大淀パソコンスクール
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責任とります
深夜2
寝静まった川内の寝息が聞こえる室内で、俺は静かにパソコンのキーボードを叩く。
「……」
「スー……スー……」
Accessの業務基幹ソフトの開発を進める。わからないところはグーグル先生に確認を取り、参考書を開いて……
「んー……あ、こうか」
vbaも駆使しつつ……以前に比べると、少しは形になってきたかもしれない。俺も少しは、教室の役に立ててるだろうか。気がついたら、あの教室の力になることを考えてる自分に気付く。一年前の自分からは信じられない変化だ。あの時は『会社潰れろ』としか思ってなかったから。もっともあれは、会社が悪かったからだけど。
そしてもうひとつ、俺にしては珍しいことがあった。
「ん……そろそろ……」
俺は普段、何かしら作業に没頭しだすと、周囲に対して無関心になる傾向がある。このアホはそれを見越して、よく授業中に俺に生返事をさせて遊んでいるが……普段の俺は、あの反応が自然だ。作業に集中していると、周囲への関心がほぼゼロになる。
でも今日は違った。定期的に川内の様子を覗き、額に手をあてて体温を計り、寝顔を見て川内の様子を都度確認していた。これは、普段の俺にあるまじき変化だ。
「ちょっとごめんな」
「ん……」
川内の額に触れる。まだだいぶ熱い。でも少しずつ汗ばんできているから、ピークは過ぎたかもしれん。今の内に氷枕の準備をしておくか。
川内の額から手を離し、立ち上がってクローゼットの扉を開けた。救急箱の中に氷枕が入っていたような……目の前の救急箱を開け、中を見る。……ない。
「あれ……」
んじゃ、俺が熱を出した時、川内は何を使ったんだろう……? 俺は氷枕なんて気が効いたものなんか持ってないし。
頭に大きなはてなマークを浮かべ、おれは冷蔵庫の前に立った。俺の熱の時、あのアホは氷枕を冷蔵庫から出していたような……。
「ここか?」
冷凍庫の扉を開き、中を確認した。肉や魚、冷凍食品の奥底に、水色のそれらしいものを発見する。苦労して取り出してみると、それはアイスノン。やわらかタイプで、凍らせても固くならない、ふにゃふにゃで心地よいタイプのもののようだ。
「……これか」
これなら、事前に準備しておく必要はなさそうだ。おれはアイスノンを冷凍庫に戻し、川内の元に戻ってきた。
「スー……スー……」
川内の顔が、しっとり汗ばんできた。後もう一息。もうしばらくして汗を盛大にかきはじめたら、アイスノンで首筋を冷やしてやろう。それまでは少し注意深く観察だな。
「……がんばれっ」
「……ん」
川内を起こさない程度の小さな声で、俺はチアガールばりのエールを川内に送る。……きっと本人は気付いてない。でも、それでいい。知られたら恥ずかしいし。
その後は、5分に一回ぐらいの割合で、川内の様子を見た。次第に川内の顔がしっとり汗ばんできて、見るだけで分かるほどになり……15分ほど経った頃には、熱をはかった手がしっとりと湿るぐらいに、汗が止まらなくなってきた。
「ん……」
「そろそろかな」
俺は立ち上がって洗面所に向かい、そこの引き出しの中から真っ白いタオルを一枚、拝借した。そのまま台所の冷蔵庫でアイスノンを回収し、それをタオルでくるむ。
「つめた……あでもタオルでくるむとちょうどいい」
アイスノンのひやっとした感触が心地いい。俺はそれを持って川内の前まで戻ってきて、アイスノンを右手に持ち替え、左手で川内の頭を持ち上げようとするが……
「んー……むずいな」
これが意外と難しい。どう頭を持ち上げても、このままでは左手で持ち上げることは出来ない。
……となれば、川内が俺に対してやってくれたように、頭を左手で抱えるように持ちあげなきゃいけないわけだが……これがなんだか恥ずかしい。お互いの顔がすごく近づくし。
