普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
202 〝炎のゴブレット〟
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
新入生歓迎パーティーから瞬く間に二ヶ月近くもの月日が経過して、ボーバトンとダームストラングの生徒がホグワーツを訪れると云う10月30日の、その前日となった。
この60日の間にはマッドアイから〝服従の呪文〟〝磔の呪文〟〝死の呪文〟に関する講義を受けたり、俺を背後から奇襲しようとさたマルフォイがマッドアイに白いケナガイタチに変えられたり、ハーマイオニーが≪S・P・E・W≫──≪屋敷しもべ福祉振興委員会≫なるもの立ち上げようとしたりといろいろな出来事が起こった。
驚いた事にマッドアイは〝許されざる呪文〟の一角である〝服従の呪文〟を〝実技指導〟と宣って、生徒達に掛けたのだ。
……その時、クラスでマッドアイの〝服従の呪文〟に抗えたのは以前より〝予習〟していた俺、アニー、ハーマイオニー、ネビルの4人だけだったので、〝予習〟が実を結んだと云う結果に。
ハーマイオニーが立ち上げようとした≪屋敷しもべ福祉振興委員会≫は俺が放った──ハーマイオニーからしたら痛烈だったろう言葉によって、企画段階で潰えてしまった。
―へぇ、ハーマイオニーは自分の義憤や価値観を、しもべ妖精たちに押し付けたいわけだ──しもべ妖精の意志を無視した上で―
―違うわ! しもべ妖精たちは教育を受けてないのよ──そうね、きっと悪い魔法使いや魔女たちに洗脳されてるんだわ!―
―ふぅん、じゃあ今度はハーマイオニーがしもべ妖精達にこう教育するわけだ? ……〝あなた達には給与と休暇を受けとる義務があります〟って―
別にハーマイオニーを苛めたいとかではなかったのだが、そんな風な質問をしてみたらハーマイオニーは沈痛な面持ちで押し黙ってしまい、以降はその話題を会話に上げなくなった。
ハーマイオニーの言っていることは人間的な感性からすれば間違ってはいないが、〝余計なお世話〟と云う言葉も世の中には存在している。……あくまでウィンキー──クラウチ家のしもべ妖精の件は一例に過ぎないし、それだけを例に挙げても意味がないのだ。
……それに、ダンブルドア校長ならホグワーツ勤めのしもべ妖精の福利厚生くらい、しもべ妖精が受けるかどうかは別として──きちんとしているだろうと云うのに、ハーマイオニーはそこを見落としている様でもあったし…。
「ま、とにかく明日だな」
「何の事?」
「〝〝三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)〟が楽しみだな〟って話だよ。……あ、それロン。ホンイツ、小三元、で親っ跳ね──そして、一本場だから18300だな」
「トンだぁっ!」
10月29日。今日もまた〝別荘〟の青空に、ネビルの絶叫が響き渡るのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして10月30日当日。その日はやはりボーバトンとダームストラングの生徒らが訪れるとあって、ホグワーツの凡その生徒達は浮き足だっていた。……ネビルが殊更喜んでいるのは〝薬草学〟が30分短く終わったからだろう。
……否、ホールの飾り付けとかを見るからにホグワーツ自体が期待感に溢れているようにも思える。
「ミス・パチル、そのふざけた髪止めを取りなさい」
マクゴナガル先生の諫言がいつもより3割増しで飛び交う現在地はホグワーツの城門の前だ。どうやらここで他の二校を出迎えるらしい。
(……来たか…っ)
予め幾度か〝倍加〟させておいた〝見聞色〟の範囲内に馬の嘶きの様な声を拾う。移動に馬車を使うのはちっともおかしくはない──しかし、嘶きの聞こえた位置だ。
……驚くべきことに、嘶きが聞こえたのは空からだった。
その事から天馬を使って来たのだと推測出来、ならびに俺自身の勝手なイメージと〝知識〟を擦り合わせると、態々天馬でやって来たのはボーバトンの連中だとも類推出来る。
(……まぁ、ダームストラングが天馬を使うなんて想像出来んしな──って…)
消去法ながらの推測だったが、改めて天馬がやって来る──フランスの方向を見て、その推測が(せいこく)を射ていたのだと知る。〝見聞色〟で強化した俺の視力が、貴族の邸宅ほどの大きさ馬車とその馬車を牽くに能いするほどの大きさの12頭の天馬を捉えた。
「ほう…」
(〝見栄の張り合い〟だとしても、中々これは…)
〝それ〟がボーバトンの思惑だったとしても──意外だったその大きさに感嘆していると、ダンブルドア校長も来訪してくる天馬と馬車に気付いたようだ。
