元になりかねん。では各員、搭乗を開始しろ。もしわからなければ私に聞け、いいな」

「「はいっ!」」


 先ずはA組から搭乗――クルスはさっきと同様に火影・壱式《一番機》に乗り込む。

 球体コアが最適化され、さっきと同様に視界が広がる。

 バイザー型の火影だからか先程牽引で使ったRBよりは僅かに視界が広く感じた。

 全員が搭乗を終えると次はB組、C組と乗り込んでいく。

 全生徒の乗り込みを確認した佐久間弥恵は拡声器を使って声を上げた。


「先ずは一歩、歩いてみろ! RBの名前の由来、ランブリングは歩くという言葉から来ている! 歩く動作は基本中の基本だ。わからない者がいればその場で手を上げろ」


 佐久間弥恵の言葉で手を上げる生徒が一部――クルスの幼馴染み、加川有栖も搭乗していた火影の右手モジュールが高く上がっていた。


「動作は至って単純だ! コア内部で歩く動作をしろ! 先ずは右足を一歩前へ出してみろ」


 言われた通りにコア内部で右足を一歩前へ出すアリス――重厚な音と共にRBの右足がコンテナから一歩前へ出た。


「わかったか? その球体コアが身体へと最適化され、個人の動きをダイレクト・モーション・システムでRBに伝え、そのまま動く。授業でも言った筈だが先ずは習うより慣れろ――教科書やマニュアルを見てもそれは知識でしかないのだ」


 続々とコンテナから姿を現すRB軍団――操縦がわかれば本当に簡単なのだ、それこそ車の免許をとる方が難しいくらいに。

 春の陽光の元に姿を現した火影の軍団、佐久間弥恵は拡声器で更に告げた。


「思う通りに動くとはいえ諸君等には暫く基本動作で訓練してもらう! ゆっくりで構わない、一番端の滑走路の先まで行き、ここまで戻ってこい! では、始め!!」


 その言葉を合図に一斉に歩き出すRB、中には走って行くものもいる。

 重厚な音と共に小さく揺れる地面――一斉に向こうへ歩いていくRB軍団の光景は凄まじかった。

 軍事利用の禁止化も頷ける――だが、それを破る国もあればテロリストが使うこともあるのが佐久間弥恵には憤りを感じていた。

 戦うための兵器ではなく、エンターテイメントとしてのスポーツとしての方が輝く――そう信じている。

 一方、火影一号機に乗るクルスは歩いていた。


『チッ、走ってもいいんだがな……』


 振り向く火影一号機の後ろに居るのは二号機と五号機――搭乗者は二号機には義妹の由加、五号機にはアリスが乗っていた。

 操縦は簡単だがいかんせんコア内部で歩かなければならない。

 体力が無いわけでは無いのだろうが明らかに他のライダーズより遅れをとっていた。


『アリス、由加。大丈夫か』

『へ、平気だよクルス! ちょ、ちょっと慣れないだけ。何か空中歩いてるみたいなふわふわした感じだから』

『私もです。地に足がつかない感じで歩きにくいのです……』

『……お前ら、フィッティングステータス確認したか?』

『『??』』


 二人同時に首を傾げる――火影も同様に傾げるが、ロボットだからか可愛いとは思わなかった。


『ステータス画面を開いてみろ。ディスプレイの左側、アイ・タップ式だから目で見れば開く』


 説明通りにやる二人――開かれたフィッティングステータスは二人の身長に合っていなかった。


『本当なら自動でサイズが合うようになってるが、前に借りた奴が自分でフィッティングしたんだろう。だから二人のサイズに合ってないんだ。自分の身長を入力、んでもう一度最適化すりゃちゃんといけるはずだ』