「まじかー……ちょっとすまんな川内」
「……」
川内を抱えるように、首筋に手をやる。そのまま頭を持ち上げ、右手でアイスノンを首元に置こうとした、その時だった。
「……」
「……?」
「……!?」
俺と川内の顔が、鼻が触れるか触れないかのところまで近づいたその時、川内が目を覚ました。澄んだ両目をパッチリと開き、その瞳で俺をまっすぐに見ていた。
「……」
「……す、すまん。えっと」
「んーん」
俺に頭を持ち上げられている川内の目は、寝起きにも関わらず、まっすぐに俺を射抜いていた。息が浅く、軽い呼吸しかできておらず、しっとりと汗ばんだ夜戦バカは、俺から目をそらさず、いつになく真剣な眼差しで……
「……せんせ」
「ん?」
ほっぺたが少し紅潮しててしっとりと汗ばんでいて、妙に色っぽかった。
「……夜戦」
「……」
俺は、このアホのそんな眼差しから、目をそらすことが出来なくなった。
「……する?」
今、こいつが言ってる“夜戦”が何を指しているのか……いくら俺でも、理解した。川内の温かい吐息が、俺の肌に届く。
「……アホ抜かせ」
「なんで? 私、今は力が入らないから、逃げられないよ?」
「……」
「熱出てるから、あったかくて気持ちいいかもよ?」
妙な切り返しに、俺の理性が追い詰められていく。川内は動かない。俺から目をそらさず、まっすぐにこちらを見つめている。寝る前はあれだけぼんやりとしていてうつろだった川内の眼差しが、今はスッキリと力強く、それでいて、ずっと見ていたくなるほど、澄んでいた。
そんな川内は、今まで俺が出会った誰よりも、綺麗な女性だった。
「……」
「……」
意を決した俺は……
「……」
「……」
「……ふんッ」
「つめたッ……!?」
川内の首元に素早くアイスノンを滑らせ、その上に川内の頭を落とした。ぼすっという音とともに、アイスノンの上に投げ出された川内の髪はしっとりと湿っていて、まくらの上で少しだけ乱れていた。
川内の首筋から手を離した俺は姿勢を正す。最高に綺麗だった川内の顔が、俺の鼻先から離れた。
「人をからかうのも大概にしとけーぃ」
「からかってないよ? 私はせんせーと夜戦したいよ?」
「いいからまず風邪を治せっ」
腰に手を当て、世迷言を言う川内を、少し強めに諌めた。川内は俺の返事が不満なのか何なのか知らないが、眉間をハの字に歪ませて、頭の上にもじゃもじゃ線を生成しつつ、口をとんがらせてちゅーちゅー言い出す。こいつのこの癖は一体何なんだ。あの自称小説家の岸田のアホを思い出すから、その癖はやめていただきたいっ。
「……はーいっ」
ふてくされたのか。川内は不満気にそう言うと、俺からぷいっとそっぽを向き、そのまま寝てしまう。そのまましばらく見ていたが、スースーという寝息がすぐに聞こえてきたから、どうやらまた眠ったようだ。
「ったく……いっちょまえに……」
つい頭を撫でそうになり、慌てて手をひっこめた。今、こいつの身体に触れるのは不味い。俺が、いかがわしい意味でスッキリしたくなってしまう……。川内に背中を向けて座り、俺はAccessでの開発に戻った。
その後も15分に一回ほどの割合で、川内の様子を見守る。洗面器に水を張り、それで濡れタオルを準備して、時折川内の顔を拭いてやった。
「……」
「ん……」
さすがに熱が下がり始めて暑くなってきたのか、時々川内は布団から左手をだし……
「ん……」
「あだっ!?」
「んー……」
「んぐぐ……」
背中を向けてAccessでの開発に勤しむ、俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。こいつ、本当は起きてて、さっき夜戦を断った俺に意趣返しでもしてるんじゃないかと、ちょっと勘繰ってしまうほど、かなり強烈に俺の頭を撫で回した。