「おお、儂の目に狂いがなければボーバトンの方々がやって来ましたぞ!」
そこらの生徒がボーバトンの代表団に気付き、ホグワーツ歴の浅い一年生が〝もしやドラゴンなのでは?〟と騒ぎ立てるが、グリフィンドールの新一年であるデニス・クリービー──コリンの弟が一刀両断する。
どしーん!! と地響きを轟かせ天馬と馬車は着地し、ほど無くして交差している杖のそれぞれから星形が放たれている紋章が設えてある扉が開く。
すると、かなりの勢いで水色のローブを纏っている少年が馬車から飛び降りてきて、馬車の底に収納されていた足踏み台を引っ張り出し、恭しい所作で馬車の出入口付近から退いた。
(〝識って〟いたっちゃあ、知ってたんだが…)
「……おお…」
そして、馬車から一番に降りてきた人物を二度目の感嘆の吐息を漏らしてしまう。元来、女性に対して身体的な特徴については言及をしてはいけないのだろうが、〝この場合〟なら許される気がした。
何しろ、【ボーバトン魔法アカデミー】の校長、オリンペ・マクシームはハグリッド並みの長身だったのだから。
マクシーム校長はダンブルドア校長と数分歓談すると、ダームストラングを待つつもりは無かったのか、ボーバトンの生徒らを威厳たっぷりな態度で連れ立ち、とっととホグワーツの城内に入っていった。
先導したのはホグワーツの副校長たるマクゴナガル先生だ。
(……来たか、ダームストラング)
ダームストラングの団体が来たのはそれから数分してからのだった。恐らくは〝移動キー〟だったのだろう、湖の中に急に十数人ほどの〝気配〟が現れ、湖のど真ん中を中心として湖面が波立っている。ついでにごぼごぼ、と云う異音も聞こえてきたので他の生徒たちも湖の異常に気付き始めた。
「見ろよ、湖だ!」
リー・ジョーダンがそう喚きたてたので生徒達は空中へと向いていた視線を湖へと移り──〝まるで底の〝栓〟を抜かれたかのように〟水が吸い込まれていき、水位の上昇とともにそこからゆっくりと〝それ〟は姿を現す。
帆船だ。
「まんま〝フライングダッチマン〟じゃん…」
「くくっ、確かに」
「確かに、あれじゃあ〝幽霊船〟みたいだわ」
帆船が現れる様を見てアニーの何気無く呟いた一言に、かなり同意しかけて吹き出してしまう。ハーマイオニーはダームストラングの船の〝見てくれ〟から伝承の方を思い浮かべたらしいが、俺は【パイレーツ・オブ・カリビアン】を思い出した。
三人でおバカな事でふざけあっていると、いつの間にかダームストラングの船は湖畔に錨を降ろしていて、タラップからガタイが〝良く見える〟人影が降りて来てこちらに向かってくる。
斯くして、〝三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)〟の参加校である三校の役者達が出揃ったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
〝ブイヤベース〟──それはフランスの寄せ鍋的料理。それがホグワーツのテーブルの上に置かれていた。云うまでもなくフランスの人間──ボーバトンの生徒達が居るからだろう。もちろんブルガリア料理であるカヴァルマ──トマト鍋などもテーブルの上にはところ狭しに並べられている。
そして、各国──主にフランスとブルガリアの料理に舌鼓を打ち、この祝宴も酣といった頃、ダンブルドア校長は思い出したかの様に立ち上がる。
「時は来た。……来たのは良かったのじゃが〝対抗試合〟の代表を決める〝箱〟を運び込ませる前に二、三説明しておくことがある」
ダンブルドア校長によれば、パーティーの途中でひっそりと来訪していたクラウチ氏とバグマン氏、ボーバトンとダームストラングの校長であるマクシームとカルカロフ──そしてホグワーツの校長であるダンブルドア校長の計5人が競技の採点するのだとか。
「それではフィルチさん、〝箱〟をこちらに」
ダンブルドア校長のその言葉に、フィルチ管理人がかなり古めかしい宝石散りばめられた木箱をダンブルドア校長のもとへと運んでいき、恭しくダンブルドア校長のテーブルへと置いた。
そこでダンブルドア校長は杖で木箱の蓋を叩き、ゆっくりと開いたそこから〝それ〟を取り出した。
「代表選手らは、厳正なる審査によって選出される。……これがその選別者──〝炎のゴブレット〟じゃ」
ダンブルドア校長が木箱から取り出したのは大きな木の、絶え間無く青白い火を灯しているゴブレット。ダンブルドア校長が云う〝炎のゴブレット〟と云う言葉を如実に表していた。
SIDE END
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