『う、うん』


 言われるがまま、身長を入力、最適化をするとさっきより身体を包むようにフィッティングされた。

 試しに右足を前に出すアリスと由加。


『兄さん、地面を踏む感覚があります!』

『うん! クルス、ありがと! でも何でわかったの?』

『……けっ、秘密だ。てか行くぞ、だいぶ離されたからな』


 そう言って駆け足ぎみに走るクルス。


『に、兄さん待ってください!』

『もう! 何か今日ずっとクルス追っ掛けてる気がする!』


 慌てて追い掛ける二人、内心クルスは面倒とは思いつつ、二人を放っておくことが出来なかった。

 久しぶりに会えた幼馴染みと大事な妹――勿論本人達には口が裂けても言うつもりはなかった。

 トップは既に折り返し始める中、三人は最後尾に追い付く。

 基礎であるゆえ大事な事――とはいえやはり地味で、派手な事が好きな男子の一部は走ってみたり軽く跳躍してみたりとやりたい放題だった。

 走るのは問題ないが跳躍は高く飛びすぎたら自重に負けてレッグモジュールの関節が破損する可能性もある。

 クルス等はそんな事をせず、折り返し地点を通過し、さっき居た位置まで戻っていく。

 それから約十分、全員が元の場所に戻ると佐久間弥恵が手を叩いて注視させた。


「諸君、あくまでも基礎動作だが何をとっても大事な事だ。歩けなければバトルも何もない。ただの的となり、勝つことも難しいだろう」


 実際レッグモジュールが破壊されればもう逃げる事すらかなわない。


「では次に――君たちに射撃を行ってもらう。海側を見てもらえればわかると思うが、射撃用の的を用意してある」


 簡素な的がいつの間にか用意されていた、ちょうど射的で使用されるタイプ。

 射撃訓練と聞いて喜ぶのは男子生徒――女子に関してはあまり乗り気ではないが、それでも必要な事だと割り切ってるのか頷いていた。


「射撃に関しても難しい訳ではない。対応するアームモジュールを構え、コア内部で引き金を引くように指を動かせばいい。だがセーフティーを掛けているので解除するのを忘れないように。それでは射撃始め!」


 号令が飛び、様々な形で構える火影――腰だめで構える者や、真っ直ぐ構える者――滑走路に響き渡る無数の発砲音が雷鳴の様に鳴り響く。

 この時間帯に漁船は絶対漁をしてはならない――今みたいな射撃訓練時に流れ弾に当たれば無事ではすまないのだから。


『兄さん、的に当てましたよ』

『いや、そんなこと一々言わなくていい』

『もう……。良いじゃないですか。兄さんの意地悪』


 何が意地悪だと内心呟くクルス。

 動かない的を当てるのは難しくない、ロック機能を使えば射撃補正も行ってくれる。

 ロック機能使わず射撃を行えば自由に撃てる、とはいえ授業中、それも初日に悪ふざけをする生徒はまずいない。

 装填された弾丸が無くなると、アームモジュールは自動的に弾装を装填――勿論弾装が無くなればアームモジュールはただの鉄の塊だ。

 打撃に使うか周囲の物を掴んで投げるぐらいしか役にたたないだろう。

 一通り射撃を終えると午後の授業の終わりを告げるメロディが人工島全体に流れた。


「諸君、訓練は終わりだ。RBから降り、端末機にクレジットカードをリチャージすれば十五万クレジットが加算されるはずだ。もし手違いで加算されていなければ直ぐに私に報告するように。では解散!」


 言ってから後片付けを始める佐久間弥恵、ライダーズ生徒全員機体から降り、支給されたクレジットカードを端末機の置いてある近くの棟に向かった。

 制服での訓練だったが特に動作に支障はない――だけどやはりライダーズ専用スーツを着る方が動作はよりスムーズになる。


「兄さん、私たちもクレジット入ってるか確認に行きましょう」

「ん……。だな」

「クルス! あたしも一緒に――」

「放課後まで付きまとうのですか? 兄さんを自由にしてあげてください」

「あぅっ。く、クルスが迷惑なら……やめるけど……」


 しょんぼりするアリスを見たクルス――小さく舌打ちし。


「……好きにしな。クレジットを確認するだけだし、一人で行こうが皆で行こうが大した差異はねぇし」

「えへへ。じゃあ好きにする!」

「……むぅ」


 小さく頬を膨らませる由加、するりとクルスの腕を取り――。


「それでは行きましょうか、兄さん」

「あ! ズルい! あたしも!」


 言ってから反対側の腕をとるアリス――クルスはげんなりしつつも、もう文句を言うのも無駄だと覚り、二人を連れて近くの棟へと向かった。


「……ちくしょう……! 何で天使はあんな悪魔に構うんだよ!」

「そうっすよ! 畠山くん、このままでいいんすか!?」

「っ……。良くねぇけど……まだ初日だし、もしかしたら愛想尽かすかもしれねぇからな」

「その可能性もありそうっすね、海くん!」

「とりあえず……クレジット確認したら俺達は早速RBを購入しよう! 専用RB買って、先に目立つんだ!」


 力の入れ所が微妙に違う畠山海――とはいえ佐久間弥恵が言った通りクレジットは使うもよし貯めるもよし。

 本人がそれで満足するならそれが正しい使い方なのだ。 
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