「んー……いい加減、寝ぼけるのも大概に……」
今回もこいつの左手は、俺の頭を撫で回す、川内の左手の手首を掴み、そのまま布団の中に戻してやる。それでもすぐに川内は左手を布団からだし、俺の服の袖を掴んだ。
「んー……」
今度は布団の上に、川内の左手を置いてやる。そのまま右手で川内の額に触り、熱を測ってみた。心持ち、少し熱が下がってきたような……。
「うし。山は越えた」
「……」
「せんだーい。がんばれー……」
こっそりとエールを送る。こんなん恥ずかしくて本人には聞かせられないけれど……なんて思っていたら。
「うん。がんばる」
川内が急に目をバチッと開いて俺を見上げた。やばっ……聞かれてたのか……今のエール……。
「……き、気分はどうだ?」
「だいぶいいよ。でも暑い」
「熱が下がってきてるんだよ。いいことじゃんか」
「うん。体中がべとべとする」
「……そら、コレだけ汗かいてりゃな」
「うん」
川内が、もこもこと布団の中から両手を出した。そのまま俺に向かって両手を広げてくる。
「……せんせ。手」
「またかい……」
「んー」
いいよもう慣れたよ……俺は両手で川内のほっぺたをはさみ、このアホの顔に新鮮な冷たさを提供してやった。まだまだほっぺたは熱いが、それでもさっき、ほっぺたに触れた時よりはマシな気がした。
「きもちい……むふー……」
「喉乾いてないか? ポカリあるぞ?」
「ちょっと喉乾いたかも……?」
「そっか。……着替えはあるか?」
「うん」
「んじゃ俺ちょっとポカリ取ってくるから、その間に一回着替えろ」
「着替えさせてよー」
「アホっ。ついでに濡れタオルあるから、それで身体も拭け」
「拭いてー」
「お前は一度、俺に何を口走ってるのか本気で考えたほうがいいっ」
そうやってなぁ……先生をからかうんじゃありませんっ。
『んじゃ台所にいるから』と一言言って、川内を居間に残し、台所に来る。閉じた引き戸の向こう側では、布団からもぞもぞと起きだした川内の、服を脱ぎ捨てるパサッという音、そして身体をごそごそ拭いてる音が聞こえてきた。
「……」
冷蔵庫からポカリを取り出し、それを台所で見つけた大きめのコップに注ぐ。できるだけ意識をコップに向ける。居間から聞こえてくる音には注意を向けない。じゃないと、さっきのこともあって、なんだか色々とよろしくない想像が頭に働く。早く終われ……終わるんだ……ッ
「♪〜……♪〜……」
今日一晩で、俺自身が何度も口ずさんだ鼻歌が、居間から聞こえてきた。この鼻歌ももう、この前と今日で、俺の耳にへばりついてとれなくなってしまったようだ。
「♪〜……♪〜……」
だって、聞いてるだけで、なんだか気持ちが安らいでくるから。
「せんせー。身体拭いて着替えたよー」
「んー」
引き戸が開き、川内が顔を出した。なるだけ平静を装い、そんな川内を出迎える。さっきの寝巻きは……手に持ってやがる。
「私、ちょっとこれ洗濯機に入れてくる」
「んー。洗面器は俺が片付けるから心配するな」
「はーい。ありがと」
川内と入れ違いに居間に戻り、ベッドとテーブルの隙間に座ってパソコンをいじる俺。手に持ったポカリのコップはテーブルに置いた。程なくして洗面所から帰還した川内は、そのままベッドに直行して、ゴロンと転がり上体を起こした。
「ポカリは?」
「飲むー」
俺の背後でワガママを言う小娘に、テーブルの上のポカリのコップを渡す。結構のどが渇いていたのか、川内はグギョッグギョッと喉を鳴らし、煽るようにポカリを飲み干した。白い肌の川内の喉が、綺麗に上に伸びていた。
「ありがと。思ったより喉乾いてたみたい。んー……だいぶスッキリ」
「やっぱ着替えて正解だったな」
「うん。まだ暑いけど、だいぶ楽になった」
「そりゃよかった」
「だから、このままやせ」
「それ以上は言わせんっ」
――する?
あの時の川内の、川内にあるまじき真っ直ぐな瞳を思い出し、なんだか胸が詰まる思いがする。
「ん?」
「……」
なんだか川内の顔をまっすぐ見てられない。照れくさくて、俺はぷいっと川内に背中を向け、ベッドとテーブルの間に座ってAccessをいじる作業に戻った。
「せんせ? どうかした?」
「どうもしてない。だから早く寝ろ」
「はーい」
「何かあったら声かけろよ」
「んー」
『ぽすっ』という音が聞こえた。川内は素直に寝転んで、布団を被って寝る体勢に入ったようだ。俺は川内の睡眠の邪魔をしないよう、意識して静かにタイピングを行う。居間の中に響くのは、パチパチという、いつになく静かな、俺のタイピングの音。
「……ふふっ」
「んー? どした? うるさいか?」
「んーん。聞いてて楽しい」
「そっか」
「んー」
大きくなりがちなタイピングの音に気をつけて、静かにパチパチとコードを組む俺。今組んでいるのはvba。欲しい機能の中にあった、csvファイルの読み込みと整形機能だ。
「ちょっと見ていい?」
俺の背後から、落ち着いた川内の声が聞こえる。時計を見ると、今は夜中の3時頃。帰ってきた頃からずっと寝てたから、川内も目が冴えたのかも知れない。『眠れ』と言われて『はい』と眠れるのなら、世の中で苦労する人の幾人かはいなくなる。それぐらい、無理矢理に眠るというのは、大変なことだ。
「目が冴えたのか?」
「うん。せんせーがどんなことやってるのかも興味あるし」
「気になるなら見てもいいぞ」
「はーい。よいっしょー」
急にずっしりとした重みが、俺の肩と背中にのしかかってきた。川内が俺の背中におぶさってきたようだ。おんぶの時よりも幾分軽いが、それでも充分な重さがずっしりと肩にのしかかる。俺の顔の左隣に、川内の横顔があった。川内は俺にしがみつくように、肩に手を回してがっしりと掴んでいた。
「うお!?」
「いや、ベッドから下りるのもめんどくさいし」
「だからって甘えすぎだっ」
「いいじゃん別にー……うわ。なんかすごく難しそ……」
俺の抗議など素知らぬ顔で、川内は興味深そうにパソコンの画面を眺めていた。おんぶの時みたいに俺の背中に密着してるから、俺の背中全体に川内の体温が感じられるのが、非常によろしくない。
でも同時に、この時間に人と一緒にいるという実感があって、なんだかホッとする。何かと自分の世界にこもりがちなコーディングを、このアホに見守られているという、妙な嬉しさがある。
「ねーねー」
「んー?」
「この英語さ、フォントの色がすごくカラフルだけど、これはせんせーが書式設定してるの?」
「コードエディタって言ってな。キーワードやら命令やら意味のある単語やらを入力すると、目立つように自動で色分けされるんだよ」
「ふーん……」
カラフルって言っても、いうほど色分けされてるわけでもないけどな。ところどころ青色だったり緑だったりするだけで。でも川内にとっては新鮮だったようで、横顔とその眼差しが、いつも教室で授業中に見せている表情と重なった。
川内はパソコンに右手を伸ばし、人差し指で、一文字一文字、ゆっくりとキーを打っていった。何か思うところがあるのかと何も言わずその様子を見ていたが……
「ありゃ。文字の色が変わらない」
「改行してないからな。それに “yasen”はキーワードじゃないし……」
「そっかー……パソコンもかわいそうだね……夜戦の良さがわからないなんて……」
残念そうに、入力したyasenをバックスペースで消していく川内。意味不明な同情心をパソコンに対して抱いたようだが、その同情は、永遠に報われることはないと断言出来る。
「ここは? 文字赤くなってるけど」
「そこは『ここ間違ってますよー』て目印だな」
「ふーん……」
読み込んだcsvのレコード数を出力するMsgBox関数の、記述ミスが引っかかっているんだよ……vbaなんてまだ始めたばかりで、ちょくちょくこうやってミスするんだって……。
喜んでくれるか分からないが、ちょっとサービスしてやろう。俺はMsgBox関数の記述を『MsgBox "夜戦する?",4,"川内さんへの問いかけ"』へと変更した。
「お、夜戦だ」
「川内。ここの三角ボタン、クリックしてみ」
「んー? んー……」
再びパソコンに手を伸ばし、タッチパッドでマウスポインターを操作して、実行ポタンをクリックした川内。途端に表示される『夜戦する?』『はい』『いいえ』のウィンドウは、川内の目を輝かせるには、充分なインパクトを持っていたようだ。
「ぉお!! せんせ! なんか出てきた!! 『夜戦する?』て聞いてきてるよせんせー!!」
「『Hello World』って言ってさ。プログラマーなら誰もが最初に組むプログラムだ」
「へぇぇえええ!! はろーわーるど!!!」
Hello World。世界で最も有名で、世界で最も組まれるプログラム。長い長いプログラミング人生の始まりの言葉にして、世の中のプログラマーが一番最初に挑戦する、プログラマーになるための儀式。
俺が学校ではじめてプログラムを学んだ時のことだ。まだ右も左も分からない状況で、講師の人がホワイトボードに書いたJavaのコードを、俺はそのまま打ち込み、コンパイルして実行した。
class Main{
public static void main (String[] args) throws java.lang.Exception{
System.out.println ("Hello World!");
}
}
コンソール画面に『Hello World!』と表示され、アドレナリンがバンバンに分泌されたその瞬間……講師の人に言われた一言を、当時の感触とともに思い出した。
――おめでとう 今日からあなたたちは、プログラマーです
あの瞬間に全身がぞくっとして、これ以上ないほどのワクワク感が胸を支配したことを、俺は今、鮮明に思い出した。
『Hello World』は、単なる英語じゃない。目の前にある機械を『何でも出来る魔法の箱』に変える魔法の言葉。1と0のスペルを組み上げ、電子の魔法を操る事ができる世界へ飛び立つための、短いけれど偉大なおまじない。それが『Hello World』。
だから俺は、このプログラムが好きだ。この世のどんな至言よりも、偉人の偉大な言葉よりも、どんなに素晴らしい名言よりも、この言葉が好きだ。書いただけでこんなにワクワクする言葉を……こんなに簡単で、こんなにドキドキするプログラムを、俺は他に知らない。
「『夜戦する?』て聞かれたら、もちろん『はい』っ!!」
「……」
「……あれー? せんせー、何もならないよ?」
今、俺の背中におぶさって、楽しそうに『はい』をクリックしているこのアホを見ていると、はじめてHello Worldを実行したときのことを思い出す。『もう一回!!』と言ってプログラムを実行し、再び『はい』をクリックしている川内は、きっと、初めてHello Worldを実行させた時の俺と、同じワクワクを胸に抱いているんだろう。あの糞会社に忘れさせられた、あの瞬間のワクワクを、俺は今、川内を通して思い出せた。
「……川内」
「もう一度『はい』っ!! ……ん?」
「ありがと」
「? なにが?」
「……なんでもない」
「? ??」
張本人のアホは『意味がわからない』と言わんばかりに、きょとんとして頭の上にはてなマークを浮かべているけれど……別にいい。
最初は責任からくる義務感で看病をしたのだが……俺はどうやら、大淀パソコンスクールにきた目的を、達したようだ。いつの間にか忘れていた大切な気持ちを、やっと思い出せたようだ。
「んじゃせんせ! パソコンの代わりにせんせーが夜戦付き合って!!」
「アホ」
「えーなんでー!! だってこれ、せんせーが組んだプログラムなんでしょ!?」
この、非常識極まりない、夜戦バカのおかげで。
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